第七章 霧中に活路を
第七章 霧中に活路を
「ゼオ!?」
無言で俯き合う俺達の耳に、森中を震わせるようなゼオの叫び声が響く。お互い顔を見合わせるとそれぞれ剣と本を取り臨戦態勢に入る。
「勇人、行きましょう!」
少し焦った表情を見せるリリィクに頷いて森中へ飛び込もうとして、ふと妙な感覚を覚えた。
「いや、待て!何か妙だ……」
「勇人?」
森に、動きが無い……。
「あれだけの叫び声に対して森の中が静かすぎる気がしないか?」
森に居る動物やモンスターが、叫び声に反応して動く気配がない。
「……確かに、あれだけの音でしたら何かしらの反応はするはずですね。」
どうするべきか、そう考える暇はないようだ。怪しげな霧が、まるで意思を持っているかのように森の中から滲み出してきている。
「ハッハァ!そりゃあな、あいつらは分かってんだよ。この俺様がいる以上、動いた方が危険だってなぁ!そう、大きな脅威には動かず騒がず、それが本能的に正解ってもんだ。けどお二人さんは逃げる方が正解かもなぁ?」
咄嗟にリリィクの手を引き霧が出ていない方へと走る。
「おっと、てめぇらも逃げる方向が不正解だな!」
突然目の前に手の形をした霧が噴き出し行く手を阻む。それは柔らかい壁のようにゆっくりと俺達を包み込んでいく。霧のはずだが、巨人の手に握られるとでも言えばいいのか、確実に掴まれている。
「さて、このまま二人とも握り潰してしまえばあっさり任務完了、報酬も貰えて正解なんだがな、それじゃあつまらんと思わないか、なぁ?ああ、どうすっかなぁ?」
「勇人、霧ならば吹き飛ばせば……!」
「……ッ!拒絶の風よ、うねり立ち昇る壁となり全てを散らせ!」
リリィクの言葉に何とか使える竜巻の魔法を思い描いて呪文の詠唱をする。しかし……
「おっ?なんだ、随分と優しい扇風機だな。優しすぎて手も緩むってもんだ、ハッハッハァ!」
焦っていたからだろう、うまく発動せずそよ風のような風のうねりしか作り出せなかった。だが、逃げ道は出来た。たとえ遊ばれているとしても逃げなければこのまま殺されるしかない。
わざと緩められたとしても今は……!
「さあ、逃げろ逃げろ!いい事思い付いたからよぉ、ハッハァ!俺様楽しんで正解一つ、任務も達成して正解二つ、報酬も貰えて三つ揃ったら大正解!いい!いいぞ!ようやく太陽の下で大っぴらに動けるんだからな、溜まった鬱憤は晴らさせてもらわねぇとなぁ!」
霧から聞こえる声を背に森に飛びこむ。どこに向かっているのか分からないが、リリィクの姿は見失わないように走っていた。
「なんとか……なんとかしないと……」
「よぉし、左から行くぞぉ!」
「くっ、炎壁の加護を此処に!」
声の宣言通りに迫りくる霧をリリィクが炎の障壁で防ぐ。
「熱ぃな、おい!ハッハァ!ま、残念ながら不正解だ。ダメージはないぜ!……そら、上だ!」
まったく効果がないのか怯む気配すらない。上から、避ければまた別の方からと絶え間なく霧が迫ってくる。なんとかこの状況を脱しようと考えを巡らせようとするが、わざわざ来る方向を宣言してくれるおかげでそちらに気を取られてしまう。
「こりゃあいい。じっくり楽しませてもらうぜぇ?ま、夜になるまで楽しませてもらえりゃ満足できるかもな、ヒィハッハァ!」
夜になるまで?夜に何かあるのか?
「勇人、忘れたのですか?今晩はティアドロップの夜です!」
リリィクが焦っているのが分かる。理由は分からないが彼女はティアドロップの夜をとても嫌っている。今の状況じゃ賢者様から照射地点の情報が来ても確認するのが困難だ。なんとかして夜までにこの状況をを覆さなければ……!
「お月様は容赦ないからなぁ。あの光を浴びるなんて冗談じゃない。なぁ、姫さんよぉ?ククッ、ハッハァ!ギリギリまで遊んでやるのが正解ってなぁ!そら、逃げろ逃げろぉっ!」
逃げながら考えるしかない。出来なければ間違いなく……