表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/5

第4話 ―ロストボールの代わりに、プレート君が帰ってきた―

ある早春のゴルフ場。

桜の便りが、あちこちでちらほら聞こえはじめる頃。

空は澄みきっていて、

トンビがゆっくりと円を描きながら舞っていた。

ロングホール。

開けた景色の中で、僕はボールを打った。

バチーン、といい音がして、

ボールは高く上がった。

いい球だった。

そう思ったのに、

そのボールは、すーっと左へ流れていった。

それでも、なくなるなんて思わなかった。

あれだけ開けているから、どこかにあるはずだと。

そのあたりまで行ってみると、

小さな林があった。

ほんの、十メートル四方ほどの。

その周りを、何度も探した。

でも、ボールは見つからなかった。

ちゃんと打てたのに。

ちゃんとあるはずなのに。

少しだけ、心に引っかかるものを残したまま、

プレーは続いていった。

________________________________________

十八ホールが終わり、

カートで戻ってきて、

お疲れ様と声をかけ合う。

クラブを確認してもらい、

番号が入った赤いプレートを渡された。

「お帰りの際に、これでキャディバッグと交換してくださいね」

はい、と受け取って、

無意識にポケットへ入れた。

風呂に入り、

一日の疲れを流して、

ああ、楽しかったなと思った。

そして精算しようとしたとき、

ふと、そのプレートのことを思い出した。

探してみたけれど、見つからない。

「着替えた服の中に入ってないか?」

そう言われてゴルフバッグを少し探したけれど、

バタバタしていて、そこまでだった。

「すみません、プレートなくしてしまって……」

受付の人は、

「大丈夫ですよ」と笑ってくれた。

それでも、

何かひとつ、引っかかったまま。

楽しかった一日の中に、

小さな曇りを残したまま、

僕は帰った。

________________________________________

家に戻って、

なんとなくゴルフバッグを開けた。

そのときだった。

ひょこんと、

赤い顔をしたプレートが顔を出した。

少し照れたように。

「……一緒についてきちゃいました」

そんな顔をしていた。

「君、ついてきたかったのか」

「すみません、ちょっと間違えて……」

小さく、しょぼんとしている。

なんだか、それが可笑しくて、

かわいくて。

僕はそのプレートを、

プレート君と呼ぶことにした。

「よく出てきてくれたな」

途中でボールもなくして、

プレートまでなくしてしまったと思っていたから。

「今日、変な一日だった」

そう言いながら、

プレート君を見ていた。

________________________________________

ゴルフボールは、結局見つからなかった。

でも、

プレート君が、

代わりに帰ってきた。

________________________________________

そのとき、

「昼に食べた坦々麺のことを。」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