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 第八章 魔王降臨

 ウスタール軍はソーンベルグ皇国の皇都にもどった。

 マリリンとユージーンは天幕をひとつずつあたえられると決まった。だがユージーンが提案してマリリンとユージーンはいっしょに暮らすことになった。カタリナもだ。マリリンとユージーンで盲目のカタリナの世話をやくと。そのためカタリナの天幕が三人ぶんの大きさのものに変えられた。

 マリリンは人狼軍にほろぼされたラカルーン帝国の遺児として師団長たちに紹介された。ドワーフだとバレるとモスランド男爵がうるさそうだからだ。つまりマリリンとユージーンは亡き国の王族ということになる。カタリナはそれを聞いてすっかり恐縮した。マリリンとユージーンが気さくに接してすぐに打ち解けたが。

 反魔王軍組織ヌータロスは五万人の勢力を維持したまま合流することに決定した。ウスタール王国の正規軍として給料が出ると。次はいよいよ魔王と対決するはずだからだ。総勢十三万人の軍隊を魔王と親衛隊にぶつけるもくろみだった。

 タツは昼食の席でマリリンにたずねた。

「魔王って何者か知ってるか?」

「知らないよ。ボクにとっては間接的な仇だからしらべたんだけどさ。わからなかった。見た目は人間の中年男と変わらないって話だね。けど種族がわからない。特殊な種族だとは思うよ」

「なんでそう思う?」

「ボクらドワーフや人間は毎日寝るよね?」

「はあ? それが?」

「種族によっては一年間ずっと起きてて次の一年は寝っぱなしってのもいるんだ。魔王はそれじゃないかと思う。一年は精力的に活動するけど次の一年は何もしないの。これまでの動きはそうなってたよ」

「つまりこうか? いま魔王が動かないのは睡眠中だから?」

「ボクはそう推測してる。ゴブリン軍・オーク軍・人狼軍・スケルトン軍・ドワーフ軍と撃破されたのに動かないのは変だよ。動けない事情があるんじゃないかな?」

「それが睡眠中?」

「そう。眠ってれば動けないよね?」

「ううむ。じゃ眠ってるあいだに侵攻すれば?」

「勝てるだろうね。でもボクの計算じゃそろそろ目ざめるころだよ。ウスタール軍が魔族国の国境を越えたあたりで目がさめるんじゃないかい?」

「ということは魔王との対決はさけられない?」

「おそらくね」

「じゃ魔族国ってどんな国?」

「ラカルーン帝国の北にあるよ。でも国境線は人間が決めただけでさ。魔族国は国じゃなかったんだ。魔物が多く暮らしてる地域ってだけでね。その地域にボクらのドワーフ王国もあったしゴブリンやオークの住む土地もあった。森・雪山・草原と自然が豊かな地域でさ。過酷な環境のせいで人間は住んでないんだ」

「魔物だけの楽園ってわけか?」

「そう。ただ魔王が主力の魔物を統合したけっか街道が整備されたの。だから国境から魔王城までは大軍でも移動できるよ。人間の国との戦争のために街道を作ったんだね。ほかにもドワーフに武器を作らせてゴブリンやオークに配ったりもした。ボクの父ちゃんはそんな武器は作れないってことわったんだよ。そのために殺された」

 マリリンが涙をにじませた。タツは肩を抱いてやった。反対側からカタリナもマリリンの背中をなでた。

 ウスタール王宮の王命がとどくまでソーンベルグ皇国の皇都の外で演習がくり返された。そんな中で馬車が着いた。王族が乗る豪華な馬車だった。護衛が六人ならんで馬車の戸をあけた。出て来たのはエリザベスだった。ソーンベルグ皇国の皇女だ。

 五師団長とウージール王子がエリザベスを出むかえた。エリザベスがイングリッドに声をかけた。

「タツに用がありますの。呼んでくださいますか?」

 すぐにタツが呼ばれた。エリザベスがポッと頬を赤く染めた。

「タツとふたりだけでお話がしたいの。いいかしら師団長方?」

 イングリッドとゲーブルとベネットとメガロフィアがうなずいた。そういうことかと。モスランド男爵だけは首をかしげていた。

 ゲーブルがタツの背をエリザベスに向けて押し出した。

「どうぞ皇女さま。お好きなようになさってください」

「ありがとうゲーブル師団長」

 ことの展開がわかってないタツにイングリッドが耳打ちをした。

「皇女さまはお前がほしいとさ。もてる男はつらいな」

 本当にそうなのかと思いながらタツはカタリナの天幕にエリザベスを案内した。入れかわりにカタリナとマリリンが天幕を出た。ため息をつきながらだ。また新しい女がふえたという顔だった。ユージーンはトイレにでも行っているのかいなかった。

 タツはエリザベスに椅子をすすめた。エリザベスが優雅に腰をおろした。

「で。どんな話なんですか皇女さま?」

「皇女さまはやめてくださいタツ。エリザベスと呼んで」

「じゃエリザベス。どんな用?」

 エリザベスが顔をまっ赤にした。

「え。えーと。その。あのう。いえ。どうしましょう?」

「言いにくいことでも言えば? そのために来たんだろ?」

「それはそうですが。とても言いにくいんです」

「まあいいから言ってみな」

「はい。思い切って言いますね。わたしを満足させてほしいんです」

「はあ? 満足? それってそういうこと?」

「ええ。そういうことですわ」

「なんでまた突然?」

「それは満足させてくれればわかりますわ。あ。そうだ。紙を二枚とペンを用意してください」

「紙を二枚とペン?」

「そうです。紙を二枚とペンですわ。それが必要です」

 タツは首をかしげた。どういう理由で紙が二枚とペンが必要なのかがわからない。しかし首をかしげつつも天幕を出た。天幕の外では六人の護衛がぐるっと天幕を取りかこんで警備していた。護衛は六人とも女だった。

 タツは紙とペンを用意して天幕にもどった。エリザベスは寝台で毛布にくるまっていた。かたわらの机にエリザベスの服がたたんで置かれていた。下着まである。毛布の下のエリザベスは全裸のようだ。満足させろというのは本気らしい。

 タツも服をぬいでエリザベスにそい寝をした。毛布をはがずにエリザベスの全身に手を這わせた。毛布をはぐとエリザベスが恥ずかしがると思ったせいだ。しばらくエリザベスの前面すべてを指で刺激した。だがまるで反応がない。

 オードリーは足で反応した。タツはそれを思い出して足を重点的になでた。しかし反応がなかった。

 タツは毛布をはいだ。

「きゃっ。恥ずかしい」

 エリザベスが顔を両手でかくした。タツはかまわずにエリザベスを裏返した。うつぶせにしたエリザベスの背面をつま先から頭までさぐった。だがやはり反応がない。身体全体が硬直している感じだ。楽にさせなければ満足どころではなかった。

「エリザベス。きみはじめてだろ? こういうことをしていいのか?」

 エリザベスがはじらいで寝台に埋めた顔を持ちあげた。

「はじめてはそのとおりです。こういうことをしていいのかはわかりません。でもわたしは満足しないといけないんです。タツ。おねがいだからわたしを満足させてください」

 タツはうなずいた。エリザベスの耳に舌をつけた。エリザベスがビクッとふるえてますます全身を硬直させた。タツは耳からうなじへとしつように舐めた。エリザベスの肉体がさらに硬くしまった。タツはこの方針でいいのかと疑問を抱きながら舌を肩から背中へと移動させた。エリザベスの身体がまるでほぐれない。

 タツはまちがったことをしていると思った。だがいったんはじめたことは最後までやるかと舌で足の裏までくすぐった。まるっきし反応がなかった。

 タツはエリザベスをあおむけに返した。足の指の一本一本をしゃぶってみた。エリザベスはくすぐったいとも言わない。吐息は平静なままだ。がまんしているふうでもない。嫌悪感をこらえているのかと思って顔を見た。覚悟を決めて目をかたくつむっている感じだった。はじめてだから怖いのかと推測した。

 タツはすね・ひざ・太もも・腰骨・へそ・胸・首・顔と舐めた。硬直はとけなかった。死後硬直とタツの脳裏に浮かんだ。死体を舐めているのかとがくぜんとした。死霊のキャサリンのほうが生々しい反応をした。ここまで無反応なのは二回目だ。

 タツは首をかしげた。どうすればいいんだこれ?

「エリザベス。キスしていいかい?」

 エリザベスが目をあけた。

「ええ。いいわ。どうぞ」

 タツは指でエリザベスのあごを持ちあげた。そっと口と口をかさねる。エリザベスがうっとりと目をとじた。キスは好きらしい。タツはエリザベスのくちびるを舌先で刺激した。エリザベスが目をとじたまま舌をのばしてタツをさそった。タツはエリザベスと舌をからめた。タツはエリザベスを抱きしめて背中をなでた。エリザベスの硬直がとけない。

 次は何をしよう? タツはあきらめてエリザベスを寝台にすわらせた。

「エリザベス。目をあけて」

 エリザベスがおそるおそる目をあけた。全裸で寝台にすわらされていた。エリザベスが両手で胸を押さえた。

「やだっ。恥ずかしい!」

 タツはエリザベスの目を見つめた。エリザベスが目をそらせた。

「恥ずかしいから見ないでください」

 エリザベスの顔はまっ赤だった。

「ふうん。そんなに恥ずかしいの?」

「はい。すっごく恥ずかしいです」

「まあ皇女さまだものな。男の前で服をぬいだのははじめてかい?」

「ええ。そうですわ。恥ずかしいから見つめないでください。ねえ。抱き合いましょう?」

 タツは考えた。エリザベスの言うとおりにすればエリザベスはほぐれるだろうか? タツはこんな話も聞いたことがあった。女の言葉は信じるなと。いやよいやよは本当にいやではないというやつだ。関心のない男に言ういやは本物の拒絶だ。しかし関心がある男に告げるいやは誘いだと。

「まあもうすこし見せてくれないか。きみの裸体を」

「えっ? いえ。それはぁ」

 エリザベスが頬をほてらせた。両手で頬をおさえた。

「すみからすみまで見たいんだけどかまわないかい?」

「ええーっ? そ? そんなぁ?」

 タツは手をのばした。胸をかくしているエリザベスの手に。ふれるかふれないかで指をとめた。

「あっ。あんっ」

 エリザベスの鼻声をはじめて聞いた。

「皇女さま。胸をかくしてる手をどけてくれませんかね?」

「やっ。やですぅ。だめですぅ。そんなのできませーん」

「じゃ背中なら見てもいいですか?」

「えーっ? 背中ぁ? いやんっ。背中もだめぇ。背中だけじゃなくてちがう部分も見えちゃうぅ」

「ちがう部分は見せてくれないんですか? そういう行為をすると全部が見えると思いますよ?」

「やーんっ。いじわるぅ。見ないようにしてくれるのが紳士ってものですぅ」

「あいにく育ちが悪いものでね。どうしても見たいんですけど?」

「あーんっ。タツがいじめるぅ。わたしは見せたくありませーんっ」

「じゃどうして服をぬいでるんです?」

「そ。それはぁ。やだあっ。答えられない質問をしないでくださーいっ」

 タツを見るエリザベスの目がうるんで来た。

「答えられる質問ってどんなのですか?」

「えーとぉ。そ。そうだわ。オードリーさんってどうなさってるの?」

「オードリーですか? オードリーは娼婦ですよ? 毎日男たちにエリザベスの見せたくない部分を見せてますが?」

「うそぉ? うそですよねぇ?」

「本当ですよ。見に行ってみますか?」

 この時間ならオードリーはウージール王子とまっ最中のはずだ。そのふたりをのぞかせるのもいいかもしれない。

 タツはエリザベスにスカートと上衣を着せた。下着は着せなかった。つまりノーパンだ。タツにうながされてエリザベスがスカートのすそを押さえつつオードリーの天幕に向かった。六人の護衛がぞろぞろとついて来た。

