願い叶え屋のコツ
「……なので、命令型の呪文を使う魔法は自由度が高い分何が起きるか予測しにくく、結果使用者が自ら自由度をせばめてしまう事が多いのです。今日はここまで!」
夜会の翌日、呪文学の授業が終わった時の事。
「ねぇ、あなた、願い叶え屋さんとお友達なのですよね?」
シャロウに話しかける一人の女子生徒がいた。
「え、あ、エストレラ……さん……」
彼女の名はベガ・エストレラ。
学年でも指折りの劣等生の一人である。
「彼とお話ししたい事がございますの、取り次いで下さる?」
「それって、オリヒコくんの事?彼なら今頃体育だろうから、校庭にいるんじゃないかな?」
二人は校庭へ向かった。
「あ、いた!オリヒコくん!」
「おお、どうしたんだ?シャロウ」
「彼女が話したい事があるって!」
「えっ……」
ベガが前へ進み出る。
「改めまして、ベガ・エストレラですわ。少々ご相談させて頂きたい事が……」
「ちょっと待った」
「はい」
「シャロウ、ちょっと来い」
オリヒコはシャロウを連れて昇降口から廊下へ移動した。
「君、いつの間に女子と仲良くなったんだ!?」
と、シャロウに詰め寄るオリヒコ。
「え、いや、彼女がオリヒコくんに用があるって話しかけてきたんだ。それに女子なら君だってサバサとかと話せてるじゃないか」
「彼女は誰にでもあんな感じなんだ!僕はどちらかと言えば非モテだぞ!それがどうだ、女子が僕に用があるなんて……」
「君の魔法の事じゃない?願いを叶えるの自体は本当だろ?納得し辛い形なだけで」
「そうかな」
「きっとそうだよ。ほら、得意分野だろ?行っておいでよ」
シャロウに背中を押され、オリヒコはベガのもとへ戻っていった。
「お待たせ……相談って?」
「その、願い叶え屋さんって、普段どうやってらっしゃるのかお聞きしたいのです」
「え?」
「実は私もあなたと似たような活動をしておりまして、今では"固有魔法増やし屋"と呼ばれておりますの」
「固有魔法を……増やす……!?」
固有魔法とは、一人につき一つだけ、生まれた時から持っている独自の魔法で、家系や本人の気質に左右されるそれは千差万別の個性と各々が使う一般魔法をはるかに超える威力を持つ。
「正確には、"〇〇が出来るようになりなさい"という命令であればなんでも相手に従わせる事が出来る魔法を使っておりますの」
「なるほど、言い得て妙だな」
「それで、この活動をするにあたり、コツをお聞きしたいと思いまして……」
「コツ?」
「活動当初からずっと上手くいってない気がしますの……お友達が私を道具のように扱いつつある気がして……」
それを聞いたオリヒコは苦い顔をした。
「まず君は、どんな動機でその活動をしているんだ?」
「魔力量を上げる為ですわ。固有魔法の連続使用が一番の近道と聞きましたの」
「なるほど、君自身に命令をかけて解決する事は出来ないんだな?」
「ええ、それもまた私の魔法の未熟さによるものですわ……」
「今までどんな"願い"を"叶えた"の?」
「そ、それが……」
『必殺技が欲しい!』
『古代魔法を使えるようにして!』
『透明人間になる魔法が使えるようになりたいんだけど……』
『火の魔法全部使えるようになりたい!』
『じゃあ俺水の魔法全部!』
『絶対に当たる占い師になりたい……!』
「……といった具合でして……」
「なってるな、願望機に」
「ええ……その通りですわね……」
「今までその全部叶えた?」
「もちろんですわ」
「逆に不発に終わった事は?」
「一度だけありますわ……でも、何故でしょう?私、願いは一言一句聞き逃す事がないようにして、魔法の発動にも毎回全力を注いでいるのですけれど……」
「それはどんな願いだった?」
「確か、『以前出来た事がもう一度出来るようになりたい』といった願いでしたわ」
「それを叶えられなかった時、何か言われたか?」
「叶えられないとかあるんだね、と」
「それを言われてどう思った?」
「私の未熟さのせいだと思って謝りましたわ」
「多分その人、出来ないと思ってるだけで出来たんじゃないか?それを伝えれば良かったんだ」
「え?」
「君は相手を丸め込もうとする気合いに欠けている。そもそも魔法使いなんていう気疲れする職業、相手を適当にやり込めようとしてなんぼだぞ」
「さすがオリヒコくん嫌われてるだけある……」
と、シャロウがさりげなくつぶやいた。
一方のベガは、雷に打たれたような顔をして固まっていた。
「そう、ですわね……そうかもしれません」
「もちろん道具みたいに扱ってくる奴らもそうだからな」
「ええ、適当に丸め込んで断るべきでしたわ。そろそろ魔力量も十分に上がってきた事ですし」
「悩みは解決したか?」
「はい!ありがとうございました!今度また菓子折りを持ってお礼に参りますわ!」
「ポップコーンがあると嬉しいな」
「ご用意いたしますわ!」
ベガは上機嫌で去っていった。
「良かったね、女子と仲良くなれたじゃない」
「ああ。だが一つ、次で挽回すべき事がある」
「何?」
「関係ない話になってしまって手を取ってもらえなかった」
「君って奴は……」