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第七章 霧中に活路を 3

【バーゼッタ城・式典会場】



「おっ、外、静かになったな。なあ、どっちが勝ったか賭けでもしないか?」


 相変わらずの軽い口調でガルオムが問い掛ける。


「せんわ!何故貴様はこの状況でそこまでリラックスできるのか、全く理解できんよ……」


 現在ガルオムはトーマの仕掛けた結界に閉じ込められている。傀儡の魔法によって襲い掛かって来たカルメアを自慢の声で一旦吹き飛ばし体勢を整えようとしたところで床面に仕掛けられていた結界が発動、あえなく行動を制限されてしまったのだ。


「固い事言うなよ。どうせ俺を捕らえとけばリリ達を始末するのに役立つかもとか思ってるんだろ?それならすごい役立つ、役立つよー。だから、ちょっとぐらい息抜きしようぜ?」


 そう言ってワインのボトルを開ける。


「なっ!?」


「おっ?絶句ってやつか?いやあ、見慣れてる見慣れてる、ワハハハハ!」


 豪快に笑いながらおつまみに手を伸ばす。


「……貴様、いつの間にそんなものを……」


 トーマが睨みつけるのも意に介さずペロリと平らげてしまい、さらに別の料理も取り出してくる。


「いつの間にってお前、あれだよ、結界が出来る寸前に引き込んどいたんだよ。声出したら息吸い込まないと苦しいだろ?ついでに腹ごしらえも……」


「……貴様は変わらんなぁ。だからこそ憎くてたまらん。だが、あの敗北があったからこそ、今こうして貴様に苦汁を舐めさせることもできるというわけだなぁ?ウククククク……」


「うむ、確かにこれは苦いな。」


 いつの間にかビールを飲みながら、またトーマを挑発するガルオム。


「貴様と居ると頭痛がする……。どうせ結界は抜けられんのだ。私は一旦休むとしよう……行くぞ!」


「……おい、お前実体無ぇな。他の奴らと並べばよく分るぜ。」


 背中に投げかけられた言葉にピクリと反応するトーマ。一瞬驚愕の表情を見せたように感じたが、ニヤニヤした笑いを顔に貼り付け振り返る。


「そうだとして、どうするつもりだぁ?ウクククク、本体の場所でも捜すか?出来んよなぁ?何せ貴様は結界から出られん。更には頼れる部下もここにはいない。せいぜい傀儡兵士ども相手に無益な会話でも繰り返すのだなぁ。ククク、ウクククククククク。」


 カルメア、ユリアル、そして少年を伴ってトーマは会場から出ていく。取り残されたガルオムはというと


「うむ、うまい!やっぱウチの料理人は天才だな!リリが選んだだけはあるぜ。」


 一通り料理を食べ終えて一息つくまでこの調子で料理と料理人を褒め称え続けた。そして、


「さてと、やっぱあの野郎詰めが甘いわ。」


 そう言いながら懐から紙とペンを取り出すと、何か指令のようなものを書き込んでいく。書き終えるとその文字がゆっくりと消えていく。


「転記、出来たみたいだな。」


 緊急用に持っていた伝令用の転送魔法が掛った紙の片割れ。これに書き込むことでもう片方の紙にその内容が複写されるのである。複写が成功すれば機密保持のために元の内容は消去される仕組みにもなっている。


「これを使う事態になんてなってほしくはなかったが、ま、なっちまったもんは仕方ない。すまんが頼むぞ、ワイズマン……。……おっ、まだこんなに残ってた。さて、そろそろ星が出始める時間だな。……久しぶりに天体観測でもしてみるかな……。」


 残っていたと言いながらも大量に残してあった料理とお酒を広げ、バルコニーの方を向いてどかっと座り直す。


「なに、隕石が来るわけでもない、ゆっくり待つさ。……リリ、ユウト、無事でいてくれよ……」


 暮れていく空を眺めながら祈るように呟いていた。


「まったく、どれだけくつろいでいるのよ貴方は……」


 ため息を吐きながら機械人形が姿を現す。


「おっ、帰って来たか。で、一人だけってことは説得には失敗か?」


「説得なんてしに行った覚えはないわ。遊んできただけよ……」


 そう言いながらも少し落ち込んだような表情で結界の近くに腰を下ろす。不思議なことに傀儡の兵士たちは一切の反応を示さない。


「右腕、ボロボロじゃないか。どんだけ激しい遊びだよ?しかもほぼ一日とか長すぎだろ。さっさと新しい体に……」


「ねえ、ガルオム。」


「……なんだよ?」


お互いに顔も見ずに星を眺める。


「貴方と初めて会った日、覚えているかしら?」


「……星啜りが落ちた日、守人と……ミューと初めて話した日だ、忘れるわけねぇよ……」


「生真面目な好青年がこんないい加減な王様になるなんて、今でも信じられないわ。」


「別に信じなくていいだろ?お互いこんだけ長く……長すぎるぐらい生きてしまってるんだからよ……」


「ふふっ、何よそれ?」


答えになっていない答えに二人して笑う。


「……俺はこの件が片付いたら隠居するよ。」


「あら、目立つのが嫌いになったのかしら……なんて茶化せるほど軽くはないみたいね。」


「ストリアが別人に、しかも仇敵にすり替わってたのになんとかなるだろうって放置してたくらいだったし、そろそろ潮時だろ?人としてさ……」


 珍しく感傷的にガルオムが語り始める。気付けば酒も食事も手を止めていた。


「そうね、ウルの仇だものね。でも、放置してたわけではないでしょう?」


「……確かに調査はしてた。でもな、遅すぎたんだよ。カルメア達も操られちまった。そして今、この様だ。リリのことだってココのことだって、何にもしてやれないダメ親父だよ!……ったく、何でこんな事になったんだか……」


「……私ももうこの身体が最後、だからしばらく動けないわ。貴方と同じね。」


「……もうしばらく愚痴るから、全部聞いてけよ……」


「ええ、その後は私の番、いいでしょう?」


「いいぜ、リリとユウトが帰って来るまでの暇つぶしだ。」


「それ、二人が聞いたら怒るわね。」


「無事帰って来るって信じてんだよ。きっと、すぐに……」


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