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 第六章 幻影のスケルトン軍団

 エロ浮世絵は妙なところにも波紋を広げていた。

 タツはウージール王子から声をかけられた。ウージール王子の横には護衛がふたりついていた。どちらも二十歳くらいの若い女だった。

「タツ。この絵の子なんだけどさ。これ絵師が想像で描いたの? それとも実在の女の子を見て描いたの? タツからこの絵をもらったって兵士が言ってたけど?」

 王子がエロ浮世絵を広げて護衛の女ふたりが目をそらせた。若い女には恥ずかしい絵なのだろう。

「実在の女の子ですよ。でもそれが?」

「どこにいるの? 王都?」

「いや。ここにいますけど?」

「会わせてくれないかな?」

「かまいませんけど娼婦ですよ?」

「娼婦でもいいから会わせて」

「はあ」

 タツは王子とふたりの護衛を引き連れてオードリーの天幕に行った。

 オードリーは本日の営業のために化粧をしていた。まだ服は着ている。

「あら。タツ。きょうはどんな用なの?」

 オードリーの視線がタツのうしろの三人に移動した。

「ええっ? 王子さまですか? どうしてこんなところに?」

「きみに会いに来たんだ。たしかにこの絵にそっくりだね」

 王子がエロ浮世絵をオードリーに見せた。

 オードリーが頬を両手で押さえた。

「やですわ。当人にそんな絵は見せちゃだめですよ」

 絵で自分の裸を見せられると恥ずかしいらしい。

「そうなの? ごめんね。で。きみ。名前は?」

 王子が絵を大切そうにふところに入れた。王子も寝るときまで絵をふところに入れているようだ。

「オードリーです。オルドリッジ男爵の娘ですわ」

 王子が記憶をたどる顔になった。

「ごめん。オルドリッジ男爵って知らないや」

「それはそうでしょう。おカネがないから社交界にも顔を出せませんのよ。領地も切り売りしていまはありませんわ。王宮からもらう手当でなんとか食べてるだけですもの」

「じゃぼくが」

 オードリーは王子に最後まで言わせなかった。

「王子さま。たしかにわたしは娼婦です。でもものごいではありません。ほどこしはいりませんわよ。わたしとひとつになりたいんでしょう? ここにおいでなさいな」

 オードリーが寝台を手で示した。

 王子がためらった。タツは王子の背を押した。

 とたんにふたりの護衛が剣をぬいた。

「王子に何をする!」

「やめろ! ミリアム! レーシア!」

 王子の叱責にミリアムとレーシアが斬りかかる手をとめた。

 タツはあらためて王子を寝台まで押した。

 オードリーが王子の服をぬがせて自分もぬいだ。オードリーが王子にくちづけて寝台に横たわらせた。

 オードリーが王子の全身に舌を這わせる。えもいわれぬ刺激に王子が終了した。

 オードリーがうふふと笑いながらなおも王子のそこかしこを舐めまわす。

 王子をうつ伏せに裏返してオードリーが王子の背中に重なる。オードリーが王子のうなじから耳を舐めあげる。王子の裸身がビクンビクンと跳ねる。オードリーの両手は王子の背面を這いまわる。

 オードリーが身体を下にずらせて王子の背中から腰へと舌を移動させる。かんじんの部分をわざとさけて足の裏に舌をつける。肩すかしをくわされた王子の腰がもどかしそうに左右にふられる。

 オードリーが王子の右足を持ちあげて舌を足全体にからませる。王子が荒い息を吐いて腰をひくひくとけいれんさせる。

 両足を舐め終えたオードリーが王子をあおむけに返す。オードリーが王子の上にかぶさって胸から首に舌をつける。顔全体を舐めしゃぶる。

 王子がたまらず舌をのばして催促する。オードリーが王子の舌に舌先でツンツンとじらす。王子が手を持ちあげてオードリーの顔を引き寄せる。口と口が濃厚に密着する。

 オードリーの手が王子の手をつかんで自分の胸に持って行く。王子の腰がカクンカクンと突きあがる。オードリーが二本の太ももではさんで腰を上下にうごめかす。王子の下半身がまた終わりを告げる。

 オードリーがそっと王子のくちびるを舐める。王子の舌がオードリーの舌を追ってくちびるのまわりをさまよう。オードリーが王子の太ももを両太ももではさんでこすりあげる。王子がたまらずオードリーの腰に手をまわして引き寄せる。