 タツは天幕にかすかなすき間を作ってエリザベスにのぞかせた。

「まあっ!」

 エリザベスが息を飲んだ。他人のそういう行為を見るのははじめてなのだろう。オードリーと王子は恋人同士らしいあまい言葉をかわしながら結合していた。エリザベスはスカートのすそを押さえるのもわすれて見つめている。

 タツはエリザベスの背中に指を這わせた。

「ひゃんっ」

 エリザベスがビクンと跳ねあがった。タツはエリザベスの耳に口をつけた。

「エリザベス。スカートがめくれて見せたくない部分が見えたぞ」

「うそっ。やんっ。見ないでぇ。見ちゃだめぇ。ああんっ。背中をなでるのもだめぇ」

 言いながらも目はオードリーと王子に釘づけだ。箱入り娘には刺激の強すぎる光景らしい。

 タツはエリザベスの腕をつまんだ。さっきまでのカチコチがかなりほぐれて来た。タツはしゃがんでエリザベスに声をかけた。

「見えるよ。よく見えるなエリザベス」

「はうんっ。やだっ。そんなのだめぇ。それはやめてぇ。わたしのそういうところを見ちゃだめぇ」

 エリザベスが手でスカートを押さえた。タツはエリザベスのアキレス腱に口を寄せた。ふくらはぎ・ひざの裏・太ももと舐めあげた。

「はあんっ。やあんっ。そんなのこまるぅ。わたしぃ。わたしどうにかなっちゃうぅ」

 天幕内のふたりは佳境に入っていた。タツはエリザベスの手を引いた。エリザベスが未練げな表情でオードリーの天幕を離れた。六人の護衛たちは眉を寄せていた。好色な男が皇女さまをたぶらかしているという不快顔だった。

 カタリナの天幕にもどってエリザベスを寝台に横たわらせた。服は着たままだ。

「さて皇女さま。オードリーと王子がやってた行為を皇女さまもしますか?」

 エリザベスが目玉をおよがせた。

「えっ? あらぁ。そうねぇ。そうなのかしらぁ」

「あんないやらしい行為をするんですか皇女さまも?」

「やだあっ。言わないでぇ」

「みだらな女ですね皇女さま?」

「ちがうもんっ。わたしみだらじゃないのぉ。わたしはみだらじゃないもーんっ」

「みだらな皇女さま。スカートを持ちあげてくださいませんか?」

「ええええええっ? そんなぁ。そんなことできなーいっ」

「できなければああいう行為はできませんよ?」

「やーんっ。いじわるぅ。タツはいじわるだぁ」

「じゃここまでにしましょうか? スカートを持ちあげてくれませんとできませんからねえ?」

「えーんっ。タツがいじめるぅ。変態行為を強要するぅ。タツはドスケベだぁ」

 タツはエリザベスの耳に舌をつけた。耳を舐めまわしながらささやく。

「皇都女さま。スカートを」

「ひぇっ。あんっ。はんっ。ふええーんっ。しなきゃだめ? 本当にそんなことさせるのぉ?」

「してもらわないとそういう行為にはなりませんね」

「やだぁ。うううぅ。タツのバカぁ。知らないぃ。もう知らないいいぃ。あああーんっ」

 エリザベスの指がそろりそろりとスカートを腹の上までたくしあげた。

「ひややーんっ。みんな見えちゃったぁ。わたしもうお嫁に行けなーいっ。責任取ってよねぇ」

 うーんとタツはうなった。そういう行為をもとめたのはエリザベスだ。それでも責任を取らなくてはいけないのだろうか?

 タツは疑問を置き去りにエリザベスにのしかかった。エリザベスが下からタツを抱きすくめた。タツはキスをしながらエリザベスの準備をたしかめた。じゅうぶんにほぐれていた。タツを抱きしめるエリザベスの手にさらなる力がくわわった。吐息はあまくやるせない。はじめてだと痛いはずだがと思いつつタツは全裸になった。

 くちづけながら結合した。

「あっ! ああああーっ!」

 エリザベスが顔をしかめた。やっぱり痛いようだ。

「痛けりゃやめようか?」

「バカぁ」

 エリザベスの手がタツの背中にすがりついた。エリザベスの舌が熱烈なキスをした。せつなく切れ切れの吐息がもっともっととタツをうながした。タツはうながされるまま先に進めた。

「ああっ。ひいいいぃ。やんっ。それっ。ひゃんっ。それぇ。はうんっ。それぇぇぇ」

 痛みよりあまさがまさりはじめたらしい。タツはエリザベスの服をはいで裸にした。あらためてキスをして仕切り直した。腕や背中をさわるとエリザベスの身体がビクビクッと跳ねた。

「はあんっ。ひぃんっ。ふゃんっ。ああんっ。そこっ。そこぉ。うっくっ。そこなのぉ」

 タツは手をのばしてエリザベスの足を引き寄せた。足の指から甲を指で刺激した。

「ふみぃ。とけちゃうぅ。わたしとけちゃうよぉ。えーんっ。こんなのだめぇ。はひゃんっ」

 タツはひざの裏から太ももの裏をなでた。エリザベスの手がタツの手をつかんでとめた。エリザベスがタツの手を自身の背中に持って行く。エリザベスがタツの背中で両手を組んだ。ギュッとタツを抱き寄せた。いまよと。来てと。タツはエリザベスに請われるまま終わりをエリザベスに打診した。エリザベスの肉体がタツの問いに答えた。

「あひいいいいぃーっ! いやーんっ。だめぇ。あああああああーんっ! んっ!」

 エリザベスが終わるのに合わせてタツも終わらせた。するとエリザベスが荒い息のままタツを押しのけた。クルリとうつぶせに寝た。タツが疑問に首をかたむけるとエリザベスがうながした。

「わたしの背中を見てください。二枚の地図が浮き出てるはずです。それを紙に写し取ってください」

 たしかにエリザベスの白い肌に地図が描かれていた。背骨にそって二枚だ。タツはペンを取った。紙に書く。書き終わってしばらくすると絵がうすれはじめた。エリザベスの荒い息が平常にもどると絵は完全に消えた。そこにあるのはエリザベスのまっ白い背中だけだった。

 タツは目をパチパチとまたたかせた。

「いまのはなんだ?」

 エリザベスが上体を起こしてタツを見た。

「ソーンベルグ皇室に代々伝わる究極の大魔法のありかを示す地図です。わたしが満足しないかぎり浮き出ない魔法がかけられてます」

「それで満足させろと?」

「はい」

「だから最初は身体が硬かったのか。いやいやだったわけだな?」

 タツの頬がパシーンッと鳴った。エリザベスが平手打ちをくらわしていた。

「わたしはいやいやあんな行為をする女じゃありません。タツだからあんな行為をしたんです」

「でも俺じゃなくてもよかったんでは?」

「そ。それはそうですが。あんな行為をしてもいいと思いあたったのはタツだけだっんです。だからわたしはタツが好きなんだと思います」

 タツは痛む頬を押さえた。

「ありがとう。でも俺は」

 手近に手ごろな男がいなかっただけではとタツは疑問だった。

「いいんです。結婚してくれなんて言いませんから。それよりその地図を見せてください」

 タツは机に乗せた二枚の紙をエリザベスに手わたした。

「皇都の近くにある皇室の墓ですね。ここからなら半日もかかりません。行きましょう」

「ええ? いまからかい?」

「はい。そのために来たんですもの。タツは魔王を倒しに行くんでしょう? 究極の大魔法が役に立つはずですわ」

「皇室の墓ねえ」

 タツはいやーな予感がした。墓にはお化けがつきものだ。なにか出るんじゃないか? そう思った。タツは小心者だ。お化けには特に弱い。ホラー映画なんてとうてい見れない。

 タツはアイーダとリンダとテオに声をかけた。いっしょに行こうと。女たちはお化けが怖くないのかウキウキとついて来た。

 エリザベスの先導で皇室の墓に着いた。石造りの四角い箱といった建物だった。扉をあけると地下への階段が見えた。中に入るとひんやりして暗かった。エリザベスが壁にあるロウソクに火をともして先に進む。エリザベスのあとには六人の護衛だ。その次がタツたちだった。

「えーと。突きあたりの左にかくし部屋があるわけね」

 エリザベスが壁をロウソクで照らしてしらべはじめた。周囲には棺桶がズラリとならんでいる。エリザベスにとっては身内だがタツには赤の他人だ。それぞれに死体が入っていると考えるととても怖い。護衛の六人も気味悪そうだった。

「あったわ。これね」

 エリザベスが壁の石のひとつを押しこんだ。石にはヘビの紋章がきざまれていた。ギギギギギときしむ音を立てて壁が左右にひらいた。石室の奥に台座が見えた。

「あれが究極の大魔法ね」

 エリザベスが石室内に踏みこんだ。護衛とタツたちもエリザベスにつづいた。石室の中央に来たときだ。声がひびいた。

「待たれよ。究極の大魔法ファイアーフレアを手に入れたくばわれを倒せ」

 床に魔法陣が浮かんだ。その中心から人影がせりあがった。首のないヨロイだった。

「きゃーっ! 出たあっ!」

 護衛の六人の女が叫んでまわれ右した。走って石室から逃げ出した。

 首のないヨロイは右手に剣を持っていた。左手はカブトをかぶった頭部だ。デュラハンだった。首なし騎士だ。タツも逃げたかった。足がふるえた。歯の根も合わない。カタカタと歯が鳴った。

 アイーダとリンダが剣をぬいた。テオが呪文をとなえた。

「地獄の業火よっ! 冥界のともし火よっ! わが手に燃えろっ! ファイアーボールッ!」

 火の玉がデュラハンに飛んだ。ヨロイの胸にぶつかった。炎が一瞬燃えあがったがすぐ消えた。魔法は効かないらしい。

「メーンッ!」

「どうーっ!」

 アイーダとリンダが斬りこんだ。アイーダの剣がヨロイの首の穴にあたった。だがキンッと金属音がしただけだった。ヨロイは無傷だ。ヨロイの首の穴の中はまっ黒だった。中身はからっぽみたいだ。

 リンダの剣はヨロイの胴を横になぎはらった。しかしこれもキンッと音がしただけで傷ひとつつかなかった。

 タツも剣をぬいた。おそるおそる斬りかかった。

「メーンッ!」

 ヨロイの肩にあたって左手が持っている頭部のカブトに剣が衝突した。キンッキンッと音がした。肩にあたったときは変化がなかった。だがカブトにあたったときデュラハンがよろめいた。頭部が弱点らしい。

 エリザベスがタツたちのうしろに身を引いた。戦いはまかせたという顔だった。皇女としては当然の行動なのだろう。

「頭が弱点みたいだぞっ!」

 タツの声にアイーダとリンダとテオがうなずいた。

「地獄の業火よっ! 冥界のともし火よっ! わが手に燃えろっ! ファイアーボールッ!」

 テオがデュラハンの頭部に火の玉を発射した。火の玉が頭部を直撃した。やはり一瞬だけ燃えたがそれだけだった。

「そろそろよいかな? われも攻勢に出ても?」

 デュラハンが剣をふりかぶった。タツに斬りつける。タツは怖いなんて言ってられなくなった。剣でデュラハンの剣を受けとめた。ガギンッと音がした。重い。デュラハンは右手一本だ。タツは両手で剣をささえた。なのに押し切られた。デュラハンの剣がタツの腕の肉をそいだ。血がパッと飛び散った。

