第5話「遺物が降る街で」
終末の谷を抜けた先に現れたのは、空に文明の残骸が浮かぶ都市──セラント。
遺物を巡る者たちが集い、再建と崩壊が混在するこの街で、少年とAI少女の旅は次の段階へ。
彼女は言う。「資金と情報を集めましょう」
…まるでRPGのはじまりみたいに。
谷あいを抜けると、霧の向こうに巨大な都市が現れた。
崩れた高層建築と、鉄骨を継ぎ足したような塔。瓦礫の上に建て増しされた家々が、複雑に絡み合って一つの街を形作っている。
「……これが、セラント」
レイジが思わず声を漏らした。
《廃墟都市》セラント──。
空から降り注ぐ“遺物”が最も多く観測される地域。
それを拾うために人が集まり、都市が生まれた。
再建と崩壊が入り混じるその姿は、美しくもあり、どこか儚さを孕んでいた。
「人は、滅びたものの上にしか立てない。そんな都市です」
イヴが、遠くの光景を見つめながら言った。
都市の入り口には検問のような施設があり、武装した門番が通行者を確認していた。
見たところ、規律はある程度守られているらしい。
「この都市は、現在“領主”によって統治されています」
「およそ十数年前、ある人物が“強力な遺物”を拾得し、その力をもって都市を掌握しました」
「遺物って、あのスマホみたいなやつか?」
レイジが言った。
「似た性質のものですが、詳細は不明です」
通行証代わりの小型遺物を門番に提示すると、三人は無事に都市へ入ることができた。
内部は想像以上に活気があった。
中央広場では機械仕掛けの屋台が並び、錆びた歯車を売り買いする商人や、怪しげなマスクを被った巡礼者たちがすれ違っていた。
だが、そのどこかに“恐れ”が滲んでいる。
遺物に依存し、再構築された仮初めの文明。
「襲撃者が持っていたスマホ、あれも遺物なんだよな」
シュウが思い出したように言った。
イヴは頷き、少し間を置いて告げた。
「彼が所持していた端末は、旧文明の“模造品”に過ぎません」
「断片的なデータを再構成して作られた劣化品。精密性も処理能力も、私とは比較になりません」
「じゃあ……それを与えた誰かがいるってことか?」
「その可能性は高いです。彼のような存在を“操る”者……高性能なAI、もしくはその遺産」
アダム──その名が頭をよぎったが、シュウはまだ口に出せなかった。
「……この都市で、まずは資金と情報を集めましょう」
イヴが再び歩き出す。
「私たちに残された時間は多くありません」
シュウはため息をついて、頭をかいた。
「資金って、どうやって稼ぐんだよ! 俺たちは狩りしかできねぇぞ?!」
イヴは一瞬だけ、ふっと微笑んだ。
「大丈夫。言うとおりにして」
夕暮れの《廃墟都市》セラントに、機械仕掛けの鐘が鳴り響いた。
最後までお読みいただきありがとうございます。
《廃墟都市》セラントは“人の再起”と“遺物の歪み”が共存する、不安定で美しい都市です。
今回の話は、世界観の広がりと次の展開への布石。
チートAIの真価が、いよいよ問われます。
第6話は、いよいよ“行動開始”──お楽しみに!