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第七章 霧中に活路を 2

【バーゼッタ城・庭園】



「まったく、どれだけ保険を掛けているのだよ……?」


 機械人形を屠りながらソリドがため息を吐く。


「さあ?時間は沢山あったもの。何が起きてもいいように備えを怠らないのは良い事だと思うのだけれど……。」


 新しい機械人形が姿を現す。あれから、彼女達は戦い続けていた。とはいっても傍目から見れば一方的にソリドが機械人形を破壊し続けているようにしか見えない。


 しかし、機械人形はその度に新しいボディに移り変わって現れる。おそらくデータを収集しているのだとソリドは思っているが、だとしてもストラーの臭いを他の者以上に感じる彼女を屠る手を止めるわけにはいかなかった。それが何故なのか彼女自身には理解できていなかったが、勇人から感じた懐かしさとは真逆の、抗い難い憎悪だけが溢れて来るのを抑えることなど出来るはずもなかった。


「ハーシュ、君はいったい何者なのだよ?ストラーの臭いが強すぎる。こんなにも憎くてたまらない……」


 蛇腹剣を鎌首のようにもたげて威嚇する。


「あら、反抗期かしら?それならその感情は本物のストラーに向けてもらいたいものね。」


「……どういう、意味なのだよ……?」


「それぐらいも思い出せないほどに壊れてしまったのかしら?」


 機械人形が一気に距離を詰める。油断していたソリドの懐まで潜り込んだが、ソリドも間一髪、蛇腹剣の片方を機械人形へと突っ込ませていた。


「反応、遅れたわね?」


 眼前に迫った刃を機械人形の右手が掴む。そして……


「コード・E。絶縁を固定。放出軌道を解放。閃光を遮断。アサルトボルト機構・起動!」


 凄まじい電流が蛇腹剣を伝ってソリドを襲う。この時ソリドは無意識に障壁を纏っていたのだが、水を使えることを思い出していたことが災いしたのか障壁は水のヴェールと言える状態となっており、電流はそれを伝ってソリドの身体を駆け抜けていった。


「……ぐっ、お……あぁ……」


「どうかしら?無駄に壊されていたわけじゃないのよ。もっとも、分かっていても止められなかったのでしょうけれど。」


 ダメージの大きさにうずくまるソリドを見下ろしながら話しかける機械人形の右手も電流に耐え切れず崩れてしまっていた。


「ど……うして、そんなになってまで……。」


「どうして私が憎いのか、教えてあげるわ。それは、私がストラーのクローンだから。だから貴女は私を許せない。そして、貴女もストラーによって作られた物だから。私を作った技術を応用して、殺した幼馴染の身体をベースにして作られた物だから……」


「……それが真実だとして……今すぐに、理解する気なんてないのだよ……。私にとって大事なことはストラーの臭いを断つこと、そこに私も含まれるなら……」


 自らの命も断つ。彼女はそう口にしようとしてふと、疑問に思った。何故私はこの子と戦っているのか……いや、それ自体はおかしい事ではない。彼女にとってストラーの臭いを断つことが最優先。ならばこの子と戦うのは必然である。しかし、この子はあの時こう言った。



「そう、それじゃあ遊びましょうか?」



 遊び。つまり、何かの息抜きということだろうか?本気で戦うつもりがない?だからこそたくさんの替えのボディを使い捨てている?戦うこと自体はそれほど重要ではない?一晩中戦ってそれでも?


「何故、今までその電撃を使わなかったのか……教えてもらいたいのだよ……。」


「解析に時間がかかったから……では納得してくれなさそうね。」


「あの時、君は私のことを知っていたのだよ。おそらく水を使えることも知っていた。それに、あの時私は水を使うところを見せているし、使えることを思い出したとも言っていたのだよ。だから、水の障壁が展開されていることも分かっていたはずなのだよ。」


「……それで、そうだとしたら、どうだというのかしら?」


「……遊びとは、一体どういうつもりなのだよ……?」


「あら、今更聞くのね。遊びは遊びよ、貴方の記憶を取り戻すための、再現ね。」


「再現…………それで、私が記憶を取り戻したらどうするつもりなんだい?」


「そこが重要なのよ。最後のあの時の記憶に従うのか、今のあなたの使命とやらに従うのか……私はそれが知りたいの。」


 ソリドがため息を吐く。


「なんだか、気持ち悪いのだよ……。」


「貴女が生きていること、最初は驚いたわ。あの時全部壊したと思っていたから。そして、勇人から聞いた貴方の話、今の貴女の行動理念、あの時とは正反対のもの……純粋に、それらが混ざり合うとどうなるか知りたくなったのよ。ふふ、ごめんなさいね。ストラーのことは好きにはなれないくせに、根本の知的好奇心だけは抑えられないのよ。だから……」


「それを知ったら、君はどうするのだよ?」


「それは貴女次第ね。おそらくストラーは貴女の製作に完璧に成功したと思っているわ。だからこそ同じような方法をとってくることも考えられる。でも、今の貴女は綻んでしまっている。そこからストラーへの対抗策が見つかればよし、そうでなくても……」


「……ああ、気持ち悪い、ストラーの臭いが強いのだよ。でも、君からじゃない。どこかで奴が見ているのだね。……君のことは嫌いになれそうもない。今は……行かせてほしいのだよ。また、会いに来るから……」


 機械人形の言葉を遮って、素早く蛇腹剣を彼女の体に巻き付けそのまま遠くへ投げ飛ばした。それと同時に踵を返し、城壁の方へ駆け出しそれを飛び越えて姿を消してしまった。


「……乱暴ね。でもいいわ、また会いましょう。どこへ行くのかは知らないけれど、答えが見つかるといいわね。」


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