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第5話(5月)〜仲直り〜

 俺達の間に流れる気不味い沈黙。

 展望台の手摺を握ってうつむく夏乃の横顔を、何も言わずにじっと見据える。

 公園の水銀灯には灯が点もり、俺が通う高校の方から微かにブラスバンド部の合奏が聞こえてくる。

 それからどれくらいの時間が流れただろう?

 やがて夏乃は意を決したようにこちらに向き直ると、

「……何で佳ちゃん、私のこと避けるようになったの?」

「……は?」

 全く想定していなかった質問に心がドクンと跳ね上がるも、内心の動揺を悟られまいと、表面上は平静を装い、質問の意図を図りかねる、とでもいうように眉をひそめる。

「佳ちゃん中学三年生の終わり頃から急に佳ちゃん冷たくなった。学校で話しかけても無視するし、朝学校に行く時間わざと私とずらしてたし、放課後待ってても、いっつも先に帰っちゃってたし……」

「いや、そ、それはその……」

 あの日の放課後、お前と誰かが喋っているのを聞いたから、と言った所で何年も前の事を覚えていない可能性の方が高いし、もし仮に夏乃が覚えていたとしても、そんな事を言える筈が無い。

 この期に及んで、彼女に自分の恋心を知られてしまう事を避けたいと思う、臆病な自分がいた。

 俺の仮面はあっさりと砕け、いつの間にか立場は逆転。うろたえる俺に夏乃が更に続ける。

「私すっごい悲しかった。私が佳ちゃんの事知らないうちに傷付けてたのかもしれないって、そう思った。だから、しつこくくっついたりして、これ以上佳ちゃんに嫌われたくなかったから、私も佳ちゃんと距離置いてたの。いつかは、また昔みたいに戻れると思って」

「い、いや、それは……っ!」

「だから、今日佳ちゃんが私に付き合ってくれてすっごく嬉しかったし、安心した。もう私の事許してくれたのかな、って」

 ──違う。お前は何も悪くない。お前が謝る必要なんて全く無いんだ。悪いのは全部俺なんだ。

 そう言いたいのに、俺の自分勝手なわがままで、夏乃の心に要らぬ傷をつけ、深く思い悩ませてしまった事を謝りたいのに、声が出てこない。

 そんな俺の心の内の想いを知る術の無い夏乃は更に続ける。

「私ね、東京の大学受けようと思ってるの」

「え……?」

 東京と言えば、ここから行くだけで、どれだけ安く見積もっても軽く五、六万円はかかる。 往復すれば、単純計算で十数万円。

 加えて夏乃の父親はこの街に引っ越して来た時点で既に亡くなっている為、今日まで女手一つでどうにか支えられていた宮下家は、それ程裕福な家庭じゃない。

 つまり、もし彼女が大学に合格すれば、少なくとも卒業までの四年間、この町に戻って来れない事意味している。

「私ね、佳ちゃんに嫌われたままこの街とサヨナラしたくない。何て言うか、そんなモヤモヤ残したら、私大学受かって東京行っても、きっと頑張れないと思うから、だから……佳ちゃん、昔みたいにまた私と仲良くしてくれませんか?」

 先程までのちゃらんぽらんな態度とはうって変わって、真剣な表情で俺を見据える夏乃。

 その視線が余りに真っ直ぐで、今の俺には受け止める事が出来ず、たまらずに目を逸らした。

「駄目……かな?」

 それを拒否されているととったのか、不安げに問いかけてくる夏乃。

「え、あ、いや、そんな事は……」

「じゃあ仲直りしてくれるの!?」

 一瞬で顔がぱぁっと輝く。

「あ、あぁ……」

 俺にはただ頷く事しか出来なかった。

 断わりたかったわけじゃない。

 俺が織愛を避けるようになった本当の理由を話してもいないのに、謝ってもいないのに夏乃と昔のように仲良くするのは、何と言えばいいのか……とにかく何だか気が引けたのだ。

「ありがと佳ちゃん! それじゃ、はいっ!」

 いきなり右手を差し出してくる織愛。

「……?」

「ほらぁっ!」

「? だから何だよ?」

「むー……仲直りの握手だよっ!」

「あ? あ、あぁ、はいはい」

 夏乃は言われるがままに差し出した俺の右手をぎゅっと握り、上下に二回大きく振った。

「はいこれで仲直りっ! これからまたよろしくね!」

 えへへー、と満面の笑みを浮かべる夏乃。

 その笑顔が昔のイメージと重なり、俺は赤くなった顔を背けた。


 結局、そのまま俺は何も言い出す事が出来ずに、夏乃を後ろに乗せて坂を下っていった。


二人の仲直りもすみ(?)次回から本格的に物語が動き出す……んでしょうかね?w

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