エイシア何でも相談事務所 1巻 -人形使い(ドール・マスター)との過激な一夜-
プロローグ
もう昼前になるのだろうか。ずっと書類との睨めっこを続けているレイスにとって最早時間の概念なんかは無きに等しかった。何故なら時間を気にする事ほど自分の集中力を切らす事は無かったからだ。朝からずっと最近出来ていなかった書類の整理をしているのだが、もう少しでようやく一段落着くというところまで来ていたのだった。
しかし、こんな作業をして数ヶ月になるが未だに慣れたものではなかった。
元々レイスはこういう事務作業よりも戦場の前線などで活躍する所謂戦士だから、戦ったり防衛したり警護してる方が向いてるのだ。元よりレイスはこの町を治める城の騎士団に使えていた身だというのに、何の因果か、はたまた厄介払い的なものなのか、こんな街中の少し寂れた事務室で何十何百とある紙達の相手をしているのだ。これだったら魔物相手にしている方が何倍も充実感があるぞと愚痴りながらも書類整理に勤しむのだった。
そしてレイスにはもう一つ自分を苛立たせる大きな理由があった。
「……ああ、くそ! やってられるか! 大体いつまで寝てやがるんだ! あいつはっ!」
レイスはついに怒り爆発し、机の上の書類達を一斉に床にぶちまけた。時計を見やると案の定正午だった。軽く腹の虫がなったのを感じて改めて時間を認識するのだった。
「……あ・い・つ・はぁぁぁ……今日という今日こそ絶対に許さんからな……」
レイスがゆらりと席を立つ。その後姿は鬼気迫るものがあった。
その時だった。事務室の壁一枚隔てた向こう側で大きな音がしたのだ。それはあたかも何かが床に落ちるような――レイスには少なくともそう聞き取れた。もっと聴いてみると呻き声みたいなのも微かに聞こえる。
「……そうかそうか……本当に今の今まで寝てたって言うのか……」
そう一言口にすると、レイスは改めて扉へと歩を進めるのだった。
「てめぇッ! 今何時だと思ってやがんだ!」
入って一声、怒鳴り声と共に部屋の主を睨み付けた。主は入った瞬間すぐに認識できたのだ。何故ならベットから落ちて白色のシーツと共に床の上で転げていたからだった。シーツで全身こそ確認出来ないものの、異様なまでの肌の露出が前日からあられもない姿でベットに入り爆睡している姿が容易に想像できた。
「あ、あー……うー……あー……」
「人間の言葉を喋れ。バカ野郎」
寝ぼけ眼で虚ろな相手にレイスが冷たく罵った。
「んなっ……馬鹿とは何よ! それじゃあまるでアタシが馬鹿みたいじゃない!?」
馬鹿の言葉に意識を覚醒させた相手――彼女は興奮しつつ抗議した。が
「……どうでもいいから……あー……その、何だ。つまりだ……服。服着ろ。まともに見ながら喋れん」
レイスは赤面しつつ言い放つ。が――
「あらあら~……相変わらずこっち系には弱いのね~? なんならこれを機会に……」
「つ、つまんねー事言ってねぇでさっさと服着ろバカ!」
最終的にはレイス自らが退く形での終局になった。
「……相も変わらず弱いことで……てね」
そう言うとすっと立ち上がり、そそくさと身支度を整えるのだった。
それから女――エイシアがレイスのいる事務室に戻ったのはあれから十分後だった。眠気を取り除きつついつもの仕事スタイルに着替えて事務室に行くのにエイシアにとっては充分な時間だった。一般の女性よりも明らかに支度時間の短いエイシアだが、本人にとっては充分すぎる時間だった。言うなればアバウト、いい加減。エイシアという人間像を表すのにこれ以上適当な言葉は無かった。夜は遅くまで起きて酒や遊びに興じ、寝てからは基本昼までは起きてこない。恥じらいや気品といった言葉にも縁遠く、先ほどの一件でも分かるように、基本男性が同じ屋根の下にいようが自分の生活スタイルというのが変わらない。昨晩酒を飲んでいたら体が火照ってきたので服を脱いでそのままベッドに入ったのだとエイシアはレイスに説明していたがそんな理由がレイスに通るはずもなかった。
逆にレイスは基本真面目というか固いと言おうか。そして男特有の若さゆえの感情の起伏もあったりする。熱い所もあるが妙な所で冷めた部分も持っている。また、女性経験に疎い部分もあり、女体の事を考えたことなぞ一回も無いというのは本人曰く。冒頭にもあったよう本人は元々騎士団の団員だったのだが、何の因果か行き成り勤務地の移転。早い話が左遷のような内容だった。そもそも細かい作業が苦手なレイスなのだが、本人的には戦前で剣を掲げこの街の住民を守ることを生きがいにしまた誇りにも思っていたのだが、何故か事務作業でしかも城から離れ町外れにある古ぼけた建物のカビ臭い事務室(これは入った当初エイシアが殆ど掃除をしていなかったためで今は普通の内装になっている)で書類とにらめっこ。挙句の果てに事務室の長であるこの女エイシアは基本この事務室にいることも少ないので実質ここでの仕事の大半はレイスがやっているというのが現状だった。
とにかくレイスが最初ここに来た時が大変だったとエイシアは言う。愚痴に愚痴が重なって更なる愚痴を呼び寄せるかの如く凄い愚痴を延々と言っていたとエイシアは語るがレイスは割と否定気味。レイスが入所した当初は剣を握る機会すらなくひたすら書類に目を通す作業に、時に家出、時に逃亡ととにかく大変だったのだ。これが現実、諦めろと諭したつもりのエイシアの発言が結果として火に油となって逃走劇のきっかけとなったのはエイシア的にはいい思い出だったりもするが、ここではそのエピソードは割愛する。それから数ヶ月経ちレイスもようやくそんな日常に慣れ、今に至るのだった。レイスにとって最大の難関はいかにエイシアの発言や横行に自我を失うことなく立ち振るまえれるかという事だったと言うがそれに関する話もここではしっかり割愛させていただく。敢えて少し触れるのならば、その量たるや演説会が二時間丸々開けるほどだと言う。このエイシア率いる事務所はそんな二人だけで構成される小さな小さな事務所だった。
さて、この事務所そもそもは基本何でも屋というものだった。内容はいたって単純。人様が持ってる悩みに対し成功報酬つきで相談にのる、行動すると言うものだった。小さな規模から大きなものまで何でもうけるのが信条のこの事務所だが、できてまだ間もないというのもあるがまだ相談した件数が四件しかないという悲しいところもあった。エイシア曰く立地条件が悪すぎるんだと言うが、レイスに言わせれば大よそ中央の大通りのど真ん中にたったところで殆どかわらんだろうとの事だった。因みにレイスが目を通す書類の殆どは過去の解決済みの件の書類や宣伝広告用のビラ依頼の業者の広告など、最早雑用に近い内容だった。
そんな事務所――『エイシア何でも相談事務所』であるが(名前はエイシア命名)、この事務所には今とある現実問題に直面していた。事務室の椅子に座るや机につっぷしそのまま昼寝に興じようとするエイシアに向かいレイスがずっと怒鳴りかけていた話がそれだった。
「いいからとにかく話聞けっての!」
「あーもー……うっさい。頭痛いんだから、もうちょっと声のトーン落とせないの?」
「酔っ払いの言い分なんざ聞く耳もつかぁ!」
「ばっかねー……もう酔いなんか覚めてるんだから酔っ払いなワケないでしょうが」
「だぁぁぁ! そんな掛け合いやってる場合じゃねえんだ! いいから聞け! このままじゃ数日後に金欠になるんだよ! 分かるか!? 金がなくなるんだよ! 文無し! 次の日から食うモノにすら困る生活になっちまうんだよ!」
レイスが毎日こつこつとつけてる帳簿に指差し訴えかけた。
「…………………………は?」
エイシアの思考がしばし停止する。
「ぇ……えええええええええええ!?」
それまで突っ伏していたエイシアの顔が急に起き上がった。その眼はまさに真剣そのものだった。
「さっきから何度も言ってるだろ! このままじゃ本当に金が底を尽きるんだ!」
「なっ……なんでよ!? あんだけあった金がそう簡単に無くなる分けないじゃない!? 今月の初めには確かに金庫に大量の金があったわよ!?」
「……そうかそうか……所長相手だからこれだけは言うまいと思っていたが……今回こそは加減なく言ってやった方がいいみてぇだなぁ……?」
「な、なによその言い方……まるであたしに原因があるみたいじゃない……?」
「大アリだバカ野郎! いいか!? まず酒代! これがはっきり言って酷過ぎる! それに加えて最近はまったギャンブルでの負け分! 挙句に酒のつまみに衣装代! はっきり言って私利私欲に金を使いすぎなんだてめぇは! このまま仕事がなけりゃはっきり言って破産! この稼業も終いだって話なんだッ!」
レイスが血相変えて捲くし立てる。
「……ということはまずいじゃない……」
ここに来てエイシアはようやく冷静な表情に戻る。
「わ、分かってくれたかようやく……」
理解を得れた安心からか、レイスが少し冷静になる。が――
「早く仕事見つけなきゃ私の生活ピンチって事じゃない!」
「そういう事じゃねぇぇぇぇぇぇぇえええ!」
声を荒げ手に持っていた帳簿をぶん投げたが、エイシアにひらりとかわされた。
「一体どこの脳の部分がそんな事抜かしやがる……白状し・や・が・れぇぇ……」
すらりと抜いた剣をエイシアに向ける。きらりと光った眼がエイシアにはマジに映ったという。
「じ、冗談よ、やぁねぇ……この事務所存続のピンチだもんね、さすがにおふざけは無し。早急に仕事を見つけるか節約しろって話ね? てか怖すぎだからその剣をしまいなさい」
レイスは息を荒げつつ、ゆっくりを剣を鞘にしまった。
「とにかく! 宣伝活動するなり何なりで仕事を見つけにゃ話にならん! 基本的には相談事務所だから人が来ないと話にならんのだからまずは広報活動だ!」
「あのー……」
「とりあえず明日からにするって事で、とりあえずもっかい寝ていい?」
「何寝言言ってやがる! とにかく今すぐだ! ここに広報活動の支援となりそうな所ピックアップしたのがあるから、それを頼りにだな……!」
「すいませ~ん……」
「まぁまぁ~。とりあえずメシにしようよ~。腹が減っては戦は出来ないっていうでしょ~?」
「あのなぁ……今はその昼飯すら食えるかどうかって状況って時に良くそんな温い発言なんざ出来るな……!」
「す・み・ま・せーん!!」
二人ははっと玄関を見やる。いつの間にか立っていた男性が息を荒げていた。
男性は郵便局員で、エイシア宛の手紙を持って来ていた。渡した後そそくさと出て行くのを見送りエイシアはさっと封を開け中身を読んだ。
「中身なんだったんだ?」
「ちょっとね……いつもの所からよ。悪いけど行って来るから後宜しくね」
「ああ……成る程な。わかった。」
レイスは淡々と頷いた。
「あー、もぅ……こんな一大事って時にどんな仕事押し付けられるのかねー……」
少しボサついた髪を手櫛で整えつつため息を一つ突いた。
エイシアの持つ手紙の便箋にはこの地域を治める王宮の名が記されていた。
第1章
エイシアはあの後王宮へ行く時用の服に着替えて即行で城へと向かった。手紙の内容はいたってシンプル。言ってしまえば『エイシアさん、用があるからとっとと来てね☆』という何とも乱暴な内容でかかれた所謂呼び出し状というものだった。実際はそんな書き方はされていないものの、城の雰囲気が苦手なエイシアにとってはまさに悪魔か地獄からの手紙に感じたと言う。
