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そしてメールは、唐突にやってくる

ところで。


突然だが、この世の中のありとあらゆる物を限界まで顕微鏡でズームしていくと何にたどり着くか知っているだろうか。


それは素粒子である。


素粒子とは物を構築する最小の物質である。

たとえば、このオレの右手もこの制服もミクロまでクローズアップすると素粒子というものにたどり着くのだ。素粒子はもちろん肉眼で見ることができない。こういった小さな小さな世界を勉強する学問のことを量子論という。その素粒子をもとに成り立っているのがご存じ、原子だ。

ガチャポンのカプセルを想像してもらいたい。丸いプラスチックのカプセルだ。

机の上に一つのカプセルが置いてあると仮定しよう。そのカプセルを原子としよう。

そのカプセルの周りにビー玉がいくつか置いてある。ビー玉は無造作に動いているとしよう。このビー玉、これが電子だ。電子も素粒子の一つである。カプセルの中にもビー玉がいくつか入っている。カプセルの中のビー玉は陽子と中性子というものだ。これらもカプセルの中で縦横無尽に動き回っている。


この粒子たちには面白い事実がある。


中性子を例にとってみよう。


この中性子をとある時刻、たとえば3時00分00秒にとある場所Aで観測したとする。普通なら3時00分00秒にA地点で観測したとしたならば他の地点B、Cでは存在しない。あたり前だ。オレが家でおやつを食べているときにもう一人のオレが学校で勉強しているなどありえない。なぜならオレは二人もいないのだから。


――ところが量子論ではそれがあり得てしまう。


なんと3時00分00秒にA地点でもB地点でもどちらにでもいることができるのだ。驚きだ。しかもその状態は一定ではない。つまりA地点、B地点で粒子が重なり合った状態であるという事だ。大変興味深い事実だと思う。


この不思議で奇妙な事実に対しての考え方で『多世界解釈』というものがある。


それは我々が住むこの世界は一つではなくいくつもの世界が重なり合っているという考えだ。3時00分00秒にオレが家でおやつを貪り食べている世界と学校で勉強している世界。もしくは衣川と帰っている世界かもしれないし、夕浜に脅されている世界かもしれない。そういった様々な世界がいくつも存在するという考え方だ。


この考え方を応用すると、A地点にいる世界とB地点にいる世界の二つがあるとなる。先ほどの粒子の奇妙な性質を説明することができるのだ。もちろんこの考え方に否定的な人も多いがオレ個人は賛同している。


オレたちの住む地球、日本、この社会で毎日起きる星の数ほどある『出来事』。


その多くの出来事の中の一つにオレたちは生きている。その一つの出来事にかかわったり、かかわらなかったりする。日常でその出来事に触れたり、テレビで、どこかで起きた出来事に触れたりするかもしれない。


そんなとき何かしら考えることや感じることがあるだろう。「すごい」や「きれい」や「うざい」などそんな簡単な感想でも多少はあるはずだ。無意識でも絶対感じているはずだ。しかしオレはいつも思う。


――それだけなのか、と


物事は一面ではない。ダイヤモンドのようにたくさんの面をもって成り立っているのだ。


出来事の一つの面、事実だけをみて簡単に出来事を判断していいのだろうか。


もっと重要な事実がほかにあるのではないだろうか。それは多世界解釈のように目に見えていることだけが真実ではない。じつはその裏にもっと重要な事実が隠されているはずなのだ。



オレはテーブルのうえにおいてあるココアを一口すすって気障に息をついた。ソファに寝転んでいる妹から非難の声が上がった。


「変態、さっきからぶつぶつうるさいぞ」


オレは前髪を手の甲で払う。菜子にはわからないだろう、これが大人の哲学なのだ。


「菜子、ゲームもいいが目が悪くなるぞ」


菜子は最近はまっているというゲームガールという携帯ゲーム機であそんでいた。注意しても兄としての威厳がないのか聞く耳なしである。しかしそんなに熱中するソフトなのだろうか。

オレはどれどれとソファに近づく。画面では派手な色をした車が高スピードで疾走していた。画質がすごくいい。左下のスピードメーターは三百km毎時を軽く超えている。超音速の車とは手に汗を握るな。というかレーシングゲームか、もっと乙女チックなものを想像していた。妹が操縦する車は次々と他の車を追い抜いて行っている。どうやらスタートは最下位から始まり、コースを三周するまでに1位を取るゲームのようだ。


「っよ」


妹は現在、首位を走る敵と争っている。最終ラップで残りはもうほとんどない。最後のコーナリング。菜子はボタンをせわしなく操作する。画面の中の車が絶妙なタイミングでドラフトした。完璧であった。見事に壁にも当たらずコーナーを曲がり切った菜子は一位でゴールした。口の端を上げて微妙に笑う。


