懺悔の量
上から目線の恵理子の態度には毎回うんざりしていた。やめることにしてもなお付きまとうように言ってくるのだ。家政婦紹介所のほうも言うことを聞かないと金が入ってこないと思ったのだろう。脅しを行うようになり、警察に告げ口をしたところ、目を付けられるまでになってほっとしていたのだ。
「貴方の指示通りに行うわ。心配しないで、裏切ることなんてしないから。」
「わかってますよ。此処まで全て言ったのは貴方が初めてですから。それにおじいちゃんが辞めさせないでしょうから。干渉的な人がいいんです。小説書くのに連想しにくいのもあるって言ったから。」
「私が口止め料として何が欲しい?」
「専門学校の入学金くらいほしいです。大学をやめて本気で作家を目指すんです。有名になりたいんじゃなくて誰かの人に勇気を与えたいんです。」
実継はその話を盗み聞きしていた。口を出せばあらぬ方向へといってしまうと感じてしまったのだ。実継が今、後悔していることだった。現在と過去を繰り返していてわからなくなってしまっていた。
「それで私は卓君と実行へと移しました。その時の私には止めるものもいなかったことをいいことに黙っていました。家政婦紹介所に行けば嫌そうな目付きをされるんです。それは私が望んだことなんですから。」
「卓を殺すつもりではなかったのは事実でしょう?」
古木は優しくも何処か嘆きを感じられる言葉を聞いた。古木は卓と仲が良かったのだ。昔には将来について語り合ったのだ。うれしいことも悲しいことも言った。だが、年齢の違いもあってわかりあえるところと分かり合えないところも浮き彫りになってしまった。
「なかったんです。本当に専門学校へ行く入学金分で済むのなら安いと思ったんです。ただ、売れなかったときにいずれ脅してくるのではと思ってしまって殺したんです。」
「欲をかなえるために金が全てだと思ってもダメだよ。犯した罪を実感したんだろ。俺に言った一言を悔いたから家政婦となったんじゃないんですか。息子のために思ったことも自分のために言ったことと同じなんですよ。」
古木は告げた。過去を訂正しようとしたつもりだったのではないだろうか。安西には隠しきれないものをもっていたのだ。余計なものを抱えたしまった結果なのだろうか。
「罪を償うのに時間がかかるのは嫌ですが、貴方には捕まりたかったんです。貴方には自分の人生を生きてほしいと思っているから。奥さんも子供さんもいると聞いたから。」