レイスもそうだったように、エイシアもこの城から事務所へと左遷された人間だった。実際はエイシアにとっては栄転に等しいような勧告だったのだが。エイシアにとってこの城の雰囲気と言うのはどうも苦手で、マイペースを保ちたいのに回りの重苦しい雰囲気とか静かな環境がどうにも居辛かった。はがゆいというかむず痒いというのか。エイシアがいた管轄は治安管理部。ただエイシアは何の因果か事務の、しかも研究科の方に最初は属しており(主に治安向上のための案とか安全に暮らせるための発案などをする部署)、そうとう暇で気だるい思いをした事もあった。因みに何故エイシアが研究科だったかに関しては、直接治安に関わらすとろくでもない行動を起こすからとか、本人が身体を動かすのがめんどくさいからとかいう憶測があちこちで飛び回ったとかいないとか。その辺りに関してはエイシアは関与しない部分なのでここでは割愛。そんなエイシアも事務所への左遷――もとい、栄転が決まった時は本人含め治安管理部総出で喜んだと言う(本人はあくまで栄転と思っているので純粋に門出を祝って貰ったのだと思っている)。管理部曰く、決してめんどくさい女がここからいなくなるのを喜んだのではないとの事。
ここまで話して分かる方には分かると思うが、実はあの事務所は城の管理下にある。あの事務所は表向きは人々の悩みを市民視点で相談を受け持ち、より一層の治安維持へと役立てようと言うものだが、この事務所には裏の顔も併せ持つ。
即ち裏の仕事――国が表立って行動できない(しにくいとも言う)、もしくは少数精鋭のほうが向いてるなどと言った少し普通の事件より危険性が高く、国レベルでは動きにくい事件なんかはこっちに回ってくる。これに関しては国家機密であり、一般市民で知る者は誰一人としていなく、王宮内においてもその事実を知っているものは事務所の人間含めても数えるほどだとか。とは言っても実際はそんな事件なんてのは過去にも数件しかなく、この事務所が裏の面で仕事をすることなんか滅多になかった。エイシアにとってはまさに一日飯を貪り遊んで寝る生活が出来る夢のような環境だった(レイスにとっては体が鈍って地獄のような環境であったが)。
さて、エイシアが今回呼ばれたのは月一の決算報告兼、とある『通知』だった。決算報告の内容かえら言えば、レイスがちょこちょこつけた帳簿片手に城の治安部に持っていき、経理部で今月使った経費を報告し、来週末に届けられる資金への予算を計算するのだ。当然ながら帳簿には自分が遊んだり酒のために使った資金なんぞは書いていないのだが。実際は当然のごとくウソもあっさり見抜かれ少しずつ予算が削られるという目にあっていたりするのだが、その際の経理部とエイシアでの二時間にも及ぶ激しい論争もあったのだがしっかりと割愛させて頂く事にする。
そんなエイシアは今、いつも通りの経理部との口論がしっかりと行われている真っ只中であった。
「何でよ! 疲れた身体へのリフレッシュ☆ドリンクがどうして経費で賄われないのか全然納得いかないんだけど!?」
エイシアは両手を激しく机に叩きつけた。
「あのねぇ……そういう発言は一件でも仕事らしい仕事をこなしてから言いなさい」
「言ったわね!? 私だって仕事ぐらいしてるんだから!」
「それではその仕事内容言って御覧なさい?」
「この間はギックリ腰に見舞われた老夫婦に代わって庭の草むしりをしたわよ!? その時報酬で貰った庭で取れた果物の味が未だに忘れられないわ!! その前は迷子になった子供の捜索! 見つけたときのあの子供の安堵感と言ったら無かったわね! その前は干してて屋根に引っかかっちゃった洗濯物の救出! これは一時間にも及ぶ大スペクタクルな内容だったわね! その更に数日前には……」
「だーっ!! うるさいうるさい! どれもこれも子供レベルの話じゃない! しかもどうせどれもレイス君にやらせて肝心のあなたは何もしてないんでしょう!?」
経理部の人間もエイシアの勢いに釣られる形で激情する。
「馬鹿言わないでよ! しっかり応援してたわよ!? あの後ノドがカラッカラで大変だったんだから!」
「知・る・かぁぁぁぁぁ!」
経理部の怒号が部屋から外の廊下一杯へと轟いた。その騒ぎに外の者が部屋の中を覗き込むが、エイシアの顔を見るや否や、安心したかのような表情をしつつまた作業に戻るのだった。こんなやり取りも周りの人間からすれば月一のイベントと化していた。
「とにかく! そんな理由では来月分の予算を今月分と一緒にするわけにはいきません! 私達だって本来あなた方のやっている活動自体は認めているんです! だからといって現実として国自体の予算だってキツくて色々な部分で切り詰めていくより他無いと言うのが現状なんです! あなただって国単位で苦しんでいる中で国民の血税をそんな飲み食いだけで過ごすのは心が痛むでしょう!? 良心が!」
「馬鹿ね!それだけじゃなくて遊んでもいるわよ!!」
「尚悪いわよ! とにかくこの王宮の機関の中でのキングオブ無駄遣いである貴方への機関、即ち相談事務所への予算は先月に引き続きカットさせていただきますからね! これ以上抗議が無いようであれば今回の予算報告会は終了とします!」
「どーでもいいけどそんなに血管浮かせたらせっかくの顔が台無しよ?」
「それではこれにて終了! い・た・し・ま・すッ!!!」
言い終えるが早く、経理部の女はすぐさま立ち上がりその場を去って行った。凄まじい音でドアを閉めながら。
「もー……あの女ももうちょっと気品って言葉があったらねぇ……」
「ハッハッハ。それはあんたに言われたくないだろうねぇ」
その言葉と共に代わりに来たのは全身を研究用の白衣で包んだ大人びた女性だった。口に咥えタバコをしている辺りエイシアの同類かと思わせるが、アバウトな雰囲気の中に漂う威圧感と言うか、漂う知的な空間と言うのか、間違いなくエイシアとは相容れないタイプの人間であることを示していた。言うなれば御姉様、姉御肌タイプの人間だった。エイシアも密かに自分のスタイルには自信があったがこの人には敵わないなと思っていたのだった(特に胸とすらっと伸びた脚に)。その人物はエイシアも良く知る人物だった。
「どうしたんですか? 先輩。こんな所に」
エイシアが先輩と称する人物、コリンズは何やら書類を脇に抱えているようだった。
「どうしたんですかなんて冷たい挨拶だねー。昔は夜遅くまで一緒に研究しあった仲じゃないのさ」
そう言ってコリンズは気さくにエイシアの頭に手を置いた。このフレンドリーな上に頼れる感じの空気がコリンズという人間の出来のよさなんだとか。エイシアがまだ研究科にいた頃はそんな噂だった気がする。今の所どうなのかは知る由も無いが。
「聞いてくださいよ~……来月からの経費がまた減るって言うんですよぉー……このままだと来月からの週一回の目玉イベントだった『壮絶☆街の美味しいお酒探索つあー♪』が隔週になっちゃいますよ……。これじゃあ一体何のために生きてるのかわかんないってもんですよぅ……」
「なんか落ち込んでるのは分かるけど言ってる内容が物凄く間違ってる気がするのは私だけか?」
「酷い! 先輩もそんな事言うんですね!?」
「いや、多分酷くない。てかお前の日頃の生活内容が逆に気になるゎ」
「まさか先輩まで経理部の肩を持つって言うんですか!? 先輩に見捨てられたら私一体、誰を頼りに生きたらいいのか……よよよ……」
「とりあえずその変な小芝居と常識を覆す発言を止めるなら考えようかねぇ」
「むー。先輩の意地悪ー」
エイシアはむくれた顔を浮かべたが、コリンズは一瞥もせず抱えていた書類をエイシアの眼前に突きつけた。
「……なんですか? ……はっ! これ……まさか……私クビですか!?」
「自分の仕事態度に自覚あるならちったぁ真面目になさいな。そうじゃなくて、上からあんたに送るよう言われてた書類なんよ。確か今日辺り決算報告だった気がしたからここまで足を運んできてみたら……まさにビンゴ。あんたがいたってワケよ」
「先輩……上からの指令って事は……その書類が今回の……?」
「そ。ちょっと危ない橋かもね。まぁ、報酬はそこそこ出るみたいだし、あんたにとっていい話なんじゃない?」
ここでエイシアは眼の前の書類を始めて手に取ったのだった。
要はさっきの話しで言う所の裏の仕事に当る部分。『国が表立って行動しにくい事件、相談事が起っているのでどうにかしてください☆』という感じの内容だった。エイシアはこれが国家機密レベルの書類であることも忘れ、岐路の途中の喫茶店で悠然と広げて目を通していたのだった。
「……街外れにある洋館で最近夜な夜な騒音が繰り広げられているので調査するように……か……。報酬は50000R。んで詳細は、治安管理部によれば実際に夜にその洋館の近くまで行ってみたがどうも強大な魔力が蠢いているとの事。場合によっては危険能力の可能性アリ。直ちに調査を要求します……ねぇ。」
話を要約するとこうだ。
街外れにある洋館内で最近よく騒音が聞こえるとの住民からの苦情があった。それを調査に向かったが騒音と一緒に何やら強い魔力を感じた。これは治安管理部の手には負えません。そこで国が打ち出したのは、便利屋であるエイシアとレイスにこの件を押し付けてしまおう、と言うわけだ……と言っても後半はエイシアの勝手な解釈で、エイシアの事務所自体元々こういう危険能力を持った人物や物が発見された時に迅速に行動して、静かに騒動を終わらせられる期間として設けられた機関である。まさに今回のような事件の際にはうってつけの機関だった。エイシアにとってはただの厄介払いのようにしか感じていないのだが。
「んー……これだけじゃあ中で何が起ってるのかてんで想像がつかないわねぇー……」
実際治安管理部も外から窺った時点ですでに強大な魔力を観測したため、危険な目にあわないうちに速やかに撤退したのだと書いてある。根性無しめと毒づくが、治安管理部的には正しい選択らしい。
「さって……鬼が出るか蛇が出るかってトコね……っと」
瞬時に読み散らしていた書類を纏め上げ、席を立った。
「ごちそうさま、いくら?」
「コーヒー1杯なので200Rになります♪」
女性店員が満面の笑みでこちらを窺う。これが俗に言う所の天使の笑顔と言う奴なのだろうか(実際は子供に使う表現であるのだが)。そんな事を考えつつエイシアはポケットから財布を取り出した。
「………………」
財布を覗きこんだまま表情が固まる。
「……お客様?」
店員が笑顔のままエイシアの顔色を見やる。
「……今日ってレディースデーとかじゃない……わよね?」
「……お客様……?」
その声には僅かながら怒気が混じっていたと後のエイシアは語った。
結局その後偶然通りかかったレイスに金を立て替えて貰いその場をやり過ごした。レイスはエイシアの帰りが少しばかり遅いので寄り道してるのではと城までの道を捜し歩いていた所だったのだとか。エイシアと言えばタイミング的にもう少し遅ければ良くて皿洗い、悪ければ無銭飲食で逮捕だったと笑いながら自分の運の良さを自信満々に語っていた。エイシアは今日みたいな日は絶対大勝出来るからカジノに行かせて、とレイスにせがむがこちらは逆に、金が無い時点で運が無いのに勝てるわけあるかバカ野郎。と逆に罵り返すのだった。スロットを1000Rだけとエイシアがせがむ辺りでレイスがとうとう無視を決めたので、エイシアは渋々今回の城での一件を簡潔に話した。
「とうとう来たかー……でもまぁ、報酬が報酬だし、そもそも国の命令だし、やるっきゃねーよなぁ」
「そんな事言って、レイス本当は楽しみなんじゃないの?」
「まーなぁ。今までどっかの誰かさんが散々俺のことをこき使ってくれてたからなぁ。久々に鈍った身体を動かせるかと思うと楽しみなんだよ」
そう言いつつレイスは手を組んで腕を前に伸ばした。
「と言ってもさっきも言った通り、今回は魔力絡みの事件だし、いざとなったらあんたには前衛じゃなくて壁としての役割をしてもらわないといけないんだからね……そこだけは分かってなさいよ?」
