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第11話(5月)〜夏乃の進学大作戦?〜

 その後、一時限目の英語が担当教諭の遅刻によって自習になるという予想だにしない事態が発生。

 俺はたっぷり五十分間、上野、北澤、そして何故か途中から参加してきた美月の三人から、ほとんど拷問に近い尋問を受ける事となったわけだが……いや、もうこれ以上は思い出したくない。

 一つだけ言えるのは、頭脳派の美空と肉体派の上野が手を組むと大変な事が起きるということだけだ。

 結果だけ言うと「美月が見かけた人物は只の人違いであり、昨日俺は母親から『実家の祖母が倒れた』という連絡をもらい、急いで祖母が搬送された病院に向かった。というわけで暫くの間、母親は祖母の身の回りの世話をしなければならなくなったので、寄り道をせずにまっすぐ帰る事になる」という言い訳で、三人はとりあえず納得した。

 言うまでも無いとは思うが、祖母はぴんぴんしている。


「佳ちゃん? おーい? 」

「……あ? あぁ……悪い」

「ホントに大丈夫?」

 心配そうな表情で俺の顔を覗きこむ夏乃。

「だから大丈夫だっての……あんま気にすんな。そういやお前、今何読んでたんだ? ずいぶんと読みふけってたみたいだったな?」

 あまり心配してくるもんだから思わずぽろっと本音が出てしまった、なんて事になったら厄介だ。

 間接的にであれ、俺が疲れている原因が自分にあると知れば、今のこいつはきっと気に病んでしまうだろうから。

 とっさに俺は無理矢理話題をそらした。

「あ、うん。昨日テレビで予告やってた映画が面白そうだったから、どんなお話なのかちょっち調べてたの」

「そか……そんで見つかったのか?」

「うん。たったさっき読み終わったよ。佳ちゃんも何か買い物とか立ち読みしてく?」

「いや、別に。漫画雑誌なんてしばらく読んでねぇし。欲しいもんもねぇし」

 そもそも金が無ぇし、というのはここで言っても意味が無いので口には出さなかった。

「あれ? 漫画卒業したの? 何か昔の佳ちゃんからは想像出来ないなぁ……そう言えば佳ちゃんが漫画読んでる時ってちっとも私に構ってくれなかったよね」

 と言って悪戯っぽく微笑む夏乃。

 その頃の事は俺も覚えている。

 いつもしまいには夏乃がぐずりだして、その度に仕方なく遊んでやっていたものだ。

 まぁ、今は別に漫画に対する興味が全くなくなったわけではない。

 昔と違って、さほどのめりこめなくなっただけだ。

 熱が冷めた、とでも言えばいいんだろうか?

「いつの話を持ち出してきてんだよお前……おら、用事済んだならさっさと帰っぞ」

「ん、そだね」

「ありがとーございましたー」

 接客態度のなっていないアルバイト君の声に見送られ、俺達は人影まばらなコンビニを後にした。




 ◇………◇………◇




「……そう言えばさ、佳ちゃんは進路どうするの?」

 家を目指してペダルをこいでいる途中の事。

 コンビニを後にして数分も経たないうちに、隣を走る夏乃が不意に切り出した。

「な、なんだよいきなり……」

「いーじゃん気になったんだからさ。それで? どうするの?」

「あー……いや、まだ何も考えてねぇや」

「考えてないって……佳ちゃん今何月だか分かってる?」

「お前俺を馬鹿にしてんのか? 五月に決まってんだろ?」

「そーだよもう五月なんだよっ!?」

「うおっ!?」

 突然の大声に驚き、思わずハンドルが揺れた。

 慌ててバランスを建て直し、方向を修正する

「……い、いきなり大声出すなよビビんだろうが!」

「あ……ご、ごめんなさ」

「だからそうほいほい謝んなっつっただろ……」

「ごっ、ごめんなさい……あ」

「……もういい。そんで? もう五月だからどうしたって?」

「あっとね……いい、佳ちゃん? 今は三年の五月だよね? しかも今日は二十三日。もうそろそろ六月に入ろうかってとこだね」

「あぁ。そんで?」

「単純計算、卒業まで残り一年を切っちゃってるんだよ? 進学するにしても卒業するにしても、今からしっかり計画立てとかないと。後から後悔するのは結局自分だよ?」

 まぁ、自分一人だけでも大変なはずなのに、他人の俺の進路までる夏乃の気持ちはとても嬉しいのだが……。

「んな事言われてもなぁ……」

「私的な意見としては進学した方がいいと思うけど……」

「ふーん、進学ねぇ……」

「何か佳ちゃんはなりたいものとかないの?」

「……ねぇな。てか俺、そもそも進学できるような成績じゃねぇし」


 「将来の夢は?」と聞かれたら「長生き」としか答えられなそうだ。

 典型的な無気力現代人、というやつなのかもしれない。

 更に言えば俺は勉強というものが嫌いだ。

 定期試験は基本的に一夜漬けである。

 テストにおいて「どれだけいい点を取れるか」などと考えた事はない。

 いつも頭に浮かぶのは「赤点を取るか取らないか」という事だけ。

 そんな考えを持っているせいか、毎回毎回テストの順位は下から数える方が早い。


 難しい顔をして何事かを考え込む夏乃。

 数秒の沈黙の後、ばっ、と勢い良くこちらを振り向くと、

「よし! 佳ちゃん勉強しよう!」

「……はあ?」

「どの大学に行くにしたって成績は大事だからね! 進学先は勉強しながら考えよう! 好きな科目とか得意科目とかから進路考えるのもいいと思うんだよねー」

 満面の笑顔を浮かべながら、うんうん、と頷く夏乃。

 俺を置いて話はどんどん先へ進んでいく。

「あー……いや、ちょっと」

「勉強は私が教えたげるから心配しないで! 私にどーんと任せなさいっ!」

「あ、あぁ……」

 ――……ってやっべ!

 思わず返事をしてしまった。

 言ってから後悔するが時既に遅し。

 後悔先に立たず。

 気付けば俺達の家のすぐそこまで来ていた。

「よーし! そうと決まれば今晩から始めよう! 用意出来たら佳ちゃん家に行くから待っててね! それじゃバイバーイ!」

 俺に断る暇すら与えずに一方的にまくし立てると、夏乃はスピードを上げてさっさと家の敷地内に入っていった。

「…………」

 一人取り残された俺は、ただ呆然とするしかなかった。

これを読んでいる高校生の読者サマへ。

 今回夏乃の言っている通り、進路の事ってのは早いうちから考えとくに越した事はありません。皆様はくれぐれも佳祐のようにはならないように(笑)

以上、反面教師からのアドバイスでした。

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