 オードリーが王子の舌を舐めながら結合する。王子があっと言う間に終わりかける。

 オードリーが腰を浮かせて王子が終わらないようにじらす。王子がオードリーの腰を抱き寄せて結合を深くする。

 王子が終わりそうになる。またオードリーが腰を逃がして王子の終了を阻止する。

 そのあいだに護衛のミリアムとレーシアが右手をスカートの下にしのびこませていた。左手は胸だ。立ちながらせつなそうに腰をもじもじさせている。立っているせいで終われないらしい。

 タツは苦笑しながらミリアムとレーシアに手をのばした。

「なにをする!」

 ミリアムとレーシアがタツの顔を見た。

「手伝ってやるだけだ。気にするな」

 タツはミリアムとレーシアの弱そうなところに指を這わせた。この世界に来てからタツは千人ほどの娼婦を指導した。女の弱い部分は見当がつく。すぐにミリアムとレーシアが盛りあがりを見せた。

 王子が終わりたいらしくオードリーの腰を力のかぎり引き寄せる。上に乗るオードリーが王子を押しとどめる。王子が下から泣きそうな顔でオードリーをうかがう。

 オードリーがニコッと笑って王子と上下を入れかえる。さあどうぞとばかりにオードリーが王子にくちづけをする。王子がオードリーにのしかかってたまりにたまった思いを終わらせた。

 王子の終了に合わせてタツもミリアムとレーシアに終止符を打たせた。

 王子の荒い呼吸がおさまるとオードリーが王子にやさしくくちづけをした。オードリーが王子に服を着せて自分も身につけた。

 オードリーが着衣の王子に向き合って手を受けた。

「王子さま。お代として金貨十二枚をいただきます」

 王子がびっくりした表情に変化した。

「えっ? ぼくおカネを持ってないよ。ミリアム。レーシア。おカネを持ってる?」

 ミリアムとレーシアもおどろき顔でオードリーをにらんだ。ふたりが同時に口をひらく。

「あなたねえ。王子からおカネを取ろうっての?」

 オードリーがへいぜんと答えた。

「わたしは娼婦ですわ。王子さまといえどお客はお客。仕事の対価はいただきます」

 王子が青い顔になった。カネを要求されたのは生まれてはじめてなのだろう。

 ミリアムとレーシアもカネを持ってなさそうだ。王子とその護衛はカネがなくてもあらゆる便宜をはかってもらえる。町ならカネを持っているだろうがここは戦場だった。買い物に行く店などどこにもない。

 タツは苦笑しながら腰の袋に手をのばした。金貨を十二枚つまみ出してオードリーの手にのせた。

 王子がタツに感謝の顔を向けた。

「ありがとうタツ。この恩はわすれないよ。すぐに王宮から金貨を送らせて返すからね」

 オードリーの仕事の時間が来るまでオードリーが王子の話し相手をした。時間が来るとオードリーが王子を追い出した。

 天幕を出た王子の顔は曇っていた。

「タツ。ぼくは」

 タツも王子に最後まで言わせなかった。

「がまんしなさい。オードリーは娼婦です。あなたは王子。身分がちがいすぎるでしょう」

「そんなことはない! ぼくは第三王子だ! オードリーと結婚してもかまわないはずだよ!」

 タツはまよった。アイドルにあこがれた男の子がアイドルとできて有頂天になっているみたいなものだった。すぐに熱がさめるかもしれない。さめなくても娼婦と王子の結婚を認める王室はないだろう。さあどう言えばいいか?

「オードリーは昼間はひまです。仕事がはじまるまであなたといることはできますよ。ゆっくりと時間をかけて口説き落としてはどうですか?」

 王子の顔がさらに曇った。

「でもぼくおカネがないよ? オードリーと会えばそういうことをしたくなると思う」

「カネなら俺が貸しましょう。金貨百枚もあればとうぶんはこまらないでしょう」

 タツは腰の革袋を王子ににぎらせた。王子の顔がぱっとほころんだ。

 タツは苦笑を浮かべた。さすがに王子から利子はもらえないなと。金利を要求すればミリアムとレーシアに斬られそうだ。カネを貸して金利を取らないのははじめてなタツだった。

 王子はその日から毎日オードリーの天幕に入りびたった。王宮から送ってもらった金貨でオードリーを貸し切りにしようともした。だがオードリーに拒否された。

「わたしは兵隊さんたちをなぐさめるのが仕事なの。あなたは一国の王子でしょう? おカネにものを言わせて兵士のなぐさめをうばうわけ? それは王子の仕事じゃないわよ。あなたの都合で戦争に負けたらどうするの?」

