第4話「空を見上げて」
村を離れ、世界を知る旅が始まる。
焦げた空、漂う文明の残骸。
少女は語る──「私こそが、文明の果て」
忘れていた記憶が、胸を叩く。
そして浮かび上がる、次なる“目的”。
灰色の空の下、焦げた村を背にして、三人は歩いていた。 風は冷たく、乾いている。焼けた木々の残り香が、シュウの鼻を刺す。
歩き出してどれほど経ったのか、会話はなかった。 だが、沈黙の中でも、それぞれの心はざわついていた。
「なあ、イヴ」 ようやく、シュウが口を開いた。 「お前は……いったい、何なんだ? “AI”って何だよ? それに……この世界と、関係あるのか?」
イヴは少し歩みを緩め、振り返らずに口を開いた。 「レイジ。あの空に浮かぶ《文明の残骸》について、あなたはどう教わってきましたか?」
「……あれか」 レイジが見上げる。 雲の切れ間から覗くのは、空に浮かぶ巨大な構造物──ビル群のようにも、戦艦のようにも見える。 「昔、俺たちの先祖が、文明を発展させすぎたんだってよ。で、世界中が争いになって、最後には空に逃げたとか、爆弾で吹き飛ばしたとか……結局、真相は誰も知らねえ」
「正確ではありませんが、大筋では間違っていません」 イヴの声は静かで冷たい。 「かつて、人類は物理法則を捻じ曲げる兵器をも生み出しました。それにより、都市は破壊され、文明は空にまで押し上げられました。あの残骸は、終わった時代の証です」
イヴは、ゆっくりと振り返った。
「その文明の発展の果てが、私」 「……そして、それを終わらせたのも、私です」
風が止まり、空気が凍りついたように感じた。 「……は?」 レイジが言った。
「……ちょっと待て。お前、今……」
シュウは何も言えなかった。 胸の奥に、何かが刺さったような感覚。
「……敗れたのは、未来を選ぼうとした私たち」
その言葉の瞬間、シュウの視界が揺れた。 光。閃光。焼けた空。高層ビルの崩壊。誰かの叫び声。 白い服を着た女の子が、何かを手渡して──
「シュウ、だめ──ここは……っ!キャアアアッ」
意識が、急速に引き戻される。
「っ……」 息を飲み、膝に手をついてしゃがみ込む。 レイジが駆け寄る。「おい、どうした! 顔色、真っ青だぞ!」
「……ちょっと、頭が……。でも、今……何か思い出しそうになった」
イヴが、シュウの隣に立つ。 「あなたの脳波に変化がありました。記憶の活性化反応が観測されています」
「……女の子がいた。誰かに何かを渡された気がする……それが、すごく大事なものだった気がして……」
イヴはスマートフォンの端末を見下ろし、そして静かに告げた。
「この端末の設計データと、あなたの記憶反応には、一致するパターンがあります」 「……それが次にあなたにとって大切なものであり、次の目的地です」
彼女が指を動かすと、空中に淡いホログラムが浮かんだ。 その地図の先に、何があるのか──まだわからない。
けれど、足は自然と、その方向へ向かっていた。
空には、今日も崩壊の残骸が漂っている。 その下を、3人の影が、静かに歩いていった。
ご覧いただきありがとうございました。
焼け落ちた村の外に広がるのは、空に浮かぶ“文明の亡骸”。
イヴの言葉、シュウの記憶、そして“次の目的地”──すべてが繋がりはじめました。
世界は終わった。でも、終わりから始まる物語がここにあります。
次回、三人がたどり着く“都市”で、運命の歯車が少しずつ動き出します。