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第五章  暗闇に眠る  2

 そう、眠りに落ちたはずだった。なのに……


「ふん、そう簡単に逃がすものか」


 真っ暗な空間に俺と守人の姿だけがぼうっと浮かんでいる。周囲を見回してもただただ闇が広がるだけで、月明かりが差し込んでいた窓も見当たらない。


「エーテルを使って意識だけをこの空間に引き摺り出させてもらった。ここならば誰にも邪魔されずに話しができる。」


 そう言いながら近づいて来る。冗談じゃない、どうせまた記憶を読み取ろうとしているんだろう。そう思うと体が自然と身構えていた。


「む、警戒するな。どうせ今の状況では記憶に手は出せん。」


「信用できると思うか?」


 立ち止まってしばし考えるように空中を眺めた後


「ふむ、それもそうだな。」


 一人で頷いて納得する。


「では近付かないでおこう。この距離だ。良いか?」


 そう言いながら少し後ずさり、爪先でラインをひく仕草をする。もっとも地面も闇だからラインが残るわけじゃなかったが、彼女なりの誠意のつもりなんだろう。


「わかった、とりあえず警戒だけはしないでおく。それで、何の話がしたいんだ?」


「そうだな、君がこの世界に来てから私に会うまでの事を話してくれないか?

……何だその顔は?ふん、君を召喚したことでしばらく休眠に入っていたからな。

……そんな目で見るな。いいから話せ。」


 自分で召喚しておいて今まで把握していない上に俺に全部話させるとかとんでもないやつだ。

ただ、少しは罪悪感を感じているのか、若干頬を紅潮させ視線が泳いでいるのは可愛いと思った。


「はあ、まったく何ヶ月あったと思ってるんだよ……」


「……ふん……」


 仕方ないので今までのことを話す。驚いたことにどれだけ話しても喉が疲れなかった。

意識だけ引き摺り出された空間ってことは夢見てるみたいなもので、身体はしっかり休んでるってことでいいんだろうか?


「と、そこで目の前に」


「私が居たわけだな。ありがとう……」


 森で会った場面にたどり着くと無理やり話を終わらせて一人で考え事を始めた。あの時も思ったが本当に自分のことしか考えてないんだな。


「いくつか質問させてもらうぞ。」


「答えられることならいいぞ。」


「まず一つ、機械人形とやらが作っていた来訪者のリストを君は見たのか?そしてその来訪者達とやらには会ったのか?」


 機械人形に最初に会った時のことか。確かに彼女はリストを作っていると言っていたが……


「いや、リストは見ていないし……そう言えば龍弥以外に会ったことはないな。」


「……ふん、やはりそうか。いい機会だから言っておくが、私が今まで召喚したのは三人だけだ。

リストを作るほどの人数ではない……というよりも来訪者と言えるのは君だけだ。」


「あとの二人は……?」


「霧払いの使徒とリリィク・バーゼッタだ。あの二人に関して言えば私の力の暴走に巻き込まれたのを引き戻しただけだからな。」


 つまり、俺と彼女が昔会っていたらしい事の元凶はこの子か……。


 だが、今はそれよりも


「じゃあ、龍弥を召喚したのは?それに、あいつは彼女もここに居ると言っていたが……」


 一体誰が?そもそも龍弥は伽の守人が俺達を連れ込んだと言っていたが、それはこの子じゃないのか?