 王子はぐうの音も出なかった。

「ごめん。きみが正しいよ。オードリー」

「わかればいいのよ」

 オードリーが王子にキスをしてふたりはひとつに溶け合った。

 オードリーも王子がいつまで自分に夢中でいるかをはかりかねた。深入りすれば泣くのは自分だ。娼婦と王子が結婚できるはずがない。愛人でもむずかしいだろう。

 女にとって王子さまは特別な存在だ。王子との結婚はたいていの女の夢と言っていい。王子に惚れてはないオードリーだが王子との結婚にはあこがれていた。惚れているのはタツだ。しかしタツにはカタリナがいる。いっそ王子に乗りかえてとも考える。でもそれは不可能だろうとすぐに否定する。そんなゆれまどうオードリーだった。

 平和な日々の終わりの師団長会議だった。

 ゲーブル師団長がヒゲをなでた。

「ヤマルフィス神聖国に侵攻してスケルトン軍を撃破せよとの王命が出た。スケルトン軍は二万体だという話だ」

 ベネット師団長が地図を広げてボソボソと声を出した。

「ヤマルフィス神聖国は森と沼地の国でね。ソーンベルグ皇国の東にある。ヤマルフィス神聖国のノルディクト大法王がウスタール王国に亡命を申請中だ。大法王はソーンベルグ皇国の東の国境近くにある町ホーリィクライに潜伏してる。ノルディクト大法王と接触してヤマルフィス神聖国の内情をさぐれというのが王宮の指示だ」

 モスランド男爵が顔をまっ赤に染めた。

「スケルトンってのはガイコツだろう! ガイコツが二万体などおそるるにたりん! こなごなにくだいてやればそれですむ! 国民を見すてた大法王にまともなことが言えるか! そんなバカの言葉は聞くだけ時間のむだだ! さっさと侵攻してヤマルフィス神聖国を占領してしまえ!」

 メガロフィア師団長が笑いはじめた。

「あはははは。国民を見すてたバカだってさ。モスランド男爵はうまいことを言う。でもまあ王宮の指示だからね。したがわざるをえないだろう。イングリッド君はどう思う?」

 イングリッド師団長が記憶をたどる顔になった。

「スケルトンをあやつってるのは死霊王だと聞く。魔王軍きっての魔法使いだそうだ。ノルディクト大法王は魔法研究の第一人者という話だな。接触する価値はあるだろう」

 ベネットが思い出したという顔をした。

「魔法使いには魔法使いということで魔法部隊の合流を要請しといた。ノルディクト大法王に接触してるあいだに魔法部隊が着くだろうさ」

 ゲーブルがベネットに顔を向けた。

「けっきょく何人の魔法使いが集められたんだね?」

「二百人だと言ってた」

「二百人か。すくないな」

「仕方がないさ。自分が魔法を使えると知らない者も多い。たまたま魔法に興味を持った者くらいしか魔法使いにならないからね。一生魔法と縁のない者が大半だ」

「魔法がなくても暮らしにはこまらないものな」

「そういうことだね」

 あしたからソーンベルグ皇国のホーリィクライに向けて行軍するということで決着した。ウージール王子が閉会を宣言して解散になった。

 第一師団と弓兵部隊が先頭でモスランド男爵の第五師団がどん尻だ。ホーリィクライまでの道のりは平坦だった。敵もいなければ突発事もなかった。

 ホーリィクライの町はさびれていた。魔王軍の通り道になったせいかところどころに焼け落ちた建物が目についた。

 町の中心に教会があった。教会も外壁がくずれていた。だが焼けてはなかった。

 イングリッドとタツとアイーダで中に入ると神父がむかえてくれた。

 イングリッドが神父に手をさし出して握手をした。

「こちらにノルディクト大法王がいると聞いたんだが?」

 神父がうなずいた。次に長いすを四つ部屋のすみにどけた。床板を一枚ずつはがした。地下につづく階段があらわれた。

「どうぞ」

 神父がランタンをイングリッドにわたした。イングリッドを先頭に階段をおりた。おり切ると廊下がつづいていた。突きあたりの左右に戸が四つ見えた。ひとつずつたたくと三つ目の戸がひらいた。男がひとり出て来た。司教の服を着ていた。

