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第二章  銃撃少女


 乾いた音が響き



 彼の目の前を切り裂いた



 彼はそのまま意識を失った……










第二章  銃撃少女









「あ、あはは、すみません。ちょっと跳弾の研究に熱中しすぎちゃいまして……」


 そう言いながら銃を持った少女が申し訳なさそうに近づいてくる。アリスだ。


「いや、うん、俺は大丈夫だから次からは気を付けてやってくれ。」


「…………」


 ゼオは答えない。なぜなら彼女の跳弾がこいつの目の前を通過し横の木にぶつかって足元に着弾したことでせっかく持ち直しかけてた恐怖が極限に達し「ぴゃあおう!」という悲鳴を上げて気絶したからだ。


「と、ともかく賢者様の所に行きましょう。私、場所は知ってますから。」


「ああ、それはありがたいんだが、こいつどうしようか?」


 ゼオを足で小突いてみせる。


「引き摺っていきましょう。私に任せてください。この人いつも姫様に迷惑かけてるんですからこれくらいしたって罰は当たりません。」


 銃を片手にキョロキョロと周りやら頭上やらを見回して何かを探し始める。


「うん、あれがいいですね。」


 銃声一つ、鉤状に曲がった枝が落ちてきた。それをゼオの襟に引っ掛けると少し怖くなるくらいの笑顔で


「バッチリです。さぁ、行きましょう!」


 そう言ってずるずると引き摺り始める。


「ところで、何で跳弾の研究を?」


「いやぁ、一人で待ってるのって結構退屈なんですよぉ。」


 森にはまともな道が一本しかないらしい。ここで待ってれば間違いなく通るだろうから待っていたそうだ。……通らなかったらどうするつもりだったんだろう。


「しかし、ユウト殿、浮気は駄目ですよ?」


 俺の背中のお荷物を指さしながらニヤニヤと笑う。


「いや、これはだな……」


 事情をかいつまんで説明する。が、「ふぅん、そうですか。」とつまらなそうな反応しか返ってこなかった。

どんなことを期待していたのやら。


「まぁ、無事でよかったですね。あ、姫様も無事賢者様の所に居ますよ。これは急がないとですね!」


「ああ、そうだな。」


「さぁ、キリキリ歩きましょう。霧原だけに……」


「……走らないのかよ……」


 一応さっきまで走り続けてたことは配慮してくれているらしい。クィン・デッドもあの様子じゃすぐに追いつけないだろうし、ここはゆっくり歩いて行くとしよう。


「……………………」


「……………………」


 無言。


「なあ、こうやって話をするのって初めてじゃないか?」


「そうですね。」


再び無言。よくよく考えたらこの世界に来て初めて王の間に行った時以来会ってない気がするんだが……


「…………」


「…………」


 ちょっと横目で伺ってみようかと思ったが、彼女が魔法で視力を補っている以上いつの間にか視線が合っている恥ずかしい事態になりかねないとか妙な考えが浮かんでモヤモヤしてきた。


「あぁ……ユウト殿ユウト殿。」


「ん、何だ?」


「ユウト殿は兄弟とかいるんですか?」


 どうやら彼女も話題を探していたらしく、当たり障りのない話題を見つけたようだ。

ここでご趣味は?とか聞かれてたらおもしろかったのにな。


「いや、いないよ。アリスはいるのか?」


「はい、兄さんがいます!」


 何故か頬を赤らめながら元気に答えてくれる。


「兄さんは射撃のプロフェッショナルなんです。速射から狙撃まで全てにおいて右に出る者はいません。

無駄な動きが無くてほれぼれする位カッコいいんですよ!ラトラに行くことがあるならぜひ見せてあげたいです。」


 少し興奮気味に一気にお兄さんの話をしてくれる。よほど自慢の兄さんなんだろう。


「アリスはお兄さんが大好きなんだな。」


 兄弟の仲がとても良いんだな。そういう意味での発言だったが……


「う、はぅ、だ、大好き……です……」


 どうにも反応がおかしい。顔を真っ赤にしてうつむいてもにょもにょとつぶやく。これは予想外だ。


「…………はぁ……兄さん……」


 これはアレだ。ライクじゃなくてラブの方だ。当たり障りのない話題だと思っていたが、とんでもない地雷が潜んでいたもんだ。

というか、よく考えたら自分で地雷投げてきてたのか……


「あぁ、兄さん……」


 もう駄目だな。完全に自分の世界に入り込んでしまっている。ゼオを引っ掛けている枝を離さないようにだけ注意しながら進もう。


 さて、せっかくだし俺も考え事をしながら歩こうか。


 まずは背中のお荷物様。この子は伽の守人と呼ばれていて、俺たちをこの世界に呼び出した張本人だ。なんでも、無くした記憶を取り戻すために手当たり次第に他人の記憶を読み取っているらしい。

どんなに他人の記憶を読んでも自分の記憶なんて戻らないと思うんだが、この子的に何か考えがあるんだろう。


 機械人形や守護龍に聞いた限りでは遥か昔から生きているようだが、老化とか寿命とかは一体どうなっているんだろう?見た目は俺やリリィクなんかよりは若く見える。背も小さいからだろうな。