「わーってるよ。その辺はそれこそ実際に行かなきゃわかんねー事だしなぁ……要は出たとこ勝負ってワケだな。そん時はリーダーであるおめぇが頼りなんだかんな。しっかり頼むぜ?」
「あたしを誰だと思ってんの?こんな話、ちゃちゃっと解決したげるから」
「誰だと思ってんの……って、唯の酒呑みじゃねーか」
「唯のとは失礼ね!? て言うか、酒呑みもひどいから!!」
そこまで言い切ってから立ち止まり――
「可憐! そして優雅という言葉がぴったりそのままな私を指して、酒呑みとは本当有り得ない言葉ね! もっとこうさ……あるじゃない? 私と言う人間を表すのに相応しい言葉……レイスなりの言葉でいいの……あなたの心の奥底から自然と湧き出すその言葉を……私に伝えて御覧なさい……?」
ここまでどこか諭すかのような雰囲気で語りだすエイシア。そんな言葉にレイスが返した言葉は――
「…………堕落と無能とあるんだがどっちがいい?」
「……」
我に返ったと時にはもう事務所は目前だった。
活動開始は談合というなの一方的な話し合い(勿論エイシアが終始主導権を握っての)の結果、夜となった。理由は簡潔に二つ。一つは万が一家主との戦闘になった時、昼よりも夜のほうがまだ一般人に及ぶ被害が少なくすむと考えた事。そしてももう一つは単にエイシアが昼近くまで起きてたからまだ眠くない、というモノだった。当然反対に朝から仕事漬けだったレイスは反対したがそんな話が傲慢所長に通るはずも無かった。
この手の話に基本作戦だとか策略なんてのはあってないようなものだ。今回の場合相手は現在の所唯の一般人なので、基本的にはここに武力等の介入は入れない方針になる。勿論最悪の展開を想定しての最低限の武器は所持しているが。
因みにレイスは、一日置いてその間に周辺に聞き込み調査でもしてその家の事を周りから調査したらどうかと提案したのだが、一日でも早く報酬を貰って豪遊したいと言うエイシアにその案を軽く一蹴された。エイシアに国直々の所長権限が無ければとレイスが悩んだ回数は一回や二回では収まらないと言う。
そんな口論も終えた二人は今、自分の装備のチェックをしていた。先程触れたように、万が一にも戦わなければならない状況となったとき、自分の武器や防具が不備で使えませんでしたでは話にならない。最悪の場合死に至る可能性も充分にある。
レイスが手にしていたのは剣だった。レイスの方は準備を終え、室内で軽く構えや型、素振りといった復習をしていた。久しぶりの出番なせいか、顔が少し嬉しそうだったと言うのはエイシア談。
一方エイシアが手にしていたのが銃だった。造りは至ってシンプルなリボルバー式の拳銃の様だった。弾倉に弾をこめて発射するアレなのだが、実はエイシアが手にしているものは一般の元と使用が違っていた。エイシアの持つ銃は薬莢に魔力を込めて発射するという魔銃と言われるもので、これを使用するものは総じて『魔銃使い(マジック・ガンナー)』と呼ばれる。薬莢も込められた魔力によって色々発動するものがある。例えば火の薬莢なら魔力を込めて撃つと着弾点から発火が起る。この発火具合は注入された魔力によって決まる。もしこれば雷なら着弾点に電気が帯びる。その他にも殺傷能力がない物(例として、着弾すると同時に魔力質の糸が飛び出て捕獲する弾とかもある。これは主に国の警備が使用)等もあり、色々応用が利く使い勝手に優れた武器だった。
問題点はこれの加減。つまり注入する魔力の量だ。例えば注入する量が少ないと効果が現れなかったり効果が低すぎたり。逆に多かったりするとそもそも薬莢がその魔力に耐え切れず弾倉内で暴発。最悪は銃そのものをも破壊する。この加減が物凄くシビアで、実はこの使い勝手のよさそうな武器も、その理由からこの大陸で使用している人間は本当に数えるほどなのだと言う。因みにこの魔銃は使用するのに免許がいる。免許を取るのに色々な試験もパスしないといけない。その理由ででも使用を敬遠するものも多かったという。(実際は無免許で使用した挙句勝手に暴発するという人間もいたりする)
ところがそんなデリケートな武器をエイシアはいとも簡単に使用できたのだ。試験もほぼ満点通過。唯一苦戦したのが筆記試験だけだったという。こちらは滑り込み。元より魔力を持っていたエイシアだったが魔法理論の類の勉強が苦手な彼女は子供の頃からこちらの成績が酷く悪く、また理論を必要とする魔法の仕様も出来なかった。周囲曰く『こんだけの魔力を持っているのに勿体無さ過ぎる。せめてちょっとでいいから自分に分けろ』との事らしい。そんなエイシアにとって魔力を注入するだけで多様な武器へと化すこの魔銃はまさに最適なのだった。
因みにこの銃自体は希少品だったりする。決してどこでも売ってる物と言う訳でもなく、職人が丹精込めて作り上げ、それに魔法関係の学者が魔力を注ぎ、これまた職人の作る特殊な金属による薬莢があって始めて成り立つものなのだ。
それ以外にもこの世界では職人による物、遥昔に作られたとされ、今尚その形を保ち続け動く物等、魔法具と呼ばれる物が数多く存在する。中には特別な人にしか使えなかったりするものもあり、未だにこの大陸で全ての魔法具は確認されていない。
こう言った希少品や魔法具といった物は基本国での管理下にあるとされている。何故ならそれらの道具の大半は危険性を持つものが多く、一般で使用されると大事になる可能性が極めて高いとされているからだ。実はこの事務所はそういったモノたちの回収作業も仕事のうちだったりする。
レイスも魔法具を持っている。それは靴。自分の見える範囲であればその場所に瞬時で移動できるブーツ型のものだ(但し自分と目的地の間に障害物があればその速度でぶつかる為きわめて危険な靴ではある)。これも使用できる人間は少なく、魔力を持たないレイスではあるが、その戦闘センスでいとも簡単に使いこなしてしまったという。
数分後にようやくエイシアは銃の手入れを終え、一つ伸びをするのだった。
「あー、久しぶりにやると疲れるわねぇー」
「常日頃からしっかり備えておかないからだ、バカ」
「何よー。あんたの頭の中じゃいっつも戦争なワケ? もっと平和的に行こうよー?」
「俺は有事に備えるぐらいはしとけと言っとるんだ」
「大体レイスこそ、そんなに剣の出番があるかもしれないのが楽しみなわけ? 見たらなんか嬉しそうに素振りしてたけどさぁ……こういうのって普通出番無いほうが良くない?」
「俺はここに来たことを不満に思ってるからな。正直言えば戦前で剣を出していた方がずっと俺らしいと思ってる。……それを何の勘違いか王並びに機関は俺をこんなしょぼくれた事務所で、しかもこんな人生底辺女と一緒と来たもんだ……ここで絶望しなくてどこでするってんだよ……」
いつしか小芝居がかったレイスにエイシアが唐突に反論する。
「ちょっ、誰が人類史上底辺女よ!」
「自覚あんじゃねーか、つかちゃんと人の話を聞け」
「一体私の何がそんなに気に入らないって言うのよ……」
「全部といってやりたい所だが、一応戦闘の腕だけは認めてるから全部は無しにしよう。戦闘以外」
「あたしゃ唯の体育会系か!?」
「体育会系の方たちに失礼だ。謝れ」
「大体あんただってもっと家事とか上手く出来ないの!? 人には散々言ういくせに作る料理はシンプルなものなっかりだし……」
「そもそも作れないお前が言うセリフじゃねえだろう!? つか日々研究してやっとこの腕を手にした俺に言う言葉か!?」
「あんた……日々そんな努力をしてたのね……そっか……あんたってば実は水面下で足を必死に動かしてる鳥のような男だったのね……」
「そ、そんな哀れむような目で見るな! つうかそうじゃねぇ! 話をずらすな! 俺が言いたいのはお前も働け! 努力しろ! めんどくさい発言を撤廃しやがれ!」
「えー、めんどくさい」
「お・ま・え・はぁぁぁぁぁぁ!! 何故にそこまで人の火に油を注ぐのが好きなんだ!」
「いやー、私としては自分がしたい様に意見を述べさせて貰ってるだけなんだけどねー
「それが上手い事俺の逆鱗に触れてるということか……成る程成る程……」
「いやぁ、理解して貰えたみたいね、良かった良かった」
「俺もようやく理解できて嬉しいぜ、はっはっはー」
その後出発時間まで小規模の戦争が起ったのは想像にたやすい所だった。
活気だっていた城下町にもいつしか闇が覆う時間へと変わっていた。夕暮れ時から夜へと移り、街路を歩く住民も層を変えつつあった。
エイシアとレイスは報告のあった家へと辿り着いていた。話し合いと言う名の所長権限の元決まった夜になり、万一の事態に備え最終確認を済まし終えた所だった。
その家は見るからに金持ちが住むかのような豪邸だった。そうでなければ名を持った者の家か或いはといったところだ。門から玄関まで十数メートルに及ぶ庭。優雅な事に噴水まである。幸い警備の類は見当たらない。しかし中から出てくるのが何者なのか分からないため、エイシア達にとっては全く油断ならない状況には違いなかった。
「……準備はいいわね?」
レイスはエイシアの言葉に目配せ一つで返す。エイシアもそれに頷き返した。
意を決して扉を開く。鈍い金属音とともに開く。
「……やけに簡単に開くのね……警戒とかしてないのかしら……?」
もし毎晩起きてる騒音がよからぬ事を起こしてるが故の音であれば、進入等の警戒があって当然なのだが、その扉はその思惑とは反対にあっさりと開いてしまった。
「これじゃあまるで、普通の成金の家と大してかわんねーなぁ」
「油断は駄目よ。どこから迎撃が来るかわかんないから……」
レイスだって拍子抜けはしたものの事態は知っている。勿論油断はしていない。
「……辿り着いたわね……」
二人が玄関の扉まで辿り着く。脇には訪問を告げる鐘が備え付けられていた。
「んじゃ、いくわね」
二人が一斉に頷く。エイシアが鐘の紐を手に取り鳴らす。少し錆付いた鐘の音が周辺に鳴り響いた。待つ事数秒、扉の向こうから男性の声が聞こえた。
「……どちら様でしょうか……?」
向こうから聞こえる声は大人の男性の声。声質から感じ取った所は中年の男性だろう。「夜分遅く申し訳ありません、治安管理部の者です。最近この家から毎晩騒音がするという住民からの苦情を受けやってまいりました。その事について少しお話をお伺いしたいので扉を開けていただけませんでしょうか?ご心配は要りません。話を聞きに来ただけですので……」
エイシアが事務的な挨拶を述べてる横で、レイスが含み笑いを浮かべる。エイシアが一通り言い終えたあと『どうせ締まらないわよこのバカ!』と小声で放ちつつ脛に蹴りを叩きこむという動作があったが、扉の向こうの男性には気づく由もなかった。
やがて少し間を空けた挙句――扉がゆっくりと開かれた。
「……どうぞ。お入りください……」
中から現れたのはやはり中年の男性。しかし見かけは少し疲れた様にも思えた。一応名のある血筋なのか、はたまた金持ちなのか、自分とは縁遠い高級な服装に身を包んではいるが、そのやつれた顔が気品を台無しにしているというのがエイシアの印象だった。
エイシアに続いてレイスも中に入る。二人はそのまま客間へと通された。
「すいません、すぐに妻をお呼びしますので、少しだけお待ちいただけますか……?」
「分かりました」
エイシアが一つ返事で答えると、男はそのまままた廊下へと踵を返した。
「随分と疲れた顔をしてたわね」
「確かにな……報告によるとその騒動ってのはここ数日の話なんだろ? だとしたらそれ絡みなんじゃねーのか?」
「まぁね。騒音の正体ってのが何なのかはまだ分からないけど、その騒音絡みだとしたらちょっと面倒かもね」