「ふん、私のせいにして何をするつもりか、調査する必要があるな。実に不愉快だ。

ああ成程、それでガルオムが私に会う度に訳の分からんことを言ってきていたのだな。」


 そういえば彼に初めて会った時にグチグチと言ってた気がするな。


「まあいい、次の質問だ。リリィク・バーゼッタ、彼女は一体何だ?」


 何だ?と言われても困る。俺が言えるのは魔法の国の王・ガルオムの娘で防御魔法のスペシャリストでマジックキャンセラー持ちってことぐらいだ。


「彼女は普通の人間ではないな。君達がアルシアと話していた時にエーテル特異体の兆候があると言っていたが、どうもそれだけでは納得できない。

何よりも幕で一枚包まれているような感覚、あれだけは理解できない。」


 ふと、『制約』と言っていたのを思い出した。もしかしたら守人の感じているのはそれかもしれないと。


「……ふん、どうせ知っていたとしてもこの件だけは答えまい。いずれ記憶を読んででも答えはもらうからな。」


 それだけは勘弁してほしいな。そもそも他人の記憶を見ても自分の記憶なんて戻らないって言われたんだから自重したらどうだろうか。


「君もそれを言うか……いいだろう、自分の記憶は自分で何とかする。だが、リリィクから感じる違和感、それだけはどんな手を使っても解き明かさせてもらうぞ。」


「どうしてそこまでこだわるんだ?」


「ただの好奇心だろうな。だが、あの違和感は君の所から彼女を連れ戻した時からだ。と、なると君を連れてきて記憶を読み取るのが早いと思った。」


 ……まさか、俺はそれだけの為に召喚されたんだろうか。


「ふむ、そういうことになるな。だが、魔道砲を撃てたこと、それだけは予想外だ。まったく、君という人間はなかなかに興味深い。」


 この世界に来た意味を探すんだと頑張っている俺にこの答えはきつい。正直かなりへこんだ。


「む、すまんな。」


「いや、謝るなよ。」


 まあ、気にするなよ。よくあることじゃないか。勢いだけでやってしまって後悔するってこと。

うん、あれだよ、若気の至りってやつ?誰にでもあるもんさ。そうやって人は大人になって行くんだよ、うん。


「む、いきなりどうした?」


「気にするな!」


 へこんだ心を別方向に向かせて自分なりの答えを探す旅に出るんだから放っておいてくれ。


「ふむ、では気にしないでおこう。それよりも君の魔道砲だ。赤を撃ったそうだが、自身の得意属性は風なのだな?」


「あ、ああ。」


 興味津々といった感じで目を輝かせながら身を乗り出してくる。俺はこの子を敵だと思っていたが、どうやらその認識は改めた方がいいのかも知れない。

この子はただ純粋に『知りたい』だけなんだろう。自分のこともその他のことも含めて全てを。


「君の父親も風は得意だが、何故君は赤の、炎の魔道砲を撃てるのか……ふむ、なかなかに……」


 問い掛けておきながら熟考し始める。考えがまとまったら何か面白い仮説が聞けるんだろうか?


 そういえばこの子はいくつぐらいなんだろうか?見た目で言えばアリスぐらいだろうか?いや、アリスはリリィクと同じぐらいらしいから俺と三つ四つ程度しか違わないから違うな。

ん?見た目の話だから別に実年齢は関係ないか。ああ、ユリアルがいたな。彼女よりは流石に背は高いしスタイルもいいが年齢的にはあの辺りだろう。


「おい……」


 確かユリアルは……


「ふん、気持ち悪い顔だな。さっさと送り還してやろうか……」


「え?あれ?」


「何のつもりか知らんが、そんなに私の年齢が知りたいのか?」


 ありがとう俺の顔、ちっとも自重できやしない。


「残念だが明確な答えはやれんぞ。そもそも神話レベルの過去の生まれだからな。」


「できれば見た目の方でお願いします。」


 はあ、と大きなため息を吐かれてしまった。そして


「知らん。」


 一言で終了である。


「まったく、リリィクがいなくて良かったな。黙っておいてやるから二度と下らん質問はするなよ?」


 頷きながら何とかして顔に出る癖を抹消しなければいけないと強く思った。


「ところでだ、君は今どんな魔法が使える?」


「今使えるのは……」


 一番使ってるのは『加速』だな。それに付随して『対物障壁』。

攻撃魔法としては空気の球をぶつける『球撃魔法』に、

かまいたちを起こす『斬撃魔法』、

そして竜巻を起こす『領域魔法』といったところか。


「ふむ、補助は苦手か?」


「どうもそうらしい。」


 リリィクやワイズマン隊長達と訓練している時にも言われたことがある。あれだけの特訓をして加速の先、『飛翔』の片鱗すら見せないのは補助に向いてないとしか言いようがないとか。


「そうだろうな。どうせ加速も『体当たりすれば攻撃だ』というような認識で使っているんだろう?」


 ごもっともで。


「ふむ、伸ばすならば攻撃か……。よし、いつでもいいぞ。」


「何がだよ。」


「実戦形式の特訓だ。ここならば傷つくこともないし、何よりエーテルにイメージを伝えるのもダイレクトにできる。それに、君が発展できるように私も風の魔法だけで相手してやろう。

 まあ、私のは魔法とは言い難いかも知れんが、何かきっかけは掴めるだろう。良い提案だと思うが?」


「……明日は朝早いらしいんだけど?」


「心配するな、身体は寝ている。問題ないだろう。」


「精神的な休養は?」


「知らん、大丈夫だろう。」


 これは何を言っても聞いてくれないな。仕方ない、強くなるために頑張るか!


「よし、いくぞ!」


 気合い十分、勇ましく向かって行った。











 ……いや、おかしい……。


「ふん、その程度か?」


 おかしい、うん、おかしい。


「まったく、一分も耐えられんとは……」


 風しか使わない、こう言っていたはずだ。なのに……


「なんで空中から火吹いたり電気が迸ったりするんだよ……」


「ふん、何だそんなことか。応用だよ、応用。少しは参考になったか?」


 ならない。そんなにじっくり観察もできない。


「まあいい、こんなこともできるぐらいの認識は持てただろう。もう夜が明ける、今日はこれくらいにしておいてやろう。」


「……次回があるのかよ。」


「さあな、気が向いたらやるかもしれん。」


 ようするに気まぐれか。振り回される身としては勘弁してもらいたいな。


「さて、私はちょっと永めの休眠に入るかな。君もせいぜい頑張るといい。起きたらまた記憶を見せてもらいに行くからな。」


「できれば止めてもらいたいな。」


 気が向いたらな、と言いながら俺に向かって手をかざす。ふっ、と力が抜ける感じがして眠りに落ちていく。ああ、やっと寝れるんだな。


 伽の守人、か。最初に持ったイメージ通り、自分勝手な奴だな。だが、少しの間だったが話をしてみた印象としては悪い奴ではないみたいだ。

好奇心が勝って人との関わりをぞんざいに扱うところだけが問題だとは思うが、そこは外見通りの幼さ故の純粋さとも言えるかもしれないな。


 しかし、また謎が増えてしまったな。俺以外の来訪者達があの子に召喚されたんじゃないとすると、一体誰が?俺ごときが考えても仕方がないが気になるな。

守人を主犯に仕立て上げ裏で暗躍する人物……よく名前の出るストラーとかだろうか?そうだとしたら


「さっさと寝ろ!」


「え?ああ、すまん。」


 どうやら考え事をしていたら無意識に眠気に抗っていたらしい。ずっと俺に手をかざしていたらしい守人が顔を真っ赤にして怒っているので潔く寝るとしよう。


 でも夜が明けるとか言ってたし、多分すぐ起きることになるんだろうな……

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