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本返し  作者: 愛松森
第二章
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第二章 鶯と朱

日の光が当たるのを感じて、目を覚ました。


真琴は、目を開けると見慣れない天井が目に入ってきた。体にかけられたタオルを除けて体を起こした。あたりを見渡して、自分が光輝の家のリビングに居ることを認識した。


暖房がかかった部屋は暖かく、日の光は心地いい。


立ち上がって、光輝を探したがリビングにはいなかった。廊下にでて、声を出して呼んでも返事が無い。仕方なく、一つ一つ扉を開けて探すことにした。


納戸、洗面所、トイレ、光輝の自室を探したが光輝は居なかった。


携帯電話で呼び出してやろうと思って、バックの置いてあるリビングに戻った。スマホの電話超を開いて、光輝にかけた。


「もしもし、真琴だけど、今どこに居るの?」


電話はすんなり繋がった。


「おはよう。急な来客だったから朝食の材料が足りないからスーパーまで買いに行ってるんだけど」


「なんか悪いね。起こしてくれれば私も一緒に行ったのに」


「気持ちよさそうに寝てたから、起こすのも忍びなくて。お風呂溜めておいたから、入っていていいよ。昨日風呂入らないで寝ちゃったでしょ。バスタオルとかも用意してるから適当に使って。今スーパーに着いたところだから、当分戻らないから」


「じゃあ、入らせてもらう。早く戻っても、のぞかないでよ」


「そんな下種(げす)な真似はしないから安心して。それじゃ、また後で」


電話が切れた。


スマホをバックに戻して、風呂場に向かった。さっき光輝を探した時に見つけていたので、迷うことなく一直線に行けた。


脱衣所には、バスタオル、ドライヤー、その他洗面用具が置かれていた。


真琴は脱いだ服を脱衣所に置かれている棚に置いて、バスマットを敷いて風呂に入った。


風呂場は湯気で白くかすんでいた。湯船は四十度ほどでちょうどいい湯加減だった。


真琴は一通り体を洗い終えて、ゆっくりと湯船につかっていた。


(なんかずっとここで暮らしてみたいに居心地いいんだけど。ちょっと不思議。)


ゆっくり湯につかって、二十分ほどで風呂から出た。廊下に出たが、光輝が帰ってきている様子はない。

リビングに戻って、しばらく待つことにした。


光輝の家のリビングには、テレビとソファとダイニングテーブル、それに昨日は気が付かなかったが加湿器が置かれているだけで無駄なものが無い。見ていてもスペースだけがただ広いだけというのが素直な感想である。


することもないので、しばらくテレビでも見ながら光輝の帰りを待つことにした。


三分ほどたって、玄関が開く音がした。


「ただいま」


光輝は、ショルダーバックとレジ袋をさげて帰ってきた。


「おかえり」


真琴も一応廊下まで出てお出迎えした。


「腹減っただろ、すぐ作るからもうちょっと待っててくれ」


光輝はキッチンに直行して、買ってきたものを袋から取り出し、必要なものだけ残してのこりを冷蔵庫に入れた。


「私も料理ぐらいならできるけど、何か手伝えることはない?」


「それじゃあ、ご飯がもう少しで炊けるからそれをこの茶碗によそってくれ」


そういうと、光輝は自分の仕事に取り掛かった。今日の献立は、白米、味噌汁、サラダ、じゃこてん、柴漬けである。じゃこてんを油を敷いたフライパンで焼き、その隣で味噌汁を作る。サラダは、レタス、ミニトマト、玉ねぎに胡麻ドレッシングをかけてサラダボールに盛った。ご飯が炊けると、光輝の後ろで真琴がごはんをよそった。


準備ができると、それらをダイニングテーブルに移して、二人は席に着いた。


「いただきます」


少し遅目の朝食が始まった。


「ねえねえ、昨日私が撮った写真見てくれた?」


「全部は見てないけど、少しは見たよ」


真琴は、笑いをこらえている様子である。光輝は、すました顔を保ったままサラダを頬張る。


「かわいい写真なかった?」


「あったよ」


実は真琴は昨日、光輝が仮眠を取った時にその寝顔をこっそり撮っておいたのだ。その写真が、夜空の写真よりも上手に撮れたのである。


「その写真、私欲しいんだけど現像してもらえる?」


「いいよ。また今度、本に挟んでおくよ」


真琴はガッツポーズをしながら大口にじゃこてんにかぶりついた。光輝は、表情には出さなかったが心の中では、大笑いしていた。


(しっかり、真琴の寝顔もかわいく撮ってやったから)