「流石あたし」


オレはふと思ったことを口にした。


「あれ、おかしいな」


「なにが」


「だってこの元一位の敵ってすごく速くてストロングなわけだろ?」


「そうだ、勝ったけど」


「でも菜子は最下位からスタートしたんだ。で最後は実力が拮抗していた。おかしいよ。この元一位は「はやく菜子こないかなー」ってずっと待っていたのか、そうじゃなきゃ追いつける訳がない」


「……たしかに」


むむと唸って眉をひそめる。


「なんで勝って気分いい時にそういうこと言うんだ。ばかなのか?」


おんやまあ、それが兄に対する口のきき方か? 菜子はオレにゲームガールを押し付けた。


「まったく馬鹿にして。兄貴じゃ絶対勝てない」


頬にめり込むゲームガールを受け取る。


「いいだろう、後悔するなよ」


オレはゲームガールを菜子の頭越しに構えた。


「な、なんでこの体勢で」


まずは車の選択である。スタイリッシュな青のスポーツカーを選択した。羽がかっこいい。色変更。ショッキングピンク。コース選択。円状のいたってシンプルなものをチョイスした。


「お、おい、耳くすぐったい」


身をよじる菜子を無視してゲームを開始する。車の頭上に数字のカウントが現れて0になった。ズンズンズンとヤンキー車そっくり、陽気なBGMが流れ始める。


「アクセルはどこだ」


進まない。適当に押しまくる。しかし車は思うように動いてくれず進むべき方向とは逆に向いてしまった。そこでアクセルボタンの位置がわかった。車は逆走していく。


「ちょっ――っ、や、やだ」


ぐんぐん加速していく。楽しいっ。百kmを超える。しかし加速の余地はまだまだあるようだ。いけえっ! 周りの景色が後方へとながされていく。ふと前方に動く何かが見えた。


一位だ。一位の車が間抜けに近づいてくる。一位との距離が百mほどになると奴のスピードが心なしか少し落ちた。驚いたか? そうやってオレが来るのをのうのうと待っていたか? オレが必死こいて追ってくると思ったか? 残念だったな。その幻想をぶち殺してやる。オレは一位の車へと正面からぶつかって行った。


「っもう! はなれろっ」


顎に鈍痛。菜子が頭突きをかましてきた。床に転げる。妹の睨みを受けつつ仰向けになっていると尻ポケットが振動した。携帯の着信だ。誰からだろう。


from 霧子

件名 やれやれ。

本文 やれやれだ。何がやれやれかって? 今日の僕に対してだよ。眠かったとはいえ君に迷惑をかけてしまった。すまない。心から謝らせてもらう。


「衣川……」


「霧子さん?」


菜子が覗き込んでくる。返信画面を開いて文字を入力していく。


to 霧子

件名 無題

本文 別にいいよ 今度何か奢ってくれたら。はっは


アイツは気にしすぎなんだ。怒ったりなどしてない。返信してから数十秒ですぐに帰ってくる。


from 霧子

件名 いいだろう。

本文 何が所望だ?


「メールは後でいい、ゲームしよう」


菜子が携帯を握って揺らす。やめなさい。


to 霧子

件名 無題

本文 じゃあ 今度休みの日にでも 駅前のハンバーガー おごってくれ


from 霧子

件名 ハンバーガーとは体に悪いね。

本文 けどやぶさかでもない。太ってしまうと思いつつも食べてしまう。まったく中毒の一種だ。ニコチン中毒と何ら変わらないね。そのデートの申し込み受けよう◎GOOD!


なにがデートだ。グッドじゃないよまったく。

携帯をわきに置くと目の前に菜子の不機嫌な顔があった。


「キモ」


「はあ?」


「キモい、ホントに。鼻の下伸ばして。キモい。鼻の下床に届きそう。キッモ」


なんだ、とつぜん。路地裏の不良でさえそんな理不尽な怒り方はしないだろ。それと生物学的に考えて鼻の下はそんなに伸びない。


「もういい、あっち行け」



足蹴にされてソファから強制的に退かされてしまった。突然癇癪を起す子供でもあるまいし菜子にはもう少し精神年齢を上げてもらいたいものだ。と突っ立っていると再び手にバイブレーション。まだ何かあるのだろうかと思いつつ携帯を開く。


from 不明

件名 こんばんわ

本文 こんばんわ、道後君。夕浜です。ご飯はもう食べましたか?

それとも食べているところでしょうか?

今日の道後家の夕ご飯を当ててみましょう。……ラタトゥイユ風の野菜煮です。ふっふ、どうですか? 合っていますか? 道後君の家のご飯はおいしそうな気がします。今度食べに行きたいですね。


――最後のテストです。


今晩、午後八時半に浦見駅近くにある〇〇デパートの屋上へ来てください。〇〇デパートの屋上のカギは開いているはずです。その際に誰にも見つからないようにお願いします。また、帽子を被ってきてください。デパートは二十階までエレーベーターを使い、そこからは階段でお願いします。

道後君には迷惑をかけている事はわかっています。申し訳ないです。ですが何卒お願いします。

 

そういえば明日はアニメのエンジェルプリンセスが放送する日です。知ってましたか? 見てくださいね。


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