絶望のテニス
「ゲームセット。6対0。南工業の勝ち」
最後の球がネットにかかり、審判のそのコールを聞いた。
周りを取り囲んでいた相手選手のギャラリーもまた、散っていく。いつも負けたようにネットまで行って相手と握手をする。
これで本当に試合終了だ。
ーーーー勝てないことは分かってたことだった。
相手は全国優勝校の一番手。かたやこっちは一番手と言っても弱小校だ。
俺が負けることなんか周知の事実で、俺自身もそれをよくわかってるはずだった。
ただ全国優勝者の実力がどんなもんか、この身で経験して次に活かすだけ、あわよくば少しぐらいくらい付ければいい。そんな軽い気持ちだった。
「負けたのか…」
1人でポツリとそう呟いてみると、不思議とその言葉は自分の心の中にストンと落ちてきた。
一度同じ選手が別の人とやっているのを見たことがある。先輩が最後に出る試合だった。
そのときちょうど、有名人のその人の試合があると友達から聞いて見に行った。
対戦相手は泣きながら試合をしていた。
俺はそれを可哀想だと、それでも仕方ないと、ただあの人が強いだけなんだと、ただそう思った。
泣きながら戦ったその選手も決して弱いわけじゃない、寧ろここで当たらなければより上に行けていただろうと思うほどの選手だった。
その次の大会でその学校と当たると言われたとき、俺はやったと、ラッキーだと思った。あんなに強いところと試合ができるなんて。
そして今日。
負けたその感情を上手く説明することができない。悔しさすら感じなかった。そして自分の悪かったところもまた、俺は見つけられなかった。
今までテニスをしてきた中で、確実に今日が一番調子の良かった日だと思っていた。
つまり俺は、全力を出し切って粉々に粉砕されたのだ。俺の今までの全てが音を立てて崩れていく。
そして俺は、テニスをやめた。