第7話「火花と幻、偽りの神」
第3ヤードでの初めての遺物探索。
シュウたちは価値ある遺物を発見するが、そこに現れたのは――
“遺物回収ギルド”という現実の闇だった。
スマホを巡る誤解と、イヴの知略が交差する、静かで激しい攻防の幕が開きます。
《第三ヤード》と呼ばれる、遺物回収所の跡地。鉄骨の梁が剥き出しになり、錆びついた資材や瓦礫が無造作に積まれたその空間は、どこか時の止まった墓場のようでもあった。
「うわ、誰もいねぇな……」
瓦礫を踏み越えながら、シュウが声を漏らした。
「それが普通です。高確率で危険地帯ですから」
イヴがスマートフォン越しに冷静な声を響かせる。レイジは槍を片手に周囲を警戒しながら、シュウの後を追っていた。
「……おいイヴ、これって何だ?」
シュウが瓦礫の山から引っ張り出したのは、ボロボロの筒状の機械部品だった。
「それは旧時代の掃除機のパーツですね。価値はゼロです」
「なんだよ……こっちは?」
「それはレコードプレイヤーの回転軸。ゴミです」
「じゃあこれは?」
「……便座です」
「便座かよ!」
くだらないやりとりをしながらも、彼らの目は真剣だった。瓦礫の奥に、何かが光った。
「シュウ、これ……」
レイジが引き寄せたのは、コンパクトな金属製のカートリッジ。表面に文字が刻まれていた。
「それは……未使用のマイクロロケット燃料です。現代の化学では再現不可能な組成を持ち、極めて高価です」
イヴの声に、ふたりは歓声を上げた。
「やった……!」
その瞬間だった。
鉄骨の隙間から、複数の足音が響く。
「……誰か来る」
レイジが槍を構えた。
現れたのは、粗野な雰囲気の男たち。十数名。リーダー格と思しき男が先頭に立ち、その背後には武器を構えた仲間が続く。
「ようよう、楽しそうだな」
リーダー格の男が嘲るように言った。
「……遺物回収ギルド…」
イヴの静かな声に、レイジの顔が強張る。
「おいイヴ、どうするんだよ! こんな人数、相手にできねぇぞ!」
「落ち着いて。彼らの武装は槍、棍棒、鎖など──テクノロジー的には原始的なものです」
「原始的で悪かったな!」
レイジが即座に突っ込んだが、その手の槍は震えていた。
「目的はおそらく、あなたたちが回収した遺物です」
そう告げた瞬間、リーダー格の男の目がスマートフォンに向けられた。
「お前、それ……まさか《神の遺物》ってやつか……スマートフォン!」
にやりと笑った男が、叫ぶ。
「がハハハ! ついてるぜ! お前ら! 奪え! 抵抗するなら殺せ!」
周囲が緊迫に包まれる中、イヴが祈るように目を閉じた。
カタカタと──遺構の資材が震える。
「爆破演出──開始」
次の瞬間、第三ヤードのあちこちから火柱が上がり、爆風が瓦礫を吹き飛ばした。
「うおおっ!?」
イヴの仕掛けた光と音の演出が、周囲の男たちを包んだ。
「な、なんだこの光……!」
仲間の何人かが悲鳴を上げ、尻餅をつく。
「ひ、ひるむな! こんなもんに騙されるな!」
リーダー格の男が叫ぶ。
「やつらはたった三人だ! 突っ込めば勝てるッ!」
しかし、男たちの足は止まっていた。
得体の知れない爆発、空間を震わせる音、そしてシュウの手にある《神の遺物》。
「次、いくよ……」
イヴの冷静な声が響いた。
そして、第二波の攻撃が──始まる。
(つづく)
ここまで読んでくださり、ありがとうございます!
今回はイヴの「チート感」と、ギルドとの対立構図を強調してみました。
"本物の力"と"演出された力"、どちらが人を動かすのか――そんなテーマも意識しています。
次回はいよいよ、都市セラントの核心に迫る展開へ。
今後とも応援よろしくお願いします!