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第8話(5月)〜人の皮を被った鬼〜

読者数が300名を突破しました。自分のような若輩者の作品を読んで頂けているだけでも、とても嬉しく思います。完結まで精一杯頑張りますので、これからもよろしくお願いします。あと、感想、酷評お待ちしております。どんどん書き込んでやって下さいm(_ _)m

 ホームルーム開始五分前の廊下には、何時もと同じように様々な音が混ざりあっている。

 遅刻しないようにと走る靴音。

 壁越しに聞こえる、机と椅子がぶつかりあう音や、賑やかな話し声。

「……すぅー」

 そんな喧騒の中、俺は「3─C」と書かれたプレートが掲げられている扉の取っ手に右手をかけ、大きく息を吸い込んだ。

 どこか埃っぽい、学校特有の空気で、肺が満たされる。

「……はぁー」

 吸った空気を、ゆっくりと吐き出す。

 同じ行動を二度繰り返して、ようやく決心がついた。

 右手に力を込める。

 滑りの悪い引き戸が、耳障りな音をたてながらスライドした。

「…………」

 何時もと変わらない、朝の教室風景。

 数人が俺の方をちらりと見るが、すぐに興味をなくして視線を元に戻し、近くの友人と下らない会話を再開した。

 どうやら昨日と今日の事は、誰も知らないらしい。こっそりと安堵のため息をもらす。

 ……ま、よくよく考えてみりゃ、俺みたいなのが女と二人乗りしてたくらいで、噂になるわきゃねぇか。

 苦笑しながら一歩足を踏み出した次の瞬間、

「…………けぇーすけぇぇぇぇぇぇ!」

 叫び声と共に背後から衝撃。

予期せぬ攻撃に、俺はたまらずうつ伏せに倒れ込む。

教室にいる生徒の視線が、一斉にこちらに集中してしまい、かなり恥ずかしい。

 犯人の目星は大体ついているので、両腕で上半身を起こしながら後ろを振り返る。

「っ! 何しやが……る……」

 照れ隠しの怒鳴り声は、俺の背後に両腕を組んで立っている男の顔を見て、尻すぼみになっていった。

「ふしゅるるる……」

 人の姿をした鬼が立っていた。

 額には天に向かって伸びている一本の太い角。

 鋭い牙が生え揃う口の隙間から、白い蒸気が漏れ出ている。

 それらの幻覚が、鬼もとい上野の背後からにじみ出ているどす黒い怒りのオーラによるものなのかは定かではない。

「ぅ……ぁ……」

 ……あ、やばい俺殺されますか?

 高井田佳祐、この世に生を受けて17年とちょっと。

 今初めて、命に関わる窮地に立たされた恐怖というものを感じている。

「……佳祐」

 かなり声色が低い。

 見た目からして言うまでもないかもしれないが、かなり怒っていらっしゃるようだ。

「何でしょ……な、何だよ?」

 恐怖に駆られて敬語で返事しようとしたのを堪えたのは、俺に残された最後の意地、というやつだろうか。

 それにしてもこの怒りよう……まさか夏乃と一緒にいるのを見られていたのか? だとしたら本当に命に関わる。

 上野は現在まで女ッ気も色気も無い人生を過ごしてきた人間なのだ。


 こんな事件がある。

 高校2年の十一月も半ばを過ぎた頃のある日。

 六限目の英語の授業も残すところ後十数分で、来る放課後の開放感に、教室内が微かに騒がしくなってきていた時だった。

 教師が黒板に、教科書の英文を書き写している時、それは起こった。

 上野がいきなり席から立ち上がり、

「……ぉぉぉぉおおおおああっ!!」

 雄叫びと共に、手に持っていた何かの本を真っ二つに引き裂いたのだ。

 誰もが予期せぬ(予期出来る筈が無い)事態に、全員が上野の方を見たまま、教室内の時が止まった。

 大声に驚いて、俺の手元にあった大学ノートの書きかけの「a」の文字が「q」みたいになってしまっていたのも覚えている。

「うああああぁぁぁぁっ……!!!!」

 上野はほんの数秒前まで本だった紙切れを床に教室の床に渾身の力を込めて叩きつけると、何故か涙を流しながら教室から出て行った。

「……う、上野、ちょっと待ておい!?」

 数秒遅れて教師が後を追いかけていく。

 後に残された俺達生徒はただただ困惑するばかり。

 とりあえず上野の破り捨てた本に原因があるのではと、床の残骸を拾い上げる。

 表紙に書かれていた文字は、

『電 ○ 男』

「……………………」

 数十分後、上野は教師と共に教室に戻ってきた。


 上野は後にこう語っている。

「最初は主人公の事を心の中で応援していたのだが、読み進めているうちに、ラブラブムードが強まっていく主人公とヒロインにムシャクシャしてやってしまった。反省はしているが後悔は欠片も無い」


 その日の放課後、彼が職員室に呼ばれたのは言うまでも無い。

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