ただ、スタイルはかなり良い方だと思う。簡単に言ってしまうなら背中に当たっている部分がすごい。物凄い。ヤバい。ちなみにリリィクのはこんなには無い。


 王が他人に迷惑を掛けるなと散々言っていたらしいが、どうやら直すつもりはないようだ。森で最初に会った時もさっき会った時も開口一番記憶記憶とそれしか言ってこなかったからな。

さらには眠くなったからと倒れ込む、人を勝手に支えにして吹き飛ばす、クッションにする……。いかん、イライラしてきた。


「んん……」


 おお、うん、まあ、なんだ、許してやらんでもないかな。そうか、これが役得というものなのか。


「兄さ……むっ!」


 唐突にアリスの顔が険しくなる。その直後


「ほわあっ!」


 銃弾が目の前を飛び、遅れて前髪が少し飛び散り焦げたような臭いがした。


「別にユウト殿の鼻の下が伸びまくってたから撃ったわけじゃないですよ。敵です。」


 その言葉にハッとして銃弾の飛んで行った方を見る。木々の奥から見たことのある赤い光の群れが近付いて来る。


「これは……リザードマンか!?」


 忘れるはずがない。この世界で初めて襲われたモンスターだ。


「そうです。ここ、ユウト殿が来た所の近くなんです。」


 なるほど、あの時の奴らの生き残りか。


「……なあ、なんか俺物凄く睨まれてないか?」


 赤いいくつもの瞳は全員間違いなく俺を睨んでいる。


「仲間が魔道砲でやられたの、しっかり覚えてるんですね。」


 ああ、なるほど、仇が近くを通ったから復讐というわけだ。


「ユウト殿、ここは私に任せてください。」


 そう言いながら銃を取り出し弾丸を込めていく。六発装填式のリボルバーだ。


「伏せておいてください。モード・アイシクルシューター・オン!」


 すかさず六発すべてを森の中に撃ち込んだ。直撃した個体から悲鳴が上がる。


「炸裂、散布、凍結せよ。悠久の眠りをここに!アイシクルコフィン!」


 アリスの呪文に反応し弾丸が炸裂、リザードマン数体を氷漬けにしてしまった。初めて会った時に使ったものと同じものだろう。

前回はこれで逃げてくれたが……


「やっぱり来ますか……」


 残った奴らが逃げることはなく、激昂して木々の間から飛び出してくる。


「仕方ないですね。」


 何処からともなく素早く取り出した銃は恐らくアサルトライフルだ。転移魔法の応用だろうか?


「おりゃあああああああああああ!!!!!」


 雄叫びを上げながら迫りくる敵に、どこか嬉しそうに銃を乱射するアリス。この子トリガーハッピーってやつだな。

銃が撃てて幸せ、お兄さんを想うとさらに幸せってな。


「いてっ!」


 どうでもいいことを考えてたら何故か薬莢が頭を直撃した。もう少し後ろに下がろう。


「あっ、逃がしませんよ!」


 言いながらアサルトライフルを投げ捨てる。うん、端っこの方が軽く頭に当たった。


 どうやら一匹だけ逃げ出していたようだ。森の茂みに消えてもうほとんど見えなくなってしまっている。


「これで……」


 呟いて銃身の長い銃を取り出す。スナイパーライフルだ。


「私の目から逃げられると思わないでください!」


 アリスの目の部分を覆っている包帯、その眉間の辺りがうっすらと光ったように見えた。それと同時に狙撃完了。遠くから断末魔の叫びが聞こえてくる。


「目標、デリート完了です。もう大丈夫ですよ。」


 頭がちょっとばかり大丈夫じゃなさそうな痛みを訴えていたが、気にしないようにして立ち上がる。


「あれ?」


 そういえば、この子立ったまま一人で狙撃しなかったか?


「どうかしましたか?……ああ、立ったまま狙撃くらい出来ないとコガラシ家の名は継げません。

ちなみに兄さんは動き回りながらでも狙撃できるんですよ。」


 とても嬉しそうに話すがとんでもない兄妹のようだ。そもそも狙撃って二人一組で見えにくい場所と安定した姿勢で敵に気付かれないように行うものじゃなかったっけ?


「ユウト殿がいるじゃないですか。」


「え?いや、まあそうだけどさ。」


 何かが違う。大いに違う。だがこれは気にしたら負けなのか?それとも俺の知識が偏っていて、単に俺が知らなさすぎたってことなのか?

ああ、分かった。これ射撃だ。狙撃じゃない。ただの射撃だ。うんうん、よく分らなくなってきたしそれでいいだろう。


「何はともあれ敵はいなくなりました。今のうちに姫様の所に急ぎましょう。」


 そう言っていつの間にか投げ捨てていたリボルバーを拾い上げる。ゼオの頭の上から……


「もう、この人まだ起きないんですか?仕方ないですねぇ。」


 ゼオ引き棒を手にしてアリスが歩き始める。その横を歩きながら確かに聞いた。


「……痛い……助けて……」


というゼオのうめき声を……

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