「俺的にはさっさと終わってほしいところなんだがな……何事も無いに越したことはないしな」
「魔力も観測されてるんだし、一筋縄ではいかないんじゃないの? ……私もさっさと終わることは賛成だけどね」
「魔力……ねぇ……金持ちの家とはいっても、名のある家系って訳でもないんだろうし……」
「それはわかんないわよ? 実は古くから名のある家系かもだし。家がちょっと古臭いのもそれなら納得だし」
「まぁな、実は秘密の地下階段とかあって、そこで盛大に魔法の実験が行われてたとしてもなんら不思議はねぇな」
「そう考えるとどんどん油断ならない状況な気がしてきたわね……魔法戦は正直苦手なのよねー……」
エイシアの口から溜息が漏れた。
「おいおい。魔法戦はお前さんの専門分野だろーが。しっかりしてくんねーと困るぜ? 俺はそっちの方はてんで弱いから基本頼りにならねーだろうし」
「そんな事ないわよ? 魔法を使う人を護る為に絶対必要な人材なんだから」
「つまり俺がお前の盾になるって訳か」
「噛み砕いて言えばそういう事ねー」
「なんでだろうな? 急に戦闘における自分の存在価値に疑問を持ちだしたんだが」
「ふっふ~ん、壁役宜しく頼むわよ~?」
エイシアが顔をにやにやさせつつレイスの肩を叩いた。
「……帰っていいか?」
「敵前逃亡なんて許されるわけ無いじゃないの!」
「るせぇ! お前の盾になるかって考えた瞬間やる気がなくなっちまったんだよ!!」
「何よー! こういうのってチームワークが大事でしょ!?」
「だったら思いやりの心の一つくらい持ちやがれぇぇ!!」
「だったらあんただって女性に対する気遣いの一つくらいしなさいよ!」
「お前はあんな生活態度とってて、それでも尚自分は女性ですと言い張る気か!?」
レイスが急に席を立ちだした。思わずエイシアもそれに釣られる形で席を立った。
「今朝私の色気にドギマギしつつ部屋を出てったのは何処の誰でしたっけ~?」
「俺はちょっとでも恥じらいを持てと言ってるんだ! 慎みって言葉知ってるか!?」
「何? あんたは自分の価値観を人に押し付けるような人だったの!? それって人としてどうかと思うわよ?」
「人として終わってるやつに言われる筋合いなんぞあるかぁぁぁぁぁ!!!」
「えー……盛り上がってるところ失礼ですが宜しいですかな……?」
今の場にはなかった男の声がしたので二人はそちらを見やる。そこには先程この部屋に通した男が立っていた。二人はそそくさと椅子に戻り席に着いた。ついでに少し乱れたテーブルクロスも戻すのだった。
「こちらまで声が届いておりましたが……一体どうされたのですか?」
「え、あ、いえいえ、なな、何でもないんですよ~?あははは……」
明らかに動揺の様を見せつけつつエイシアは言った。
「そうですか……それならいいんですが」
「ところで、お連れするというご家族の方は?」
「それでしたら後ろに……入りなさい」
男の言葉に並び、通路の奥から女性が顔を覗かせた。男と同じくらいの年齢に感じ取れた。身なりから改めてこの家が高貴な家系であることを感じ取らせるのだった。夫婦が揃ってエイシア達と向かい側の席に座った。
「それでは改めて自己紹介させていただきます。私はエイシアと申します。横にいるのはレイスです。今回私たちがお伺いしたのは――」
「毎晩起してる騒音に関すること……ですか?」
そこでエイシアの会話が遮られる形で男が言った。一瞬動揺したが――
「へぇ……どれだけしらばっくれるのかなと思ってたんですけどね」
「おい、エイシア!」
途端に挑発的な言葉をかけたエイシアをレイスがなだめに入る。
「いえ……いいんです。私達共もいつこういった機関からの通達が来るのかと思ってましたから……」
「それは話が早いですね。では面倒なのは苦手なので用件を言います。貴方方が起こす騒音によって周りの住民から苦情が出ています。そして私たちの調べでこの家から騒動ある毎に強い魔力が計測されています。よって直ちにこの騒音を止めなさい。これは勧告です。応じない場合は国から直接的な力の導入もやむなしと思ってください」
「心配ありません、決して武力介入ではなく、土地や家の権利の剥奪をしてこの場所から動いてもらうだけです。ですがそれでも貴方方には相当な苦痛のはずです。どうかこの勧告を受け入れていただきたく思い――」
「私達もどうにかしたいんです!」
レイスが付け足しで説明をしている最中だった。男が大きく机を叩きながら声を荒げて立ち上がった。
「……娘なんです」
横の女がすぐさま口を開いた。
「……娘?」
エイシアが聞き返す。
「私達には今年で十四になる愛娘がいます……この騒音というのは実は娘が出しているものでして……いや、正確には私達にも原因があるのですが……これは言ってみれば家庭の問題なんです。その結果、騒動が起こって周りの皆様にご迷惑をかけている……というのが現状なんです」
「娘さん……ですか。なぜその娘さんが原因でこの騒動が……?」
問いかけたエイシアに、男が代わって口を開いた。
「お恥ずかしい話ですが、これは言わば親子喧嘩なんです」
『お、親子喧嘩!?』
二人の声がぴったりのタイミングで重なった。
「そうなんです……娘と私達共で言い争いをしておりまして……」
「と言うことは、うちで確認された魔力の根源は貴方方ではなく、娘さんの方だということですか?」
「そうです……私達も使ってなくはないんですが、あくまで防御的なもので、大元は娘のものです」
と、男が話している時だった。
「……あら、お客様ですの……?」
後ろから声が聞こえ、はっとそちらを見やる。少し暗がりからの声だったので姿はよく確認できないが、声からして少女のもの。声だけで先ほどからこの二人の言う『愛娘』と認識するには十分だった。その声の主がこちらへと歩んできた。
「貴方達、一体どういうお方ですの……?」
容姿は想像してたよりもずっと小さく、腰元まで届く長い金髪がまるで人形の様に錯覚させた。フリフリを沢山つけた服に全体的に黒をイメージさせる色合い。そして両手で抱き抱えている人形が印象的だった。その風貌からはエイシアとは正反対の、まさに良家のお嬢様そのものの気品と落ち着きを漂わせていた。
「ミ、ミネット……」
男が娘の名前を呼ぶ。気のせいかおどおどとした様子を見せているようにエイシアは感じた。さておきとエイシアは改めて少女――ミネットの方へと視線をやった。
「えっと、私はエイシア。そして横にいるのはレイス。私達は国の治安管理部より派遣された者たちです。この度周辺の住民より毎晩この家から騒音がするとの報告を受け赴きました。事情の大体はお父さんとお母さんから聞きました。早速ですが騒音を止めていただけませんでしょうか?」
エイシアが事務的な態度で話を進める。
「私は全然構いませんわ」
「えっ……?」
エイシアが不意を突かれたように驚く。エイシアとしてはここで一悶着あると思っていただけにこの反応は素直に意外だったのだ。
「だから、私としてはこの騒音を止めてもいい、と言っているのです。ただし、条件がありますが――」
ほらきた。とエイシアが軽く舌打ちする。大体この手の話は素直に話を聞いてもらえない。レイスの方を見てもやっぱりなと言わんばかりの表情を浮かべていた。
「条件、ですか。それで、その内容は?」
レイスの表情も自然と強張る。エイシアについても同様だった。少女の意図が見えないため、どんな内容の要求が来るのかが今一図りづらかったからだ。警戒いているところに、少女がその口を開いた。
「条件とは……あの頭の固い親バカたちを説得し、私の外出を認めさせることです!」
「…………………………は?」
エイシアとレイスの表情が一瞬固まる。
かくして、ミネット対両親の前代未聞大規模喧嘩騒動が、二人の犠牲者を巻き込みつつ幕を開けるのだった。
第2章
ミネット・アインベルク。それが少女の名前だった。ミネットも話に加わり今の部屋では狭いということで、一同は大広間へと場所を移した。やはり豪邸らしいその内装に広さ。刺繍入りの赤絨毯に少し古ぼけてはいるがいかにもな感じの暖炉。パーティー用なのかやたら長いテーブルに真っ白で清潔感ある奇麗なシルクのテーブルクロス。テーブルには幾つかの花まで飾られている。広さに至ってはエイシアの事務所の土地に匹敵するのではと錯覚してしまうほどだ。壁にはレプリカではあろうが、豪華な装飾が施された宝剣の類に装飾品が飾られている。ここまでは何となくではあったがエイシア一行にとって創造の範疇内であったが、部屋に入ってすぐ二人は、他の豪邸では無いであろう異端な物が目に入った。
それは壁際の棚にびっしりと飾られた人形。前後左右どこを見渡しても絶対に人形が目に入るという仕様。更には天井にまで吊り下げられているのだからさすがにエイシアも驚かざるをえなかった。人形もさまざまな種類があるが、中でも一番多くみられたのが人型の人形。それも大半は女の子でちょっと不細工な古めかしい格好の人形になっていた。傍から見ると確実に夜の部屋の中で独りでに眼が光ったり歩いたり飛んでたりしてそうな雰囲気を漂わせていた。そういえばどこかしか服装などの傾向もどれも似通っている気がした。
そんな部屋に通された二人は、先ほど同様アインベルク家と向かい合う形で椅子に腰を掛ける。気づいたら二人の手にはうっすらと汗がにじんでいた。この部屋の雰囲気がそうさせるのか。全員が座った後、一番最初に口を開いたのは父親だった。
「それでは自己紹介をさせてもらいます……私はアインベルク家当主であるベイルです。そして横にいるのが妻のリーザ。そしてその横にいるのが我が家の一人娘のミネットです」
「治安管理部所属、エイシア・クログレンスです」
「同じく管理部所属、レイス・ストレイヴァーです」
二人がそれぞれ頭を下げる。視線を戻すとエイシアがすぐさま話を切り出した。
「では改めて今回の件の説明をいたします。最近になってこの家で毎晩騒音がするということで地域の住民による苦情の方が出ています。なので毎晩なぜ騒音騒ぎが起きるのかを説明し、また、それを直ちに辞めて下さい。この騒ぎには上からの通達では魔力が絡んでいるとも聞いています。なので治安管理部署としては、いち早い原因究明と少しでも住民の脅威になる可能性があるならばそれを撤廃、排除へと導かなければいけないからです。なのでまず、この騒音の元となっている騒ぎの正体の説明を要求します。これは勧告ですので無視したり抗うことがあれば国から直々の圧力があると思ってくださって結構です。……因みに脅し等ではありませんのであしからず」
エイシアが長々と事務的な会話を続け締める。その言葉にベイルが反応し口を開いた。
「わかりました。説明いたします……しかしその説明のために、まずは我がアインベルク家の事を話しておかなければなりません。長くなるかもしれませんが、いいでしょうか?」
「……わかりました。どうぞお話しください」
エイシアが承諾すると、ベイルは一つ息を置いてから語った。
「ではまず、我がアインベルク家なのですが、私達の家系は代々ある能力を受け継がれているのです」
「……ある能力……ですか」
レイスが反能を返す。ベイルがそれに頷き一つで答える。
「我が家系に伝わる能力、それは人形使い(ドール・マスター)。魔力を送り込むことで魔力の込められた人形を自由自在に操れる能力です」
「成程……所謂レア・スキル『稀少能力』ですね。限られた血筋の者とか長きにわたり研究や修行といった研鑽を積んだ者にのみ持つのを許されるという、他の人の持つ魔力とは一風変わった魔力の事……」
エイシアの話にベイルも続ける。
