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新たなる職場そして

しかし、メランコリックになっている暇などなかった。その日暮らしの俺がこの世界で生きるためには、ひたすら働いて金を稼ぐしかない。翌日、転籍先のアルゴー環境美化社に出勤した。結局、無事だった社員はほぼ全員が来ていた。河骨こうほねさんは危険が増したこの業界に嫌気がさし、別業界へ転職することにしたらしい。あの人は何でもこなせる器用さがあるし、賢明な判断だと思う。だが俺には他業種でやっていけるスキルなんて何もない。望むと望まざるに関わらず、続けていくしかなかった。



新しい職場であるアルゴー環境美化社は、零細企業だったファーリーズ下水道清掃社よりも大きな会社だった。従業員は100名以上で、業務範囲も多岐にわたっていた。だが俺たち移籍組はそろって前と同じ仕事をすることになった。つまり下水道清掃という名のスライムとの終わりなき戦いを。




その日からすぐに仕事だった。新しい作業着に身を包み、下水作業用の装具を装着する。会社が大きいだけに前の職場よりも装備は充実していた。ある程度の悪臭カット効果もあるマスクや通気性のよい合羽はありがたかった。怪物の襲撃以来、各自には防御用の短剣が支給され、作業には完全武装の護衛が同行することになっていた。それでも下水道したに降りることへの恐怖感はぬぐえなかった。



幸い、今回は布袋40個分のスライムを回収し、何事もなく作業は終了した。護衛含む全員がこんな場所にいるのは御免だとばかり、作業が終わるが早いかそそくさと撤収した。



会社に戻ると装具を洗浄し、汚れた衣服を洗濯に回すとシャワーを浴びたのだが、ここで少しびっくりすることがあった。


新しい職場のシャワー室は個室がなく、大部屋の壁面に並んだノズルの前で体を洗うようになっていた。だからお互いに裸が丸見えだ。俺の隣ではガエビリスがシャワーを浴びていたのだが、ふとそちらに視線をやった俺は信じがたい物を目にし驚愕した。


ガエビリスの股間はつるりとして、あるべき物がなかった。


数秒後、ようやく事態を飲み込むとともに頭を一撃されたような衝撃が走った。こいつ、ひょっとして女性?

「どうしたんだ、僕がどうかしたか?」

「いや、今更なんだが、…おまえって女なの?」

「そうだがなにか?」

「そうだったのか…知らなかった。ずっと男だとばかり…」

「ふぅん、そうなんだ。別に大した問題じゃないと思うが」


そうなのだ。エルフは男も女も中性的で、人間の男女に比べ性差が極端に小さい。体型は男女ともすらりとしていて服を着ていれば区別できない。人間と違って赤ん坊に授乳しないため、エルフの女性には乳房の膨らみもない。


そのため性別がアイデンティティ形成において重要な位置を占めておらず、人間で例えるとせいぜい血液型の差程度の重みしかないのだ。だから裸体のタブーもない。


だが、俺にとってはそうではない。これまで見慣れた奴の体が急に別の意味合いを帯びてきたように感じて、クラクラしながら慌ててその場を後にした。そんな俺をガエビリスは不思議そうに見ていた。


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