そして行き止まりは、子供たちの楽園となる
公園からはうねるような細い路地を歩きに歩いていった。通りは入り組んでいて道路は舗装されていなかった。
道中、ジャンルがよく分からない飲食店や、見かけない飲み物ばかり売っている自動販売機、あたまや腕に大量のインコを乗せ――よく見るとそのインコはすべておもちゃであった――日向ぼっこをしているおばあさん、垣根の上に碁盤を置き一人で囲碁を打っている主婦、サラリーマン風の男性をおんぶしてよたよたと歩いている少女、乱雑に放置されているマネキンの山などの横を通り過ぎながら歩を進めて行った。
オレはその奇妙な光景を見るたびに額に汗をにじませていった。夕浜も古賀さんも特段驚いたそぶりは見られない。
しかしだんだんと妖しい雰囲気になっていく。浦見駅からみてこちらの方面にはあまり足を伸ばしたことがなかったので土地勘がまったくない。このような雰囲気になっているとは皆目思ってもいなかった。
そうして背を丸め警戒しながら歩いているとふと古賀さんが歩を止めた。気が付くと細い路地は行き止まりになっていた。両脇は民家の壁になっている。
そして路地の先にあるのは少し大きめの建物。寮のような公民館のような雰囲気を醸し出している。
壁面は段差上になっていて全体的にガラスが多く使われていた。前面には小学校で見るスライドタイプの門がありその奥には庭のようなスペースがあった。さらにその奥に建物がある。
古賀さんは門に手を掛けて横にゆっくりと開いた。意外と軽い音をたてて開く。こちらに振り向いて目を細めた。
「どうぞどうぞこちらに来てください。案内しますよ」
「さあ道後君行きましょう」
袖をつまんで引っ張られた。よたつきながら内部へと踏み入れた。建物の入り口は他と違いそこだけ木の材質でできていた。古賀さんは扉を手前に引っ張り中に入る。
中に入るとそこは玄関であった。
正方形の穴が空いた下駄箱が幾つかならんでいた。
素早く目を配る。
中に入っている靴は明らかにオレのより小さい。奥を覗いてみると玄関を角にして右斜め左斜め二方向に廊下が伸びていた。天井には等間隔に照明灯があり意外と広く奥の方は目の悪いオレでは見えなかった。正面には中庭があり大きな木が植わっていた。
「ゆ、夕浜ここはいったい何なんだ?」
が夕浜がその問いに答える前に何やら歓声のような音が奥から聞こえた。わーきゃーどたどたと複数の足音が聞こえる。すると右の廊下に設置されていた扉ががらと開いた。
「うおっ」
子供たちの波、と形容するのが正しいのであろうか、その波が一斉にこちらへ押し寄せてきた。子供たちは公園にいたような年齢の子もいるしそれよりももう少し低年齢層の子もいる。
「あー古賀先生ーだー!」
と口にしながら古賀さんに群がって行った。その光景に若干の既視感を覚えた。
「みなさんよい子にしていましたか?」
「はーい!」
古賀さんはにこやかに対応して子供たちの頭を撫でていた。子供たちはみな楽しそうである。ふと顔を横向けるととある女性が立っていた。金髪の女性。目つきが鋭い。オレは驚いて目を開く。
真千さん。
運転手の真千さんがいた。子供たちの後ろに立っている。しかしスーツ姿ではない。イメージとは正反対のカエルのキャラクターが印刷されているかわいいエプロン姿だった。真千さんは口の端を少し上げて手をあげてきた。なぜ真千さんが?
「な、なんで……」
唖然として立っていると夕浜が語りかけてきた。
「道後君ここが何かと聞きましたね」
「あ、ああ」
「ここは児童養護施設です」
「……養護施設?」
「はい、むかしは孤児院とよばれていた所ですね」
オレは知識の棚から単語の意味を引き出す。
――児童養護施設。旧名は孤児院。親による教育が厳しいと判断された、もしくは親を亡くし身寄りのない子などが生活している場所。施設は家事、学習、などの生活全般をサポートしてこどもの自立かつ社会復帰を試みる場所。
オレは子供たちをみる。皆笑い合ってはしゃいでいた。




