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第24話(7月)〜恋愛か友情か?〜

 ◇………………◇………………◇



「俺試験の度に思うんだけどよ、太陽がまだ頭の上にあんのに家帰るってのはどうも違和感ねえか?」

「あー何となく分かるかも。私達帰るのっていっつも夕方だもんね」

「しかもこんだけ早いと帰っても特にすることが無え」

「あ、それなら勉強す」

「却下する」

「そう言うと思ったけどさ……でも何かあるでしょ? 年頃の男の子らしくゲームとかえっちい本鑑賞するとかさ」

「えっちい本てお前……んなもん真っ昼間から見る奴ぁいねえよ」

「あ、えっちい本持ってるってトコに関しては否定しないわけですねお兄さん?」

「そりゃ俺だって年頃の青少年だからな。そういう本の一冊や二冊……って何言わせてんだ馬鹿」

「別に私はそこまで訊いてないんだけどなー」

「ぐ……あーくそ、コンビニで立ち読みでもして時間つぶせばよかった」

「後悔先に立たずってねー。一応言っとくけど、こっからまたコンビニまで戻るのはワタクシ断固反対でありますたいちょー」

「安心しろ。俺もんなことするつもりはねえ」

 ――……そう言や、こうして二人で他愛も無い話をしながら下校するようになって、気が付けば二ヶ月が経ったのか。

 最初の頃はいつかクラスメートに見つかるんじゃないかと気が気じゃなかったのだが、今となっては見つかったらその時だろうと最早開き直ってしまっている自分だったりする。

 帰宅してから、こちらも毎晩恒例となってしまった勉強会までの余暇は全て睡眠に使ってしまおうか、なんてぼんやり考えていると、

「あ、そうだ」

 不意に夏乃が口を開いた。

「ん? どうした?」

 隣を走る夏乃の方に顔を向ける。

「うん、今考えたんだけどさ。よーやっとテストも終わったわけですが、佳ちゃんも流石にそろそろ疲れが溜まってきてるんでない?」

「そりゃまあな」

 試験一週間前に突入してから勉強会は毎晩日付が変わるまで行われていたので、慢性的な睡眠不足であることは否めない。

「でしょでしょ? だからさ、ご褒美その一ってことで特別に今週のお勉強会はお休みにしたげます」

「今週って……今夜含めて3日しかねえじゃねえか……」

 今日は金曜日である。うちの学校は来週から一週間の試験休みに入るが、どうせその大半を夏乃と図書館で過ごすことになるのだろう。

 いや、『夏乃と一緒に過ごす』ことに異議は無いのだ。

 と言うかむしろどんと来いってな感じである。

 その間に「図書館で受験勉強をして」って言葉が入らなければの話だが。

「あ、そんな文句言うならやっぱり今の発言無かったことに」

「ごめんなさい勘弁して下さい……」

「んむ、素直でよろしいっ」

 そう言って満足げに頷く夏乃。

 俺の扱い方にも随分慣れてきたらしく、最近はこんな感じで俺が言い負かされることが殆どだ。

 最初の頃はことある毎に謝ってきたからどうなることかと思ったが、これはこれで中々に複雑なものがある。

「はあ……で? ご褒美その一っつーからにはその二があんだろ?」

「そりゃもちろんです。ご褒美その二はっ! だららららら……」

 ……ドラムロールのつもりらしい。

 どうでもいいが巻き舌上手いなこいつ。俺だったら多分二秒も保たない。

「ららら……ほら佳ちゃん! じゃじゃん! とか何とか言ってくれなきゃ終わんないでしょ! これ結構疲れるんだからね!」

 そう言って再びドラムロール(?)を再開する夏乃。

 自転車運転しながら巻き舌やってりゃ疲れるのも当然なんだろう。やったこともないし、別にやろうとも思わないが。

 ……それにしても、このまま放っておいたらどこまで続くんだろうか?

 いや、かなり気になるところではあるが、そんなことをすれば貴重な三日間の休日が隣を走る暴君によって消し飛びかねない。

「はいはいわーったよ……じゃーじゃん!」

 ……誰かが聞いてるってわけでもないのだが、かなり恥ずかしいものがある。

 かなり投げやりな合いの手だったのだが、それでも夏乃は一応満足したらしい。大きく息を吸い込むと、

「せっかくの休日だってのに一人で寂しく過ごすしかない可哀想な青少年のために、ワタクシこと宮下夏乃ちゃんが一日デートしたげます!」

「…………ああ」

 そう言えば、『試験が終わったら一緒に映画を観に行こう』なんて約束をしていた記憶がある。

「む、何よそのいまいちなリアクションはー? 私と映画行くのがそんなに嫌?」

「あ? あ、いや、別にそういうわけじゃねえんだが……」

 少し前までの俺ならここで内心小躍りしそうなほどに喜びそうなものなんだが、『デート』という単語を訊いて、一瞬、美月の感情表現に乏しいあの顔が頭をよぎった。

 と同時に、美月に告白された日、恋愛相談をしたときの、いつもと変わらなかった夏乃の態度が俺の心に追い討ちをかける。

 そうなるともう、例え夏乃とのデート(?)であっても素直に喜べない。

「だが何なんなの……あー。もしかしてこの前言ってた美月さんが気になるとかー?」

 ……女の勘ってのは恐ろしいと、俺はこの時初めて実感した。

「そ、そんなんじゃねえよ。あいつは別に関係ねえ」

 無駄だとは分かっていても、精一杯の虚勢で平静を装う。

「ふーん……ま、佳ちゃんがそう言うならいいけど」

 図星だということくらいとっくにばれているはずだが、しつこく言及してこない辺りはこいつなりの優しさなんだろう。

 その証拠に、夏乃の顔はこれでもかというくらいにニヤついている。

「ちっ……それで? 映画にゃいつ行くんだ?」

「あ、それなんだけどね。駅近くの映画館、毎月第二と第四土曜日はカップルで行くとチケット半額にしてくれるんだってー。だから明日行こ?」

「随分とまた急な話だなおい……」

 まあ確かに、今日は七月第二週の金曜日だが、まさかこいつ、そのために俺を映画に誘ってるんじゃなかろうか?

 そんな疑念が浮かんでくるが、一ヶ月前からの約束だ。例え動機が不純であれ、勉強以外の目的で夏乃と休日を過ごせるわけだし、ここでわざわざ反故にするほどの理由なんて……ってちょっと待て。

「あー……なあ夏乃? その映画ってのは明日じゃなきゃ駄目か?」

 つい先程、北澤達とも遊ぶ約束をしていたのを思い出した。

 好きな女の子とのデート(?)やら、お財布事情やらといった私情を抜きにして考えてみても、優先順位的に言えば前々から約束していた夏乃との映画が上だ。

 だが、正確な日時が指定されたのがたった今だということを考慮に入れると、順位云々はなかなか微妙になってくる。

 まあ何はともあれ、どちらかの予定をずらす必要性が生じてくるわけなのだが、

「駄目とは言わないけど、その代わり明日の午前中は『図書館で勉強コース』に変更となります」

「…………」

 要するにこっちの約束は明日じゃなきゃ駄目らしい。

 ――……さて、北澤達にゃ何て謝りゃいいかな。

 詫びをいれるのは早いに越したことは無い。

 どこか機嫌が良さげな夏乃に聞こえないように小さくため息を吐き、あの三人を納得させられるようなもっともらしい言い訳を考え始める俺であった。

 そんなこんなでやっとこさデート?開始ですw


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