第一章 <少女とY.K.>part1
長らく投稿できていませんでした。すみません。
おじいちゃんとの約束を果たすべく、私は一生懸命勉強した。
夏休み明けから二学期が始まり、運動会シーズンとなった。
連日の運動会練習に体力をむしばまれながらの勉強は少ししんどかった。
運動会が終わるとすぐに中間テストが控えている。
チャンスがあるとしたらこの中間テストであると私は踏んでいた。
運動会準備などで、通常の授業がとぶことが多いため、おのずと中間テストの範囲が狭まる。
テスト三週間前から時間をかければ勝機はあると思ったからである。
私の学年には絶対的な一位が存在するわけではない。常に一位が移り変わっている。もちろん上位十人は固定されているのだが、その中での順位争いがある。
私も何とかその十人のなかに入れている。
補欠合格でビビッていたあの頃と比べ、かなり成長したと感じる。
今日は晴天で絶好の行楽日和である。秋の紅葉シーズンと言うこともあり、朝のニュースでは名所の情景が映されていた。
秋を感じるとともに、テストが迫ってくることを感じた。
「真琴、今日母さんはお出かけするけど、一緒に来ない。もう、秋だし衣替えの季節でしょ。服買ってあげるから」
「私は勉強があるから、母さんだけで行ったら。私の服なら、テストの後でも十分間に合うから」
「そう、わかった。じゃあ、真琴の好きな抹茶ロールでも買ってくるね。四時ぐらいには帰るから、留守番よろしく」
「抹茶ロールは、期間限定だからすごい行列だと思うけど」
「そんなことは気にしなくてよし。しっかり勉強しなさいよ」
母さんは、そのまま玄関から出て行った。車のエンジン音が遠ざかっていく音が聞こえる。
真琴は、開けていた窓を閉めてエアコンのスイッチを入れた。湿度七十五パーセント、気温二十八度、とエアコンの表示が出ていた。今日は、今朝からずっと蒸し暑い。エアコンの設定を二十三度にして、真琴は机に広げている数学の課題に取り組んだ。
今の単元は、指数と対数である。決まりきった解き方の型が無く、先生のさじ加減で問題の難易度は簡単に変えられる単元である。とにかく、問題数をこなすことが高得点につながると踏んで、普段は使わない「チャート式」という問題集にも手を出している。
指数の計算や対数の計算は、慣れれば問題を見るだけで簡単に出せる。図形の問題などの、証明の問題のように長々と過程を書くという作業を省略できるのであまり疲れは感じない。リズム良く解けていくので、時間の経過を忘れてのめりこんでいった。
気が付けば、もう三時になっていた。母さんが出かけてから三時間ほどが経った。真琴は、いったん手を止めて休憩することにした。真琴は、机の端においている本を手に取った。ファンジー系の小説である。
最近はドはまりしていた読書も、サブに徹してくれている。メインの勉強の合間の気分転換になっている。勉強の疲れをファンタジーという非現実世界に入ることで、半ば現実逃避のような感覚で忘れられるのである。
そのまま、三十分ほど読書をしていた。時刻は三時三十分過ぎである。
しばらくすると、エンジン音が帰ってきた。母さんが重たそうな買い物袋を提げて入ってくる。その手にはもちろん、抹茶ロールがあった。
緑色の紙袋に入ったそれは、いかにも高級であることが見て取れる。価格は、税抜きで四千五百円である。期間限定商品という付加価値のために、この価格でも飛ぶように売れるのである。ロールの半径はざっと五センチほどで、長さは二十センチというところである。抹茶のクリームを抹茶のふわふわの生地で巻いた上から、抹茶のパウダーをかけている。ザ・抹茶のロールである。真琴は、毎年このロールを買っている。これなしで、この季節を過ごしたことはない。
「真琴、そろそろおやつにしない」
一階から母さんの声がした。今行く、と返事をして本にしおりを挟んで席を立った。
一階のリビングに行くと、テーブルに抹茶ロールとコーヒーが用意されていた。コーヒーはブラックで砂糖などは一切いれないのが、真琴こだわりである。
「これ買うのに、一時間ぐらい掛かったんだけど」
「だから、言ったのに。平日に行ったら十分前後で買えると思うよ」
「でもこれ、何回食べてもおいしい。来年は平日に買いに行くようにしよ」
抹茶ロールは六等分され、お父さんとお母さんと真琴で二つずつになっている。お父さんは、土曜日の今日も出勤している。帰ってくるのは八時ぐらいである。
母さんと真琴は、そのまま一時間ほど雑談したのち、母さんは夕食の準備、真琴は勉強の続きに取り掛かった。
六時半まで数学を解いていると、すべての問題を解き切ってしまった。もう一周しようかと考えたが、今日はやめることにした。晩御飯は、七時からというのが村上家の決まりである。晩御飯までは、約三十分ある。こういう空き時間には読書である。
真琴は、再び本を開き続きを読みはじめた。最終章のクライマックスのシーンである。
一気にその本を読み切ると、部屋のエアコンを切り、窓を開けた。窓の外は、とうに日が沈み闇と化している。昼間の熱がまだ残っていた。