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第15話(6月)〜幼馴染と優しさと〜

 気が付けば「前へ〜」のアクセス数が1000名を突破&「僕の〜」のアクセス数が200名を突破しておりました。訪問してくださった皆様に感謝の意を示すと共に、今後もどうか佳祐達の恋模様をのんびりと見守ってやって下さるよう、お願い申し上げます。

 などと堅ッ苦しい前置きになりましたが、要はこれからもよろしくお願いしますという事でwww

「……っとに占いなんてのは信じらんねぇな……っと」

 苛立ち交じりに呟き、俺は焼却炉にゴミ箱の口を突っ込んだ。

 仮にあの占いが本物だというなら、学校に遅刻して教師に怒られ、高熱で苦しんでいる幼馴染の容態を心配していたら教師に授業に集中しろと怒られた後に立たされ、それでもどうにか一日の授業を終えてさぁとっとと帰ろうと思ったところで今週は掃除当番である事を思い出し、挙句の果てにゴミ捨て当番を決めるじゃんけんに負けてしまうような人間の星座がランキング一位にならないだろう。


 行きよりも軽くなったゴミ箱を小脇に抱え、部活が始まっている事などお構い無しにグラウンドのど真ん中を横断していく。


 俺達三年生の教室は校舎の最上階である四階にあり、更に言えば焼却炉のある場所はグラウンドを越えた先にある体育館の裏だ。

そんな遥か彼方の地まで、メリットが無いのに自ら進んで行こうとする聖者みたいな奴など、この高校内(少なくとも今日の掃除当番の中)に存在するはずも無い。

 だからと言って誰かが捨てに行かなければ、翌日にはゴミ箱からゴミがあふれ出し、翌日、掃除当番が更なる苦労を強いられる事になるのは火を見るより明らかであり、仕方が無いからじゃんけんで公平に、一人生贄を決めよう、という結果になる。

 この校舎を設計した人物は、ここで日常生活を過ごす人間の事を考慮に入れていなかったのだろうかと考えながら昇降口のドアを開ける。

「やーやー負け犬の佳祐君ゴミ捨てご苦労!」

 俺達のクラスに割り当てられた下駄箱の前で上野が偉そうに腕を組んで立っていた。

「…………せいっ!」

 何だかその態度が癇に障ったので、無言でつかつかと歩み寄り、左脇に抱えていたゴミ箱を居合い斬りの要領で、上野の側頭部に叩きつける。

「ふ、ふぐぉっ!?」

 上手い具合にゴミ箱の角が当たり、上野の上半身が振り抜いたゴミ箱と共に左へ傾く。その先には下駄箱の角が。

「ぐがっ!」

 結果として上野は鉄製の下駄箱とゴミ箱にサンドイッチされる事となった。その場に蹲った上野の頭頂部に容赦無くゴミ箱を振り下ろす。

「…………!!!!!!」

 もはや悲鳴も出ないらしく、床をごろごろとのた打ち回る上野を敢えて踏んづけながら、俺は昇降口を後にした。




 ◇…………◇…………◇




 上野をボッコボコにした事で少し気分が晴れ、軽い足取りで階段を二段飛ばしで駆け上がっていた俺の足は、二階と三階の中間に位置する踊り場で停止する事を余儀なくされた。

「…………」

「ふっ……ん……」

 明らかに重量過多、といった感じの大きなダンボールを抱えた美月が、ふらふらと階段を登っていたのだから。

「…………」

 ……ここで俺に提示されている選択肢は二つ。

 一、助ける。

 二、見て見ぬ振りをして避けて通る。

 いつもの自分だったら迷わず前者を選ぶのだろう。しかし今日はそれを躊躇わせる要因がある。これ以上帰りを長引かせるような事はしたくないのだ。

 ――だからっつって。

 そう。だからといってか弱い女の子が目の前であんな重そうな段ボール箱を持っているのを見過ごしていいはずがない。しかも決して他人と言えるほどの間柄では無いのだから尚更である。

「…………っ!?」

 どうしようか俺が迷っているうちに、三階まであと数歩といった所で美月がバランスを崩した。体がゆっくりとこちらに傾いでくる。

「!? ……っだぁくそっ!」

 身体は反射的に動いた。ゴミ箱を投げ捨てて階段を駆け上がり、両手を伸ばす。




 がらんがらん、と音を立ててゴミ箱が下の階へ転がっていく。そして俺の腕は、

「……お前ってこーゆー時でも無表情なのな」

「高井田、君……?」

 美月ををしっかりとキャッチ出来ていた。ぎりぎりセーフ、といったところだろうか。自分が危ない状況でも腕の中の段ボール箱を手放していないのは流石だとは思うのだが、

「……わ、悪い美月、とりあえずさっさと体勢立て直すかその箱降ろすかどっちかしてくれ」

 美月の体重と段ボール箱の重量を支えているのでかなり腰と背中に負荷がかかっている。というかそれ以前に俺が美月を後ろから抱きしめるような格好になってしまっており、かなり恥ずかしい。

「あ、ご、ごめんなさい…」

 美月は慌てた様子で俺から離れ、腕の中の箱を床に下ろす。表情は相変わらず変化していないが、その顔は耳まで真っ赤に染まっている。


「……にしてもどうしたんだそれ? 先生にでも頼まれたのか?」

「あ、えぇ、さっき米山先生に呼ばれて、四階の教材室に持って運んでくれって言われたから」

 一応補足しておくと、米山というのは俺達のクラス担任兼、生物担当の教師である。三十八歳にして髪の生え際が後退気味で、いまだ独身。授業が分かりにくい、女生徒を見る時の目付きがエロい、生徒に対する横暴な態度がむかつく、存在自体がなんかヤダ等々、生徒達の間ではかなり評判は悪い。

「米山かよ……あんの若ハゲ野郎め」

 受験生にこういう事を頼むな、と言うか人に頼んでないで自分で行け、という話である。やっぱあいつぁ卒業式終わった後に一発ぶん殴っとこうか、等と危ない事を考えながら、美月の足元にある箱を持ち上げようとして、

「よっ……くぉっ!?」

 予想以上の重さに筋を違えそうになった。

「……あんのハゲ何考えてんだよこんな重いもん女子に持たせっか普通!? 美月も断れこんなもん!」

 米山もとい若ハゲへの殺意を再燃させながら、今度は腰をすえてしっかりと箱を持ち上げ、肩に担ぐ。ずしりという感触に、ぐらりと体が揺れる。こんなものを恐らく一階の職員室から運んできたのだから、かなりの労力だっただろう。これを四階まで運んでいくのは男でもかなりの重労働だ。

「え、ちょっ、あの、高井田君?」

「っとと……こっ、これ教材室ん前まで持ってっといてやっから、悪いけど下に転がってったゴミ箱教室に置いといてくんね?」

「え? わ、悪いわよそんな」

「いーんだっての。またさっきみたいにコケて怪我しちまったら危ねぇだろ。くぉっ……そ、そんじゃ頼んだぜ?」

 まだ何か言いたそうな美月を放っておいて、俺はよたよたと残りの階段を登り始めた。

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