「仰るとおりです。アインベルク家は代々このドール・マスターの能力で様々な繁栄をもたらしてきたのです……時には魔術での戦闘時、或いは研究者として。その際に得た富と名声の結果がこの家と敷地というわけです。しかし今ではそういった傾向にない世の中で、私達ももうほとんどこの力を使うことなく今まで過ごしていました。そういった時代の中なものですから、私達の力は最早過去最低のものとなり、近くで魔力を送ってどうにか一体を数分動かせるか動かせないかという程にまでになったのです」
少し眠たげに姿勢をとるエイシアをレイスが即座に正す。幾分眠気がとれたようには見えたがそれでもまだ完全ではなかったらしく、瞼がうっすらと閉じていくのが横目でも判った。
「しかし、娘と先日……些細なことで喧嘩をした時に……それは起きたんです」
「……それ?」
二人が疑問に思い聞き返す。
「はい。その時も同じようにこの部屋で言い争いをしていたのですが、怒りが頂点に立った娘の人形使いの力が突如覚醒し、この部屋全体の人形を操りだしたのです」
「こ、この部屋全体のッ!?」
レイスが部屋全体の人形を見やって驚愕した。エイシアも同様だった。
「それからです。娘は争いがあるたびにその力を行使して私達に向けて放って……私達は成すすべなく宥めては場を収める毎日です」
「その時の喧嘩が今回の騒音騒ぎの正体って訳か……そりゃあ、何十何百とある人形が一斉に暴れまわったら騒音にもなるよな……」
「でもあなた達も同じ血筋であるなら、人形の活動を抑えたりとかは出来なかったの?」
「私達はミネットの半分の力も持っていないので、全く歯が立たないというのが正直な所です……」
「それはそうよね。私は偉大な力を持っていたとされる先々代の血を色濃く引き継いでいるのですから、お父様とお母様が私に敵わないのは当然のことですわ」
ミネットが当然自慢げに会話に混じった。
そこでレイスが咳を一つ置き、口を開いた。
「では、本題である親子喧嘩の内容に関してお聞かせ願いましょう」
と、そこでまたミネットが勢いよく席を立つ。
「悪いのはあちらですわ! だって……」
「……だって?」
エイシアが間を待ち切れず聞き返す。
「だって、外に出たいだけなのに出してくれないんですもの!!」
数えると数十秒くらいになっただろうか。静寂が広間を包む。
「………………は?」
この声はエイシアがかける言葉に迷った挙句にようやく絞り出した一言だった。心境は横のレイスも同じように感じた。
「ですから、私が外出したいといっても許可をしてくださいませんの! 今まで殆ど家の中で過ごすことを余儀なくされていたけど、晴れてようやく十四歳になったというのに、それでも出してくださいませんのよ!?」
「だから言ってるだろう! いくらお前が十四になったと言ってもいきなり大通りに出かけるなんて無謀だと! せめて外の庭にしなさい!」
ミネットの訴えにベイルが反論する。横のリーザを見やると、ただひたすらにおろおろしていた。
「えっと……話がさっぱり見えてこないんですが……どういうことです……その、家の中で過ごすことを余儀なくされたとか、大通りに出かけるのが無謀だとか……」
呆然としてるレイスを横目にエイシアが会話に割って入る。しかしその発言も普段に比べると脱力しきった力無い言葉だった。
「この家のしきたりなんです。十四までは外界との接触を断ち、己が研鑽に励め、と。つまり、外の世界で遊んだりせず大人になるまで人形使いとしての努力をして一人前の使い手となって外の世界を知りなさい、ということですね」
「え、あ……で、でも、それなら……年齢を迎えたのであれば、別に外出ぐらいさせてあげたら……いいんじゃ……ないです……か?」
根負けだけはすまいと、エイシアが力の限り声を振り絞る。ふと見ると、後ろのレイスは既にダウンしていた。ぼそっ、と『先にダウンしやがって……覚えてなさいよ』と呟いたように聞こえたベイルだが、構わず返答する。
「だって、ずっと外に出たことない愛娘をいきなり外の世界に出すなんて、怖くて出来るわけ無いじゃないですか!? そんな鬼みたいな仕打ち怖くて怖くて……ミネットは外界を知らなさすぎるんです! だから容易に大通りに行きたいなどと……」
「な、なななななな……」
エイシアも最早どう言葉をかけたもんか解らない状況下になってしまった。要は親が二人揃って親バカなのだ。
「それぐらいどうにでもなるわよ! 何かあったら私の力を使えばどうにだってなるんだから! もう、ガラの悪そうな男の肩に当って因縁つけられるのが何だって言うのよ! それでも人形使いの一族なの!?」
「前言撤回……親が親なら娘も娘……か」
エイシアががくりと肩を落とす。レイスはとうとう口のあたりから白い塊らしきものが出ているように見えたとか見えてないとか。
二人の会話はそれから数十分に及び続いた。どこまでいっても平行線。外の世界を見てみたい世間知らずなミネットといきなりは危険すぎると過保護な親。どちらもオーバーな表現にはなっているが、ある意味ではどちらの言い分も正しく取れなくもない。ミネットを正しいとするならば、確かに両親の言い分は良くない。何事も経験しなければ成長にも学習にも繋がらないのだから、外出はさせて然るべきなのだ。
そして逆に言えば両親の言い分もまた正しいといえる。ミネットの世間の狭い発言(ずっと家の中で過ごしていたのだから仕方がないと言えば仕方ないが)では、外の世界にださせる側が不安に思うのも当然だろう。こんな調子では店内に置いている商品を全てそのまま持って帰りそうで仕方がない。会話中にベイルがミネットの外出中には常に護衛を十人単位で付けるという提案もあったが鮮やかに蹴られていた。
話は簡単。要は二人のどちらかが折れてくれればいいのだ。それが一番平和的であり、エイシアが一番楽に金を稼げる方法である。
ところがだ。エイシアが一番問題してるのはその真逆。つまり、一番苦労しなくちゃいけない場合である。それは――
「もう何よ! やっぱりお父様は私の気持ちなんて全然理解してくださらないのね!? ……そこまで言うならもういいですわ、私、意地でも外の世界に出て見せますから!」
言い終わるや否や、周りの人形たちが心なしか動いた気がした。
「いやー……これはマズいわよねぇ……」
「……そうだなぁ、マズいな、これは」
二人が問題視してるのは勿論ミネットの人形使いの能力な訳だが、ただ単にその能力に怯えている訳ではなかった。問題なのは――
「やっぱ、あの人形壊したら」
「弁償しなきゃいけねーんだよなぁ……」
「んで、弁償ってことはー……」
「当然、じ、ば、ら。……だよなぁ」
恐れていたのは威力とかではなく、壊してしまうであろう人形の弁償代だった。いかにも古くて価値のありそうなタイプの人形ばっかしだ。如何に報酬があると言ってもそれだけで賄いきれるとは到底思えないのだ。そして何より問題なのが、この辺の費用を必要経費として出してくれない経理部だった。レイスの方も考えてるのは同様だった。
「あー……この時ばかりはもうちょい経理部と仲良くしてればよかったなーって思うわねー……」
「じゃなくって、日頃からキチンと仕事さえしていればこういう時だって信用とかで経費で賄ったりしてくれるんだよ。どうすんだ、結局お前のせいじゃねーか」
「どーでもいいけどさ、何であんたはそこまで私を悪者に仕立て上げようとするわけなの?」
「そりゃお前、悪者だからだろうが」
レイスが至極当然かのごとく答える。
「アンタとは一度、本ッ気で話し合いをする必要でもあるのかしら……?」
「……ホラ、バカいってねぇで……そろそろ出番だぜ?」
レイスが顎でミネット達の方を促す。エイシアもやれやれと戦闘態勢に入った。眼前では完全にヒートアップした二人の喧騒が続いていた。
「いいか!ともかく私は何と言おうともお前を一歩たりとも屋敷から出る事を許さん!いいな、これは父親としての命令だ!」
「そういうのであれば、私も今持ちえる力を行使し、最大限の力を持ってここを通らせていただきますわ!」
言い終えた刹那。先程までほぼ動く事の無かった人形たちが一斉に宙に舞いだした。その世界はまるでおとぎの世界か、はたまた何かの悪い夢でも見ているのか……ミネットを中心に何十何百もの人形がぐるぐると回っている。その姿、状態からもミネットが臨戦態勢であり、いつ相手の能力が発動してもおかしくない事を物語っていた。
「ミネット!やめなさい!これ以上騒ぐと公務執行妨害で色々とメンド臭い事になるわよ!」
エイシアの忠告も今やミネットの耳には完全に届きはしない。
「何で!? 何でですの!? 外に出たいと言う私の気持ちはそんなにいけないことなんですの!? 今まで我慢してきたのは何でしたの!? ただ外の世界を知りたいと言う気持ちがこんなにもいけない事だと仰りますの……そっか……そうなんですのね……」
そこでぎらりとミネットの眼がエイシアの方へ向く。その瞳はほぼ完全に先程の人形のような綺麗な色を失っていて、言わばトランス状態かのような状態に陥っていた。
「貴方達もお父様の肩を持つと言う事ですのね……そうか……悟りましたわ、これは天が与えし試練ですのね……これくらいを乗り越えれなくて、どうして外の世界で生きられるのか、と……つまりはそういうことですのね……いいですわ。私の力で、こんな試練乗り越えて見せますわ!!」
瞬間人形の動きがぴたりと止まる。レイスが瞬きをした刹那だった。
「お行きなさい!我がドール達よ!」
ばっとあげた片手から淡い光が生まれたと思った瞬間、周りにいた人形たちが群れでこちら向かって襲い掛かった来たのだ!
「いや、ちょ、た、タンマぁぁぁぁぁああああ!!!」
あまりの急の出来事に思わず横に飛びつく。しかし休むまもなく第二の人形たちの洗礼が待ち受ける!
「こ、これだけ人形がいたんじゃミネットに狙いをつけるなんて無理よ!」
「こっちだって簡単に身動きできる状態じゃねぇよ!」
見るとレイスはなんとか転ばすにかわせている様だった。
「あんたのブーツは!?」
「人形の大群にダイブする趣味なんざ持ち合わせてねーよ!」
「大丈夫! 骨はちゃんと拾ってあげるわよ!」
「んなフォローいるかぁぁぁぁああああ!!」
「……って事は結局……これしかなさそうね!」
言い終えるが早く、エイシアは銃を手に取る。
「オイ! 人形破壊しちゃあ元も子もないんだぞ!?」
エイシアの選択にぎょっとしたレイスが即座に反応する。が、エイシアはきわめて冷静だった。
「大丈夫よ……この銃は使い方によって色んなケースで使えるんだから……ねっ!!」
言い放つと同時に引き金の指を引いた。弾が一直線に向かってくる人形の群れの先頭へと向かう!瞬間――群れの直前で弾が破裂し、薄い糸が空間に急を描き出す。大きさにして直系一メートル程の魔力の空間を生み出し、人形数体をその空間の中に封じ込めた!
「あ、捕縛弾か!その手があったか!」
これは前述した国が対人等の犯人等に対し無傷で捕らえるべく開発された弾だった。魔力を持たないものがこれに閉じ込められるとほぼ完全に無力化し、魔力を持つものでも魔力減少の作用のある弾の力で、数時間は出てこられないらしい。
エイシアが次々と人形たちに向かい弾を放つ。瞬時に人形が四、五体規模で次々と力を失い床へと落ちていくのだった。
「くっ……! や、やりますわね……」
エイシアの切り返しに思わず狼狽するミネット。だが――
「そ、それでも! 私は引くわけにはいかないんです!!」
新たな決意とともに振りかざされた手から先ほどの淡い光が発せられる! 残った人形達は広く陣形を取り、エイシアとレイスを完全に包囲した。
「これで貴方方に逃げ場はありませんでしてよ!?」
一瞬の停滞からすぐさま先程と同じ様な突進攻撃を繰り出す!