「いててっ! この野郎っ!」

 タツはデュラハンの頭を狙って斬り返した。

「メーンッ!」

 頭と言っても左手の上だ。メンと言って正しいのかとタツは疑問を感じながらふりおろした。剣はカブトの中心をずれた。そのせいで横にすべった。デュラハンの身体が横にゆれた。

 アイーダとリンダがデュラハンの背後から剣をふった。

「メーンッ!」

「どうーっ!」

 アイーダの剣はカブトの頭頂を斬れなかった。わずかに右にずれた。剣がカブトの側面にすべる。リンダの剣がデュラハンの頭を真横から直撃した。ギンッと音がして頭部が左手を離れた。石の床にガンガランッと落ちて転がった。

「やったっ!」

 リンダがよろこんだ。だがデュラハンが何もなかったかのように左手で頭部をひろいあげた。

 デュラハンが右手の剣をふりおろした。アイーダの受けた剣がはじかれた。デュラハンの剣がアイーダの胸を斬った。革のヨロイが裂けて血が出た。

 タツは考えた。ムーンドロウのときにやったようにカブト割りをするべきではと。

「メーンッ!」

 タツは上段から渾身の力をこめて剣をふった。しかし勝手がちがった。左手に乗っていては面ではない。コテでもない。では何だろう? わからなかった。そのとまどいが剣すじに如実に出た。タツの剣はカブトの頭頂を大きくそれて空ぶった。

 左手に乗っているのも大いなる問題らしい。普通は胴の上に頭が乗っている。その場合は頭が簡単に左右に大きくは動かない。左手で持っている頭は移動が楽だ。小さな腕のふりで剣をかわすことができる。デュラハンのカブトの頭頂を割るのは至難のわざだと思えた。

 デュラハンが剣をふりあげた。今度はリンダに斬りかかる。

「きゃあっ!」

 リンダが剣を受けそこなった。デュラハンの剣がリンダの肩を斬った。血がシュパッと噴き出た。

「メーンッ!」

「メーンッ!」

 タツとアイーダがデュラハンの前後から同時に剣をふりおろした。タツの剣はカブトの側面をすべり落ちた。アイーダの剣はあたらなかった。デュラハンがアイーダにふり向いたからだ。デュラハンの剣がアイーダに斬りこむ。アイーダが側転して剣をよけた。デュラハンの剣が石の床をズンッと斬った。

 どうすりゃいいんだこいつ? 左手が頭を持っているかぎりカブト割りは成功しそうにない。ではどうすればいいか?

 考えているあいだにデュラハンが斬りつけて来た。タツはハッと剣をあげた。剣と剣がぶつかった。デュラハンの剣が軌道を変えてタツの二の腕を斬った。血がタラッと流れた。

「いってーっ!」

 そのときひらめいた。左手が頭を持っているかぎり成功しないわけだ。左手から頭をたたき落とせばいい。

「アイーダッ! リンダッ! 胴でなぎはらって頭をたたき落としてくれっ!」

 リンダが口をとがらせた。

「なんでよっ? さっきやったけどだめだったじゃないっ?」

「いいからやってくれっ!」

 アイーダがうなずいた。

「どうーっ!」

 アイーダの剣がデュラハンのカブトを横からなぐりつけた。デュラハンの頭が床に飛ぶ。タツは待ってましたとその頭につかみかかった。頭を首を下にして床にすえた。デュラハンが頭に手をのばす。

「メーンッ!」

 動かない頭に上段の剣が炸裂した。頭頂に太陽のつるぎが吸いこまれた。カブトがパカッとふたつに割れた。

「やった! カブト割りに成功したぞ!」

 デュラハンが笑いはじめた。

「ふっふっふっ。みごとである。なんじは究極の大魔法ファイアーフレアを手にする資格がありと認める。さあファイアーフレアを手に入れよ」

 デュラハンの身体がうすれて行く。ゆらゆらとかげろうのように姿がぼやけてやがて消えた。割れたカブトもなくなっていた。

 タツはふうと息を吐いた。エリザベスが来てスカートを裂いた。その布でタツの傷をしばった。

「ご苦労さま」

 エリザベス・タツ・アイーダ・リンダ・テオが台座をのぞきこんだ。台座の表面に文字が彫られていた。リンダが読みあげた。

「なになに。ここに究極の大魔法ファイアーフレアの呪文を記す。魔導の炎よ。天空のわななきよ。わが手にきたれ。ファイアーフレア。はあ? それだけ? 究極の大魔法なのにそれでいいの?」

 エリザベスが苦笑した。

「それでいいのかはわからないわ。でもリンダに魔法の才能がないってのはわかったわね」

 リンダがエリザベスの顔を見た。

「はい? どういうことよエリザベス?」

「だってね。リンダが魔法使いならいまの呪文でファイアーフレアが発動してるはずだもの。こんな狭い石室で究極の大魔法が発動したらわたしたちみんな焼け死んでたでしょうね」

「な。なるほど。あたしに魔法の才能がないのがよかったってか」

 エリザベスが呪文をタツの書いた地図の裏に書きとめた。

「さあ。部隊にもどって魔法使いにこの呪文をためしてもらいましょう。どのくらいの威力があるのか楽しみだわ」

 石室を出ると六人の護衛がバツの悪い顔で立っていた。エリザベスがチラッと護衛たちを見た。だが何も言わなかった。役に立たない護衛ねという顔だけを残してエリザベスが入り口に足を向けた。

 魔法部隊の天幕から魔法使いたちを連れ出した。テオをふくめた二百名の魔法使いたちが弓の練習に使うマトに呪文をとなえた。だがだ。誰ひとりとして魔法が発動しなかった。

 リンダが首をかしげてエリザベスを見た。

「どういうこと? やっぱり究極の大魔法の呪文にしてはみじかすぎるの?」

 エリザベスも首をかしげた。

「さあ? 数百年も誰も使ったことのない呪文なの。でたらめなのかしら?」

 魔法使いの最年長のトゥードールが口をはさんだ。

「魔力が足りないんじゃない? 究極の大魔法でしょ? あたしたちの魔力量では発動しないのかもしれないわ」

 タツはトゥードールの顔を見た。

「じゃどうすればいいんだい?」

「捜すしかないわね。この魔法を使える者を」

「はあ? どういうことだ?」

「だからひとりずつためすのよ。呪文をとなえさせて魔法の発動する者をね。ここには八万人の人間がいるんでしょ? 誰か使える者がいるんじゃないかしら?」

 翌日に師団長の指揮で八万人に呪文をとなえさせた。しかしやっぱり誰ひとりとしてファイアーフレアを出せた者はいなかった。モスランド男爵はインチキじゃと決めつけた。他の師団長もさじを投げた。

 タツはあきらめなかった。まだ娼婦と男娼と一般人がいた。タツは各師団を代表する娼婦たちに娼婦と男娼を集めさせた。兵站省のフランクにたのんで一般人の炊事係などを集めてもらった。二千五百を越える娼婦と一万二千五百におよぶ男娼と一般人が一万人だ。合計二万五千人超に呪文をためしてもらった。だがやはりだめだった。

 エリザベスがガックリと肩を落とした。はじめてをなくして痛い思いまでしたのにファイアーフレアは使えない。何のためにここまで来たのか。

 夕食の時間か来てタツはカタリナたちと長いすにすわった。そこにエリザベスも顔を見せた。ふり向いたユージーンが声をあげた。

「あれ。ソーンベルグ皇国のエリザベスじゃないか? おひさしぶり」

 エリザベスがユージーンの顔を見て頬を押さえた。

「ユージーン? あなたどうしたのその顔? 傷だらけじゃない?」

 ユージーンが眉を寄せた。そういえば仮面をしてなかったなと。仮面はバークリーの部屋で燃えた。そのあとはバークリーを殺したことで心の傷がいえて仮面をつけるのを忘れていた。

「うん。ちょっとね。おたがいにつもる話がありそうだな。今夜はゆっくり話さないか?」

「いいわよ。あなたとは十年ぶりくらいですものね。こんなところにいるってことはあなたも?」

 エリザベスが意味ありげにタツを見た。ユージーンがうなずいた。皇女と公女だ。面識があっても不思議ではない。

 夕食が終わるとユージーンがエリザベスの手を引いてカタリナの天幕に向かった。マリリンはカタリナの手を引いてだ。

 タツは今夜はいいかと思った。カタリナの天幕で毎晩女たちの相手をしている。カタリナ・マリリン・ユージーン・アイーダ・リンダ・テオ・セシリアだ。ユージーンがエリザベスと語り合うならそんなことをしては邪魔だろう。今夜はアイーダ隊の天幕でおとなしく寝よう。そう思った。

 タツが眠りにつこうとしているときカタリナの天幕ではユージーンとエリザベスが熱心に話しこんでいた。

「それでね。デュラハンが出て来てさ。タツとアイーダとリンダとテオが戦ったの。タツが最後にデュラハンの頭をまっぷたつにしちゃったのよ。すごいわねえ」

「タツならそれくらいやるだろう。わたしたちの惚れた男だからな」

 マリリンとカタリナがうんうんとうなずいた。

「でもね。そうやってせっかく手に入れた呪文は役立たずだったのよ。誰ひとりとして魔法が発動しなかったの」

「ふうん。どんな呪文なんだ?」

「えっ? ユージーンはためしてないの? ここにいる全員がためしたって?」

「いや。わたしは知らないぞ。マリリンとカタリナもためしてないはずだ」

 アイーダ隊担当の娼婦を集めるときタツはオードリーにまかせた。オードリーはカタリナがユージーンとマリリンといっしょに暮らして大きな天幕に移ったことを知らなかった。カタリナの天幕がないと不思議に感じたが他の娼婦に声をかけているうちにそれをわすれた。そのためにユージーンとマリリンとカタリナは呪文をためしてなかった。

「じゃためしてみる?」

「そうだな」

 エリザベスは弓の練習場にユージーンとマリリンとカタリナを連れて行った。石の壁の前にマトが立ててある。そのマトに向かってユージーンとマリリンとカタリナが右手をのばして呪文をとなえた。ユージーンとマリリンは変化がなかった。だがカタリナのてのひらから火の玉が出た。野球のボール大の火の玉だった。火の玉がマトに飛んだ。

「あら? ファイアーボールかしら?」

 エリザベスはがっかりした。ファイアーフレアってファイアーボールだったのかと。しょぼい魔法だわねと。

 火の玉がマトにあたった。とたんに轟音がひびいた。地をゆるがすほどの音だった。ゴーッという大音響とともにマトと背後の壁が炎につつまれた。まばゆい光と熱風が押し寄せた。熱風はエリザベスたちをなぎ倒した。夜空を炎の柱が焼いた。

 タツは天幕の中でその光を見た。太陽の光よりも強い光で天幕の中が昼間みたいになった。まぶしくてタツは目がさめた。目の前が昼間なみにあかるかった。

「な? なんだあ?」

 タツとアイーダとリンダが外に出た。弓の練習場のあたりで巨大な炎が夜空を舐めていた。ウスタール王国の王宮ほどの高さに燃えあがっていた。

「敵襲か?」

 それにしては見張りがさわいでない。どういうことだかわからなかった。異変に気づいたのかイングリッドも天幕を出て炎をながめた。その他の天幕からも続々と人が出て来た。

「取りあえず行ってみよう」

 タツとイングリッドを先頭に弓の練習場に向かった。そこで見たのは顔をススでまっ黒にしたエリザベスとユージーンとマリリンとカタリナと六人の護衛だった。なぎ倒されたせいで服も土がついていた。

