第19話(6月)〜いつも通りの彼女〜
「ふむふむ……そいで佳ちゃんは返事保留して帰ってきたってわけですな」
「オチを先に言うんじゃねぇよ……ってお前何で分かった?」
「そりゃあ伊達に十年以上佳ちゃんと幼馴染やってませんですから」
ベッドの上で上半身を起こし、腕を組んだ夏乃は自慢げにふふん、と鼻を鳴らした。
◇…………◇…………◇
「わ……悪い。いきなり過ぎて混乱してる。返事するまで少し時間をくれ」
悩んだ末に頭で出した結論は、
「ここで早急に返事をするのは双方にとって得策ではない」
という、体のいい問題の先延ばしだった。
「少しって……どれくらい?」
ほんの少し、いつもこいつの顔を見ていないと分からないような、微妙な変化ではあるが、不安げな表情を浮かべる美月。
彼女の身長はちょうど俺の目の高さであり、上目遣いで見上げるような形になってしまっている。
「……っ」
その視線が俺の本能に揺さぶりをかけた。
──この表情は……可愛いってか……キツい。
心臓の鼓動が少しずつ早くなってくるのが、自分でも分かる。
「高井田君……?」
「うぉっ!? おぉう……あーっと……ごめん。どれくらいとは言えないんだ。自分の気持ちに整理つける時間が欲しいんだ。返事は必ずするから……頼む」
「……分かった。待ってる」
◇…………◇…………◇
「……まあ、てなわけでその場は別れた」
話し終えてから、ちらりと夏乃の表情を窺う。
「ふーん……それで?」
その表情に動揺は見られない。良くも悪くも、
「いつもと同じ」
夏乃がそこにいた。
「そ、それでって……まぁ、その、俺ぁ今まで告白なんてされた事がねぇからよ、どうしたもんかと……」
「簡単な話じゃん。その子、美月さんだっけ? 美月さんの事が好きならオッケーすればいいし、そうじゃないなら断ればいいわけなのです」
言葉にすればとても単純。
とても単純で、単純過ぎるから、とても難しい。
「いや、確かにその通りなんだけどもよ……」
言葉を濁す俺を見て、夏乃は呆れた表情でため息を吐いた。
「……あのね佳ちゃん、初めて告白されて混乱しちゃってる気持ちはよーく分かるよ? けどさ、こーゆーのって自分で考えなきゃ駄目だと思うんだ」
「……」
「例えば私がその美月さんと付き合った方がいいよって言ったとするじゃない? それでさ、私にそう言われたしその通りにして付き合おうかなー、とかって決めるような事じゃないと思うんだよね」
「そ、そんなん俺だって」
──分かってる。分かってはいるけれど、それでも……。
「うん、佳ちゃんなら大丈夫だと思うけどさ、それでも大事な事だからやっぱり言わしてもらいたかったんだ。ひょっとしたら佳ちゃんにとって一生もんの選択になるかもしんないんだしさ」
そう言って夏乃は、熱に浮かされた真っ赤な顔で、朗らかに笑った。
◇…………◇…………◇
俺はどんなに控え目でもいいから、ちょっとした動揺でも構わないから、夏乃に反対の意を示して欲しかった。
そういう事言わない奴だと分かっていても、それでも望まずにはいられなかった。