「ウスタール王国の方ですね? 私はネーデルです。大法王さまの従者をしております。さ。入ってください。大法王さまがお待ちです」

 室内に入ると机や寝台があった。机の前にひとりの男がすわっていた。大法王の法衣をまとった五十代のハンサムな男だった。頭に黄金の輪っかをかぶっていた。

 男が立った。

「女か。女をよこすとはウスタール王国も何を考えておる? まあいい。さっさとわしをウスタール王国に案内せえ」

 タツは思った。この大法王ってのはモスランド男爵と同じ種類の人間だと。ヤマルフィス神聖国は男尊女卑の国らしいとも思った。

 イングリッドがへいぜんと受け流した。

「先にヤマルフィス神聖国について教えてもらおう」

 ムッとノルディクト大法王が眉を立てた。だがしばし考えて口をひらいた。

「何が知りたいのじゃ?」

「スケルトン軍だ。スケルトン軍はどこにいるんだ? 国中に散らばってるのか?」

「いや。聖都を二万体で守っておる。聖都の周辺以外にはおらん。斥候の報告ではそうなっておった」

「ではスケルトン軍の首領はどんなやつだね?」

「女じゃ。ルーシールーと名乗りおった。死霊王じゃそうじゃ。見た目には人間の女と変わらん。じゃがありゃ女淫魔じゃろう。黒革のみじかいスカートとみじかい上着をつけておった。へそは丸出しじゃった」

「サキュバスか」

「そう。国をさし出せば危害をくわえんと言っておった。むろんそんなことはできん。わしらは戦った。じゃがスケルトンは切っても突いても死なん。追いつめられてわしは聖都をすてざるをえんかった」

「そのルーシールーはどんな魔法を使うのかね?」

「わしが見たのはファイアーボールとスノーボールじゃ。戦闘はスケルトンがしておった。ルーシールーは馬上でただ腕を組んで見ておるだけじゃった。とうぜん死霊術も使うじゃろうな」

「馬か。スケルトン軍は騎馬隊もあるのか?」

「いや。ルーシールーだけが馬のガイコツに乗っておった。スケルトンたちは徒歩じゃ」

「動物のスケルトンもいるのか?」

「いいや。人間のガイコツばかりじゃった。じゃが動物も作ろうと思えば作れるんじゃろうな」

「武器は?」

「剣じゃ。みんな剣を持っておった」

「防具はつけてないんだろうな?」

「つけておる者もおったぞ。おそらく死んだときのままじゃろう。ソーンベルグ皇国の防具をつけておるガイコツを見たわい」

「ソーンベルグ皇国の兵士のむくろをスケルトンにしたのか。ではヤマルフィス神聖国の兵たちのスケルトンもいるのかね?」

「たぶんおるじゃろうな。魔力によゆうがあればいくらでもスケルトンを作れるんじゃないかな?」

「ふうむ。それは厄介だな。あんたは魔法が使えるのか?」

「残念じゃがわしは使えん。研究するのみじゃ。ヤマルフィス神聖国はかつて魔女を迫害しておった。そのせいで魔法を使える者はおらん。国外に逃げるのでな」

「なるほど。ヤマルフィス神聖国は森と沼地の国と聞いた。道にまよいやすいそうだな?」

「ああ。それが?」

「あんたに聖都までの道案内をたのみたい」

「わしがか? 道案内など従者のネーデルで充分じゃろう?」

「いや。あんたでなければわからんこともあろう。同行できんと言うなら亡命の話もなしだ」

「むむむっ。しっ。仕方がない。同行しよう」

 翌日に国境を越えた。国境を越えて進むと深い森に入った。昼なお暗い森の中を五万人強が行軍する。

 タツたちアイーダ隊が先頭だった。大法王は道案内をすると約束した。だが先頭は従者のネーデルにまかせて自分は後尾の第五師団と行動をともにした。タツの読みどおりモスランド男爵と気が合ったらしい。おそらくイングリッドの悪口で意気投合したのだろう。モスランドは大法王を国民を見すてたバカと言っていた。バカ同士はひかれ合うものがあるみたいだ。

 ネーデルは話し好きらしく馬上でさまざまな雑談をした。

「この森をぬけるとチケルドブールの町があります。チケルドブールから聖都までは沼と森ばかりになって行軍がむずかしくなりますよ」

 馬上のアイーダがネーデルの顔をうかがう。

「どうしてだ? 道がないのか?」

「道はありますけどね。洪水になると道が変わるんですよ。水没した道は使えませんからね」

「なるほど。道案内なしではまようか?」

「ええ。私たちでもまようときがありますよ。雨で沼が広がると通行できなくなりますものね。それに霧も濃いんです」

「霧が?」

「はい。手をのばしたら指先が見えないほど濃い霧が出ます。そうなれば進むのを断念すべきでしょう」

「そこまでか?」

「聖都は霧の都と呼ばれてるほどですからね」

 そんなので戦闘ができるのかとアイーダとタツとリンダは首をかしげた。

 チケルドブールの町に着いた。やはりさぴれた町だった。しかし建物に焼けこげはなかった。一応の市民生活はできているようだった。宿屋や商店は店をひらいていた。だが冒険者ギルドは板を打ちつけてあった。

