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エピローグ 【雷撃跡地】


 掘り出し物。私が埋めたものではあるけれど、さっさと引きずり出してしまおう。


「おや、元気?では、私について知ってることを話すのだよ。」


「……少しは生きてるかの心配しろっての……」


 死ぬかと思った、と毒づきながら地面から引き抜いた剣先に刺さったままだった何かが声を発する。見た限り生きているのだから確認の必要はないだろう。


「めんどくさい、さっさと話すのだよ。」


 夜も更けてきたしさっさと眠りたい。


「ちっ、仕方ねぇか。一方的に取引されたとはいえ助けてもらっちまった身でこれ以上贅沢言うもんでもねぇな。」


 器用に身をよじりながら胸に刺さっていた蛇腹剣を抜いていく。


「まったく、とんでもねぇ女だ。あの土壇場で地面に埋められるなんて誰が予想できるかよ。」


 抜き終わるとため息を吐きながら天を仰いで寝転がる。ティアドロップも終わり綺麗な星空が視界いっぱいに広がっている。


「埋めた後一旦剣を引き抜いて、それからなるべく感電しないように他にも色々やってあげたのだから感謝するのだよ。さあ。」


「あー、はいはい、ありがとうござんした!……あ?何だその顔は?さっさと話せだぁ?てめぇが感謝しろっつったんだろうが!」


 やれやれ、まったくめんどくさい男なのだよ。


「ああ、そうかよ。わかったわかった、さっさと話してお互いおさらばするのが正解ってな。」


「うむ、理解が早いのは助かるのだよ。私は君が刺さっていた部分とか落雷を受けた箇所とかを点検しながら聞くから、終わったら適当にどっか行くといいのだよ。」


「調子狂うぜ、まったく……まぁ、しっかり聞いてろよ。」


「了解なのだよー。」


「……聞く気あんのかよ?まあいい、まずは……」


 この男が言うには私はストラーが謀略に掛けて殺した幼馴染『ミズナ・アリード』を基に作られた駒の一つであるそうで、ストラーの計画実行のために邪魔になるミューやハーシュ、アルシア達を阻止するために戦っていたそうだ。


「ミズナ……それがオリジナルの名前なのだね?」


「ああ、まあ俺も他の奴らも本物に会ったことはないはずだぜ。俺たちみたいな素材を集め始めた時には死んでたはずだからな。」


 あの時、ハーシュは私に記憶を取り戻させたいと言ってたが、もしかして私がオリジナルの記憶を取り戻してしまうことも有り得るのだろうか?と、特に意味もなく考えてしまった。


「そういえば、量産されてたからな。記録映像で見たが森から同じ顔がわらわら出て来るのを見た時にはゾッとしたぜ。」


 星空を見上げて想像してみる。思い出せはしないが、その状況がいかに気持ち悪いかは分かる気がする。


「他のは……負けたのだろうね。何があったか分からないが私だけが残ってしまった、と。」


「ああ、トーマの野郎が持ってた記録では全滅ってことだったからな。さっき出てきた時には肝を冷やしたぜ。」


 一応この界隈では暴れ回っていた上に『ソリ・アリ』とかいう名前も付いていたはずなのだけど、まあ、陰に潜みすぎて外の情報に触れていなかったのだろう。つまり、ひきこもりだったのだね。


「違うわ!外見も随分変わっちまってんだ。あと、その妙な武器も!それに、俺様は正直暴れられれば良かったってのもあってあんまり報告とか確認とかしてなかったからな。さて、俺様はそんなに深くストラーと付き合いがあったわけじゃねぇからな。知ってるのはこのぐらいだ。これで十分なんだろ?とりあえず俺様はこのままここからおさらばして何処かでひっそりと生きていくとするぜ。お前さんはどうする?」


「私は……ストラーへの……エーテルへの憎悪が全て……これが私、ストラーもエーテルも滅ぼすだけ。今の私がストラーに忠実な道具でないのなら都合がいいのだよ。……それで、いい……」


「その使命感じみた考えが正解か不正解か知らんが、好きなように生きればいいんじゃねぇか?少なくとも俺様はもうストラーやらなんやらに関わるのは御免だぜ。」


 胸の傷が塞がったのを確認して体を起こすと、この大きな穴を出るために端の方へと歩き始める。おそらくそのまま霧に変化して脱出するのだろう。


「待って……いや、これは……?」


 エーテルの臭いは断つと、そう生きるのならば彼もここで手に掛けておかなくてはならない。そう思って蛇腹剣を振るおうとしたが、何か違和感を感じた。


「は?あぁ?なんだこりゃ!?」


 彼は霧化の呪文を確かに詠唱していた。していたが変化しなかった。


「あの女の……いや、それはねぇ。あの能力は近くに居る時しか効果を発揮できねぇはず。」


 あの女?ああ、あの紅蓮の姫君か。


「確かに近くにはいないはずなのだよ。しかし、君のその状況は普通ではないのだよ。何か心当たりは……」


 答えを探ろうとして気付いた。気付いてしまった、違和感の正体に。


「君から、エーテルの臭いが……気配が、存在が、消えているのだよ!」


「はあ?なんだよそれ……」


 なんだと言われても私に分かる事ではない。事実として先程まで彼の胸の傷を治していたのは間違いなくエーテル。その動きも感じていたのだから間違いようがないのだ。


「これはいったい、何だというのだよ……」


 そのまま二人で考察を始めるが、結局ここで至る結論は一つ。霧四肢のゼフュールはただの人間に戻ってしまったということ、ただそれだけだった。


 だから、とりあえず穴からは出してやったけど後の事は知ったことではないのだよ。強く生きるのだよ。


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