あっくるのチカラ
11話 あっくるのチカラ
———亜空のとば口
三人の男達は抱き合って、震えている。
クマさん達の前に現れた新たな怪物。
素雷土の泥を盛り上げ、挑んできた。
ゴリラのような大きさと形をしている。
「ももも、もしかしてえええ、
あれが来たんですかなああああ」
“がたがたがたがたがた……”
三人男は震えて動けない。
新たな怪物はそれには見向きもせず、ユーラとオーラに向かってきた。
「うあああ!」
逃げるユーラとオーラ。
「ごああああ!」
「こらあ!ワタイの孫に何をするんどい!」
クマさんも恐る恐る追いかける。
“ずしずし…”
しかしなんだか怪物の足取りは悪い。
「あれっ?何か変だよ」
よく見るとその怪物は実体がなく、素雷土が集まっているように見えた。
「ジャッコジャッコ!
ケジャコオオオオオオオオオ!!!」
“どろっぺ、どろっぺ……”
泥の固まりが気味悪くクマさんに襲いかぶさろうとしていた。
「ど、どんたこ!」
クマさんは怖さのあまり、タタッ剣でその形を叩く。
“どべちゃっ!”
素雷土は一瞬、その形を崩すが、また元の形に戻った。
「ケジャッコー!」
クマさんを両手を広げた形で襲ってくる。
“ずしずしずし……”
ただの素雷土の固まりとは知っていても恐ろしい。
逃げるクマさん。
“がたがたがたがた”
三人組は震えで素雷土に埋まってしまい、顔だけ出している。
「おい!オマイ達、コイツはなんどい!」
クマさんは逃げながら尋ねる。
鬼瓦顔の男が引きつった顔で
「それは《邪っ子》ですわい!」
「そうじゃらいよ、すべての邪運化のルーツと呼ばれておるんじゃらいよ」
「邪っ子のチカラは町や村をひと暴れで潰すくらいなんやでー」
「そんなやつでも《あっくるのチカラ》を恐れておるんですわー」
「この子達のねー」
「じっじーん」
ユーラとオーラからは恐怖が消えていた。
「こらっ!ユラオラ!さがっとれ!」
「大丈夫だよ!」
ユーラとオーラはさっきのカチカチに固めた素雷土ボールを持っていた。
「えい!えい!けい!」
先ほどと同じように、さっきよりも数多く素雷土ゴリラにぶつけた。
“どばっ!ずばっ”ぶしゃ!“
“どどーーん!”
“べちゃ!”
ボールは命中して素雷土ゴリラは破裂して飛び散った。
「やったー!」
「おう!すごいど!ユラオラ!
邪運化のルーツをやっつけたどい!」
三人男がゆったりと拍手している。
“パチパチパチ……”
「子どもながらたいしたもんですわい」
「なんどい、さっきまで震えておったくせに……」
「しかし、安心しなさんな、ご老人。
これは邪っ子の《念》が作った、ただの粘土人形みたいなもんですわい」
「はあ?」
「本物の邪っ子はどっかに隠れてあばれる機会を狙ってるんじゃらいよ」
「なんだと?」
「本物の邪っ子はとても恐ろしいですわい」
「邪っ子が一度暴れだしたら、激震が起こって世の中がひっくり返るー!」
「恐ろしやー、恐ろしやー」
「また震えだしたな」
「ワシらも邪っ子には恐ろしい目にあったんですわい」
「わかった、わかった」
「もう二度と会いたくないじゃらいよ」
「もうわかった。
汚い鼻水とヨダレを拭け!」
「とりあえず、アンタの敵は邪運化だっていうのを覚えておきなされ」
「ふうん、邪運化ね。
わかったよ、おじちゃん」
ユーラとオーラが替わりに返事をする。
「この子達はわかってますな。さすがですぞぉ!」
「邪っ子はあっくるのチカラがよっぽど怖いんですなあ」
「あの子達は将来大物になるかもじゃらいよ」
「もしかしたら、邪っ子を倒して、亜空界と現空界を変えるかもしれんですな」
「オマイらの話は説明と推測ばかりでつまらんどいなあ」
クマさんは亜空界の集中講義を受けて、やや食傷気味になっていた。
「ブヒブヒー」
「じっじーん」
ユーラとオーラがカサブタを抱いてやってきた。
「ほら、あそこ」
空間に穴が開いている。
「おおお!ご老人、カサブタが『現空界のフタ』を開けましたわい」
「現空界のフタ?
また新しい言葉が出てきたどいな。
もう、うんざりどい」
「子ども達を元の世界に返そうとカサブタがフタを開けたんですわい」
「おおおお、そうか!
そうしてくれるか!」
「じっじん!」
「ユラオラ良かったな!
帰れるぞ!」
「じっじんも帰ろうよ」
「うん?……」
ここでクマさんは三人を見た。
「なあ、オマイらの話によると、ワタイはこっちの世界に招待されたんどいな」
「そうですわい」
「もう、向こうではワタイは用なしなんどいな」
「そうなりますな」
「またヨボヨボの老人になって余生を暮らすだけですな」
「よし!ユラオラ!
ワタイはこっちに残る」
「やだよ!また一緒に遊ぼうよ」
「オマイ達はゲンドロウ達と仲良く暮らすんどい!
ワタイは新たな居場所を見つけた」
クマさんの決断の瞬間だった。
「ワタイがなんでいつもイライラしとったか、その理由がこっちにありそうなんどい!」
クマさんのイキイキとした顔を見て、ユーラとオーラは幼いながらも理解したようで、それ以上止めなかった。
「さ、早く早く」
キューピー顔の男とチョビヒゲの男がフタを支えて待っている。
「ほうれ、ユラオラ!行くんどい!」
クマさんはユーラとオーラを抱えて穴に放り入れた。
“ポイ!ポイ!”
「じっじーん!じっじーん!」
ユーラとオーラの声がしだいに小さくなっていく。
“シュタッ!”
フタが閉じられた。
「かわいい子どもでしたな」
「あっくるの子か……
あっくるの伝説がここからはじまるんやねー」
「あんなかわいい子やのに邪っ子も怖がる秘めたチカラを持っとるんやねー」
「ワタイの孫やからなあー
ふひゃひゃひゃ!」
「アンタ、笑ってる場合じゃないですわい」
「そやそや、あんな事件起こしといて」
「ああ、あれか」
「忘れちゃ困るんじゃらいよ!」
「回収できなかった邪卵がまた亜空界や現空界で悪さするんやから……」
「だからワタイはここに残ってやったんどい!
責任をとろうと思ってな。
さて、ワタイは何をすればいい?」
「いずれわかりますわい」
「ワテらは忙しいのでここでバイバーイ!」
「もったいぶりおって……
待てこら、どこ行くんどい!」
「カサブタと一緒に亜空界をパトロールですわい」
カサブタを大事そうに抱いて、三人は立ち去ろうとする。
「おーい、ワタイひとりにすんなー!」
“たったったっ……!”
クマさんは不安になり、三人について行く。
クマさんの胸元にはあっくる玉があった。
“ぽわーん”
あっくる玉が青白くゆっくりと点滅している。
クマさんはそっとあっくる玉を撫でる。
「ユラオラ、見守ってくれい」
クマさんは歩き出した。
ドロドロサラサラしたスライムみたいな不思議な丘。
遥か向こうは天と地の境い目の無い景色。