「あれはどうして板を打ちつけてある?」

 疑問顔のアイーダにネーデルが答えた。

「反乱防止のためです。ルーシールーが冒険者とギルドを国外追放にしました」

「なるほど。冒険者は反骨のやからが多いからな」

 チケルドブールで魔法部隊を待った。装備の軽い魔法部隊はアイーダたちより行軍速度が速い。二百人だから全員が馬に乗っている。

 魔法部隊が合流した。女が百八十人で男が二十人だから魔女部隊と呼ぶほうが適切かも知れない。魔法を使える者を募集したせいで十五歳から五十歳と年齢はさまざまだ。戦闘で役に立つ魔法はファイアーボールと治癒魔法くらいだった。

 ファイアーボールは野球のボールくらいの火の玉が飛び出すだけだ。あたれば人間ひとりが炎につつまれる。はずれれば空中で燃えつきる。直線で飛んで来るからよけるのもできる。先に視察したときは二回に一度は不発だった。いまは不発が十回に一度ていどに改善したそうだ。

 治癒魔法はケガを治す。だが病気は治せないということだった。

 顔見知りになった魔法部隊のトゥードールがタツのそでを引いた。トゥードールは最年長で五十歳のおばさんだ。

「ねえタツ。テオなんだけどさ。あの娘あんたが気に入ったみたいなのよ。あんたの手で女にしてやってくれないかねえ?」

「はあ? それはまずいんじゃないか? 軍隊内恋愛は禁止だぞ?」

「そうは言うけどね。戦闘がはじまったらいつ死ぬかわからないんだよ? はじめてくらいは好きな男と経験させてあげたいじゃないか。一回だけでいいんだよ。あとは男娼を買わせるからさ」

 タツは思案した。テオは十五歳で王都の孤児院から来たと聞いている。おとなしい娘でたしかに視察期間中なついていた。男を知らないまま死なせるのはかわいそうだ。しかし一度関係を持ったらのめりこむに決まっている。おとなしい娘だけに一途なのではないだろうか?

「やはりまずいだろう」

「そうかい。そんな薄情なやつなのかい。聞いてるよ。あんたがほとんどの娼婦に男を教えたってね。部隊内の女たちともよろしくやってるそうじゃないか。いまさらひとりふえたってどうってことないだろ? それともモスランド男爵にチクろうかねえ? タツが部隊内の女とハーレムを作ってるって?」

 タツは苦笑した。モスランド男爵に密告されるとややこしい事態になるのは目に見えている。

「仕方がない。引き受けよう」

 タツはテオを連れてカタリナの天幕に足をはこんだ。カタリナはタツのすることに口出しはしない。黙って天幕を出て行った。

 テオがタツの顔を見あげた。

「お兄さま」

 テオは緊張して身体がカチカチだった。怖いのか恥ずかしいのか。

 タツは悩んだ。処女の相手をしたことは何度かある。だがナンパされる処女は期待しているわけだ。そういう行為をするのが前提にある。しかしテオにその心づもりはない。

「いいのかテオ?」

 テオが無言でコクンとうなずいた。覚悟はできているらしい。

 取りあえずそっと抱きしめた。テオがタツの腕の中で目をとじた。テオのくちびるがさそっていた。タツはふれるかふれないかで口をつけた。テオはキスもはじめてらしく舌をからめては来なかった。

 タツはエロ動画の男優としては経験多数だ。だが恋人は持ったことがない。恋人同士がどうするのかはわからない。まして処女の恋人の役は荷が重すぎる。濃厚なエロはできるが淡い初恋はできない。

 さてどうすればいいか? 考えながらテオを寝台に横たわらせた。やるべきことをやらないと明日死ぬかもしれない。時間はあまりなかった。間もなく夕食がはじまる。そのあとは各娼婦の天幕が商売を開始する。カタリナの天幕に来る者はいないだろうが万一ということもあった。初体験の最中に男が入って来れば台なしもいいとこだ。

 タツはくちづけながらテオの身体をさぐった。

「あっ」

 肩をさわったときにテオが声をもらした。肩から二の腕に指を這わせる。

「あんっ」

 ひじをくすぐっててのひらを指でなでた。

「あっはっ」

 テオは肩からてのひらが弱いらしい。男を知らない上みずからをなぐさめることもしてないようだ。身体の他の部分が未開発なだけかもしれない。男とちがって女は開発されるまでに経験が必要になるみたいだ。インタビューでそういうことを言う女が多かった。はじめのうちは痛いだけだったと。