 タツは見た。石の壁が燃えていた。

「なんだありゃ? 石の壁が燃えてるぞ?」

 通常は石は燃えない。なのに燃えていた。どういうことだかタツにはわからなかった。

 イングリッドが訊いた。

「なにがあった?」

 マリリンが答えた。

「ボクら呪文をためしたの。ボクとユージーンはだめだったんだ。でもカタリナが」

「カタリナが? まさかカタリナがあの壁を燃やしたのか?」

「そうなんだ。カタリナの手から火の玉が出てさ。マトにあたったと思ったとたん巨大な炎が燃えあがったんだよ」

 リンダはぞっとちぢみあがった。もし昼間の石室でファイアーフレアが発動していたら? 石の壁を燃やすほどの魔法だ。人間など一瞬で骨も残さずに燃えつきたろう。

 翌日になった。カタリナが五師団長の前で呪文をとなえた。

「魔導の炎よっ! 天空のわななきよっ! わが手にきたれっ! ファイアーフレアッ!」

 カタリナの手から火の玉が飛ぶ。見た目はファイアーボールと同じだ。マトにあったあとがすごかった。轟音とともに火の玉が巨大化した。周辺を飲みつくす炎のかたまりが現出した。熱気や熱風が見ている者の頬を打った。じゅうぶん距離を取ったはずなのに汗が噴き出るほど熱かった。昨夜の熱風にあおられた女たちは軽いやけどをおっていた。

 ゲーブル師団長がヒゲをなでた。

「こりゃすごい。さすがはソーンベルグ皇室の究極の大魔法だね」

 ベネット師団長が考え顔でつぶやいた。

「ファイアーボール一千発。いや。一万発以上の威力があるな。とんでもない魔法だ」

 モスランド男爵が顔をまっ赤に染めた。

「これさえあれば魔王軍など怖くはないぞ! 三万匹の魔物など一掃できる! この女を先頭に立てていますぐ侵攻すべきじゃ!」

 メガロフィア師団長が笑いをあげた。

「あはははは。もうすこしためしてみないとだめだよ。これだけの大魔法なら撃てる回数もかぎられるんじゃないかな? 術者に大きな負担がかかるかも知れないしね。イングリッド君はどう思う?」

 イングリッドがしばし思案した。

「オークのムーンドロウとマリリン帝女の話だと魔王はえたいが知れないという。親衛隊の三万匹は十三万人の軍で始末できるだろう。わたしも究極の大魔法は撃てる数がかぎられると推測してる。だから親衛隊に使わずに魔王対策として温存してはどうか?」

 ゲーブルが眉を曇らせた。

「ううむ。魔王か。たしかに魔王についてはまるでわかってない。親衛隊はゴブリン・オーク・人狼だそうだ。その三種なら戦車と歩兵で蹴散らせるか」

 ベネットがボソボソとつぶやいた。

「三万匹対十三万人だからな。まず負けはしまい。そうなると問題はやはり魔王か。どれほど強いんだろうな?」

 モスランド男爵がかんしゃくを起こした。

「魔王などたいしたことはないに決まっておる! たまたま組織をまとめる才能があっただけじゃろう! 十三万人の軍隊に勝てる個人などおらん! きさまらは魔王の虚像におびえすぎじゃ! 実際の魔王はその他の魔物よりちょっと強いだけじゃろうさ!」

 メガロフィアが口を出した。

「わはははは。まあまあモスランド男爵。究極の大魔法をためすのはイングリッド君にまかせてですな。われわれは新たにくわわる人員をどう配分するかを決めるべきでしょう。ヌータロスの五万人に訓練もほどこさねばなりません。部隊長たちの昇進や再配置も各師団でおこなわねばね」

 ふむとモスランド男爵が納得した。師団長は王宮が書類を精査して半年ほどかけて任命する。魔王討伐の王命が出るまでに新しい師団長が決められる時間はない。そうするとヌータロスの五万人はいまの五師団にそれぞれ編入される。一万人の師団が倍にふくれあがるわけだ。五千人長や千人長をふやさなければならない。その人選は師団長がする。師団長は人事に頭をひねらざるをえない。究極の大魔法にかまっているひまはなかった。

 タツたちはカタリナのファイアーフレアの実験に立ち会った。兵站省のフランク・イングリッド・タツ・アイーダ・リンダ・ユージーン・マリリン・エリザベスの八人でだ。

 その結果は一日に三発はなつのが限界だとわかった。魔力が切れるらしい。三発撃つとカタリナはぐったりして腕もあがらなくなった。

 ファイアーフレアは何かにあたらなかったときは空中で消滅した。その射程距離はタツの感覚で五十メートルだった。マトが五十メートルより遠い場合は途中でかき消えた。

 次の問題はカタリナが盲目だということだった。とまっているマトだと目が見えなくてもかろうじてあたる。しかし動いているものに盲目のカタリナではあてられない。

 マリリンが口をはさんだ。

「ボクがカタリナの右手をつかんで狙いをさだめるよ。そうすればカタリナが見えなくてもマトにあてられるでしょ?」

 エリザベスも同意した。

「わたしとユージーンでカタリナがぶれないようにささえましょう」

 ふむとイングリッドがうなずいた。

「四人ひと組の魔法部隊か。だが最前線に出なきゃならん。危険だぞ」

 マリリンがくちびるをとがらせた。

「カタリナひとりを危険にさらせないよ」

 エリザベスがうんうんと首をたてにふった。

「国を守るために命をかけるのは皇族の義務ですわ」

 ユージーンも賛同した。

「そのとおりだとわたしも思うな。魔王を倒すまではわたしも公女でいよう」

 カタリナについてはそういうことで決着した。マリリンとユージーンとエリザベスの三人が面倒を見ると。一日に三発しか撃てないということで魔王対策に温存するとも決まった。

 タツは思い出してフランクの顔を見た。

「親衛隊には人狼もいるが銀の剣はあるのかい?」

「ええ。二万本ならあります。造幣省は四万本を銀貨で作ってくれました。だから四万本は造幣省に返還しました。そのあと銀の矢が役立たずだったんでその矢を銀の剣にしたんです」

「だから二万本?」

「はい。銀の矢を作った銀はタツさんが私費で購入したんでしょう? そのぶんの予算が財務省から出てます。兵站省であずかってますので王都にもどったら受け取ってくださいね」

 そういやそんなカネを出したなと思い出した。戦場にいるせいでカネを使うのは兵士に貸すだけだ。日々五割の利息が入って来るためカネにはこまらないからすっかりわすれていた。

「二万本あれば人狼対策もできるか。総数が三万匹の親衛隊で人狼が二万匹以上ということもないだろう」

 そうこうしているうちに王命がとどいた。魔族国に侵攻して魔王を討てと。

 合流したヌータロスを合わせて十三万人が魔族国を目ざした。ラカルーン帝国を越えて魔族国に入った。マリリンの案内で魔王城へと進軍する。

 魔王城が見えた。魔王城の前の広場に三万匹の親衛隊が集結していた。ウスタール軍をむかえ撃つ気が満々だ。

 魔法部隊と弓兵部隊が飛び道具で開戦の火ぶたを切った。

「地獄の業火よっ! 冥界のともし火よっ! わが手に燃えろっ! ファイアーボールッ!」

 火の玉と矢が三万匹の親衛隊を襲う。倒れる者や火ダルマになる者が出た。だがごく一部だった。三万匹の親衛隊がどとうのように押し寄せた。ウスタール軍の戦車隊がむかえ撃つ。三万匹の先頭が蹴散らされた。そこにウスタール軍の歩兵もくわわった。

 あきらかに親衛隊が劣勢だった。三万匹対十三万人では結果が見えている。

「やめいっ! 余が相手をしようっ! ものども引けぇ!」

 すごい大声だった。三万匹の親衛隊がいっせいに魔王城に後退した。代わって先頭に男が出て来た。大きなカマを持っていた。死に神のカマみたいな大鎌だった。

 ウスタール軍の戦車が男に殺到した。男がカマで戦車を斬った。戦車が一刀両断されて乗っていた兵士が投げ出された。次々に戦車がカマのえじきになった。

 三万匹の親衛隊から声が湧き起こった。

「魔王さまっ! 魔王さまっ! 魔王さまーっ!」

 カマをふっているのは魔王らしい。御者をしているフランクがタツをふり返った。

「どうします? 私たちも魔王に突っこみますか?」

 アイーダがうなずいた。

「行ってくれ」

 フランクが魔王に向けて戦車を走らせた。テオが魔王に火の玉を放つ。

「地獄の業火よっ! 冥界のともし火よっ! わが手に燃えろっ! ファイアーボールッ!」

 火の玉が魔王に飛んだ。魔王がカマで火の玉をふたつに斬った。斬られた火の玉が魔王の左右にわかれて飛んだ。

 タツはフランクに指示を出した。

「このまま進むとカマで斬られそうだな。フランク。魔王の手前で反転してくれ。俺たちは飛びおりて魔王と戦う」

「了解しました」

 フランクが器用に魔王の直前で戦車を反転させた。タツとアイーダとリンダとテオが飛びおりた。魔王がタツたちの乗る戦車を斬ろうとカマをふるった。戦車はカマの回転範囲を見切って引き返していた。だが飛びおりたタツの腹をカマがかすめた。革のヨロイが裂けて血がにじんだ。

 タツが見た魔王は半目だった。まぶたが目の半分をおおっていた。眠そうな顔に見えた。魔王はマリリンやムーンドロウの言うとおりどこにでもいそうな中年男だった。ごく一般的な軽装をしていた。ヨロイやカブトはつけてない。

「俺たちが相手だっ! 魔王っ!」

「よろしい。余のカマのサビにしてやろう。きさま名前はなんと言う?」

「タツだっ!」

「タツか。よくもきさまら人間は余が寝てるあいだに余の配下たちを殺してくれたな。余が起きてさえいればむざむざとあやつらを死なせなかったものを」

「やはり寝てたのかっ!」

「ふふふっ。まだ眠いがな。きさまらを相手にするならそれでも充分だろうさ」

 タツはアイーダとリンダに目くばせした。行くぞと。アイーダとリンダがうなずいた。

「メーンッ!」

「メーンッ!」

「メーンッ!」

 三人が同時に斬りかかった。魔王がカマで三人の剣をとめた。三人の剣を跳ねあげた。魔王のカマが横にはらわれた。タツの首にカマが飛んで来た。タツはのけぞってかわした。アイーダがしゃがんでよけた。リンダがうしろに飛びずさった。

 タツは思った。魔王って案外たいしたことない? カマの切れはするどい。だが魔王の力はそれほどでもなかった。ゴブリンキングやオークキングのほうが力は強かった。この魔王は策略で魔王になったのかもしれない。そんなふうに感じた。

 テオが呪文をとなえた。

「地獄の業火よっ! 冥界のともし火よっ! わが手に燃えろっ! ファイアーボールッ!」

 火の玉が魔王に走った。魔王がカマの腹で火の玉をはじきあげた。火の玉が真上にそれて消えた。

 タツとアイーダとリンダが横なぎに剣を放った。

「どうーっ!」

「どうーっ!」

「どうーっ!」

 タツとアイーダは右からだ。リンダは左から魔王の腹を狙った。魔王がタツとアイーダの剣をカマでガキッととめた。リンダの剣が魔王の腹を一文字に裂いた。

「うぬっ!」

 血がドッと出た。魔王が顔をしかめた。痛そうだった。いけるとタツは思った。魔王は想像したほど万能ではないと。

 テオが魔王の手を狙った。

「地獄の業火よっ! 冥界のともし火よっ! わが手に燃えろっ! ファイアーボールッ!」

 火の玉が魔王のカマをにぎる右手に飛んだ。魔王がカマで火の玉をたたき落とそうとした。だが魔王が動く前に火の玉が右手を焼いた。

「うわあっ!」

 魔王が右手をカマから離してふった。炎につつまれた右手が火の粉を散らした。火は消えたが右手はススでまっ黒に染まった。やけどになっているはずだった。

 そのあいだにタツとアイーダとリンダが斬りかかった。

「メーンッ!」

「メーンッ!」

「メーンッ!」

 魔王の左手にあるカマがタツとアイーダの剣をとめた。そのときピシッというかすかな音をタツは聞いた。なんの音だかわからなかった。魔王のカマはリンダの剣をとめられなかった。リンダの剣が魔王の肩から胸を斬り裂いた。血がヌパッと出た。

