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第4話(5月)〜二人乗りと夕焼け〜

投稿開始から3日でアクセス数100突破ってのは多いのか少ないのか……とにかく呼んでくださってる方にはいくら感謝してもし足りませんです。読んだ感想、批評など書き込んでくださると作者が泣いて喜びますので、お暇な方はよろしくお願いします。それでは本編をどうぞ。

「……っはあっ……っはあっ……」

「うわわっ危ないってばっ! ほ、ほら佳ちゃん頑張ってっ! もうちょっとで坂道終りだよっ!」

 俺達の乗る自転車は高校を出発した後、家とは真逆の方角にある上り坂を走っていた。

 後ろに夏乃を乗せているから立ち漕ぎが出来ず、サドルに座ったままの姿勢で、大きく左右に蛇行しつつ、どうにかのろのろと進んでいる。

 何故そんな事になっているのかを説明するには、俺が駐輪場から自転車に乗って、校門前まで戻ってきたところまで時間を遡らないといけない。


「いいか? しっかり掴まっとけよ? んじゃ出発すっぞ」

「……あっ! ちょちょちょっと待ってっ!」

「っ!? いきなり襟引っ張んな危ねぇだろ馬鹿っ!」

「ご、ごめんなさい……」

「ったく……で? 何?」

「えとその、家帰る前にちょっと寄ってほしい所があるんだけどもなー……」

「寄ってほしい所だあ? 明日じゃ駄目なのかよ?」

「う、うん、出来れば今日がいいの……駄目、かな?」

「面倒臭えなぁ……どこ連れてけってんだよ?」

「さっすが佳ちゃん! あのね! 展望台公園まで連れてってほしいの!」

「はあ!? 自転車二人乗りであの坂上れってのかよ!? やっぱ駄目だ! 真っ直ぐ家帰っぞ!」

「ええっ!? 連れてってくれるって言ったのにっ! 佳ちゃんのケチっ! 鬼っ! 悪魔っ! 詐欺師っ!」

「あーはいはいもう何とでも言え。てかそんなに行きたきゃ一人で歩いてきゃいいだろ?」

「そんなぁ……ぐすっ……ひっく……」

「!? いやお前ちょっと待っ……だーもー分かったっ! 連れてってやるからいい年してすぐ泣くなってのっ!」


 ──こいつに泣かれると弱えんだよなぁ俺。

 ……というわけで女の涙に負けた俺は、夏乃の要望通り、公園へと続く坂道を登る事となった。


 ほんの数分前までは、時折すれ違う人達(犬を散歩させる主婦、ウォーキング中の老夫婦、仕事帰りと思しきサラリーマンetc……)が、俺達に好奇の視線を浴びせかけながら通り過ぎていたのだが、頂上に近付くにつれて人通りもかなり減ってきた。

 辺りは無駄に静かで、高校入学時に買ってから一度も油を挿していないペダルの軋む音と俺の荒い息遣い、そして夏乃の声援が時折聞こえるだけだ。

「……っはぁっ……っはぁっ……お前がっ……乗ってっからっ……余計にっ……体力っ……使ってんだよっ!」

「あ、何よそれー、私が重いのが悪いって言ってんの? 駄目だよ佳ちゃん、女の子に体重の話すると嫌われちゃうんだよ?」

 肩をいからせ上半身を前後に揺らしながら自転車のペダルを踏む俺の両肩に手を乗せ、体を横に向けて座り、楽しそうにけらけらと笑う夏乃。

「んな事はぁっ……どーでもいいからぁっ……お前は降りて歩けってのぉぉっ!!」

 ヤケクソ気味な俺の叫びが、夕暮れの住宅街に響き渡った。




 ◇………◇………◇




 民家に挟まれた細い坂道を登りきった先には、俺達の住む街の景色を一望出来る展望台を中心とした、大きな公園がある。

 少々年代物で錆び付いてはいるが、滑り台やブランコ等の遊具も充実しており、日中には学校帰りの小学生や幼稚園児の遊び場、小さな子供を連れた主婦達の井戸端会議の会場となっているのだが、太陽もその姿の大半を地平線に沈めてしまった今の時間、園内に人影は無い。

「……っぷ……おぇっ……」

 数百メートルの急勾配を二人乗り自転車で走破した俺は、赤茶色の煉瓦が敷き詰められた地面に両の手足を投げ出し、横倒しになった自転車の隣で仰向けに寝転がって、胸にこみ上げる想い、もとい吐き気と戦っていた。

「よかった間に合ったぁ……ほらぁ佳ちゃーんっ!そんな所で寝っ転がってないでこっちおいでよぉっ!」

 そんな俺の気も知らず、展望台の頂上の、落下防止用に設置されているフェンスの中程に足をかけて身を乗り出し、はしゃいでいる夏乃。

「……あんの野郎っ……誰のっ……せいだと……思っ……っぷ」

 ここで下手に怒鳴ってまた夏乃に泣かれてはたまったものじゃない。まあどうせ、それ以前に怒鳴る程の余裕が無い。

 息も切れ切れに悪態をつくと、俺はゆっくりと身を起こし、墓から這い出て来たばかりのゾンビのような重い足取りで、展望台の階段を手摺につかまりながら一段ずつ上っていく。


「ほら早くこっち来て見て見て!」

「お前は本っ当いい加減にし……」

 手招きする夏乃の元へ辿り着く頃には息も少しは整い、やっぱりこいつにゃ一度しっかり説教してやらなければと口を開きかけた俺は、展望台からの景色を見た瞬間、言葉を失った。

 沈む夕陽に照らされ、光のオレンジと影の黒とのコントラストが映える街はどこか幻想的で、いつも見慣れた自分の住んでいる街とは思えない。

 芸術的な感性は欠片も持ちあわせていない俺でも素直に美しいと思える、そんな光景が俺の眼下に広がっていた。

「えっへへーすごいっしょ? ここ最近の私のお気に入りの場所なんだよねー」

 俺の隣で誇らしげに腰に両の拳をあて、えっへんと年齢相応に発育した胸を張る夏乃。

「いや、まあ確かにすげぇんだけど……そんで?」

 視線を固定したまま、夏乃に問いかける。

「? そんで、って?」

 質問が質問で返された。

「いやだから、何か用事があっからここ来たんじゃなかったのか? 出来れば今日がいいんだけどーとか何とかっつってたし……」

 更に質問で返す。

「…………あ、あれ? わ、私そんな事言ったっけか?」

「…………」

「いや、あの、その……」

 舌打ちをして、大きなため息をつく。

 うろたえる夏乃の様子から、しっかりと思い出しているのは火を見るよりも明らかである。その上でシラを切ろうとしてるという事はつまり、だ。

「……宮下夏乃さん? わざわざあんなキッツイ坂道上らせてまで俺をここまで連れてきた理由をお聞かせ願おうか?」

 夏乃は用事があったわけではなく、何かしらの目的があって俺をここに連れてこようとしていた、という考えに到る。

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