「あぶねぇッ!!!」
「―――!!」
レイスがエイシアを掴むや否や、ブーツの力で人形の向かってくる隙間を縫って外へ抜け出した。 ――が、
「あ、ありがと……って、あんた!肩から血が!」
「ちっ……大丈夫、これくらい何ともねぇよ……」
見るとレイスの肩にら切り刻まれたような傷と、そこから流れ出る血が目に入る。改めて人形の方を見やると、数十体ある人形の内の何割かは両手にはさみやらナイフの刃物を持っていた。
「どうです? 私の力を持ってすれば如何に貴方方が素早く立ち回り、そのヘンテコな銃で人形達を捕獲しようとも、この数の前では勝ち目がないことがお分かりになるでしょう? 理解していただけたら、早く負けを認めてそこを譲っていただけませんこと? この力を行使するのも楽ではないんですのよ?」
こうは言うが、ミネットの表情からは確実に勝利目前といわんばかりの余裕の表情が見て取れた。
「へ、ヘンテコって言われた……」
「まぁ銃弾が敵を捕獲するなんて話、一般人じゃしらねぇよなぁ」
「……あんた、妙に余裕じゃないの」
「余裕って言うか、本腰入れんとまずいかもだろ?」
「まぁ確かに言えてるといえば言えてるのかもね。 あの娘の力……本物だわ」
いつしかエイシアとレイスの表情が完全仕事モード。所謂本気になる。
「さて、降参しないというのでしたら、そろそろとどめとさせて頂きます……恨むなら私をここまで怒らせたお父様とお母様に言ってくださいね……?」
再びミネットの手が淡く光る。
「……弾奏に捕縛弾は何発残ってる……?」
「あと一発ね。 ……やるとすればミネット本人を捕縛したいんだけど、人形で遮られてるだろうから狙うのは難しいわね……」
「一発あれば十分だ……俺に考えがある。合わせてくれ」
「どうするつもりよ?」
「俺がミネットまでの道を作るから、お前はその道をただ進むだけでいい……だから後は頼むぞ……」
「何をするつもりかはわかんないけど……今はそれに乗るしかなさそうね……頼んだわよ、レイス」
そこで一呼吸間をおく。刹那――
「御行きなさい! 我がドール達!!」
ミネットが光る手を振り上げる! 瞬間部屋中の人形達が今まで以上の速度で二人に迫ってきた!
「行くぜッ!」
レイスがここで初めて抜刀し、構える!
「我流剣技、空閃斬ッ!!」
レイスが構えた剣を横から横へと空を切る!その目では終えないほどの剣速から突風が生まれ、向かってきた人形を次々と押し返し、その場へと落としていく!
「そ、そんなッ……!」
ミネットの表情から余裕が消え、困惑の表情を伺う。レイスはその一瞬の隙を見逃さない!
「今だッ!!」
レイスが剣を構えブーツの力を発動させる!刹那ミネット目掛けて瞬時に移動した!
……と思っていた。少なくともレイスは。
エイシアもがら空きになったミネットまでの道をレイスに続くはずだった。
「き、きゃあああぁぁ!!」
ミネットがあまりの速さに思わず叫ぶ! 刹那だった! レイスは目測をほんの数十センチ見誤り、ミネットと交錯してしまったのだ!
「うわぁっ!!」
「きゃあっ!!!」
「レ、レイス!?」
エイシアが余りの出来事に面を食らう。まさに予期しない出来事だった。道を開けてもらった後は自分が行くはずだったのに、レイスは何故かそのまま自らが突進して行ったのだった。
「ミ、ミネット!?」
リーザが思わず愛娘の名前を叫ぶ。ベイルはミネットの元へと駆け寄った。
「ミネット! 大丈夫か!?」
「いてて……目測見誤ったか……って、ここはどこだ……」
レイスは起き上がろうとするが、何故か目の前が真っ暗なので困惑していた。
「ん……なんだ、このふわふわっとした感触は……そしてなんだ、この仄かに香るこの感じは……あれ、なんか暗闇に慣れてきた……」
薄暗い中見えてきたのは、白い何かの生地とでも言おうか。
「てか、なんだこれ……」
レイスは頭を覆っていた何かから抜け出す。そこには顔を赤面させて今にも泣き出しそうになってるミネットの顔があった。
「えっ……」
「…………ッ!!」
ミネットが無言でレイスの顔をじっと見やる。しかし表情は今にも爆発しようとせんばかりだ。
レイスは恐る恐る抜けた場所を見やる。抜け出す際に掴んだ生地は紛れもなくミネットの着ていたものだった。
「えっ、ちょ、ま、タンマ! 今のってミネットの……え、ま、待て! えええええええええええええ!?」
最早何が言いたいのかも分からないほどの言動を見せるレイス。
「嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!! 変態ぃぃぃぃ!!!!」
ミネットが即座にレイスから離れていく!ついには泣き出し部屋の隅へと逃げ出したのだった。
「え、いや、白って事は、待てよ! 今のは確かに事故で! 結果ミネットの下着が見えただけであって! つまりはあの香りはミネットの中であって! つまりあれは仕方なくでだな! だから、ええと! 要するに! 本意ではなく、無意識……じゃない! 結論を言えばだな!」
「……もう言い、黙れ変態」
エイシアがレイスの頭を銃でこづくと、そのままレイスは気絶したのだった。
「し、白……ッ」
そのままの表情で倒れたレイスの顔は何気に幸せそうに感じた。
そしてエイシアがミネットを捕縛するのに何の苦労もかからなくなったのだった。
「ま、これも成功といえば成功なのかねぇ……」
エイシアは残った一発を未だに赤面で泣きじゃくってるミネットへと放つのだった。
その後、力を抑えられたミネットはなす術もなく座っていた。先程まで恥ずかしくて泣いていたミネットだったが、今では力が通じなかった悔しさ、思いがかなわなかった無念からの涙へと変わっていた。
レイスと言えば先程の気絶から復活し、さっきまでの落ち着きを取り戻している。しかし目線はどことなくミネットの方ばかり向いているようにも見える。
エイシアは脇で人形や散らばった家具等の片づけをしているベイル達を横目に、ミネットをどう説き伏せようかと模索している最中だった。
……ついでに言えば、レイスの処罰に関しても。
そんな空間を一番先に破ったのはミネットだった。
「……これで私の外に出る願いは叶わなくなってしまったのですね……」
どこか達観したかのような物言いだった。云わば悟ったという表現が正しいのか。前を向いているようで遠くを見つめている視線が、エイシアには少し寂しく感じた。
「……そうね、あなたは負けて、両親の言い分をしっかり聞かなくちゃならなくなったわね……」
エイシアはミネットの問いに答える。
「しっかし、そこまで厳しくなくてもいい気はするんだけどな。そこまで外界を警戒されたら俺たちの立場がないってもんだぜ」
『黙れ、変態』
「ぐはっ……」
容赦ないエイシアとミネットの言葉がレイスの心を深く突き刺す。
「……まぁ確かに、レイスのいうことも一理あるわ」
「……と、言いますと?」
そこで片づけを終えたベイルとリーザが二人の下へと戻ってきていた。
「そこまで外の世界にびびられたら、私達治安管理部に全く信用がないって言われているみたいって事です。貴方方の心配も考慮しますが、少しは私達の仕事を信頼してくれてもいいのではないですか?」
「はぁ……ですが……」
エイシアの言葉に今ひとつ乗り気ではない様子の二人。その様子を見たミネットが――「エイシアさん……と仰いましたかしら……もういいんです」
ミネットの意外な言葉に少し驚きを隠せないエイシア。まさかミネットの方から折れるとは思ってもいなかったからだ。だからエイシアは両親を説得する方が楽だと言う結論を叩き出し、ベイルとリーザに話しかけたのだ。
「今の反応で把握させていただきました。やはりお父様とお母様は私を家から出したくない……それは変わらないようです」
「ミ、ミネット……」
掛ける言葉に迷い、リーザはとっさに名前だけを呼ぶ。エイシアは無言でただミネットの言葉に耳を傾ける。
「これはやはり私とお父様お母様との戦いなんです」
ミネットの表情がより一層硬いものへと変わっていく。
「私のことを信用してくれないし、治安管理部の方々も信用しない……つまり国すらも信用しない。と言う事はやはり私の願いを成就させるには自らの力を持って道を切り開く以外ない……つまりお父様とお母様を押し退けねばならないということです」
「ミネット! お前はまだそんなことを言うのか!」
ベイルがミネットを一喝するが――
「だってそうでしょう!? 私のこの願いだけは叶えたい! だから私は退きたくないんです! 例えそれが私の親であっても! 私には私の通したい想いがあります! だからお父様にどれだけ怒られようとも、どれだけお母様に説得されようとも! この想いだけは譲ることが出来ないんです!!」
考えても見れば内容はいたって些細な出来事。レベルに至っては子供の喧嘩以下の内容だ。普通ならばどちらかが謝ってしまえばそれで済むような。つまりはそれ位つまらない内容なのだ。しかし、溺愛過ぎて過保護な両親に強い想い故に頑固な娘。これらが合わさってしまうと話は単純を通り越して複雑となってしまう。客観的に見るとある意味でもほほえましくも取れなくもないそれも、当人同士からすれば余りに大きい壁となり二人の前に立ちはだかるのだ。
エイシアは半歩ずれた位置から、三人の話し合いをそんな風に見ていたのだった。
「最早ただの意地張り合戦みたいになっちまってるなぁ……」
同じ位置から事の顛末を見ているレイスがそう話した。
「そうねぇ……」
お互い想う物が強ければ強いほどすれ違う――どこか本心では分かっているのかもしれないが、それすらも強い想いの前では埋もれてしまうのだろう、とエイシアは胸中で悟るのだった。
そんな想いに馳せていたエイシアをまた喧騒に戻したのはミネットの言葉だった。
「もういいですわ!!!!」
ミネットが今までに無い位の大声でベイルの言葉を遮る。ベイルとリーザが思わずたじろいた。エイシアとレイスも思わず竦む。
「もうこれ以上何を言っても無意味だということが……よく分かりましたわ……」
よく聞けばミネットの声が微かに霞んでいるのが分かった。
「今まで何一つ不自由なく……育ててくれて、目一杯……私の……ことを……愛してくれていたこと……それに関して……は……私も凄く……感じておりましたし……今でも凄い感謝の……気持ちで……一杯で……す……」
ここまで来たら誰に耳にもミネットが涙声になっているのが聞き取れた。しかしそこで、ミネットががばっと顔を皆に向ける。
「ですがっ! それでも私に自由を与えてくれないというのであれば! 私はこの家を出て行きます! 今まで手にしたことのなかった自由を掴むために! 外の世界を見てみるために! もう籠の中の鳥は嫌なんです! もっと外界を知りたい! その為なら私はこの家を出れるだけの想いがあります!」
「ミ、ミネット……!!」
ベイルが驚愕の表情で名前だけを漏らす。リーザは余りの言葉に体がぐらつく。
「人形使いの力を持った私に怖いものなどありません……ですから私なら出来る! そして外の世界を知るだけの資格があります!!」
ミネットがあらんばかりの力を振り絞り叫ぶ。最早内容は思いつきのような感情論と化しているが、その一言一言からミネットの熱い想いが伝わってくる。ある者は戸惑い、ある者は驚愕する中、エイシアは一人俯いた。何かを決意するかのように。
「結局お父様もお母様も私の事を全然わかってくれていないんです! 私の良き理解者であると思っていたのに……それだけが悔しくて仕方ありません! ですがそれも終わりです! 私を理解しようとすらしてくれない方なんて、私に必要ありません! ここで縁を切り、一人で外の世界へと羽ばたくんですの!!!」
ミネットの感情が最高値になり、絶縁の言葉を口にした……その刹那だった!エイシアが動いた気がしたのでふと見やったレイスが――
「おいっ! エイシア! 何する気だ――」
言い終えるが早いかという瞬間だった。エイシアに腰に携えていた銃を空へと突き出し、力の限り引き金を振り絞る!
