第4話 ―ロストボールの代わりに、プレート君が帰ってきた―
ある早春のゴルフ場。
桜の便りが、あちこちでちらほら聞こえはじめる頃。
空は澄みきっていて、
トンビがゆっくりと円を描きながら舞っていた。
ロングホール。
開けた景色の中で、僕はボールを打った。
バチーン、といい音がして、
ボールは高く上がった。
いい球だった。
そう思ったのに、
そのボールは、すーっと左へ流れていった。
それでも、なくなるなんて思わなかった。
あれだけ開けているから、どこかにあるはずだと。
そのあたりまで行ってみると、
小さな林があった。
ほんの、十メートル四方ほどの。
その周りを、何度も探した。
でも、ボールは見つからなかった。
ちゃんと打てたのに。
ちゃんとあるはずなのに。
少しだけ、心に引っかかるものを残したまま、
プレーは続いていった。
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十八ホールが終わり、
カートで戻ってきて、
お疲れ様と声をかけ合う。
クラブを確認してもらい、
番号が入った赤いプレートを渡された。
「お帰りの際に、これでキャディバッグと交換してくださいね」
はい、と受け取って、
無意識にポケットへ入れた。
風呂に入り、
一日の疲れを流して、
ああ、楽しかったなと思った。
そして精算しようとしたとき、
ふと、そのプレートのことを思い出した。
探してみたけれど、見つからない。
「着替えた服の中に入ってないか?」
そう言われてゴルフバッグを少し探したけれど、
バタバタしていて、そこまでだった。
「すみません、プレートなくしてしまって……」
受付の人は、
「大丈夫ですよ」と笑ってくれた。
それでも、
何かひとつ、引っかかったまま。
楽しかった一日の中に、
小さな曇りを残したまま、
僕は帰った。
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家に戻って、
なんとなくゴルフバッグを開けた。
そのときだった。
ひょこんと、
赤い顔をしたプレートが顔を出した。
少し照れたように。
「……一緒についてきちゃいました」
そんな顔をしていた。
「君、ついてきたかったのか」
「すみません、ちょっと間違えて……」
小さく、しょぼんとしている。
なんだか、それが可笑しくて、
かわいくて。
僕はそのプレートを、
プレート君と呼ぶことにした。
「よく出てきてくれたな」
途中でボールもなくして、
プレートまでなくしてしまったと思っていたから。
「今日、変な一日だった」
そう言いながら、
プレート君を見ていた。
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ゴルフボールは、結局見つからなかった。
でも、
プレート君が、
代わりに帰ってきた。
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そのとき、
「昼に食べた坦々麺のことを。」




