落星院織彦の怖い話
ついに僕の番か。
今日の夜会におあつらえ向きの話があって良かった。
あれは僕が七歳の頃だっただろうか。
僕の家には座敷牢と言って、家の中で悪い事をしてどうしようもない奴を閉じ込める為の牢屋があったんだ。
そこには弟が常に閉じ込められていたんだが、そいつが何をしたかと言うと、酷いいたずらばかりするんだ。
近所の子供に野犬の生首を投げつけたり、お客の湯呑み……ティーカップに血まみれのネズミを放り込んだりするんだ。
そんなだから僕の家は周りと疎遠になっていって、僕にも友達がほとんどいなかった。
だからって弟を恨んでいた訳じゃなかったけど、好きにもなれるような奴じゃないだろ?
僕は牢屋に近付かないように気を付けていたんだ。
でもある日、僕が牢屋に食事を運ばなきゃいけなくなって、もちろんごねたけど、ダメだったんだ。
普段誰も来ない、明かりもない暗い廊下を進んでいって、牢屋に向かうのはとても怖かった。
それで、牢屋に着いて、食事の乗った細長いお盆を格子の隙間から入れた。
そうしたら、僕の手に弟がかじりついたんだ。
僕は悲鳴を上げて逃げ出した。
あとで傷を確認すると、弟は魔法で歯を変形させて、噛んだ傷口からの流血が止まりにくいようにしていたんだ。
これはまずいという話になって、土着の神社……僕の地元で信仰されている神様の所へ行ったんだ。
そこの神様はとても親切な神様で、僕の傷を見ると、
「この程度の傷、この私にかかればちゃちゃっと元通りなんだから!」
と言って、本当にあっという間に治してくれた。
「あんなに深い傷を負ったのに泣かずにいて強い子ね、さすがは我が信徒!誇らしいわ」
とも言ってくれた。
それからしばらくして、弟が牢にいないと騒ぎになった。
山の中の人が立ち入れないような所以外、家族みんなで探してもいないんだ。
それから、あちこちの家で畑の作物がたくさん盗まれるようになった。
そこで猟師の方々に頼んで、作物を盗んでいるだろう動物を捕まえてもらう事にしたんだ。
その後の日、昼頃だった。
その動物が捕まったという知らせが入った。
見に行ってみると、罠の檻に入った弟がいた。
だけど、猟師の人も地元のみんなも、家族達でさえ、こう言うんだ。
「たぬきが捕まった」って。
しかも……。
「このたぬきはとても凶暴で扱いきれないから、神様に捧げよう」
という話になった。
弟は神様の所でたくさん叱られて大人しい子供になるのだと、僕は思っていた。
その夜、神社で儀式が行われて、神社は立ち入り禁止になっていたから、僕は儀式の明かりを家から遠目に見る事しか出来なかった。
儀式の日の後、弟の様子が気になって、神社へ行くと、神様はいつも通り出迎えてくれた。
弟がどんなに大人しくなったかをたずねたつもりだったが、神様はこう言った。
「あの子はとても暴れん坊だったわ。それに食いしん坊だったようね。私も久しぶりよ、あんなに元気で太った童を食べたのは」
僕の話はこれで終わりだ。