「いい加減にしやがれえええええぇぇぇぇぇッ!!!!」
銃口から虹色の光が溢れ、天井を突き破り、空へと一瞬で放たれ飛散する!それはまるで獅子の咆哮かのような。もしくは竜の息吹とでもいうべきなのか。エイシアの叫び声と共に放たれた魔力弾は一瞬にして上空へと解き放たれたのだった。凄まじい爆音と衝撃は、ミネットを正気に取り戻すのに十分だった。
爆音が消え、場に静寂が訪れる。エイシアは魔法銃を改めて腰元へと携え、俯いたままミネットの元へとゆっくりと歩みだす。レイスがふとミネットを見やると、余りの出来事に腰が抜けているように感じた。
「エ、エイシア……?」
レイスも名前を呼ぶのが精一杯な状況。レイスにとってもエイシアがここまでになったのを見るのは初めてだったのだ。
そしてエイシアがミネットの正面へと立つ。
「あ、あ、あ……あ……」
ミネットも完全に怯え、最早言葉を話すことすら許さないような状態だった。
エイシアの右手がゆっくりとあがる。そして――速攻で振り下ろす!
「……ッ!!」
エイシアの放った平手打ちがミネットの頬を捉える! 乾いた音が一瞬だけ静寂した場を塗りかえた。
「え、え……? あ……」
ミネットが困惑した表情でエイシアを見やる。周りは余りの出来事に完全に言葉を失ったかのようだった。
「……ミネット……」
エイシアが重い口を開く。
「あなた……さっき『お父様もお母様も私のことを分かってくれない』……そう言ったわよね……」
「う……い、言いましたわ……! だって言うとおりではありません事?」
「それじゃあ聞くけど……ミネットは二人の気持ちを理解したことはあるの……?」
「えっ……」
エイシアの意外な一言にミネットが思わずたじろく。
「あなたが外に出たいという気持ちが分からないほど親も馬鹿じゃないわ……だけど心のどこかで沸き起こってくる不安とかを、あなたは理解しようとしたことがあるの……?」「あ……あぅ……で、でも……!!」
ミネットの表情から自信が完全に消え、困惑へと変えていく。その表情は先程と同じで今にでも泣き出してしまいそうだった。
「あなたを愛しているからこそ……好きだからこそ万に一つのことも起こって欲しくない……親が子供に対して願うのは当然のことよ……それはベイルさんやリーザさんだけじゃない。世の子供を持つ親は皆同じ。子の安全、無事を願わない親なんていない……もう可愛くて可愛くて仕方ない……それ故に当人からすれば度の過ぎた溺愛だって起こりうる……ミネット。あなたはあなたが親に対して信じられて無いって思ったのと同じくらい、二人のことを理解しようと……信じようとしなかったんじゃないの?」
「あ……ああ……あああああぁぁぁ!!!」
気づけばミネットの瞳に大量の涙が浮かぶ。それはエイシアの言っていることを理解している証。ミネットが今までとった行動の愚かさを悔いた瞬間でもあった。
「あなたの外に出たい気持ちも凄く理解できる……だからまずは、お互いが本当に思うことを話し合い、理解しあうのが大切なんじゃ……ないかしら……」
「うぅ……ううううぅぅぅぅぅ……!!!」
ミネットがとうとう崩れ落ちていく。両手で顔を隠しはするものの、押さえ切れない涙と嗚咽がミネットの心境を物語っていた。
「エイシア……お前……」
レイスは声を掛けるがエイシアは応えない。視線はずっとミネットからぶれることは無かった。
「…………」
エイシアは無言のままで、泣き崩れたミネットを見つめていた。
そんなミネットの泣き声だけが支配する空間を破ったのはベイルだった。
「……エイシアさん、すいません……私達の力が及ばなかったばかりに、手を煩わせてしまいまして……」
「私からも深くお礼を申し上げますわ……」
リーザも静々と頭を下げた。
「…………」
しかし、そんな二人の礼にもエイシアは一瞥もくれなかった。
「おい、エイシア……」
レイスが思わず声を掛ける。しかし――
「さてレイス、仕事の方は概ね完了のようね」
「おいっ、急に仕事モードに戻るなよ……何か調子狂うじゃねえか……」
レイスが毒づきながらもエイシアの元へと寄る。その時ふと覗かせたエイシアの表情が普段とはまた違う感じがした。
「それでは今回の件に関しまして、アインベルク一家に対し注意勧告するものとします。もしこれ以降また近燐の家庭の平穏を乱すような行為等が見受けられた場合、また治安管理部からの注意、もしくは処罰があるものと思ってください」
「えーっと、要するに次にまた同じ事をしなければいいだけなので、重く受け止めないでいただけると幸いです」
エイシアの勧告にレイスが加える。
「はい……肝に銘じておきます。今回の件において周りの皆様方等にご迷惑をおかけしましたこと、大変深くお詫び申し上げます……」
ベイルに習ってリーザも深く頭を下げる。
やっと終わったか――これはレイスが内心で思ったこと。どれだけの騒ぎになるかとも思ったが、無事に終わってよかった――そんな風に胸中で安心していたレイス。
が――
「……そしてもう一つ」
「……もう一つ?」
ベイルが頭を上げつつも言葉を漏らす。
エイシアは軽く一息を入れる。そして――
「ミネット・アインベルク。あなたを国内における要注意人物として治安管理部へと連行します」
『……ッ!!!!』
場の雰囲気がエイシアの一言により一瞬で変わる。先程までの空気とは打って変わり、またもや緊張感溢れる場へと戻ったのだった。
「おいっ! エイシア! どういう事だ!? 俺達にそこまでの――」
「レイスは黙ってッ!!」
レイスの発言をエイシアは一喝で上塗る。レイスもエイシアの気迫に負けて思わずたじろいた。ふとミネットを見やると、泣き顔が一変し驚愕へと変わっていた。
ベイルが堪らずエイシアへと食って掛る。
「ど、どういうことなんですか!!」
「国内において、いつ暴走してもおかしくない強力な力を持った者――ましてやそれが少女だと言うのであれば、治安管理部として易々と見過ごすわけには行きません。今日の力を見て私の方で独断で決めさせていただきました。ミネットの力を個人の家庭で野放しにすることは、我が治安管理部としては無視できません」
淡々と放たれる言葉に思わず言葉を失うベイルとリーザ。そしてレイスまでもが余りの展開に口を開けずにいるのだった。
「……それではミネット。同行願いましょうか? ……抵抗はしないことよ」
エイシアが冷酷な目つきと共に銃に再び手を添える。
「わ……私は一体どうなるんですの……?」
完全に怯えてしまっているその姿は、容姿こそ綺麗な女性だが、完全な少女のそれだった。
「……そうね……」
アインベルク家の視線が完全にエイシアに向けられる。しかし、次にエイシアから出た言葉は――
「まずは事務所の掃除かしらね」
「………………は?」
レイスが長き沈黙をようやく打ち破る。その時に出せる精一杯の声だった。
「は? じゃないわよ。このままじゃミネットの居場所が無いじゃないのよ」
「いや、俺が言いたいことはそう言う訳じゃなくてだな――」
しかしエイシアはそんなレイスの言葉を遮り、
「他にもあるわよ。部屋の掃除に食事の用意に……ああそうね、服の洗濯なんかもあるわね――」
「だからそうじゃねぇ! 言ってることがさっぱりわかんねぇんだよ!」
レイスが思わず言葉を挟む。先程の展開から今のエイシアの言葉が全くと言って良いほど繋がらないからだった。
「……私も言ってることがさっぱりわからないのですが……」
ベイルも思わず恐る恐るエイシアに向かい問いだす。
「……ミネットは今後、力の暴走等が行われないか……所謂危険性の有無を確認するために私の元で監視をします」
「え……」
ミネットが意外そうな表情でエイシアを見やる。
「ミネットは私の管理下に置かせていただきます。今回のような事件が起きない様、うちの事務所で監視をさせて頂きますので、ご了承願います」
「ちょっ……そ、そんなの認められるはずが無いでしょう! 確かに娘は近所様にご迷惑をおかけしたかもしれませんが、それは余りにも……!!」
「何か問題でも?」
ベイルの発言をエイシアは一言で閉口させる。その一瞬見せる冷ややかな目線がベイルの言葉を完全に紡がせるのだった。
当のミネットと言えば、自体が理解できずに困惑してるようだった。
「ただ……そうね……」
エイシアがそこで一息をいれ――
「管理下と言えど、仕事もあるので四六時中べったりくっつく訳にもいかないので、もしそこでミネットが勝手に脱走して外の世界に出たとしても、そこは私のあずかり知らぬ所ですけどね」
「なっ……!」
ベイルがそこで初めてなんとなくではあるがエイシアの意図を読み取る。見ればレイスも同じく悟ったようだったが。
「……何が『仕事もあるので』だよ」
と、瞬時に銃口がレイスへと突き出される。
「……スイマセン……」
要らぬツッコミを入れたと、レイスが即座に両手をあげて閉口する。
「まぁ管理と言っても、そこまでする権限は私にはありませんからねぇ」
「そ……そんなの認めるわけにはいかないぞ!! こ、こうなったら、今回の事を直接国へと訴えかけてやる! そんなおかしな事がまかり通るのかどうか確かめてやる!」
ベイルは指を突き出しエイシアへと言い放つ! しかしエイシアはそれにたじろくことなくつかつかとベイルの元へと歩み寄る。
「……信じてやんなさいよ……」
「えっ……」
エイシアから出た意外な言葉にベイルが再度たじろく。
「自分の娘のことを信じられない親の事を、どうして娘は愛せるのよ……あんたが娘を愛してやまない気持ちはわかるわ。だけど一連の発言じゃあ、娘には自分のことを信じてくれない、本当に理解してくれない……そんな風に思うのも仕方ないじゃない……」
エイシアの淡々と、しかし気持ちのこもった言葉がベイルとリーザへと投げかけられる。
「そ、そんな事は君には関係ないことだ! 親子の問題は親子で解決させる! 他者に干渉される筋合いは無い!」
「その親がクソだから言ってんだろうがああああぁぁぁぁッ!!!!!」
家内はおろか外にまで響き渡ろうかというエイシアの怒号が、空間を一瞬で埋め尽くした!
