終わりの始まりは始まりに続いている
安西は取り調べを受けることに納得しているため、抵抗もしなかった。水沢が行くのを眺めていた。
「安西っていう名前には聞き覚えがあった。詩郎とつながりがあるのではとも思ったのだ。家政婦をしているときも時折可笑しいときがあったからすぐに伝えればよかったな。」
「卓が湯浅に対して怒りを覚えていたのか。家庭教師での対応の悪さよりも都合の悪いことを隠すのが嫌だったんだな。実継さんのことを知っているから故のさ、感じだったのだよ。」
配慮しているのだろうか。市橋も小寺も渡辺もいなかった。実継の手には紙の束をもっていたのだ。それは卓が書いたものだろう。
「見てほしかったんだろうな。卓、俺の机の上においていたよ。頼みたかったのはお前ら兄弟と道治だった。腕のいい道治さんには後にしていずれ戻すといっているお前からやってほしかったんだよ。今から頼めるか?」
「いいよ。売り出すかは親父と相談するからさ。腕は任せてよ。俺には確かなものをもっているから。一止と誠治のを伊達に見ているだけじゃないんだぜ。リハビリだよ。」
受け取った紙の束には心のともった明かりを見つけたような気がした。丹念込めて作ったのだ。未熟ながらだが、受け入れてもらいたかったのだ。嘘ではなく、腕があるのかを。
「詩郎、やめるのか?警察。」
「やめるさ。性に合わないところに長くいるだけ無駄なんだよ。天下りだとか言ってさ。守られると思っている奴らとは違う。キャリアだの言っているのは嘘をつくときの武器なんだからさ。・・・まぁ、小寺とか渡辺、水沢、市橋の相談くらいは聞くけどな。どうせ迷宮入りでも仕掛けないければいいけどな。」
愚痴を言いながらも離れる決意を感じ取ったのだ。斎藤達郎として小説家として生きたが、週刊誌が知った時に騒ぎだすときにはやめるのだという。後悔もないのだ。かすかなほほえみを感じられるくらいのやさしさがあったのだ。夢を語ればいいのだ。かなうのかどうかは関係ないのだと伝えているのだ。
数日後、あっさりやめた。古木古書店の跡継ぎとして動きながら編集の仕事と作家の仕事にあふれてしまっているのだと水沢が言っていた。今や雑誌で顔を見ることができる。昔、賞を取った人がやっと世界に入ってきてくれたと喜んでいるのだという。市橋とかは水沢班としているのだ。古木を止めることができなかった上司の責任だといわれて降格を言われてしまったのだという不幸の奴もいた。それでも楽しめれば構わないのだ。




