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本返し  作者: 愛松森
第二章
12/25

第二章 一夜

「ただいま」


「お帰り」


 返答を受けたのは、とても久しぶりなことだった。少し嬉しい。


「どこに行ってたんだ」


リビングに行くと、父さんはコーヒーを片手に読書をしていた。


「秘密」


光輝は、笑顔で答えた。


「また悪さしてたのか。まあ、父さんも子供のころはよく悪さしてたからな」


「父さんが悪さしてたの」


そんな話聞いたことがない。


「どんなことしてたの」


「そうだな・・・」


父さんは、本をテーブルに置いて、腕を組んだ。


「父さんが小学生のころに、いつも通学路の脇にある家の庭に花の種を投げてたな。季節ごとに、その家の庭は花に彩られてさ。面白くてたまらなかったよ。でも、一回その家の人がいる時に投げ入れて、見つかったんだ。怒られると思って、ビクビクしてたら、君が花さか坊主かって笑って言われて、それからは堂々と花の種をまくようになったんだっけな」


コーヒーを口に運ぶ。


「今となってはくだらないことやってたなって思うけど、いい思い出だよ」


光輝は、冷蔵庫からお茶を出してそれをコップ一杯飲むんだ。


「そんなことしてたんだ」


光輝は、コップにもう一杯分のお茶を入れると、父さんの隣に座った。


「そんなことより、今日は母さんに会いに行かなくても良かったのか」


「うん、今日は検査の日だから行っても会えないから」


 そうか、と言って父さんはソファから立って、書斎の方につづく扉に手をかけた。それから、後ろを振り向き、

「明日は、父さんも一緒に病院に行くから、家で待っててくれ」

と、言って部屋に入っていった。


 光輝も、コップを洗って、風呂場に向かった。リビングの明かりを消すと、廊下は暗くなった。光輝は、

真っ暗な廊下を壁をつたって脱衣所に入った。


 脱衣所には、真っ白なバスタオルと、光輝の寝巻きが置かれていた。


 服を脱いで、洗濯機横のかごに服を入れて、風呂場に入った。


光輝は、温かい風呂に身を委ねる。肩までつかって、十秒数える。

 一・二・・三・・・四・・・・五・・・・・六・・・・・・七・・・・・・・八・・・・・・・・九・・・・・・・・・十・・・・・・・・・・。


 光輝は、湯船から勢いよく立ち上がった。お湯が光輝の体につられて大きく跳ね上がる。


 頭をたっぷりのシャンプーでたっぷりの泡で洗う。途中、シャンプーの泡が目に入り、光輝は低いうなり

声をあげながら、シャワーの水ですぐに顔に着いた泡を流した。


 顔を上げると、鏡の中の自分と目があった。


「ずいぶんと、浮かない顔してるな」


 シャワーの水を鏡の自分に向かってかけた。水は、鏡の上を像を歪ませながら流れていく。歪みが晴れると笑顔の顔が現れた。目は泡が入って、少し赤くなっていた。


 体も洗うと、再び湯船につかった。


 フーっと大きく一息し、斜め上にある淡い電球の明かりを見た。電球色のそのオレンジがかった優しい光が、水蒸気に反射している。


 湯気で視界が白くかすむ。


 光輝は、しっかりと体を温めると、二十分程度で風呂を出た。


 脱衣所にある寝巻きに着替えて、そのまま自分の部屋に入った。


 床には、朝置きっぱなしにした本のリストが積まれている。光輝はそれをいったん母の部屋に戻すことに

した。


床からリストを持ち上げた。リストを持ち上げると、その高さは光輝の胸よりも高くなった。リストで足元が見えない。おぼつかない足取りで母の部屋までいった。


 ゆっくりとリストを下ろして、もとあった場所に戻した。


 光輝は自分の部屋に戻って、宿題を始めた。まだ漢字テストの準備が万全ではなかった。広辞苑を横に用意して、漢字ノートを右端から埋めていく。


 そのうち十一時をまわった頃、眠気を覚えた。光輝は、歯磨きをしてそのまま眠気に誘われるままに寝入った。


今週は、第12部と第13部を更新しました。

毎週日曜更新です。

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