テスト
後日、実技テストの日。
「本当に良かったのかい?」
「ああ、あんなの一コマくらい休んでも大して響かないさ」
シャロウの実技の授業と被った占術の授業を仮病休みしたオリヒコは、シャロウの人差し指で鈍い光を放っていた。
「魔道具の中には時間を巻き戻して同じ人物を同時に二箇所に存在させられる、なんて代物もあるようだが、誰と手を組めばそれになれるか分からないからね、今日はしょうがない」
「君はいつもこんな無茶をしているの?」
「いや、入学してから道具になったのはセイジンとサバサ以来だから初めてだな」
「助けてもらっておいて言うのもなんだけど、学業に響く事はあんまりしない方が良いと思うよ」
「全くその通りだ。今後は気をつけよう」
そして、実技テストの時間がやってきた。
いつもは自動ターゲットに攻撃する形式だが、今回は生徒同士の決闘形式だった。
「とにかく、どうにかして近接戦に持ち込まないと……」
先にテストに臨んでいる生徒達の戦いぶりは、やはり遠距離同士の撃ち合いが基本で、相手に近付く隙が見つからない。
「頑張れよ」
他人事のように笑うオリヒコに、シャロウは渋い顔をする。
「ねぇ、僕って今どういう状態なのかな?指輪してる腕だけが強いのか、全身無敵なのかで話が変わってくるんだけど」
「全身無敵を望んでいるならそうなっているはずだ。試しに当たって砕けてみろ」
「砕けちゃダメだろ」
ついに、シャロウの番が来た。
それぞれの端から決闘台に登り、互いに礼をし、杖を構え……。
そして、シャロウは杖を捨てて見せた。
「ーっ!?」
周囲がどよめく。
これだけならまだ負け判定にはならない。
次に、決闘台を大きく踏みつけて砕き、相手をよろめかせた。
その隙に相手との距離を詰めるシャロウ。
「ク、クー・ド・フードルッ!」
足元がおぼつかない中でも相手が電撃を撃ってくるが、シャロウがそれを反射的に手で受け止めると、なんとそれは霧散していった。
「なんだと!?」
「どゆこと!?」
生徒達がどよめく。
そしてついにシャロウは至近距離まで相手に近付いてきた。
「喰らえ!身体強化魔法の威力を!」
一応誤魔化す為のセリフを叫びながら、相手の片腕を取って背中合わせに担ぎ上げ、教室の壁へ投げ飛ばした。
壁に叩きつけられた相手は、そのまま伸びてしまった。
「ぼ、僕の勝ちだ!」
宣言するシャロウに、どよめきが大きくなった。
実技担当のエト・トゥエルブ先生は、拍手をしながら淡々と評価を下した。
「ちょうど撃ち合いを見飽きていた所だ。遠距離攻撃に頼らない戦法と足元から崩す作戦、実に見事だミヌレ君。しかし、あまり備品を壊すような事は避けたまえ」
「ごめんなさい……」
パタパタとパズルのように蠢き治っていく決闘台から降りたシャロウは、少し満足げな顔をしていた。
「願いは叶ったか?」
「これで減点されてなければ満点だ、それを兄貴に見せれば目的達成かな」
と、こっそり指輪に話しかけるシャロウを、背後から訝しげに見つめる者がいた。
それは、普段からシャロウをいじめている生徒、クレイグ・シュタインだった。
「ありゃ何かタネがあるな……」