第18話(6月)〜選択〜
実は数日前までちょいと入院しちゃってまして、久々の更新です……少し長めかもしれません。
俺の右の耳元で、上野の顔をした悪魔が囁きかける。
「いーじゃん話しちまえよ佳祐。夏乃のリアクション次第で彼女の本音が分かるぜ? 自分の好きな男が他の子に告られたーなんて聞いて慌てねー女なんざいねーだろ?」
……その言動が何故だかムカつくのはさて置き、上野の顔をしている癖に、悪魔の言い分には確かに一理ある。
すると今度は左の耳元で、北澤の顔をした天使が囁きかける。
「落ち着いてよく考えてみろ佳祐? この時点でもう既に何かあったって悟られてるんだ。ここで下手に隠したところで、嘘ついてるのはすぐにバレるだろう。下手に勘ぐられるくらいならさっさと本当の事話してしまった方が賢い選択だと思うぞ?」
……うん、まぁ北澤もとい天使の言い分ももっともと言えばもっとも……と言うかちょっと待て?
二人とも結果的に同じ結論に辿り着いているような気がするのは俺だけではないはずだ。
「だって……なぁ?」
悪魔が曖昧に同意を求めると、天使もやはり曖昧に頷き、
「いや……ここでしらばっくれる必要性を感じないと言うか、普通ここでそういう選択肢自体思い付かないと言うか……」
……成程成程おーけい分かった。つまり貴様らは、夏乃に
「何かあった?」
と訊かれた瞬間、しらばっくれようなんて選択肢が頭の中をよぎった俺はぶっちゃけ馬鹿だと、卑怯だと、そう言いたいわ
「どしたの佳ちゃん、いきなり黙りこくって?」
夏乃の声で我にかえった。
「……ん? あ、あぁ、いや、悪い、ちょっと内なる自分達と会話してた」
「……佳ちゃん私の風邪うつっちゃった? 熱とか無い?」
訝しげに俺を見つめる夏乃。当然だ。
「あぁ、いや、大丈夫だうん。問題無い」
「まぁ、佳ちゃんがそう言うならいいけど……。それで今日何があったの?」
「いや、その……何だ。まぁ、ちょっと相談乗ってくれるか?」
「相談? いーよん。お姉さんに何でも訊きなさい」
えへん、といった感じに、偉そうに胸を張る夏乃。
俺と夏乃が同年齢であるという、言うまでも無い事実には敢えて触れないでおく。
いちいち反応していたら話が進まないのだ。
「いや、それがだな……実は俺今日…………こ、ここ……こ告白、されちまってよ」
◇…………◇…………◇
ここで、美月に告白された直後まで時間を戻そう。
「突然で申し訳ないんだけど、私と付き合ってくれない?」
「……………………………………………………はい?」
仮に俺と同じ立場に立ったとして、ここで美月に告白される事を予想出来た人間が、一体体何人いるのだろう?
と言うか告白ってのはもっとこう、俺の下駄箱に
「放課後、校舎の裏に来て下さい」
とか書かれた手紙が入ってて、それでもって放課後校舎裏に行ってみると、俯き頬を赤らめた女の子がためらいがちに
「ず、ずっと前からあなたの事がす、好きでしたっ! もし今彼女とかいなければ、その……わわ私と付き合って下さいっ!」
なーんて言っちゃっ……げ、げふんげふんっ!
と、とにかくだ。告白というイベントにはムードというものが必要不可欠であり、少なくともこんな色気もへったくれも無い場所で、
「付き合ってくれない?」
などという一言であっりと済ませるような告白、俺は断じて認め
「聞こえなかったならもう一度言うわね。前から私は高井田君が好きでした。だから私と付き合って下さい」
だ、断じて認め……いや、今は何かもう、認める認めないの問題じゃない。
「あー……いや、その……」
正直、心は揺れていた。
もし仮に、夏乃と仲直りをしていなかったのなら、俺は迷わずに首を縦に振っていた。
成績優秀。
容姿端麗。
欠点と言えば、無表情と口の悪さくらいなものだろう。
そんな美月の事が俺は嫌いじゃないし、事実、仲直りするまで夏乃の事はもう諦めていたのだから。
しかし、夏乃と仲直りして、毎日登下校を共にし、勉強を教わっているうちに、中学校三年のあの日の想いに、再び火が灯ってしまった。
だからと言って今、夏乃の心が俺に向いているとは、三年という月日が流れて、夏乃が俺を異性として見てくれるようになったとは限らないのだ。
夏乃が求めているのは、あくまでもあの頃と同じ、
「幼馴染の高井田佳祐」
なのかもしれない。
それに対して、美月は俺の事を異性として好きだと言ってくれている。
交際を申し込んでくれている。
ここで美月の告白を受け入れるのは簡単なのだろう。 でもそれは彼女に、何より自分の気持ちに嘘を吐いてしまう事のような気がする。
しかし、美月の想いに応えたいと思う自分も、心の中に確かにいる。
「…………返事、訊かせてくれない?」
長い沈黙の後、真っ直ぐに俺を見つめる美月。
俺は……。