「うぬぬっ! よくもやりおったなっ! これでもくらえっ!」

 魔王が右手もカマに足して両手でカマをふりおろした。タツは頭上で魔王のカマをとめた。そのときまたピシッと音がした。だが気にしている時間はなかった。グギギギッとカマと剣が押し合う。タツは必死で剣をささえた。しかし魔王のカマが押し勝った。カマがタツの木のカブトに裂け目をきざんだ。カマの先がタツの頬を斬った。そのままカマがタツの胸も裂いた。頬と胸から血が流れた。

「お兄さまっ!」

 テオがふたたび魔王の右手を狙った。 

「地獄の業火よっ! 冥界のともし火よっ! わが手に燃えろっ! ファイアーボールッ!」

 今度は魔王がカマの腹で火の玉を打ちはらった。火の玉が横に飛んで消えた。

 タツとアイーダとリンダが魔王に斬りつけた。

「どうーっ!」

「メーンッ!」

「どうーっ!」

 タツが右からだ。アイーダが上段だった。リンダが左から魔王の胸を狙った。魔王がカマでアイーダの剣を頭上で受けとめた。タツの剣が魔王のわき腹を斬った。血がドシュッと出た。リンダの剣が魔王のあばらに食いこんだ。血がバパッと噴出した。

「くおおっ!」

 魔王がよろけた。アイーダがカマをいなして剣を斬りさげた。魔王の肩がシュッと血を噴いた。

 ここだとタツとリンダが剣をふりかぶった。

「メーンッ!」

「メーンッ!」

 魔王がカマを持ちあげた。タツとリンダの剣をカマでとめた。そのとたんだった。カマがパキンッと音を立てた。カマの刃が根本から折れていた。さっきからのピシッという音はカマの刃にひびが入る音だったのかとタツは知った。タツとリンダの剣がささえをうしなって下に斬りこんだ。魔王の左右の胸にたてに傷がきざまれた。血がドフッと出た。

「ぬおおっ!」

 魔王がひるんだ。タツとアイーダとリンダが魔王に剣を突きこんだ。

「つきーっ!」

「つきーっ!」

「つきーっ!」

 三本の剣が魔王の胸と腹に刺さった。血がそれぞれの傷から噴き出した。魔王の目がカッと見ひらいた。ずっと半分とじていた目が全開になった。

「ふっ! ようやく目がさめたわっ!」

 タツとアイーダとリンダが剣をふりあげた。とどめとばかりにふりおろす。

「メーンッ!」

「メーンッ!」

「メーンッ!」

 タツの剣が魔王の頭をわった。アイーダの剣が肩から胸を斬りさげた。リンダの剣が胸から腹を斬り裂いた。それぞれの裂け目から血がドロッと流れ出た。魔王がドタンッと前のめりに倒れた。

「やったっ! 魔王を倒したっ!」

 リンダが剣を突きあげた。そのとき魔王がうつぶせに寝たまま声を出した。

「おのれっ! 余の本性を見ておどろけっ! 人間っ!」

「まだ生きてるのかっ! この野郎っ! 死ねっ!」

 タツは背中から魔王の心臓の位置を剣でつらぬいた。これで殺せた。そう思った。魔王なんかたいしたことはなかったなと。

 だが血が出なかった。手ごたえも変だった。剣を刺した肉がウニウニとうごめいている。魔王の髪の毛がぬけて頭皮がふたつに裂けた。裂けた頭皮の下からするどいトゲが出て来た。幾本もの金属の光沢を持つトゲだった。

 タツのにぎる剣にも変化があらわれた。剣が魔王の背中から押し出された。服の背中がやぶれて肉が見えた。その肉もやぶれて奥からやはりトゲがせりあがった。トゲは円柱ではなく三角柱だった。ふれれば手が斬れそうな硬さを感じるトゲだった。ハリネズミのトゲとちがってまがっていた。

 タツはなにが起きているかわからなかった。わからないままも目が離せなかった。

 魔王の背面がトゲだらけに変わった。ズボンがやぶれて腰から尾がのびはじめた。スルスルと長く長くのびる。それとともに手や足ものびて行く。手や足の爪が太いかぎ爪に変化した。人間の肌が粉々にちぎれて下から粘液にまみれたウロコやトゲが出現した。

 もはや人間ではなかった。異形の怪物だった。

「クオオオーンッ!」

 怪物が四つん這いになった。全身がさらに大きく膨張した。ドラゴンだった。腹も金属質のウロコとトゲにおおわれていた。二階建ての建物ほどもあるドラゴンがそこにいた。

「クオオオオオーンッ!」

 ドラゴンが口をあけた。のどの奥から炎がせり出した。あっと言う間に炎のおびが吐き出された。タツたちの戦いを遠まきに見ていた歩兵たちを炎のおびがなぎはらった。五十人ほどが炎につつまれた。

「うわああああーっ!」

 テオが呪文をとなえた。

「地獄の業火よっ! 冥界のともし火よっ! わが手に燃えろっ! ファイアーボールッ!」

 火の玉はドラゴンの背中にあたった。だが一瞬燃えあがったもののそれだけだった。ドラゴンはファイアーボールがあたったことすら感じなかったみたいだ。

 タツとアイーダとリンダはハッとわれに返った。手に持つ剣でドラゴンの尾に斬りかかった。ウロコとトゲにおおわれた尾だが剣が入った。ドロリと血が出た。

 そのあいだに歩兵たちは混乱していた。逃げる者と立ち向かう者が入りみだれていた。

「メーンッ!」

「どうーっ!」

「つきーっ!」

 歩兵たちがドラゴンの前足に斬りつけた。カキンッと音がして剣が折れた。ドラゴンの金属質のウロコを鉄剣は斬ることができなかった。

「クオオオオオーンッ!」

 またドラゴンが炎を吐いた。歩兵たちが火につつまれる。タツとアイーダとリンダが尾を斬ろうとした。そのとき尾が動いた。ビュンッと横にふられた。タツとアイーダとリンダはふられた尾に跳ね飛ばされた。

 別の歩兵たちが勇敢にもドラゴンの正面から襲いかかった。

「メーンッ!」

「メーンッ!」

「メーンッ!」

 ドラゴンがうしろ足で立ちあがった。腕で歩兵たちをなぎはらった。歩兵たちの腹が裂けて内臓が飛び出した。

 それを見てタツは自分を叱った。

「どこがたいしたことないだ? ドラゴンじゃないか。さすがは魔王だな」

 タツは納得した。魔王さまと呼ばれるにふさわしい化け物だと。あなどっていた自分を叱り飛ばした。

 タツは痛むふしぶしをこらえて立った。アイーダとリンダも起きあがった。タツとアイーダとリンダで尾をさけてうしろ足に斬りつけた。キンッと音がしたがウロコを斬れた。しかし浅い。血がプツッと盛りあがっただけだ。かすり傷だろう。話には聞いていたがドラゴンのウロコは予想以上に硬いらしい。それでもタツたちの持つ神剣なら斬れるようだ。

 タツの部下の歩兵たちが次から次へとドラゴンに立ち向かった。だが剣が折れるだけでドラゴンに傷ひとつつけられない。ドラゴンの炎と爪にどんどん倒されて行く。

「やめろーっ! お前たちっ! 引けーっ! 逃げろーっ!」

 タツは声をかぎりに叫んだ。これ以上部下を犬死にさせたくなかった。その声が部下たちにとどいたのか部下たちがドラゴンから離れはじめた。

 ドラゴンがそれを見て翼を広げた。ドラゴンが空に舞いあがる。

「クオオオオオーンッ!」

 ドラゴンが空中から炎を吐いた。逃げているタツの部下たちが火につつまれた。

「ぎゃああああーっ!」

 タツは歯ぎしりをした。

「ちくしょうっ! 手がとどかないっ!」

 空から火を吹くドラゴンの独壇場だった。逃げまどう十三万のウスタール軍を空中から焼きはらって行く。 

 それを見ていた四人がいた。カタリナ・マリリン・ユージーン・エリザベスだ。魔王がドラゴンに変身したとき出番が来たといきごんだ。しかしファイアーフレアを放つにはタツたちが邪魔だった。ファイアーフレアの巨大な炎はドラゴンの近くにいるタツたちをもまきこむ。それでファイアーフレアが撃てなかった。だがドラゴンが空を飛んだ。空中なら誰もまきこまない。カタリナたち四人はファイアーフレアの発射準備に入った。

 マリリンがカタリナの手をつかんで空を飛ぶドラゴンに向けた。

「いまだっ! カタリナッ!」

「魔導の炎よっ! 天空のわななきよっ! わが手にきたれっ! ファイアーフレアッ!」

 火の玉がドラゴン目がけて飛んだ。火の玉がドラゴンに接近する。あとすこしだ。だが火の玉はドラゴンの頭上を通過してフッとかき消えた。五十メートル離れた動くマトに野球のボール大の火の玉をあてるわけだ。なれない者ではあたるはずがなかった。

 次はユージーンの番だった。慎重にカタリナのてのひらをドラゴンに向ける。

「いまよっ! カタリナッ!」

「魔導の炎よっ! 天空のわななきよっ! わが手にきたれっ! ファイアーフレアッ!」

 火の玉が空に放たれた。一直線にドラゴンの腹を目ざして飛ぶ。火の玉が近づくにつれてその進路がドラゴンのうしろ足に移った。あたる瞬間になってドラゴンがさらに前進した。火の玉の到達速度よりドラゴンの飛行速度がまさった。火の玉はドラゴンの尾のうしろを通りすぎた。ユージーンががっくりと肩を落とした。

 ユージーンがカタリナの右手をエリザベスにゆだねた。だがエリザベスがカタリナの手を取るのをためらった。

「たしかユージーンって弓がうまかったんじゃないの? そのユージーンであてられないんじゃわたしにできっこないわ」

 そこに声がかかった。

「じゃ俺がやりやしょう」

 女三人が声を合わせた。

「ムーンドロウッ!」

 ローブとフードで変装したムーンドロウが立っていた。

「俺がカタリナのアネさんを肩車しやす。動いてるマトにあてるにゃ手をつかむだけじゃ不充分でやす。身体全体をマトに向けねえと」

 言いながらムーンドロウがカタリナを肩車した。

「きゃっ!」

「アネさん。落としたりしねえでやすからしっかりすわってくだせえ。まっすぐに背すじをのばして右手を持ちあげるんでやす。俺がその手をささえやすから」

 カタリナが言われたとおりに背中をピンとのばして右手をあげた。下からムーンドロウがカタリナの右手をつかむ。ムーンドロウがドラゴンを身体の正面でとらえるように足踏みをして調整する。そのときムーンドロウが苦しげなうめきをもらした。

 マリリンがムーンドロウを見た。

「ああー。ムーンドロウったら臨戦態勢になってるぅ」

 ユージーンがあきれ顔になった。

「カタリナを肩車してその感触が効いたのか」

 エリザベスが吐きすてた。

「この一大事になんてやつよ」

 カタリナの右手をささえながらムーンドロウが真剣な声を出した。

「アネさん方。そいつをどうにかしてくだせえ。それが気になって集中できねえでやす」

 マリリンとユージーンとエリザベスが顔を見合わせた。ムーンドロウはズボンではなくスカートを上下逆にはいている。歩きにくいために左右が切りこんである。マリリンとユージーンとエリザベスがその切りこみに左右から手を突っこんだ。