「何が愛している、だ! ハ、そんなの只の臆病じゃねぇか! 親という権力の元で勝手に娘の都合なんざ考えずに私利私欲のために言ってるだけじゃねぇかッ! いいか! 本当の親ってのはな、例え娘がどんな事を言ったとしても、最後まで信じてやれる存在の事を言うんだよ! はなっから娘の話を聞かず信じず、自分の考えだけを押し付けるやつの事なんざ親っていわねぇんだよぉ!! だからそんなクソ親に代わってあたしがみてやるって言ってんだろうが!!」
エイシアがまるで人が変わったかのような言葉を連ねる! しかしその一言一言は今日一日エイシアがベイルとリーザに対して思っていた正直な気持ちだった。
「え、エイシア! 落ち着け!!!」
レイスが思わずエイシアの動きを封じる。エイシアはそれに素直に応じ荒げたい気を整える。そして――
「……貴方達、ミネットの事が可愛くていとおしくて堪らないんでしょう……? だったらなおさら信じてあげなきゃ……本当の親子にはなれないわよ……」
最早ベイルとリーザは言い返す言葉が無かった。それはエイシアの言葉が届いた証明だったのかもしれない。ベイルは膝から崩れ落ち、リーザはただただ涙をこぼすのだった。「エイシア、お前……」
「……ごめん、取り乱した……」
「気にすんな、寧ろかっこよかったぜ……ちったぁ見直したぜ」
「え……」
レイスの言葉になぜか心揺らめく。
「まさかここまで考えてたなんてな……悪かったな、お前の事ちょっと疑ってたぜ。所長の名は伊達じゃなかったって事だな」
「う……ま、当然よ、当然」
そこでなぜか目線をそらす。 ……いや、逸らさずにいられなかったのだ。
「さて……それではミネット。私達と共に来て貰うわよ?」
エイシアが改めて本来の用件を達成すべく、ミネットの方へと向いた。
しかし、当のミネットは俯いたままで一向にこちらを向こうとしない。
「……ミネット?」
「…………たわ」
僅かに漏れた言葉をエイシアは拾った。
「え?」
しかし意味が分からず思わず聞き返す。
「……ようやく理解しましたわ……」
聞き取れた言葉の意味が分からずエイシアが――
「……な、何を?」
と、瞬時にミネットが顔を上げる。そこには今までに無い表情で――
「あなたこそが、私の求めていた方だったのですわ!」
「……………………は?」
エイシアがさっきのレイスと同じ心境で言葉を発する。
「私これから……これから……」
目をらんらんと輝かせるミネットが、続けざまに言った。
「今日からエイシア御姉様と呼ばせていただきますわっ!」
言い終わるが早く、ミネットは満面の笑みと共にエイシアを抱きしめた。
この日、この城下町に新しい花が咲いた瞬間だった。
エピローグ
どれだけの時間が経っただろうか。今のレイスに正確に把握する術はなかったが、少なくとも窓から射し込んでくる日の光加減から、昼近いのではないかと考えていた。
そう思いつつ時計をふと見やる。予想通りの昼前だ。
「……あいつは、毎回毎回毎回毎回……どんっっだけ俺に仕事推しつけりゃ気が済むんだ……もう今日と言う今日こそ勘弁ならねぇ……!」
レイスがそれまで座っていた席を立つ。今日も今日とて事務作業を完全にサボってレイスにやらせているエイシアを張り倒すためだった。
先日の人形使いの家での一軒から早数日。あれから色々大変だった事もあったが、それでもまた変わらない日々を過ごしていた。相も変わらずベッドから出てこないエイシアに、エイシアの分まで仕事をやってのけるレイス。何の事件も依頼も舞い込んでこない事すら相変わらずと言う状況だった。
しかし、そんな何一つ変わらないと言っても過言ではないような環境下ではあったが、一つだけ劇的に変化した部分があった。それは――
荒々しい足音を立てつつレイスがエイシアの寝室のドアノブに手をかける。そして――「エイシアてめぇッ!!! 今日という今日こそ勘弁ならねぇ!! 一発叩き込んでやるから覚悟しやがれッ!!」
勢いよく放たれる怒号と激しく開いた扉の音が部屋に轟いた。
やがて眼前の布団がもぞもぞと動く。
「んん……何よ……」
枕元からひょっこり出てきたのはエイシアの顔。さっきまで寝ていたせいだろうか、髪はボサボサで未だに眠そうな顔つきだった。
「ああレイス……目覚まし係ご苦労様……」
「俺はそこまで成り下がった覚えはねぇぞ!?」
「レイスが来たって事は……もうご飯?」
「お前の頭の中には食う、寝る、遊ぶしかねえのか! いい大人なんだからちったぁ働く事を覚えやがれ!」
「まぁまぁ、そんな事より今日のメニューは?」
「全然わかってねぇなお前は! いい加減調教のレベルで教育する必要があるか!?」
「もー……昼だってのに元気ねぇ……」
「いや、普通だからな!? 昼が元気で夜寝るのは普通だからな!?」
「いやぁ~、レイスの突っ込みは今日も絶好調ね」
「ふ・ざ・け・ん・なぁぁぁぁぁぁ!」
レイスがエイシアの温度差に堪忍袋の緒が切れる! ――刹那だった
「んんん……一体どうなさいましたの……?」
二人がぎょっとした表情で布団を見やる。
「ふあ……あ、おはようございますですわ、お姉様♪」
「な、なななななななななななな……」
そこにはエイシアと一緒の布団から顔を出すミネットの姿があった。余りの出来事にエイシアが思わず動揺を表した。
「ちょ、ちょっと待ちなさい! いつの間に布団にもぐりこんできたの! ミネット!」「覚えていただけていませんの? あれはお姉様が夜のお勤めを終えて帰られた昨晩の事です、ふらふらになって布団の中に真っ直ぐダイブされたその時から既にお姉様のお布団の中にいたんです」
「ただ単に酔っ払ってそのまま寝ただけじゃねーのか……?」
レイスが半眼で口を挟む――が
「あなたはお黙りなさい!」
「んなっ……」
ミネットの豹変した態度にまたもやぎょっとするレイス。
「ちょっと、大体なんで布団の中になんていたのよ!」
エイシアが堪らず抗議する。
「何故って……お布団の中を暖めていただけですのよ……? ひ・と・は・だ・で♪」
「やめなさいよッ! 気味悪いじゃないのッ!」
「ふふっ……幸せそうに眠るお姉様の寝顔……大変素敵でしたわ♪」
「きゃーっ、いやぁぁぁぁ! 私にそういう趣味は無いんだってばぁぁぁぁ!」
そう言って颯爽とこの場を逃げ出すエイシア。
「お姉様! 一体どちらへ向かわれますの!? お供しますわよ~?」
ミネットはすくっと起き上がりすぐさまエイシアを追いかける。と、ここで足を止めレイスの方を見やる。
「それとあなた、布団の隅々に汚れが目立ってましたわよ? エイシアお姉様のお膝元で働いているのでしたら、それくらいきちっとしていただかないと困りますわよ」
そう言い放つとミネットは改めてエイシアの方へと駆けていった。
あまりの完膚なき言いぶりにレイスも言葉を挟む隙がなかったのだという。
一番変わったのが、ミネットもこの事務所の一員になった事だった。あの事件の後、エイシアが城へと駆け込み、ミネットを事務所で保護する事を提案したのだ。最初は反対していた治安管理部だったが、有無を言わさないエイシアの実力に、レイスの説得によってどうにかこの提案を通したのだった。というのは表向きの話。実際はエイシアは文字通りの実力(魔力)を持って通そうとしたのだが、レイスの必死の懇願によってどうにか出来たというのが真実だったりする。
ミネットの両親の説得にも骨が折れる作業だった。ベイルが最後まで抵抗を見せていたものの、リーザが先に折れ、ベイルも渋々了承という形で収拾を迎えたのだった。
そんな事があって数日経ったが、この事務所における劇的な変化はレイスとエイシアに大きな影響を与えたという。
レイスは相も変わらずエイシアを一喝するのだが、そんなエイシアを守るようにミネットが憑いてまわり、反論、それも一方的に放つのでやりにくい事この上なかった。レイスはレイスでミネットのお嬢様気質で女の子している部分が気に入っているだけに、言い返す力も持たなかったのだった。
エイシアはと言うと、レイスが仕事をしてくれるので好き放題してはいるが、事務所内ではミネットが常に影のように憑いて来るので大変なのだと言う。基本エイシアにべったりで、布団の中や作業中は当たり前。エスカレートするとシャワーの中にまで突撃してくる時もあった。一度だけトイレの中にまで進入しようとした時があったときはさすがにびっくりしたとはエイシア談。
ミネットを交えて色々騒がしくなった事務所ではあったが、毎日見せるミネットの笑顔を見ると何も言えないというのが二人の本音ではあったのだった。
「やれやれ……前以上にうるさくなったもんだな……」
レイスがミネットとエイシアの絡みを見つつ一言漏らす。口ではこういっても顔はまんざらでもないと言った様子だった。
そんな二人のやり取りを見ているときだった。
「すいませーん、封書をお届けに参りました~」
玄関の方を見ると、先日事務所に王宮からの手紙を送ってくれた時と同じ郵便局員が立っていた。
「おっと、はいはい……確かに」
レイスが慣れた手つきで所定の場所にサインをして封書を受け取る。
「それでは失礼します、ありがとうございました~」
「昼間っからご苦労様~」
「普通昼間は働いてる時間だっての」
レイスがエイシアを軽く一蹴し、封書をエイシアに手渡す。
「何かまた王宮かららしいぜ?」
見ると封書の表には王宮からであることを知らせる判が押されていた。
「そう言えばミネットの時もこんな感じで手紙で送ってきたんだったよな……また何かの依頼か何かか?」
「そうでしたの……それでお姉様、中にはなんと書かれていますの?」
「ちょっと待って、今読むから……」
エイシアはさらさらっと中の文面に目を通した。
「……………………」
「……エイシア?」
「お姉様? どうなさいましたの?」
見るとエイシアの様子が文面を追うごとに少しずつ変わっている。気づけば少しずつ汗が流れてきている。
やがてすべてが見終わるや否や、それまで凛とした姿をしていたエイシアが急に脱力して机に突っ伏した。そしてふらふらした手つきで手紙をレイスへと渡す。
「な、何がどうしたってんだよ……」
レイスが不安の面持ちの中手紙を受け取る。ミネットもひょっこりと手紙を見る。
「えっと、何々……」
レイスの目線が文面の上に行く。
「エイシア・クログレンス殿。先日の『アインベルグ家騒動事件』の際に破壊された人形や家屋等の弁償金額が判明いたしましたので、ご報告をさせて頂く事になりました……って、ええええええ!?」
レイスがエイシアへと慌てて見やる。当のエイシアはぴくりとも動かない。
「で……つきましては、今回成功報酬とさせていただきました50000Rからの天引きとさせて頂くと共に、不足分に関しましては、以降半年分の給料半分カットに加え、同じく半年間の城への依頼を無給で受けていただきますので、ご了承の程宜しくお願いいたします……以下、今回かかったアインベルク家への弁償額詳細です……」
レイスの手紙を掴んでいる手がふるふると小刻みに震えだした。
「破壊された人形……一体8000Rの13体。計104000R……」
「代々伝わる人形なので価値がそれなりに高いんですの……」
ミネットが補足を加える。
「破壊された家屋……天井の修繕費……工事費、人権費等含め450000R……計554000Rより、今回の成功報酬である50000Rを差し引きまして、計504000Rの請求となります。 ……以上……」
最早レイスからも生気が失われていくのが分かる。ミネットも完全に言葉を失い、何を喋ったらいいのか分からない空気となっていた。
「ふ、ふふ、ふふふふふふふふふふふふふ……」
突然不気味な笑いと共にエイシアがゆらりと立った。
「お、お姉様……?」
「こ、こうなったら……こうなったらあれしかないわ……」
「な、何をする気だ……嫌な予感しかせんが……」
「こうなったら殴りこみよ! 今回の件が全部経費で賄われる様に『説得』するしかないわ!」
「銃を構えながら『説得』なんか言っても説得力ないわぁぁぁぁぁ!
「止めるなレイス! 私は今から私達の『明日』を勝ち取りに行くのよ! 『明日』の無いものに輝ける『未来』はないのよ!」
「お前は俺たちの『未来』まで閉ざす気かぁぁぁぁぁぁぁッ!」
「お姉様、お供いたしますわ!」
「分かってるじゃない!! こうなったら総力戦よ! 私達の希望の為に! 背を向けるな! 歯を食いしばれ! 最後まで前を見て! 光はすぐそこよッ!」
「玉砕覚悟ですわーーーッ!」
「皆の者ついて来い! 敵は王宮の経理部だぁぁぁぁ!」
「やめんかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
その後エイシアが何時間にも及ぶ『説得』の末、経理部の請求額が増えてしまったのだが、それはまた別のお話。