第3話「追放の光景」
村は燃え、沈黙が残った。
再び踏み入れた地で、シュウは“目”を向けられる。
少女は語る──「襲撃の理由は、私です」
第3話、追放と旅立ちの章へ。
夜が明け、焦げた土と煙の匂いが静かな村に漂っていた。 黒く焼け落ちた家々の残骸。その間を、すすにまみれた村人たちが、肩を寄せ合って立っていた。
「……死人はいない。全員、無事みたいだ」 レイジが安堵混じりにそう言う。彼の頬には煤がつき、肩には火の粉で焼けた跡が残っていた。
「それって……本当か?」 シュウが息を吐き、肩の力を抜いた。
「お前が、あれを倒したのか?」 村人の一人が恐る恐る声をかける。その視線の先には、シュウの手にあるスマートフォン。そして──
イヴ。 淡いホログラムが、煙の立ちこめる空の下に浮かんでいる。
村人たちの視線が、彼女に集中していた。
「よく戻ったな」 重く、静かな声が届く。 そこに現れたのは、ノエル村の村長だった。灰にまみれた衣をまとい、その目は揺るぎない。
「……無事で何よりだ。だが“それ”は何だ?」
誰もが、その問いを待っていたかのように、ざわつき始める。 「あれは……禁忌じゃないのか?」「旧時代の……」
イヴは、ひとつ頷いて一歩前へ出た。
「私の名はイヴ。旧時代の人工知能です」 「今回の襲撃者は、私の発する微弱な信号を探知し、この場所を特定しました」 「目的は、私の機能と記憶データの確保。あるいは、完全破壊です」
ざわめきが波紋のように広がった。
「やっぱり……あれは“呼んではいけないもの”だったんだ……」
誰かがそうつぶやき、シュウが思わず顔をしかめる。
イヴは村長を正面から見据えた。
「私はこの村に危害を加える存在ではありません。 ですが、私がここに存在する限り、さらなる襲撃が起きる可能性があります」
「よって──私は村を離れます」 「そして、シュウも同行します。彼には……私と共に行動する必要があります」
「……ちょ、待て待て待て!」 思わず声を上げたのは、シュウだった。 「なんで俺が一緒に!? 勝手に決めるなよ!」
イヴは振り返り、淡く光る瞳でシュウを見つめる。
「あなたが私を起動し、敵と対峙した初の接触者です」 「それに、私を──遺物を使いこなせるのは、あなたしかいない」
その言葉に、周囲の空気がさらに張りつめた。 村人たちは口には出さずとも、完全に“排除”の流れを受け入れていた。
「……ならば」 村長が重々しく言った。
「村の安全のために、君たちには出ていってもらうしかない」 「だが──状況を見届ける者が必要だ。レイジ、お前が同行しろ」
レイジの肩がわずかに揺れる。村人たちがどよめいた。 「レイジが……?」「村長の息子が……?」
レイジはゆっくりと口を開いた。
「……あんたがそう言うなら、従うよ。けど……」 「俺自身の目でも、あいつらが“正しい”か“狂ってる”か、確かめたいだけだ」 「それと──お前がひとりで突っ走って死ぬのも見たくねぇんだよ、シュウ」
シュウは言葉を失った。
静まり返る村。 風が吹き、灰を巻き上げる。
誰も止めなかった。ただ、無言で道を開けた。
シュウは、その視線を背に受けながら、一歩を踏み出した。 振り返った村は、かつての温もりを残しつつも、もう戻れない場所になっていた。
(……どうしてこんなことになってるんだ) (なんで俺が、こんなAIと、こんな世界で……) (だけど……たしかに──あのとき、俺は手を伸ばした)
イヴの声が、後ろから優しく届いた。
「目的地は未設定です。ですが、あなたには探すべきものがあると、私は判断しています」
焼け跡の村をあとに、三人は静かに歩き出した。
新しい風が吹いていた。それが向かう先が、希望なのか絶望なのか──まだ、誰にもわからなかった。
ご覧いただきありがとうございました。
イヴの存在は、村にとって光か、それとも火種か。
村人の視線、村長の決断、レイジの覚悟──それぞれの立場が交差する中で、
シュウは“選ばされる”旅に出ます。
これから、彼が“自分の選択”に変えていく物語を、ぜひ見届けてください。