「おほぉっ! たまらねえでやすっ! じゃ行きやすぜカタリナのアネさんっ!」

 ムーンドロウが空中のドラゴンに照準を合わせた。

「いまでやすっ! 撃ってくだせえっ!」

 カタリナがうなずいた。

「魔導の炎よっ! 天空のわななきよっ! わが手にきたれっ! ファイアーフレアッ!」

 ムーンドロウの足がカタリナの右手をドラゴンの進路に向くように微調整しつづけた。自動迎撃システムみたいな動きだった。

 火の玉がカタリナの手を離れた。羽ばたくドラゴンに火の玉が飛ぶ。マリリンとユージーンとエリザベスは眉をしかめた。火の玉はドラゴンのはるか前方を目ざしていた。あれではあたらない。マリリンとユージーンとエリザベスはそう思った。

 火の玉がドラゴンに近づく。ドラゴンのはるか前方を通りすぎる予定の火の玉はドラゴンの顔の前を通過する進路に変化していた。マリリンとユージーンとエリザベスの目にはドラゴンが火の玉をむかえ撃とうとしているように見えた。ドラゴンの速度と火の玉の速さが一致した。火の玉がドラゴンの腹に吸いこまれた。

 ドドドーンッ! ドラゴンを巨大な火球がつつみこんだ。

「ギャオオオーンッ!」

 ドラゴンが悲鳴をあげた。鉄剣を通さなかったドラゴンが燃えあがった。炎がドラゴンのウロコを焼いた。翼が最初に燃えつきた。ドラゴンの巨体が落下する。

「うわーっ! 逃げろっ! ドラゴンが落ちて来るぞぉ!」

 歩兵たちがあたふたと逃げ散った。その空白地帯にドラゴンが落ちた。ズズーンッと地ひびきを立てて土煙もあがった。

 その様子を見てマリリンとユージーンとエリザベスがムーンドロウから手を離して叫んだ。

「やったーっ!」

「命中したぞっ!」

「きゃーっ!」

 ムーンドロウが情けない声を出した。

「アネさん方。せっしょうでやすよ。これをなんとかしてくだせえ」

 マリリンとユージーンとエリザベスがふたたびムーンドロウのスカートに手を入れた。ユージーンが機転をきかせてムーンドロウの耳にささやいた。

「マリリンはドワーフのお姫さまだぞ。わたしはユキスロット大公国の姫だ。エリザベスはソーンベルグ皇国の姫君だな。お前はいま三人の姫になぐさめられてるんだぞ」

 ムーンドロウの感性をユージーンの言葉が刺激した。

「三人の姫さまっ! うおおおおおーっ! そりゃたまんねえっ!」

 ムーンドロウが終わった。

 ムーンドロウは弓の名手だ。ドラゴンの速さと火の玉の速度を計算して火の玉があたるようにカタリナに撃たせた。発射の時点でドラゴンに照準が合ってればドラゴンにはあたらない。発射の時点ではドラゴンのはるか前を通過する進路にしなければ命中しない。

 すこししてムーンドロウが脱力しているカタリナを地面におろした。カタリナがムーンドロウに抱きついた。

「ありがとうムーンドロウ」

「いいってことでやす。俺もアネさんのお尻を肩と頭に感じ取れてしあわせでやした」

「もぉ。ムーンドロウのスケベ」

 マリリンがカタリナに告げ口をした。

「こいつ。カタリナのそれで臨戦態勢になったんだよ」

「まあっ!」

 カタリナはファイアーフレアを発射しなければならない緊張で気づいてなかった。三人の女がムーンドロウを満足させていたことに。

 ムーンドロウが頭をかいた。 

「どんなときでもスケベをわすれない俺はオークのかがみでやしょう?」

 エリザベスが肩をすくめた。

「戦場でそんなことをしてるバカはわたしたちだけでしょうね」

 そのとおりだった。タツとアイーダとリンダは落ちたドラゴンに斬りかかっていた。タツの部下たちも剣をふりあげてドラゴンに殺到した。

「メーンッ!」

「どうーっ!」

「つきーっ!」

 タツとアイーダとリンダの剣が四つん這いでいるドラゴンの前足から血を流させた。タツの部下たちの剣がドラゴンのうしろ足を傷つけた。ファイアーフレアがウロコを焼いたせいで鉄剣でもドラゴンの皮膚を傷つけられた。

「カコオオオオーンッ!」

 ドラゴンが炎を吐いた。だが火力が弱い。燃料がつきたのか落下の衝撃で炎を出す器官に損傷が生じたのか。いずれにせよ好機だった。タツとリンダとアイーダがドラゴンの頭に斬りつける。

「メーンッ!」

「メーンッ!」

「メーンッ!」

 三本の剣がドラゴンの頭を直撃した。だが頭は硬かった。ガゴッと音がしただけで斬れない。傷もついてない。タツの部下たちがうしろ足に斬りかかった。

「どうーっ!」

「メーンッ!」

「つきーっ!」

 ドラゴンのうしろ足が出血した。しかし浅い。動けなくなるほどの深手はあたえられなかった。

 タツは首をかしげた。

「どこを斬ればいいんだ?」

 テオがドラゴンの頭に呪文をとなえた。

「地獄の業火よっ! 冥界のともし火よっ! わが手に燃えろっ! ファイアーボールッ!」

 火の玉がドラゴンの頭頂にあたった。炎が一瞬だけ燃えた。それだけだった。頭部は急所ではないらしい。

 アイーダが思い出したという顔をした。 

「ドラゴンはあごの真下ののどが急所だって聞いたぞ。斬りつければ?」

 タツはドラゴンを見た。四つん這いのためにのどは下になって斬りつけられない。

 そのとき新たな歩兵の一団がドラゴンの正面から走って来た。ドラゴンがうしろ足で立った。

「カコオオオオーンッ!」

 ドラゴンが火を吹いた。だが火力が弱いままだ。三人の歩兵が炎につつまれただけだった。ドラゴンが突進して来る歩兵を手ではらった。歩兵たちがなぎ倒された。しかし爪も燃えたので歩兵たちは飛ばされただけだった。それでも骨が折れた者はいるだろう。ドラゴンの怪力はまだ健在だった。

 タツはのどを斬ろうとドラゴンに近寄った。だが剣が首にとどかない。タツの意図を悟ったヨンドンがタツの横に来た。

「副隊長っ! 俺がっ!」

 ヨンドンが腰を落としてバレーボールのレシーブのかっこうをした。自分が踏み台になってタツを両手で跳ねあげようというわけだ。ヨンドンはタツがこの世界に飛ばされたときからの仲間だった。いまは千人長になって活躍してくれている。信頼できる男だった。

 タツは助走をつけてヨンドンの両手に足をかけた。ヨンドンがタツをはじきあげる。タツの剣がドラゴンののどにとどいた。

「どうーっ!」

 タツは斬った。だが斬るのが遅かった。剣は跳躍の頂点ではなく落ちはじめてからドラゴンの首を斬った。あごの下ではなく胴体寄りの首に裂け目ができた。血はタラッと少量出ただけだ。致命傷とは思えない。

 そこにまた歩兵の集団が剣をふりあげてドラゴンに突進した。

「カコオオオオーンッ!」

 ドラゴンが炎と手で歩兵を蹴散らす。

 タツは再度挑戦した。

「とあーっ!」

 ヨンドンがタツを跳ねあげる。タツは飛びながら剣をふる時機をはかった。ドラゴンのあごの下がせまった。

「どうーっ!」

 今度は早すぎた。あごの下にはとどかなかった。タツが落ちる。ドラゴンの顔がタツに向けて動いた。まずい。そうタツは思った。タツの部下たちもそう思った。

「メーンッ!」

「メーンッ!」

「メーンッ!」

 タツの部下たちがドラゴンに駆け寄って剣をふった。ドラゴンの顔がそちらを見た。

「カコオオオオーンッ!」

 ドラゴンが火を吹いた。タツはぶじに着地した。

 部下たちがドラゴンの注意を引いてくれているうちにタツは三回目の挑戦をこころみた。ヨンドンの手に足をかけて飛びあがる。ドラゴンの腹をすぎて跳躍の頂点に近づいたときドラゴンが口をタツに向けた。

「カコオオオオーンッ!」

 ドラゴンののどの奥に小さい炎が見えた。火を吐くつもりだ。弱まっているとはいえ直撃だった。空中ではよけられない。タツの頭部は火ダルマになる。

 しまったっ! そうタツは目をかたくとじた。

 そのとき呪文が聞こえた。

「地獄の業火よっ! 冥界のともし火よっ! わが手に燃えろっ! ファイアーボールッ!」

 テオの火の玉がドラゴンの鼻面に飛んだ。ドラゴンの鼻が燃えあがった。

「クオオーンッ!」

 ドラゴンの顔が跳ねあがった。ドラゴンの吐く炎が上にそれた。

 タツは剣をふった。ふり切った。

「どうーっ!」

 顔を跳ねあげたドラゴンのあごの下をタツの剣が斬り裂いた。血がドドドッとあふれ出た。

「クオオオオオーッ!」

 ドラゴンの首が血をふりまきながらのたうった。アイーダとリンダとヨンドンと歩兵たちがその首に剣をふるった。数人が首に跳ね飛ばされた。それ以上の歩兵が首にやいばを食いこませた。

「クオオオオオーッ!」

 タツはドラゴンの首が上を向いた瞬間を狙ってまたあごの下を斬った。

「どうーっ!」

 あごの下の傷がさらに広がった。ドラゴンの首が前後左右にふられて血をまきちらした。アイーダとリンダもタツにならってあごの下を狙って剣をくり出した。

「どうーっ!」

「どうーっ!」

「クオオオオオーッ」

 傷がますます深くなった。タツの部下たちもあごの下を集中攻撃した。

「どうーっ!」

「どうーっ!」

「どうーっ!」

「クオオオオオーッ。クオオオーッ。クオオーッ。クオーッ。クオッ」

 ドラゴンの叫びがどんどん弱くなった。ふられる首が力をなくして行く。ついに首がバタンッと地面に落ちた。タツとアイーダとリンダであごの下から剣を入れた。三人が三巡してやっとドラゴンの頭部が首から離れた。タツとアイーダとリンダで切り落としたドラゴンの頭を持ちあげた。

「魔王の首を取ったぞぉ! 戦争は俺たちの勝ちだぁ!」

「うおおおおおおおーっ! やったぁ!」

 ウスタール軍十三万人が歓声をあげた。だが別のところからも怒声が湧き起こった。

「魔王さまの仇ーっ! 人間どもめっ! ゆるさんっ!」

 三万匹の親衛隊が突撃して来た。タツは反省した。かちどきはまだ早かったと。

 戦車隊を先頭に乱戦に突入した。だが十三万人対三万匹では結果が見えていた。夕方を待たずしてウスタール軍の完勝に終わった。最後の人狼が倒れて今度こそとタツは叫んだ。

「俺たちは勝ったぞぉ! 戦争は終わりだぁ!」

「いいぞぉ! 副隊長ぉ! 今夜は祝杯だぁ!」

 わーっという大声が魔王城の前にこだました。抱き合う者。泣き出す者。笑い出す者。さまざまだった。ただ全員の顔がゆるんでいた。

 その夜は十三万人の戦勝会だった。ついに戦いが終わった。あしたから殺し合いをしなくてすむ。どれだけ朝寝をしても責められない。各天幕がとことんハメをはずした。アイーダ隊の天幕では男も女もしたたかに酔った。男と女が服をぬいで肩を抱き合って踊った。

 タツは思った。今夜は軍隊内恋愛禁止の規則違反が続出しそうだと。どこの師団の天幕もおそらく似た状況だろう。数が多すぎて取りしまりはできないにちがいない。各師団は大目に見ざるをえないと思われた。

