ショートショート『選ばれし男』
皆にそう言われている僕ですがさほどの自覚もありません。僕の中では、たまたま、偶然、くじ運、そのような感覚なのです。
なので、もしかしたら、このような無自覚から来る波動がそうさせているのかと思う今日この頃であります。
今にも倒れそうな人物がすがるように、「私は今日死ぬんだって…死神…死神によって…」いきなり僕に話しかけてきた。選ばれし男の僕と知って助けを求めてきた。
「あなたと居たら私は死なずに済むと思うんですが…」唐突にこういうのである。私は選ばれた男というのは周知されていたので、"こういうことは"日常なのであるのだが…いつもなら、軽くあしらうのですがこの日はなんだか、明日死ぬこの人の運命に私が"ベッド"されたらどうなるんだろうという実験的運命を見たくなった。簡単にOKするのも、なんだか嫌なのでもったい付けて、一度断ってみるのだ。私の嫌な部分が出てくる瞬間にいささか興奮を覚える。このごろは"これが"私の性癖の一部に組み込まれている。ほら来た。私の鼓動は確実に速くギアが変わって、したがって下半身に血流が流れ込むのだ。「ごめんなさい、今はちょっと…」僕は意地悪口調で突っぱねてみた。ゾクゾクと背徳感が全身を駆け巡る。怪訝な顔が網膜にベタッと張り付き脳から即、海綿体へと刺激が流れ込む、僕の表情が…熱く盛り上がるイチモツが…現前と描写される。
更に表情は怪訝となりゆく。
これ以上は不味いかな…急に理性が割り込んでくる。いつものことなのだが、理性には従うルールなのでそこで急に我に返る。
汗ばんでいる僕にもう一度、頼んで…頼んで…頼んで…来ない…
死を宣告されているハズなのに、その人は踵を返して歩き出した。
選ばれた男を選ばれないものが踵を返す。その滑稽な対比がまざまざと僕の取った背徳感と入り乱れ、僕の心情を破壊した。
そう、僕は選ばれるものから選ばれないものへと"格下げ"されたのだった。そうベッドしたのではなく、仕組まれた者によって僕はその選ばれるものが奪われてしまったのだった。
おわり




