ベガの願い
後日、ベガはキャラメルポップコーンを携えてオリヒコ達の前に現れた。
「ごきげんよう!オリヒコ君。こちら先日のお礼ですわ!」
「やった。ありがとう!丸め込むのは上手く出来たか?」
「それが……友達をやめると言われてしまいましたわ……」
オリヒコの顔が曇る。
「つくづく治安の悪い学園だなここは……気にする事はない、二人までならいなくなっても代わりに僕らがいる」
ベガが一瞬、固まった。
「え……あの……私達……お友達……?」
ベガが辿々しくたずねると、オリヒコもシャロウもうなずいた。
「うん。僕らはもう友達だよ」
「ああ、友達だとも!」
「わ……私……嬉しい……!」
ベガは感極まり、オリヒコとシャロウを抱きしめた。
「おわっ!ど、どうしたんだい?」
「ごめんなさい……!私……ずっと一人だったから……嬉しくて……!」
「……そうか。でもこれからは僕らがいる」
「……はい!」
「せっかくだしこの後一緒にどこか行こうよ!」
時刻は放課後。
生徒達はみんな寮に戻るか、各々好きに出かけていた。
「はい!でも……どこに行きましょう?」
三人はしばらく考え込んだ。
「あ、そうだ!いい所がある!」
オリヒコはベガとシャロウを連れてある場所に向かった。
そこは学園から少し離れた場所にある大きな公園だった。
広い芝生に遊具が点在しており、休日には家族連れで賑わう。
「ここだ」
「わぁ……素敵な場所ですわね」
ベガは目を輝かせた。
シャロウも興味深そうに辺りを見回す。
オリヒコは早速、芝生の上に寝転がった。
シャロウもその隣に座り込む。
ベガもそれに続いた。
三人はしばらく無言で空を見上げていた。
やがてオリヒコが口を開く
「最近ここで人が死んでるんだ」
「!?」
「そこのブランコのとこで、首吊り自殺だって」
「な、なんで今そんな話するんだい?」
「夜会の怪談のネタにと来た事があったんだが、何も起こらなかったんだ。でも今度は何か起こるかも」
オリヒコは立ち上がり、ブランコに歩み寄る。
そしてブランコに飛び乗った。
それを見たシャロウが真似し、ベガもおずおずとそれに続く。
三人はしばらくの間、ブランコを漕いでいた。
しばらくするとオリヒコはブランコから飛び降りた。
「何も起こらなかったね」
その時、シャロウの首元に何かの蔓が巻きつき、シャロウは宙に吊り下げられた。
「!」
蔓は地面から伸びていて、逆U字を描いてシャロウを持ち上げていた。
「な、何?」
隣のベガがブランコを飛び降りると蔓は消え、シャロウは地面に落ちた。
「シャロウ!大丈夫!?」
「ああ、大丈夫だよ」
どうやら怪我はないらしい。
「今のは一体……?」
三人は周囲を見回したが誰もいない。
すると今度はオリヒコの首に蔓が巻きついた。
「うわっ!」
オリヒコも宙に吊られる。
「な……なんだこれ……」
「魔物ですわ!」
ベガが慌ててオリヒコの首の蔓を解こうとするが、蔓はびくともしない。
オリヒコは蔓を解こうとするベガの腕を掴み、叫んだ。
「ベガ!次は君だ!僕の手を取れ!刃物になるかもしれない!」
言われるまま、ベガはオリヒコの手を握りしめた。
オリヒコは縮んで蔓からすり抜け、ベガの手の中でライターに変わった。
オリヒコを吊し上げていた蔓も消える。
そして、やはりベガの首に蔓が巻き付いた。
ベガがライターで蔓に火をつけると、蔓は瞬く間に焼き切れ、導火線のように素早く焼けていった。
火が地面の中へ消えていくと……。
バァンッ!
地面が飛び散り、その下から火が覗く。
地中に潜んでいた魔物が爆発したのだ。
「火をつけたものを導火線付きの爆弾に変えるライターか……爆弾魔とは君もなかなか陰険だね、ベガ」
人の姿に戻りながら、地面に空いた大穴を見つめ、オリヒコは言った。
「ねぇ、オリヒコくん、まさかとは思うけど……」
「うん。本当はここは立ち入り禁止なんだ、ああいう魔物が出るから」
「看板も何もなかったよ!?」
「外から人が入らないように結界が張ってあった。それを僕が破ったんだ」
「死ぬ所だったじゃないか!」
「あれはお気に入り以外は殺さないから平気さ」
「そこまでして彼女の願いが知りたかったの!?」
「そうだが?」
「そうか……そうだよな……君はそういう奴だよな」
シャロウは頭を抱えた。
一方、ベガはしょんぼりと顔を伏せていた。
「まさか私の願いが爆弾を生み出す事だったなんて……」
ベガはうつむいたまま、自身の手を見つめた。
「君が何を願おうがそれは君の自由だし、僕の魔法が本当にその人の願いを反映するものとは限らない。"使用者に合った魔道具に変わる魔法"なんだから」
オリヒコが言った。
「いえ、心当たりは……あるのです」
「そうか」
「願いは、変えられるのでしょうか?」
「君が次に僕の手を取った時、僕がライター以外のものに変わるって意味なら、前例は割とある。気楽に考えた方がいい」
「そうですか。ありがとうございます。気が晴れました」
三人は公園を去り、それぞれの寮に戻った。
「しかし、機関銃に怪力の指輪にモーニングスターに爆弾ライターとは、この学園は病んでる奴ばっかりだな」
ベガにもらったキャラメルポップコーンをつまみながら、オリヒコは言う。
「好戦的な人が多いよね、僕もそうだけど」
「君は好戦的というより脳筋だ。認めたくないかもしれないが、いつも何かする時、魔法を使わずに解決しようとするだろう?戦士の方が向いてるんじゃないか?」
「考えなしに突っ込んでいく奴に言われたくないね!今後は今日みたいな事はやめてくれよ?」
「考えなしではなかったが」
「とにかく、やめてくれ」
そう話している内に、日は暮れていった。