 タツはくちづけながら服を一枚また一枚とぬがした。最後の一枚でテオが口を離した。

「やんっ。恥ずかしいっ」

「やめるかい?」

 テオがうらみがましい目つきでタツをにらんだ。タツは苦笑いを浮かべた。女は恥ずかしいとは言ってもやめるとは言わないらしい。

 タツはふたたび口をつけた。テオの口の中に舌を刺してテオの舌をさそった。テオがおそるおそる舌をのばした。タツはゆっくりと舌をからめてやる。テオが舌でこたえた。テオの吐息があまく荒くなる。タツはテオの下着をそろそろと引きさげる。今度はテオが口を離さない。必死で舌をのばしてタツの口に舌を入れて来る。

 タツはテオの足首からそっと下着をぬき取った。全裸になったテオの舌を舌でもてあそびながらテオの全身に手を這わせる。

「あっ。あんっ。んふっ。いやんっ。くはあっ」

 ちょっとほぐれたらしく腕以外でも声をもらすようになった。くちづけをつづけながら肩から手首までをさわる。

「あふっ。はんっ。ふえっ。やっ。ふあっ。そこっ。あーんっ」

 キスの合間にテオがあまい声を出す。そろそろいいかとタツは思った。はじめから濃厚すぎるエロは興ざめだろうと。

「痛かったら言いなよ」

 テオが目をあけて上にあるタツの顔を見つめた。

「ううん。がまんするわ。お兄さまの好きなようになさって」

「そうか。いい子だ」

 テオが恥ずかしそうに顔をそらせた。

「おねがい。もっとほめてお兄さま」

「可愛いことを言うねテオは。きれいだよテオ」

「ああーんっ。うれしいっ」

 テオが下からギュッと抱きついた。タツはテオと結合した。

「あっ! いっ」

 痛いと言いかけてテオがくちびるをかんだ。眉もしかめられている。

「痛かったら痛いって言ってもいいよ」

「ごめんなさぁい。お兄さまぁ。痛いですぅ。でもつづけてほしいのぉ」

 タツはテオのてのひらを指でくすぐった。

「ひゃあっ。ああんっ。それぇ。んくっ。そこぉ。あううっ。それだめぇ」

 やはり手がいいらしい。手の甲から指先へと指を這わした。

「えはっ。やんっ。くへっ。はんっ。んっ。あはんっ。やーんっ。はうぅ。だめぇ」

 タツはテオの両手を自分の口へとおりまげた。テオのふたつのてのひらを交互に舐める。

「はおぉっ。えーんっ。だめっ。それはだめっ。ひゃーっ。やだっ。あっはっ。いやーんっ」

 テオの両手の指を一本ずつしゃぶってやる。

「わっ。わあーんっ。お兄さまがいじめるぅ。そんなことされたらあたしぃ。ひぐぅ」

 テオの手を裏返して甲から指先までを舌先でくすぐる。

「くふうんっ。やんっ。だめだったらぁ。んふっ。だめなのぉ。おっ。おほっ。ふあーんっ」

 指の股に舌を刺し入れてレロレロと左右にふった。

「ひっ。だめぇ。ひゃんっ。だめですぅお兄さまぁ。にゃはっ。ああーんっ。もぉだめぇ」

 テオがタツの手をふりほどいてタツの背中に手をまわした。タツに必死でしがみつく。目をとじたテオのくちびるがタツの口をもとめた。タツは舌をからめながらテオを突きくずす。

「あんっ! おねがいお兄さまっ! いまっ! いまよっ!」

 タツはテオがほしがるがままにおのれを解き放った。

「きゃんっ! お兄さまぁ! ああーんっ! ひいいぃっ! ああああああーんっ!」

 タツの腕の中でテオが溶けた。

 タツはテオのみじかい銀髪を手ですいた。テオの荒い息がだんだんとおだやかに変化した。テオがうるんだ目をあけた。

「えへへ。お兄さま。あたしうれしい」

 テオがタツにキスをした。タツはテオの舌にこたえてやった。

 聖都への進軍がはじまった。魔法部隊はアイーダ隊と弓兵部隊とともに先頭だ。

 チケルドブールを出ると沼地と森が交互にあらわれた。霧も濃くなったり薄くなったりした。

 馬上のリンダが顔を横向けた。

「そういやね。昨夜に夢を見たわ。タツが黒髪の女と結合してた」

「はあ? 黒髪の女? オードリーか?」

「ううん。ちがうと思う。オードリーは短髪でしょ? あたしが見たのは腰まである黒髪だったわ。うしろ姿だったんで顔はわかんないけどね」

「腰まである黒髪?」

 そんな女に心あたりはなかった。タツが会った娼婦は二千五百人以上だ。だが腰まである黒髪の女はいなかった。せいぜいが肩までだった。女兵士は二万人以上いてそのすべてに会ったわけではない。しかし隊則で髪をみじかく刈るように決められている。敵に髪をつかまれると危ないからだ。

