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第2話「目覚めの声」

村を襲った影と、目覚める少女の声。

現実を侵食する“異物”に導かれ、シュウの運命が動き始めます。


※1話を読んでいない方は、そちらからどうぞ。

銀髪の少女の像が、揺らめくように宙に浮かんでいた。  透き通るような碧眼、白のワンピース。その表情は静謐で、眠りから目覚めたばかりのような無垢さがあった。


 それがホログラムだと、シュウはすぐには理解できなかった。  ただ、その存在が現実を侵食してくる感覚に、背筋が粟立つ。


 「私はイヴ。あなたを生かす」


 少女の口元が動き、空間が震えるように音を生んだ。


 「な、なんだ……お前は……誰だ……!」


 「落ち着いて。私はAI。あなたの状況は把握しています。ここを切り抜けるための最適行動を提示します」


 ──AI?


 その言葉が、頭の奥で重く響いた。  心臓が脈打つ。息が詰まり、額に冷や汗が浮かぶ。  “知っている”──そのはずなのに、思い出せない。


 「まず、状況を説明します」  イヴの声は、冷静で穏やかだった。


 「あなたは、ノエル村という集落からの襲撃を受け、この遺構に避難しました」


 「……所属?」  その言い回しに、妙な違和感を覚える。


 「この構造体──旧時代の商業施設跡の一部──には、まだ使用可能なセンサー類が残存しており、外部状況を解析できます」


 彼女が指を動かすと、画面に淡い光が浮かび、外部の立体映像が映し出される。


 「現在、上層部に武装者一名を確認。熱源、金属反応あり」


 その言葉と同時に、遺跡の入り口から足音が響いた。  乾いた、迷いのない足取り。


 「シュウ、下がって」


 イヴの声と同時に、黒衣の男が姿を現す。  長身、顔はフードで隠れている。  手には、黒いスマートフォン。


 その端末から、刃が生まれた。  空気がゆがみ、指先に伸びたナイフが鈍く光る。  ナイフの表面が不自然に滑らかで、加工された金属ではないことが見て取れた。


 ──まさか、あれもスマホから……?


 「どうするんだよ、イヴ!」


 「この構造体は老朽化が進んでいます。西側通路の天井は衝撃により崩落します」


 イヴの指示で、シュウは通路の奥へ誘導される。


 黒衣の男がそれを追う。


 「ターゲット確認──起爆します」


 イヴの声とともに、スマートフォンが光を放ち、空気中の分子がわずかに震えた。


 「酸素、硝酸、鉄粉……即席火薬、生成完了」


 ピンポイントの爆発。天井が崩れ、瓦礫が黒衣の男の行く手を塞ぐ。  だが、それだけでは止まらなかった。


 「……ちっ、やるな」  崩落の隙間から、男が姿を現す。  ナイフを逆手に構え、再び距離を詰める。


 「接近限界まであと3メートル──戦術転換」


 イヴは一歩前に出て、空気中の粒子を再構成する。


 「再出力──発火」


 制御された爆発が起こり、男のナイフを弾き飛ばした。  爆風の余波で、男のフードがはじけ、素顔が覗く。  鋭い目と、痩せた顔。皮膚の一部が、機械のように光を反射していた。


 「それは……」  男がイヴを見て、つぶやく。  「……まさか、まだ動いていたとは……あの方が、探していた原型機……」


 シュウが息を呑む。


 「“あの方”って……誰だよ」


 男は笑った。  「白き設計者──コア。アダム様の―」


 言葉の続きを告げる前に、天井が不気味な音を立ててきしんだ。


次の瞬間、瓦礫が容赦なく降り注ぎ、男の姿を呑み込んだ。


舞い上がる土煙に、彼の残響だけが、虚空に残った。




 爆風の余韻の中、イヴの声が静かに響いた。


 「戦闘終了。──システム負荷:62%。端末温度、上昇中。これ以上の戦闘は非推奨です」


 「お、おい、大丈夫か……?」


 「……問題ありません。けれど、これはなるべく使いたくない」


 シュウは、手にしたスマートフォンを改めて見つめた。

手のひらに伝わる、わずかな熱と重み。

それが、たったいま目の前で語りかけてきた少女の“身体”なのだと思うと、胸の奥がざわつく。


イヴはその様子を静かに見つめ、わずかに目を細めた。

「……それは、あなたの選択です」


それから、とひと呼吸置き、イヴが言う。

 「そのアイテム。設計データに一致する記録があります」  「それを携帯していた人物が、あなたに近い個体識別情報を残しています」


 「なにが言いたいんだよ」


 イヴは、静かに言った。


 イヴはわずかに光を弱め、画面の片隅に地図のような映像を浮かべた。


「……あなたの持っている端末。かつて、私と関わりのあった“設計者”の記録に類似しています」


 「設計者……?」


 シュウが問いかけようとした、その瞬間だった。


 その声が消える前に──


 崩れた通路の先から、誰かの足音が響いた。


 「……それは……」


 暗がりの中、レイジが姿を現した。  目を見開いたまま、手にした槍をぎり、と握りしめている。


 「おい、シュウ……それ……動かしたのか……?」


 その声には、怒りではなく、恐れがにじんでいた。  イヴのホログラムに向ける視線は、まるで怪物でも見たかのようだった。


 シュウは、手にしたスマートフォンを無意識に握りしめた。イヴの光は、淡く、静かに彼を照らしている。


 レイジの影が、その光の中に揺れた。



最後まで読んでいただき、ありがとうございます。


ただの遺跡、ただの金属片──そう思っていたものが、語り出す。


少女の名はイヴ。彼女の声は祈りなのか、それとも警告なのか。


そして、レイジが見た“光”が、村の掟とどう衝突していくのか……。


次回、シュウが初めて“人に問われる側”になります。

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