 夜がふけてタツは女たちをつれてムーンドロウの天幕に行った。カタリナ・オードリー・ビビアン・マリリン・ユージーン・エリザベス・アイーダ・リンダ・テオ・セシリアと六人の護衛だ。魔王討伐の最大の功労者はムーンドロウだとカタリナたちから聞いた。その慰労に来たわけだ。前回のドワーフ戦のときオードリーとビビアンは仕事中だったのでさそわなかった。そうしたらあとからおこられた。それで今回はつれて来た。

 天幕の前にサミーの部下がふたりいた。グインとコージーだ。

「あ。タツさん。今夜は多いですねえ」

 護衛も入れると十六人の女だ。あきれた顔をされるのもうなずける。

「まあな。きみらもいっしょにどうだ?」

「いいんですか?」

「ああ。いいんじゃないか? 誰も来ないだろう」

 魔王を倒して戦争はおわった。ムーンドロウに用のある者はタツたちだけだろう。タツはグインとコージーも天幕につれこんだ。ムーンドロウとサミーがまっ最中だった。

「あっ。やだっ。知らない人まで見てるぅ。ああーんっ。だめぇ。あああああーっ!」

 十九人に見つめられてサミーが終わった。ムーンドロウもサミーにつき合った。しばらくしてムーンドロウが声を出した。

「兄貴。今夜はなんの用でやす?」

「カタリナたちから聞いた。お前がファイアーフレアをドラゴンにあててくれたんだってな。お礼がしたいからみんなをさそったんだ。感謝してるよムーンドロウ」

「てへへ。俺こそ感謝してやすぜ。あのていどの働きでアネさん方に相手をしてもらえるんでやすから」

 カタリナ・オードリー・ビビアン・マリリン・ユージーン・アイーダ・リンダ・テオ・セシリアが服をぬいだ。九人が檻に入った。サミーが一瞬いやな顔をした。だがすぐあきらめた顔に変わった。身体がもたないのも本当だろう。疲労困憊していた。

 十人の女たちがムーンドロウにたかった。全裸が十体だ。ムーンドロウの顔がとろけた。

 タツはエリザベスとグインとコージーの身体に指を這わせた。

 カタリナがムーンドロウと結合した。

「うおおおおーっ! 昼間俺に肩車された女体と俺は結合してるでやすぅ! たまんねえっ!」

 ムーンドロウがすぐに終わった。

 そのときタツは天幕の外に人の気配をおぼえた。天幕から顔を出すとウージール王子だった。

「どうしたんです王子? こんな時間に?」

 王子が口ごもった。

「う。うん。そのう。いや。まあ」

 タツはははーんと察した。

「オードリーに捜しに来たんですか?」

「そ。そう」

 オードリーは昼から夕方まで王子の相手をしている。夜はオードリーと王子は別々の天幕で寝ている。王子は戦争が終わった開放感からかオードリーと夜もともにしたいと思ったのだろう。

「どうしてここにオードリーがいると?」

「オードリーがもどらなかったんでタツを捜したんだ。そしたら」

 アイーダ隊の女たちはタツがここにいると知っている。王子に教えたのだろう。

 タツは考えた。いまオードリーはムーンドロウの相手をしている。王子を天幕に入れてもいいのか? オードリーとムーンドロウが結合しているのを見て衝撃を受けないか? 

 タツが答えを出すより先に王子が動いた。王子が天幕をのぞきこんだ。王子が見た。オードリーにのしかかっているムーンドロウを。さらに檻の中には裸の女が九人だ。王子が食いいるようにオードリーを見た。オードリーはいやがってなかった。歓喜の表情をしていた。王子が泣きそうな顔をタツに向けた。

「タツ。あれはなんなの?」

 タツは覚悟を決めた。こうなってはかくし立てできない。ありのままを見てもらうしかない。王子を天幕に引き入れた。王子の護衛のミリアムとレーシアもだ。

 オードリーとムーンドロウが同時に終了した。

「王子。昼間の戦闘を見ましたか?」

「うん。遠くからだけどね」

「ドラゴンに魔法があたって燃えあがったのを見ましたか?」

「ああ。見たよ。すごかったね。カタリナの魔法だって?」

「その魔法をあてたのがあのオークですよ。カタリナは盲目ですからね。オークは人間の女が好きなんでああしてお礼をしてるってわけです」

「でもなんでオードリーまで?」

「話せば長くなるんですがね。ムーンドロウから情報を聞き出すために最初に相手をしてくれたのがオードリーなんですよ。オードリーのおかげでムーンドロウが味方になってくれたんです。そのためにムーンドロウが働いてくれるたびにオードリーがムーンドロウにお礼をしてるんですよ。俺に代わってね」

「でもオードリーはぼくのものだよ?」

「オードリーは王子と結婚できると思ってませんからね。いまでもおカネを取ってるでしょう? 恋人同士ならおカネは取らないはずですよ」

 王子がだまった。その王子をムーンドロウとオードリーが檻の中から見ていた。オードリーが王子に声をかける。

「ウージール。こっちにいらっしゃい」

 オードリーが手まねきした。タツは王子の服に手をかけた。ミリアムとレーシアが剣をつかんだ。だがぬかなかった。タツは安堵して王子の服をぬがせた。王子の背を押した。オードリーが手をのばして王子を檻に引きずりこんだ。オードリーが王子とキスをした。九人の女が王子の全身を舐めた。王子がその気になるとムーンドロウの横にあおむけに寝かせた。十人の女たちがムーンドロウと王子に順番に結合した。

「うおおおおおーっ!」

「うううううーっ!」

 ムーンドロウと王子がすぐに終わりを告げた。そのあとも次から次へと女体がムーンドロウと王子に結合をくり返した。

 タツはそのあいだに裸にしたエリザベスと結合した。エリザベスがあっと言う間に高ぶった。タツとエリザベスが同時に終了した。エリザベスがタツの舌を吸った。

「わたしもあっちに参加しようかしら?」

「いいのかい?」

「あら。昼間もわたしたちがムーンドロウを満足させてあげたのよ。いやじゃなかったわ。オークキングは大きらいだけどムーンドロウはにくめないもの。それにムーンドロウがわたしの代わりにファイアーフレアをみちびいてくれたの。わたしもなにかお礼をしなくちゃね」

「そういうことなら行っておいで」

「ええ」

 エリザベスが檻に入った。ムーンドロウが声をあげた。

「うおおおおおっ! お姫さまが三人だあっ!」

 そのお姫さまに十人の女たちがムーンドロウをゆずった。エリザベスがムーンドロウと結合する。

「ひええええーっ! この姫さまっ! こんななのかぁ!」

 ムーンドロウがすぐに終わった。サミーがムーンドロウをじと目でにらんだ。お姫さまでなくて悪かったわねと。

 タツはサミーの部下のグインとコージーをぬがした。

「ミリアムとレーシア。きみたちもおいで」

 王子の護衛のミリアムとレーシアがためらいがちに寄って来た。タツはミリアムもレーシアも全裸にした。檻の中のムーンドロウがそれを見て声をあげた。

「ぐははははーっ! 裸だらけだぁ!」

 グインとコージーとミリアムとレーシアはタツではなく檻の王子を見ていた。王子と結合したいらしい。タツは四人の肌に指を走らせた。四人ともすでに準備はできていた。

「行って来るといい。きみたち王子と結合してみたいんだろ?」

 四人がためらった。タツは四人の背を押して檻に入れた。すぐに四人が王子と結合をはじめた。王子さまは女の子のあこがれだ。一度は結合してみたい相手なのだろう。檻の中の女が十五人にふえた。

 タツはエリザベスの護衛の六人に目を向けた。六人とも太ももをこすり合わせていた。せつなそう顔だった。

「きみらもおいで」

 タツは六人をまねいてひとりずつ裸にした。六人がスッポンポンになるとまたムーンドロウがおたけびをあげた。

「うほほほほーっ! 天国だぁ!」

 タツは六人の手を引いて檻に押しこんだ。檻の中は裸の女であふれた。二十一人だ。天幕の内部は女の吐息と熱気でのぼせそうだった。二十一人の女が順にムーンドロウと王子に結合する。二十一枚の舌がムーンドロウと王子を舐めた。ユージーンと終わりをわかち合ったムーンドロウが声を出した。

「兄貴。兄貴も参加してくだせえ。俺たちふたりじゃさすがに二十一人はこなし切れねえでやす」

 タツはどうするべきか考えた。だがマリリンとテオとエリザベスとリンダの手がタツをまねいた。タツも檻に入った。女たちがタツをあおむけにして王子の横にならべた。ムーンドロウと王子とタツがならべられた。その上に二十一の女体が次々に結合して来た。タツとムーンドロウと王子が結合している女の終わりに合わせて終了する。

「ふおおおおーっ! 三人の姫さまと十八人のアネさん方でやすぅ! こんな夢のような夜が来るなんてぇ! 俺はしあわせ者でやすぅ!」

「うわああああーっ! ミリアムゥ! そこはやばいってぇ! ああああーっ!」

「うっ! きみの名前を聞いてなかったなっ!」

「ソリッジよっ! タツさまぁ! ああーんっ! もうだめぇ! いっしょにぃ!」

 結局タツは十回終了させられた。王子は八回だ。ムーンドロウは二十一人の女に二回ずつの計四十二回終わらせた。最後の女体に終わらせたあとさすがのムーンドロウも臨戦態勢が解除されていた。 

 燃えつきたタツと王子とムーンドロウの上から二十一人の女たちが交互にキスをした。

 服を着て天幕を出た。オードリーが王子にくちづけながら王子の手を引いた。タツにはカタリナとユージーンが左右から腕を組んだ。

 そういえばとリンダがタツをふり返った。

「あのね。さっき夢を見たの。劇場みたいなところでムーンドロウとサミーが結合してたわ。お客さんがいっぱい入って拍手をしてた」

「あっ。そうか。その手があったか」

 タツは目からウロコが落ちた。タツとは関係なかったが無修正動画のシリーズに盗撮ものがあった。トイレやエスカレーターの盗撮にまじってストリップ劇場に潜入するというのもあってよく売れた。ストリップ劇場は女の裸体を見せるだけなのに客が満員だった。現代日本でもそれだ。この世界でもストリップ劇場を作れば客が入るのではないか?

 ストリップ劇場の目玉をムーンドロウにつとめてもらえばいい。オークキングのやっていたことを芝居にすればうけるはずだ。亡国の王女と侍女たちを拷問して片っぱしから陵辱する。最後に裸にされた女騎士がオークキングを殺して大団円だ。そのオークキング役をムーンドロウがすればいい。二十一人に終了できる男だ。十人くらいなら余裕だろう。二十人前後の女をすべて裸にする全裸芝居なら客が殺到するんじゃないか?

