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本返し  作者: 愛松森
第二章
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第二章 親友

 光輝は、自分の部屋に戻った。ベッドの上にどさっと身を投げるとそのまま仰向けで天井を眺めた。


 完全に思考が停止してしまっている。


 光輝は体から力が抜けていくのを感じた。いままで感じたことのないほどの脱力感がする。光輝の体は抜け殻のようになっていた。


 いつも眺めていたはずのこの天井までもが、なにか別のものに見える。


 この世に変わらないものは無い。無常なのだ。常は無い。昨日あったものが、今日あるとは限らない。今日あったものが、明日あるとも限らない。


 でも、昨日なかったものが、今日あるかもしれない。今日なかったものが、明日あるかもしれない。

そんなことを考えていたら、考えることすら馬鹿らしいと思ってしまった。結局考えたところで、何も生まない。何も守れない。変わっていくものを止めることはできないし、遅らすことさえできない。作ることは大変だが、壊すのは一瞬。


 この世に永遠があったらいいなって常々思う。盛者必衰、万物流転、諸行無常そんなこと分かっている。でも、だからこそ、永遠に夢見てしまう。


 人の夢と書いて儚い。僕の夢もまた儚いのだろう。


 光輝は、額に自分の拳をのせて、見慣れた天井を見た。


隣の部屋で父さんが、パソコンのキーボードを打つ音が聞こえてくる。



父さんも母さんのために何かできないかと考えているらしい。昨日父さんの秘書さんが話してくれた。車での移動中も、会議の休憩時間もパソコンに向き合って、色々な情報をかき集めたり、母さんに会いに行けない分、パソコンのテレビカメラを使って母さんと通話しているそうだ。


副社長として、責任のあるポジションについている父さんは、家族を優先することは許されない。だが、周囲の社員の人たちも、母さんのことは承知しているらしく、ここ最近は父さんが早めに仕事を切り上げても、社員の人たちは父さんの分も残業して穴埋めしてくれていると聞いた。


そんな話を聞くと、つくづく人は支え合って生きているのだと思えてならない。


光輝は、ベッドから身を起こし、窓にカーテンをかけた。部屋の照明を消すと、そのまま眠ってしまった。



翌朝、目覚まし時計のアラームで光輝は目を覚ました。時刻は午前五時三十分。


光輝はまだ眠気でボーっとした頭で、ベッドからはい出ると、そのまま洗面所に向かった。顔を洗うと一気に目が覚めた。ついでに歯磨きと、寝癖を直す。


キッチンに向かい、朝ごはんの支度をする。どうやら父さんはまだ寝ているらしい。


冷蔵庫からハムを取り出して、IHの電源を入れた。フライパンでハムが音をたてて、いい色に変わっていく。その間に、炊飯器がご飯が炊けたことを知らせるアラームを鳴らした。


光輝は、慣れた手つきでご飯を装った。


『お米は、一粒残さないように取る。返事は』


いつか母さんに怒鳴られながらお米の装い方を習ったことを思い出した。


癌だと分かってから母さんは、光輝に家事を教えるようになった。料理、掃除、洗濯、アイロンがけ、収納術などありとあらゆる生きていく術をたたきこまれた。母さんが居なくなったあとも、困らないようにということなのだろう。


やりたくもないことをやらされる上に、少し間違えただけで怒鳴られてしまう。光輝は、いつもふて腐れた態度で教えを受けていた。それでも、同じことを何度も繰り返すうちに、徐々に様になっていった。母さんに怒鳴られる回数は徐々に減っていった。


今では、いまから一人暮らしを始めても困らないほど上達している。


いい色に焼き上げられたハムをフライパンから皿に移す。冷蔵庫から冷凍保存している小松菜を取りだし、レンジで解凍した。それをおひたしにする。


徐々に日が昇り、キッチンにも日が差してきている。オレンジ色の太陽が窓の外に見える。


最後に、味噌汁を作り、朝ごはんが完成した。


父さんもスーツに着替えてリビングに来て、朝刊を読んでいる。いつものように三誌の新聞を読み比べている。情報の偏りが無いように、父さんはいつも複数の新聞を読んでいる。

 

朝食をテーブルに運び、二人で食べた。特に会話はしない。父さんは、無口なのである。それに似て、光輝もまた無口である。

 

食べ終わると、父さんは早々と出社して行った。光輝は、まだ登校までに時間があるので、自分の部屋で予習することにした。

 

自分の部屋に入り、机に座る。机には、本のリストが山積になったままであった。光輝はそれをいったん床に下ろして、勉強できるスペースを確保した。

 

机に教科書とノートを広げて、今日の授業の予習を始めた。

 

三教科分の予習を終えた時、インターフォンが鳴った。

 

光輝は、教科書とノートをバックに詰め込んで、いそいで家を出た。

 