 従者のネーデルが口をはさんで来た。

「大法王の奥さんがそうでしたよ。キャサリンって名で腰まである長い黒髪が自慢でした。つややかでサラサラの黒髪でしたねえ。国一番の美人だという評判でした。実際にすごくきれいな人でしたよ。私は十代で奥さんの顔を見るのが楽しみでした」

 リンダがネーデルに顔を向けた。

「でした? 死んじゃったの? その奥さん?」

「いえね。行方不明になったんですよ。大法王がまだ司教だったころの話です。大法王の留守に屋敷でひとりでいたんですよ。そのとき押しこんで来た十人の男たちに陵辱されましてね。命はぶじだったんですがそれ以来体調をくずしてすっかりやつれたんです。長い黒髪もぬけ落ちて美貌も影をひそめてねえ。ある日ぷっつりと行方不明になりました。沼地に身を投げて自殺したんじゃないかと推測されてます。失意の大法王をなぐさめたのが当時の大法王の娘さんでしてね。その後その娘さんと結婚して大法王の跡を継いだわけですよ」

「じゃ奥さんが行方不明にならなければ大法王になってない?」

「そこはわかりません。司教時代から将来を嘱望されてましたからね。ただ大法王の娘さんと結婚したことで一足飛びに大法王になれたのはたしかです。司教の次は大司教ですからね」

 聖都が近づくにつれて霧が濃くなった。あとわずかで聖都だという地点では五メートル先の立木が見えないほどになった。

 タツは方向音痴ではないが方向感覚があやしくなった。前に進んでいるのやら道をそれているのやらわからない。鼻をつままれてもわからない闇と言うがこの調子で霧が濃くなれば間もなくそうなるはずだった。

 足元は沼地で馬の足が取られることもしばしばだ。視界はきかない。案内役のネーデルも道の痕跡を見つけるのに必死だった。

 そんな中で前方に光がともった。ポッポッと霧にかすんで赤い光が浮かんだ。

「なんだありゃ?」

 タツは目をこらした。赤い光はゆれていた。

 歩を進めると光の正体がわかった。スケルトンだ。スケルトンが沼の中に立っていた。赤い光はスケルトンの目だった。大量のスケルトンが手にはそれぞれ剣をふりあげていた。

「オーホッホッホッ! よく来たわね。ウスタール王国の兵士たちよ。歓迎してあげるわ」

 女の声が霧の中からひびいた。それとともにスケルトンが走って来た。

「敵だっ! 魔法部隊と弓兵部隊は応戦しろっ!」

 アイーダが指示を飛ばした。魔法部隊と弓兵部隊が先頭に出る。攻めて来るスケルトンたちに矢とファイアーボールを発射した。だが矢もファイアーボールもスケルトンたちを通りぬけた。スケルトンたちは何もなかったかのように突進して来る。

「ちっ! 歩兵部隊っ! 応戦しろっ!」

 アイーダが馬上からスケルトンに斬りかかる。しかしその剣もスケルトンの身体を通りぬけた。

「なんだあ?」

 霧の中をスケルトンの集団が歩兵の集団に突っこんだ。歩兵たちがいっせいに声を出す。

「メーンッ!」

「どうーっ!」

「つきーっ!」

 だがスケルトンにあたった者はいなかった。スケルトンもいっせいに剣をふった。しかしその剣も歩兵たちを傷つけはしなかった。

 しばらく戦闘をつづけて全員が目をパチパチさせた。スケルトンにふるった剣はすべて空ぶりだ。スケルトンのふる剣もことごとく人間の身体をすりぬけた。どういうことか?

 疑念のままに剣をふりつづけるとスケルトンがスッと消えた。一体残らず消えうせた。

「なんだよ? いまのは?」

 タツはアイーダと顔を見合わせた。だが誰の顔にも答えがなかった。流れる霧が濃くなったり薄くなったりするだけだ。

 仕方がないから気を取り直して前進を再開した。すぐに立て札を見つけた。

 アイーダが霧の中で立て札に顔を寄せた。

「なになに。右が聖都で左はツンツーランの森?」

 ネーデルが口を出した。

「ツンツーランの森っていうのはエルフが住んでるって伝説のある森です。入りこめば迷って出られないとも言われています」

「ということは右に行くわけだな」

 一行は立て札を右にまがった。霧の中をかなり進んだ。またポッポッと赤い光が浮かんだ。

「オーホッホッホッ! 歓迎してあげましょうね。ウスタール王国の兵士たちよ」

 女の声が霧の中から聞こえた。スケルトンが走って来る。

 タツは剣をふりあげた。

「メーンッ!」

 先頭のスケルトンに剣をふりおろした。だが剣が空ぶりしてタツはあやうく馬から転げ落ちるところだった。タツが斬ったスケルトンはそのまま走って歩兵たちの中に斬りこんだ。歩兵たちがスケルトンに剣を刺す。だが手ごたえがない。

