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芸術一家 共通①


「かわいい私の姪っ娘ー早くおきてーおきてー!!」


――今日は土曜日なのに、いつもより早い時間に叔母が早く起きてと言いながら部屋に入ってきた。


両親は単身赴任、だから母方の叔母さんが様子を見にくる。

ちなみに叔母は有名の社長だから仕事が忙しいらしい。

滅多に家には帰って来ない。実質独り暮らしのようなものなのだ。


「もーなに?」

「向こうの洋館に誰か引っ越してきたみたいよ」

「はあ、そんなことなんだ」

「じゃあ仕事いってくるから、洋館みてきてね~」


面倒くさいなあと思いながら、見に行くことにした。


「あーだるー」


外出の前に数分だけソファにごろごろする。

ひんやりした革製のソファは、とても気持ちが良い。

いつまでもこうしていたいけど、たまには外に出て太陽の光を浴びるのも悪くないかも。


「太陽はサンサン輝き、日差しが照り…はは…曇ってるどころか、どしゃ降りじゃないですかー」


きっと眩しい光と紫外線が、日焼け止めを塗っていない私の肌を射してくるものと思いきや、出掛ける前に撃沈した。

久々の外出が散々である、もう笑うしかない。


「う……」


なんだろう。窓のあたりからうめき声が聞こえてくる。


傘を差して庭を確認してみると、そこに人が倒れていた。


「み…水」


行き倒れに、しかもこんな雨の日に水を頼まれるのはなんだか変な気分だ。


「水っていうか雨なら飲めるくらいふってますよ」


まあさすがに雨水を飲めとは言えないけれども。


「涙を……ください」


私の涙を飲みたい?どこの変質者だ通報するぞ!と叫びそうになるのを必死に耐えた。


「悲しみの感情が私のご飯になる……」

「いきなり悲しめとか言われてもね。よかったらお家に送りますよ」


私は台車に彼をのせて、家まで運んでやることにした。

行き先は偶々、私がいこうとしていた洋館だったのである。



「ごめんくださーい。おたくの息子さんをお届けにあがりました。……誰もいないんですかー?」

「あー父は夜型で弟は散歩に」

「へーじゃあさようなら」


家には着いたんだし後はなんとかなるでしょ。



――月曜日、休みも終わって登校した。


「化粧水くらい塗りなよ~」

「ほんと陽影さんってば無頓着なんだから~」


クラスメイトがいう。


「油ショウだからいい」

「アンタんち大家族でも貧乏ってわけでもないんだからさ~服とか~メイク道具も……」


ああ、毎日鬱陶しい。中学の時は化粧なんてなかったのに、急にこれだもんな。


「席につけー転校生を紹介する」


転校生とかどうでもいい。早く放課後にならないかな、さっさと帰りたいな。


「女?男?」

「じゃ、入ってくれ」

「失礼します」


なんかクラスの大体の女子は騒がしくなる。


光伍火(ひかりいつか)です」


育ちのよさそうな男子だ。五月半ばのこんな微妙な時期に転校してくるなんて珍しい。

とは考えたが転校生なんて初めて見たが、普通いつが多いのだろう?


「じゃあ光くん、君は陽影さんの隣に座りなさい」


なんか嫌そうな顔をしているようだ。

それは当然だろうなあと、他人事のように考えてしまう。

私は生まれてから17年、理想やこだわりもない。

彼のような意識高そうな芸術関連や優雅な育ちとは正反対の生き方をしている。

普通の人間が好きな旅行や化粧、ブランドものなんてお金の無駄。

はたから見れば所帯染みているし、ガサツというやつ。

着るものは着られればなんでもよくて、食べられるものは腹に入ればなんでもいい。


◆なんて挨拶しようか?

〔よろしく〕

〔どうも〕

〔仲良くしてね〕


――と答えてはみたが、彼の表情は固いまま変わらなかった。


帰宅して数分、私はジャージのズボン、白いダボダボのニットを着た。

どにでもいる普通の平凡な少女以下のダサい女である。


『無頓着すぎ~』


――ふとクラスメイトに言われた言葉を思い出す。

たしかに人生に無頓着な考え方だ。

今さらもうどうにもならないと諦めている。


「あれ……」


冷蔵庫の中身がほとんど空なのである。

酒、ソフトドリンク類や調味料しか入っていない。

夕飯と明日の朝食を買いにコンビニへ向かった。


両親がいつ帰るかわからないし、食材を買っても余る。

料理は本を見れば作れるが自分の為に料理するメリットはないし面倒だ。


「戸締まりよーし。さあバンメシ狩り!」



「なんだと……?」


しばらく来ていなかったから知らなかったが、近場のコンビニはつぶれていた。


――他のコンビニどこだろう?


コンビニを探し回り、結構すぐにみつけられた。


「家の鍵しめたっけ?」


玄関の鍵をちゃんとかけたのか、ここまで歩いて今さら気になりはじめた。

電気はつけっぱのほうが防犯にはいいらしいけど、窓はあけないから問題はない。


さっさと帰ろうと歩いてはみたものの、携帯は家においてきた。

大体私は地図が苦手で、メールも煩わしいので使わない。

なんのために携帯持ってるか自分でも疑問だが、魚釣りゲームとか園芸ゲームの為だろう。

まあ携帯を外に落とさない為には持ち歩かないほうがいいってことで。


「……完全に迷ってるわ」


まあ特に怖いだとかは感じないけど早く帰ってテレビを見たい。


「どうしたのお嬢さん?」


公園の近くを通ると、少年に声をかけられる。こちらを心配しているようだ。

暗くてよく顔は見えないが、背は私より少し小さい。


「あー最近この辺りでつぶれたコンビニ跡地を探しているんだけど」

「最近ですか、僕は今日この街に来たばかりなので……」


――なら道案内は無理そうだ。


◆なんて言おう?

〔じゃあさようなら〕

〔どうもありがとう〕

〔しかたないよね〕


私は少年に手をふって、適当に歩く。なんとか帰宅できたのでよかった。

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