深夜1時、彼女は換気扇の下で屁をこいた。
その夜、美咲と健太は仕事終わりに近所の焼肉屋へ行っていた。
お互い酒好きで、休み前になるとこうして飲みに行くことが多い。
ビールを飲んで、肉を焼いて、くだらない話をして笑う。
追加で頼んだレモンサワーの氷が、グラスの中で静かに鳴っていた。
深夜一時。
静まり返ったアパートの台所で、美咲は換気扇をつけた。
付き合って三年。
同棲して一年。
それでも彼氏の前で屁だけは絶対にしなかった。
どれだけ腹が張ろうが、どれだけ苦しかろうが、乙女の尊厳として守り続けてきた。
だが今夜、限界だった。
焼肉。
ビール。
キムチ。
炭酸。
役満である。
ベッドでは彼氏の健太が寝ている。
確認済みだ。いびきも聞いた。
美咲はそっと布団を抜け出し、換気扇の下へ向かった。
音をごまかすため、水も流した。
完璧な作戦。
「よし。」
覚悟を決める。
――ボフッ⋯ブッ⋯⋯プウゥゥ。
思っていたより三倍は大きい音がした。
換気扇が一瞬「ヴンッ」と吸い込み負けるほどの量。
しかも長い。
美咲は固まった。
静寂。
そして背後から声。
「……美咲?」
終わった。
振り返ると、半目の健太が目をこすりながら立っていた。
「起きてたの!?」
「いや……地鳴りかと思って」
「……最低!!」
顔を真っ赤にしてしゃがみ込む美咲。
もう人生終わりだ、くらいの勢いで落ち込んでいる。
健太は少し黙ってから、真顔で換気扇の下に立った。
「……俺も、ここ使ってた」
「え?」
次の瞬間。
――ブフッ。
美咲は目を丸くして、顔を上げた。
二人の目が合う。
深夜のアパートに笑い声が響いた。
翌日。
換気扇の下に「予約表」が貼られていた。
一時から一時十分、美咲。
一時十分から一時二十分、健太。
少し曲がった文字を見て、美咲は吹き出した。
換気扇の音が、今日も静かに回っている。