玄関扉を開けて、外に出ると門扉の前に制服すがたの男子生徒が立っていた。光輝は、カギをかけた。


「おはよう、光輝」


「おはよう、拓馬」


拓馬は、さっさといくぞというと、歩き始めた。

 

拓馬は、光輝の幼馴染である。一歳の頃から一緒に遊んできた。今では、光輝の唯一の親友である。


「なあ、光輝。お前は、将来何になりたいんだ」


拓馬は、光輝の隣を歩きながら言った。


「突然どうしたんだ。拓馬がそんな話するなんて珍しいな」


「まあな、もう中学だし、少しは将来のこと考えとかないといけないかなって最近思うんだ」


「へ~。いつになく真剣だな。そうだな、僕は父さんの後をついでゆくゆくは社長になると思う。まぁ、それまでにいろいろ学んでおきたいことはたくさんあるけどな」


 「本当にお前はいいよな。将来がほぼ約束されているなんてよ。俺なんか、不安しかないし、何かになりたいって夢もないし。ホント、何のために生きてんだろうって思っちゃうんだよな。そんなこと考えたって仕方ないんだけどよ。でも、生きてるからには何かを成し遂げたいと思うのが人間だよな」


二人は、並んで校門をくぐった。まだ朝早いので、ほとんど生徒はいない。


校門のそばには大きなクスノキが植えられている。これが、学校のシンボルである。その気は、この中学校ができた年に植えられ、今では樹齢百三十年である。


二人は、校舎に入りそれぞれ教室に向かった。光輝は一組、拓馬は三組である。


いつも、一緒に登下校している。これは、小学校の頃から変わっていない。


光輝は、拓馬と別れて自教室に入った。先客はおらず、光輝が一番乗りであった。


その後、クラスメイトがぞくぞくと入ってきたが、光輝に話しかけようとする人はいなかった。また、光輝も話しかけようとはしなかった。


光輝は、大人し過ぎた。中学生にしては、大人すぎた。話しかけにくいオーラを身にまとっているようだった。


だから、昔から仲の良かった拓馬しか光輝にはなしかけることはない。


光輝も、一人でいることに慣れてからは、一人でいることを好むようになっていた。親友は、一人いればいい、そうも思っていた。


学校に居る時間は、あっという間に過ぎていった。もう、放課後である。


放課後は、クスノキの木の下で拓馬と集合する。拓馬と一緒に帰宅するのである。


「ごめん、待った?ちょっと先生に捕まっちまった。先生って俺のことどう思ってんのかしんないけど、こき使いすぎなんだよな」


光輝は、木の下のベンチから立ち上がった。


「拓馬は、人がいいからな。先生もお願いごとをしやすいんだよ」


「あ~、なんで人の良さがこうも仇になんだよ」


 二人は、一緒に学校から出た。


「光輝、今日は少し話さないか」


「なんか今日の拓馬は、いつもと違うね」


「あったりめえだろ。人は毎日変わってんだからよ。昨日の俺と、今日の俺は別人だよ。べ・つ・じ・ん」


「それも、そうだな」


人は、変わるんだ。変わらない人なんて誰もいない。でも、僕は変わらないでいたい。変わらないために変わるんだ。


「よし、じゃあ、角のマックに行こう。あそこは、百円で長居できる」


(とか、言ってみたけど、実は光輝の父さんに朝、光輝の話相手になってくれないかって頼まれたからなんだよな)


二人は家ではなく、中央通りの角にあるマクドナルドに向かった。


到着すると、ドリンクを注文して席に着いた。


「最近元気ないけど、何かあったのか」


拓馬のそう言われて光輝はドキリとした。いままで内心辛いことがあっても表には出さないようにしていたからだ。


「やっぱり、拓馬には隠し事はできないな」


「お母さんの容体がそんなに悪いのか」


光輝は黙ってうなずいた。


「余命あと一年だって。さすがにメンタルきついわ」


「そうか・・・」


拓馬は何を言ったらいいかわからないようだった。ドリンクを無理に飲み干して、追加で何か買ってくるといって拓馬は席を立った。


残された光輝は、少しずつドリンクを飲んだ。


席に戻ってきた拓馬の手には二つのバーガーがあった。


「これでも食って少しは元気出せ」


拓馬は、バーガーを光輝に手渡した。


「ありがとう」


「わるいな、俺の悪い頭では、光輝に何をしてあげるのか考えてもこんなことしか思いつかんかったわ」


さっそく、拓馬はバーガーにかぶりついた。光輝も包装を外す。


「拓馬は、やっぱり変わってないよ。困った時は、いつもお菓子をもってくるもんな」


「えっ、俺そんなことした覚えないけど」


口にバーガーを含んだまま拓馬が反論する。


「僕が落ち込んでるときはいつも、お菓子を持ってきて一緒に食べようっていってくれたじゃん。覚えて無いの?」


拓馬は、そんなことあったかっていう顔をしてなおも、バーガーにかぶりついている。


また、中途半端なところで終わってしまいまいた。すみません。

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