そんなことを知らない真琴は、満足気に笑っている。


「それから、お土産持って帰ったよ」


光輝は、椅子に掛けたショルダーバックから本を一冊取り出して、テーブルに置いた。


「なんの本?」


「見てわからないか?」


机に置かれた本は、朱色一色の本であった。表紙にも背表紙にも何も書かれていなかった。


「もしかして、R.U.さんの新作」


「そうだよ。今日たまたま本棚の前を通ったら目に留まったから持って帰ってきた」


真琴は、箸をおいてテーブルに置かれたその本を手に取った。表紙をめくると、手紙がそこに挟まってい

た。それを取り出して、読んだ。


[第二作が完成いたしました。今回は、前回よりも十作品ほど少ないのですがその分、質を高めることができたと自負しております。楽しんでいただければ幸いです。

もし自作の良い詩がございましたら、一緒に掲載させていただきたいと思いますので、また手紙で挟んでおいていただくと嬉しいです。

私の性格は、風に舞う木の葉のような性格ですので、すぐに周りに流されてしまいます。最近も、なにかと周りに流されて色々と苦労しています。作品もわりと周りからインスパイアされたことが多いというのが現状です。私なりのスタイルが確立できればいいのですが、なかなか成し遂げられなくて困っております。これからも精進してまいりますので、今後ともよろしくお願いいたします。

                             R.U.]


真琴は読み終えた手紙を光輝に渡した。


「R.U.さんに会ってみたいと思わない?私は会ってみたいと思うんだけど」


「僕も会ってみたいけど、そう簡単に会えるものでもないだろ。店長なら会えるかもしれないけど、僕ら学生が一日中あの本棚を監視できるわけでもあるまいし」


手を止めていた真琴が、再び大口白米を食べ始めた。光輝も、手紙を脇に置いて読みながら食事に没頭した。


久しぶり、というか二、三年ぶりに誰かと一緒に朝食を食べるというのに、あまり特別だという感覚を覚えない。いたって普通の日常的な朝食のように感じている。


光輝は、食べ終わると食器をいつものようにシンクに運んで皿洗いをする。それに見習って、真琴も食べ終わった食器をシンクに運び、光輝からスポンジを奪い取って自分の分は自分で洗った。


「それじゃあ、その詩集を読み終わったら手紙で会えるかどうか聞いてみたら。意外とあっさり会えたりして」


皿洗いを終えて、二人そろってソファに座ってそれぞれ鶯色の詩集と朱色の詩集を手にしている。


「そうね。ちゃんと返事も入れてくれていたし、会える日もそう遠くはないかもしれないよ」


「だといいんだけど」


それから二人は、黙々とそれぞれの詩集を読み始めた。


鶯の詩集は、春から夏にかけての題材が多く使われている。明るい作品が多く、陽気な春の陽を感じる。この秋口に読むと寒さを忘れて、遠い来春に思いをはせてしまう。


朱の詩集は、晩夏から秋にかけての題材が中心である。鶯よりも一つ一つの作品が長くなっている。長くなっているが、まとまっていてとても読みやすい。作品を単品で楽しむのも良いが、詩集全体でも統一したテーマがあって流れが心地よい。前回作よりも一味深い味わいがある。


二人は、黙々と読み進めていく。静かにゆっくりと時が流れていく。


十一時半ごろになると、真琴は立ち上がって帰宅の準備を始めた。


「大変お世話になりました。まさか朝食付きの旅館だとは思ってもいなかった」


「まさか七時にもなってまだ起きない人もいるなんて、僕も驚いたよ。それに比べて、七時には開店してる店長の店は良心的で、尊敬に値すると改めて思ったね」


「おじいちゃんは、早起きが得意なの。私は朝型じゃなくて、夜型だから早起きは苦手。昨日だって、夜はちゃんと起きれていたでしょ」


光輝は、昨日わずかな間でソファで爆睡していた真琴の姿を思い出していた。あれは思い出すだけで何度で

も笑えるネタとしてそっと心の隅にとって置くことにした。


「あんまり男子友達の家で無防備に寝てたら何されるか分かんないから気を付けてよ」


「ゴメン、次から気を付ける」


バックを持って、玄関に向かう。靴を履いて玄関扉を背にして振り返った。光輝は、土間には下りずに、上り(あがりかまち)ぐらいに立って真琴を見送る。


「R.U.さんとのマッチングは、私に任せてもらっていいの?」


「僕はどうせいつでも暇ですから、いつでも呼び出されれば飛んでいきますよ」


「それなら、私の好きなようにさせてもらうね。じゃあ、また連絡するから」


真琴は玄関扉を開けて、丁寧にこちらを振り返り頭を下げて帰って行った。


光輝は肩の荷が下りたようにちょっと胸を撫で下ろす。妙に緊張しっぱなしで精神的に疲れた。


まだ道半ばの鶯の詩集を読破しようと、またソファの定位置に戻った。


うららかな日差しの差し込むリビングで心穏やかに日曜のひと時を味わった。


毎週日曜更新です。来週は、色々と予定が入っているため、更新ができないかもしれませんが、ご了承ください。

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