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シャロウの願い

「君の願いを叶えてやろう!僕の手を取れ!」


 それが、彼、オリヒコ・ラクセイインの初対面の相手への決まり文句だった。


 彼は、このハロウィン魔法学園の今年の新入生達の中でも目立って奇行が多かった。


 会ったばかりの同級生達に次々と話しかけては決まり文句を言い、魔法を発動したが、その真意が相手の本性を暴いて遊ぶ事にあると知れ渡ってからは、「性格診断の人」とあだ名をつけられ、基本的に避けられるようになった。


 それが、彼の学園デビュー失敗までの軌跡である。


 というのも、彼の持つ「使用者の性格に合った魔道具に変身する魔法」は、一見無害なようで人の神経を逆撫でする事の多い魔法だったのだ。


 たとえば平和主義を謳うセイジン・ヤーデに手を取らせた時はいかめしい見た目の機関銃に変わり、他人や自分の見た目なんて気にしないとあっけらかんとした態度のサバサ・バナコに手を取らせた時は自分だけを実物より美しく映す鏡に変身してしまい、機嫌を損ねさせた。


 他の生徒達も同じ目に遭う事を恐れ、ほとんどがオリヒコと関わらないよう、話しかけられても無視を貫き通した。

 まるで、見えていると知られたらしつこく付きまとってくる幽霊かのように。


 そんなオリヒコは、今日も一人屋上で購買のパンを食べていた。


「やぁ、オリヒコくん、今日も一人だね」


 そこへやってきたのは、全寮制のこの学園でオリヒコと同室の男子生徒、シャロウ・ミヌレだった。


「やぁシャロウ、割と寂しいから君も一緒にどうだ?」


「うん、そうするよ。君に用もあるし」


 シャロウはオリヒコの隣に座り、お手製のサンドイッチを広げた。


「用ってもしかして……」


「願いが決まったんだ」


 シャロウは、入学して最初にオリヒコの標的になった生徒だったが、願いが決まるまでという約束で、申し出を断る事も手を取る事もなかった。


「良かったじゃないか」


 しかし、サンドイッチを食べながら、虚空を見つめるシャロウ。


「でも、君の噂を聞く限り、今思っている願いを叶えてくれる訳じゃないんだろ?」


「そう、だな。それこそ骨の髄まで染みているような根本的な願いでないと叶えるのは難しい」


「骨の髄まで……か……」


 サンドイッチを食べながら、シャロウはしばらく考え込んだ。


「僕の願いはね、今度の実技テストで高得点を取る事なんだ」


「前回そんなに悪い点数だったのか?」


「普通くらいだったよ。でもそれじゃダメなんだ。僕にちょっかいを出してくる奴らや僕を弱い子供のままだと思ってる兄貴に、力の強さを見せつけないといけないんだ」


「ふーん、良い願いじゃないか。試しにこの手を取ると良い。ニワトコの杖になるかもしれないぞ」


 と、オリヒコがシャロウへ手を差し出した。


「うん……」


 サンドイッチを食べ終わったシャロウは、おそるおそるといった様子でオリヒコの手を取った。


 すると、立体的なドミノのようにオリヒコの姿が波打ち、黒ずみ、縮んで、変形していく。


 そうして、シャロウの手の中に残ったのは……。


「指輪?」


 黒く細い指輪の姿になったオリヒコは、楽しげな様子で。


「早くはめてみると良い。何が出来るか分からんぞ」


 と、促した。


 指輪となったオリヒコは、シャロウの人差し指にすっぽりとはまった。


「ちゃんとサイズが合ってる」


「そういう魔法だからな。さ、魔法を撃ってみたらどうだ?」


 ワクワクした様子で言うオリヒコに、シャロウは苦笑いしながら答える。


「そんな指輪はめたくらいで簡単に強くなれる訳……」


 と、攻撃魔法を空へ撃つシャロウ。


 なんの変哲も無い、普通の光線が空へ撃ち上がっただけだった。


「……ないよね、やっぱり」


「何も変化がない事はないはずだ!色々試してみろ!」


「色々って言われても……うわっ!」


 シャロウのローブにどこからかゴキブリが飛び乗った。


「しっ!しっ!」


 手を空ぶって追い払うと、ゴキブリはそれまで彼らが座っていた石ベンチの上に移動した。


「このっ……!」


 次の瞬間、シャロウの振るった手が鋭い唸りを上げ、目にも留まらぬ速さでゴキブリに叩きつけられた。


 ばきり、と音を立てて、石ベンチにヒビが入る。


「え……?」


 潰れたゴキブリと、ヒビ割れたベンチを前に、シャロウは立ち尽くした。


「シャロウ、君は案外脳筋だったんだな」


 そう言うオリヒコの声は、変わらず楽しげだった。


「これが……僕の……願い……?」

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