第14話(6月)〜占いと現実と〜
テスト勉強のせいで更新が遅れていますが、もう少し辛抱してやってください(汗)
あと、もうご存知の方もいらっしゃるとは思いますが、短編恋愛小説『不器用な僕の彼女』を掲載しました。一言で表すんなら遠距離恋愛ものです。そちらの方も読んで頂ければ幸いです。
六月も終わりに近付き、期末試験まで残すところ一ヶ月を切ったある日の朝の事。
『今日の占いカウントダウーンハイパーッ!』
朝っぱらからやけに元気一杯な女性アナウンサーのタイトルコール。
説明するまでも無いとは思うが、その日の星座ごとの運勢を、カウントダウン(一位から発表していくから、正確にはカウントアップなのかもしれない)形式で紹介していくコーナーだ。
未だ覚醒しきっていない頭で、朝食であるトーストにかじりついていた俺は、何気なく窓の外に向けていた視線を、居間のテレビの方に移動させた。
別に占いなんてもんを心の底から信じているわけじゃないが、自分の星座が一位だったりだと、本当にその日が良い日になりそうな気がしてくるし、その逆もまた然り。
まぁ一言で片付けてしまえば気分の問題だ。
ちなみにどの辺りが『ハイパー』なのか、そもそもいつから『ハイパー』なんて単語がついていたのかは、このニュース番組を小学生の頃から見ている俺にも良く分からない。
『今日の一位はーっ……さそり座のあなた!』
ちなみに俺の星座は正にそのさそり座だったりする。
頬杖をつきながら、心の中で小さくガッツポーズ。
『意中の相手と急接近の予感! 今日は積極的にアプローチしちゃいましょう! そんなさそり座のラッキーアイテムは……』
ラッキーアイテムの辺りまでくるともうどうでもいいので、軽く聞き流す。
それにしても……。
「急接近か……」
小さく呟く。
今日ばかりは現実になってくれねぇかな、なんて調子のいい事を考えていると、
「意中の相手ねぇ……どうせあんた夏乃ちゃんの事考えてたでしょ?」
俺の心中を見透かしたような突然の言葉に、不意打ちという事もあって思わずびくりと体が反応してしまった。
「……っせぇぞお袋! 寝言は寝てから言えっ!」
恥ずかしさに耐えられずに怒鳴りながら振り返ると、台所の流し場で食器を洗っていたはずのお袋が、いつの間にか俺の後ろに立ってテレビ画面を見つめていた。
「あら、違うの!」
「ったりめぇだろっ! 誰があんなん……!」
夏乃に聞かれていたら怒られそうな台詞だが、幸いと言うか何と言うか、まだ夏乃は迎えに来ていない。
この時間になっても来ないのは珍しいと言えば珍しいのだが、あいつが寝坊するとは考えにくいので、あまり気にしないでおく。
「なぁんだ。あんたと結婚させてうちのお嫁さんにしようと思ってたのに残念」
「かっ、勝手に俺の人生決めてんじゃねぇよ!」
「あらそう。お母さんは夏乃ちゃん可愛いと思うけどねー……ま、あの子はあんたみたいなのには勿体無いかね」
「……言ってろ馬鹿」
吐き捨てるようにそう言って、俺は鞄を背負って椅子から立ち上がった。
自分でも分かってはいるのだ。俺なんかじゃ夏乃と釣り合わない事くらい。
それでも……それでも好きなもんは好きなんだからどうしようもないじゃないか。
◇…………◇…………◇
「ごめん佳ちゃん……私今日学校休まして頂きますです……」
宮下家の玄関。
寝癖で髪の毛をぼさぼさにしたパジャマ姿の夏乃が、けほけほと軽い咳をしながら言った。
「いや、まぁそりゃ別に構わねぇんだが……大丈夫か?」
「ん……全然大した事無いんだけどね。大事をとって、ってやつ?」
糸で吊られた人形のように体をゆっくりと左右に動かしながら、蒼白を通り越して真っ白な顔で力無く笑う夏乃。
明らかに強がってるのが分かる。
──まぁ、真面目なこいつが学校休むってんだから、かなり辛いんだろ。
一応、夏乃の額に手をあてがってみると、
「……ぅわちっ!」
予想外の温度に、反射的に手が離れた。
「おまっ……絶対病院行った方がいいぞ?」
「んー……そかな……? 全然大した事無いと思うけど……」
「小母さんは?」
「んーと……週明けまでは帰って来れないって」
小母さん──つまり夏乃の母親は、何の仕事をしているのかしらないが、昔から滅多に家に帰って来ない。
「小母さん呼ぼうぜ。お前一人だけじゃ病院行けねぇだろ」
「多分携帯繋がんないし……てか出来れば呼びたくないかな……」
「こんな時にお前は何を……」
「お母さん私のために頑張ってくれてるから……これ以上迷惑かけたくないんだ」
控えめだけど、芯のある一言。
俺が何を言ったってこいつは自分の意見を曲げたりしないだろう。
しかし……小母さんを呼べないとなると残る選択肢は……。
「しゃーねぇ……俺も今日学校」
「休んじゃ駄目」
きっぱりと言われた。
ちょっとショックだったりするも、
「いや、んな事言ったってお前、だったらどうやって病院行くんだよ?」
一応、しつこく食い下がってみた。
頭の中で先程の占いの結果がリピート再生されている。
積極的なアプローチ……積極的なアプローチ……積極的なアプローチ……。
「だーかーら。私は大丈夫なのです。こんな風邪寝てれば治るのです。だからほらさっさと学校行った行った! 急がないと遅刻しちゃうぞ!」
「ちょっ……待てよ!」
夏乃にぐいぐいと押され、俺は半ば無理矢理玄関の外まで追い出された。
ばたりとドアが閉まる。
「ったく……人が心配してやってるってのに馬鹿が……」
悪態を吐くも、このまま引き下がるのは俺の精神にも、夏乃の病状にもよろしくない。
宮下家の前で悩む事数十秒。
答えは意外と近くにあった。
門の前に停めておいた自転車はそのままに、俺の家まで引き返す。
「おーいお袋ー!」
靴を脱ぐのは面倒なので、玄関から大声で呼びかける。
「あら、もう学校終わったの? 随分と早かったわね?」
「つまらねぇ冗談言ってんじゃねぇよ。夏乃が調子悪いから学校休むって言ってっからよ、後ででもいいから病院連れてってやってくんねぇか? かなり熱あるみてぇだし」
「あらホントに? 心配だわねぇ……分かった。後で様子見に行くからあんたは早く学校行きなさい」
これで一安心だ。
お袋は夏乃の家庭事情も知っているから、あれこれと世話を焼いてくれるだろう。
「おう、頼むわ」
◇…………◇…………◇
学校へ向かう途中。
いつもは気付かなったが、こうして久々に一人で登校すると、何だか寂しいものがある。黙々と自転車のペダルをこぎ続けながら、
「はぁ……」
――やっぱ占いなんて当たんねぇんだろうな……。
俺はため息を吐いた。
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