 タツはそんな劇場の開演を想像するとにやにや笑いがおさえられなかった。頭の上では星がきれいにまたたいていた。あしたも晴れるとタツは思った。

 翌日に師団長会議がひらかれた。

 ヒゲのゲーブルが口を切った。

「タツからオークのムーンドロウを買い取りたいと申し入れがあった。王都で見せ物にしてカネをかせぎたいからとね。みんなはどう思うかね?」

 モスランド男爵が怒り心頭に発したという顔に変わった。

「オークを生かしておいてどうするっ! オークなど首を斬れっ! 特にあいつはいかんっ! わが兵士を大量に殺した首魁ではないかっ! 遺族のためにも断じて生かしてはならんぞっ! そもそも用がすんだら殺すという約束ではないかっ! ふざけるのもいいかげんにせえっ!」

 ベネットが暗い声を出した。

「たしかにそうだねえ。モスランド男爵の言葉はいちいちもっともだ。最初からそういう約束だったしね。戦争が終わって生かしておく必要はなくなったものな」

 メガロフィアが笑いはじめた。

「あはははは。私もモスランド男爵に賛成だな。わが師団の兵士もオークにかなり殺された。残された遺族の感情を考えるとムーンドロウは殺すべきだろうさ。イングリッド君はどう思うね?」

 イングリッドが考え顔で口をひらいた。

「わたしは反対だな。情報を引き出すだけ引き出しておいて不要になったら殺す? それはいかがなものかね? それに人間を大量に殺した首魁は魔王だろう? その魔王は死んだ。オークの一司令官をいまさら殺す必要があるのかな?」

 モスランド男爵が立ちあがって怒鳴った。

「イングリッドッ! きさまは遺族の感情がわかっとらんっ! オークに殺された兵士の遺族はオークをにくんどるっ! 一司令官だろうが下っぱだろうがゆるせはせんっ! 殺さねばならんっ!」

 メガロフィアがモスランド男爵の肩を押しさげてすわらせた。

「わはははは。まあまあモスランド男爵。ここはひとつ多数決ということでどうです? 私はモスランド男爵に賛成だ。ゲーブル君とベネット君は?」

 ゲーブルがヒゲを引っぱった。

「私もモスランド男爵に乗ろう」

 ベネットがボソボソとしゃべった。

「私もそうだ」

 メガロフィアがまた笑った。

「あはははは。じゃイングリッド君だけが反対だね。なら四対一でムーンドロウは殺すということに決定しよう。では王子。閉会のあいさつを」

 タツは歯ぎしりをした。師団長会議なのでタツには発言権がない。ムーンドロウのおかげで魔王を倒すことができた。そう声を大にして言いたい。オークキングのときだってムーンドロウの働きがなければあんなに早く決着はつかなかった。ムーンドロウの情報も役に立った。なのに。なのに。ギリギリギリとタツの歯が鳴った。

 ウージール王子が立ちあがった。

「閉会の前にぼくもひと言いいかな?」

 ゲーブルとベネットとメガロフィアがウージール王子の顔を見た。タツが参加してからウージール王子が意見を言うのははじめてだ。ウージール王子はおかざりだと思っていた。おそらくゲーブルとベネットとメガロフィアもそう思っていたのだろう。意表をつかれた顔だった。メガロフィアが笑いを引っこめて真顔になった。タツはメガロフィアの真顔をはじめて見た。

「いいですよ。どうぞ王子」

「ありがとう。オークのムーンドロウなんだけどね。あのオークには毎食ご飯を食べさせてる。移動にも手間ひまをかけてる。つまりね。食費や輸送費がかかってるんだ」

「はあ。そのとおりですがそれが?」

「殺してしまうとその食費と輸送費は回収できない。食費と輸送費は王国民の税金だよ。ぼくは王族のひとりとして王国民の税金のむだづかいはしたくない。ムーンドロウを売ることでカネになるなら売るべきだ」

「なるほど」

「死んだ兵士の遺族には遺族年金が支給される。それも王国民の税金だよ。ムーンドロウが見せ物としてカネをかせぐならそのカネの一部を国におさめてもらいたい。ムーンドロウが自然死するまでね。遺族年金の一部をムーンドロウに支はらってもらいたいんだ。殺した兵士への罪のつぐないとしてね」

 ベネットが考え顔で口にした。

「いま殺せば一時的に気がおさまる者はいる。だがそれだけだ。かなしみは遺族が生きてるあいだつづく。人の心は変化する。にくしみはいつか風化する。にくんだ対象が生きていればそのときが来る。殺したい者をゆるせた時それが本当の戦後になる。そういうことかね?」

 ゲーブルがヒゲをつまんだ。

「殺したい者をゆるせるのもまた人間だということかな? たしかにムーンドロウを殺してしまうとゆるせないままになる。にくしみつづけるのは苦しいだろう。ゆるせるものならゆるしたほうが安らかに生きられる。遺族にとってムーンドロウを生かしておくほうがやがては心の平安につながる。そうかね?」

 メガロフィアが笑いだした。

「あはははは。結論はひっくり返ったようだ。じゃ私もタツに売ることに賛成しよう。ムーンドロウのかせいだ売り上げの一部を国におさめるって条件つきでね」

 モスランド男爵がふたたび立って師団長たちを指さした。

「ゆるさんっ! ゆるさんぞっ! さっき決定したではないかっ! インチキだっ! とうていみとめられんっ! きさまらはウソつきかっ!」

 今度はモスランド男爵がギリギリギリと歯ぎしりをした。

 ウージール王子がモスランド男爵の顔を見た。

「今回の手柄で各師団長は爵位があがると思う。モスランド男爵。あなたは特に活躍してくれたから父に進言することに決めたよ。通常は子爵だけど特別に伯爵にしてあげてねって」

 モスランド男爵がポカンと口をあけた。

「伯爵? わしが伯爵ですか?」

「そう。伯爵じゃ不服かな?」

「いえ。とんでもない。わしが伯爵? 伯爵か。それはいいな。ご先祖さまに胸をはれる。伯爵? モスランド伯爵か。ふふふふふ」

 モスランド男爵のきげんが直った。

 ウージール王子がタツに片目をつむってみせた。

「では閉会でいいかな? 今夜の師団長会議はこれにて終了いたします」

 タツはホッと肩から力がぬけた。

 天幕から出てタツはウージール王子の腕をつかんだ。

「ありがとう王子。助かったよ」

「ぼくもムーンドロウを殺すのはいやだったからね。あいつとすごした昨夜は刺激的だった。あれってひとつの才能だよ」

「俺もそう思いますよ。あそこまでスケベな生き物はいないでしょう」

「そうだよねえ。ムーンドロウを見せ物にするって話だけどさ。檻に入れてはいどうぞってんじゃないんだろ? どんな見せ物にする予定なのさ?」

 タツは説明した。

「くくく。そりゃおもしろい。父にたのんだげるよ。ストリップ劇場はわいせつじゃない。芸術だ。そう国がみとめろってね。そうなりゃ貴族たちもこぞって見に行くよ。商売繁盛まちがいなしだね」

 国がみとめてくれれば王国中にストリップ小屋が建てられる。もうかるだろうなあとタツは思った。

 ウスタール王国の王都への凱旋がはじまった。

 戦車に女たちを乗せた。カタリナ・エリザベス・ユージーン・マリリン・オードリー・ビビアンと護衛たちだ。ウージール王子と護衛ふたりは騎乗して戦車の横で歩を進めた。タツとアイーダとリンダとテオも馬でその横にいた。戦争が終わったせいで物見遊山気分だ。

 御者のフランクが顔をタツに向けた。

「王都にもどってタツさんはどうするんです? 軍に残るんですか?」

 タツは考えた。戦争が終わったからここにいる十三万人は大半が軍を離れる。軍に残れるのは隊長級をふくめた一万人ていどらしい。

 五千人の部下たちはタツの指示どおりによく働いてくれた。このまま解散するのはもったいない。五千人の部下たちを使って事業がはじめられないか? 

 タツの脳裏にさまざまな職業が浮かんだ。カネ貸し・裸エプロン酒場・ストリップ小屋・新聞社・百貨店・要人警護。現代日本にあった職業をこの世界でも再現できるはずだ。銀行も作りたいな。高級娼館とホストクラブを国中に広めるのもいいだろう。

 五千人の部下たちもだがここには十二万人の人材がいる。軍隊内恋愛は禁止だが戦争は終わった。兵士同士の夫婦も数多くできるだろう。新婚の費用や子育ての資金も必要になるはずだ。十二万人ぶんの職を作らなければならない。

 いそがしくなりそうだ。二千五百を越える娼婦と一万二千五百におよぶ男娼もいる。国中に娼館とホストクラブを展開してもそのすべてを雇えるかは疑問だ。

 タツの頭の中はあふれ返る未来視でいっぱいになった。

「俺は軍隊には残らないよ。やりたいことが山ほどあるんだ」

「そうですか。残念ですね」

 ウージール王子がタツに馬をならべてささやいた。

「ぼくは王都にもどったらオードリーと結婚するよ。ぼくは魔王を討伐した軍の総司令官だ。無理は聞いてもらえると思う。王位継承権の低い第三王子だしね。いいだろうオードリー?」

 戦車に乗るオードリーがちょっと考えた。

「ええ。いいわ。でも条件があるの」

「どんな?」

「タツとムーンドロウとの浮気だけはゆるしてほしいの」

 うーんとウージール王子がうなった。しばし考えて口をひらいた。

「わかった。いいよ。タツのおかげできみに会えた。その浮気はみとめよう」

「ありがとうウージール。でもタツは王都にもどってどうするつもり?」

 タツは考えていたことを打ち明けた。

「まず屋敷を買うつもりだ。そこに女たちを住まわせる」

 カタリナ・エリザベス・ユージーン・マリリン・アイーダ・リンダ・テオ・セシリアが同居したいと言っていた。ムーンドロウも住まわせるつもりだからサミーも来るだろう。

 オードリーが眉を寄せた。そんなの聞いてないわと。

「その女たちの中にわたしも入ってるの?」

「えっ? オードリーも住みたいのか? きみは王都に家があるし王子と結婚するんだろ?」

「わたしも同居させてよ。ウージールもいっしょに住めばいいじゃない。ね。ウージール?」

 ウージール王子がちょっと思案した。

「うん。タツがいいならぼくも住みたいよ。タツといるとおもしろいからね」

 戦車の上からビビアンが口をはさんだ。

「あたしも住みたい」

 タツは考えて結論を出した。ここまで女がふえればあとひとりやふたりふえても同じだろうと。

「ああ。いいよ」

「家族も呼び寄せていい?」

「大丈夫だ」

 いよいよ大家族になりそうだった。

 エリザベスが思い立ったという顔でタツを見た。

「わたしソーンベルグ皇国を継ぐわ。女皇帝になる」

「は? 俺と暮らすって言ってなかった?」

「女皇帝になってタツと結婚するの。そうすればタツを皇帝にできる。ソーンベルグ皇国をやめてタツ帝国とでも名づければ?」

 ユージーンがなるほどとうなずいた。

「じゃわたしもユキスロット大公国の大公となろう。それでタツを次の大公に指名する。そうなればタツ帝国は拡大する」

 マリリンも賛同した。

「ボクもドワーフ王国の王になるよ。そのままそっくりタツにあげる。タツ帝国は三カ国ぶんになるよ」

 エリザベスが悪い顔になった。

「ついでにラカルーン帝国とヤマルフィス神聖国の後継者もこましちゃおう。そうすれば五カ国を合わせた大帝国ができあがるわ。最終的にウスタール王国も飲みこめば巨大帝国の完成よ」

 ウージール王子がうなずいた。

「ぼくの一番上の姉が行きおくれてるんだ。王位継承権の第一位だよ。タツにこましてもらえば姉は女としてのよろこびに目ざめる。タツはウスタール王になる。そうなれば六カ国併合で大陸制覇ができるよ。万事めでたしめでたしだね」

 タツは目がくらみそうになった。俺を置き去りに話がどんどん進んで行く。十二万人の職どころか六カ国の面倒を見なきゃならんのか? どれだけ俺を多忙にすれば気がすむんだこいつら? 

 思いながらタツはさらなる未来を夢見た。株式会社を作って資本主義を広める。法律を整備して弱者を救済する。ゆくゆくは大統領制もいいかもしれない。蒸気機関車だとすぐにでも作れそうだ。鉄道網を張りめぐらせれば便利になるだろう。電気を起こせば電球も作れるかも?

 現代日本の知識があればカネもうけの手段にはこまらない。六カ国をひとつにする統一王朝の樹立を目ざすか。

 そうタツは思った。

                                  〈了〉


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