 しばらく戦闘をしたものの双方に被害はなかった。そうこうするうちにまたスケルトンがスッと消えた。

 タツもアイーダも首をかしげながら馬に道をいそがせた。

 かなり進んだ。だが聖都は見えて来ない。周囲は沼と森と霧のみだ。

 馬上のネーデルが眉を寄せた。

「おかしいですね? もう森をぬけてもいいころなのに?」

 さらに進むと立て札があらわれた。

 タツは顔を近づけた。

「なになに。右が聖都で左はツンツーランの森。あれ? さっきもそんなことを書いてなかったか?」

 アイーダが立て札に馬を横づけした。

「右が聖都で左はツンツーランの森か。たしかにさっきと同じことが書いてあるな。ネーデル。これはどういうことだ?」

 ネーデルが首をかしげた。

「わかりません。でもその立て札は一枚のはずです。その立て札をすぎれば間もなく聖都が見えるんですよ。なのに見えて来ないのはどうしてでしょうね?」

 全員が疑問顔のまま立て札の指示どおり右に進路を取った。

 かなり進むとまたスケルトンの襲撃を受けた。

「オーホッホッホッ! 歓迎してあげるって言ってるのにどうして来ないの? さっさといらっしゃいよ」

 霧の中から女の声があざ笑った。

 しばらく戦闘をするとスケルトンがスッと姿を消した。

 狐につままれた顔でタツもアイーダもリンダも行軍をつづける。

 歩兵たちが歩きつかれたころまたまた立て札が見えた。

 今度はリンダが顔を近づける。

「右が聖都で左はツンツーランの森。そう書いてあるぅ。えーん。どういうことなのぉ?」

 ここまで来たらさすがにタツもアイーダもおかしいと気づいた。

 タツは思いついて軍列を逆行した。荷車ではこばれているオークのムーンドロウの檻に着いた。

「ムーンドロウ。ルーシールーって女について知ってることはないか?」

「ルーシールーでやすか? 死霊王でやすな。魔王軍最強の魔法使いで幻影術の達人だって話でやすよ。町ひとつをすっぽり幻影でおおうことができるそうでやす」

「幻影。やっぱりか。ほかに知ってることは?」

「男好きで男をもてあそぶのが趣味だそうでやす。目を見ると男は言いなりになっちまうとか」

「攻撃魔法は得意なのか?」

「そこまでは知りやせん。でも女淫魔でやすから攻撃魔法の強烈なのはないでやしょう。死霊術と幻影が強力なだけでやしょうな」

「その死霊術と幻影って打ちやぶる方法はないのか?」

「俺にゃわかりやせんでやす。魔法はくわしくありやせんので」

「なるほど。ほかに知ってることはないか?」

「ねえでやすな。うわさに聞いただけでやすからね」

「わかった。ありがとう」

「どういたしましてでやす」

 タツは先頭にもどってイングリッドにムーンドロウから聞いたことを報告した。

「ふうむ。いままでのは幻術か。厄介な術だな。どうすればいいんだろう?」

 先に進んでも幻影がやぶれなければ聖都にたどり着けない。仕方がないからチケルドブールの町まで引き返すことにした。歩兵たちが歩きつかれてぐったりしていたからだ。

 チケルドブールの町の外に天幕を張った。

 師団長会議がもたれた。

 ゲーブルがヒゲをなでた。

「さて。どうするね?」

 ベネットが渋い顔でボソボソとつぶやいた。

「聖都まであとわずかなんだがな。どうしよう?」

 モスランド男爵がかんしゃくを起こした。

「そんなこと決まっとるじゃないか! さっさと聖都を攻めるんじゃ! スケルトンなど怖くはないわ! おじけづかずに一気に突撃すればよい!」

 最後尾にいたモスランド男爵は幻術にかかって進めないとわかってないらしい。

 メガロフィアが笑いをはじけさせた。

「わはははは。それができればねえ。イングリッド君。きみ名案はないかね?」

 イングリッドが思案した。

「わたしにはない。だがノルディクト大法王に訊いてみればどうだ? 魔法研究の第一人者だという話だぞ。打開策を知ってるかもしれん」

「なるほど。それはいい。さっそく呼ぼう」

 すぐにノルディクト大法王が顔を見せた。

「わしに何の用じゃ?」

 ゲーブルが指でヒゲの先をととのえた。

「幻影魔法のやぶり方を知ってるかね?」

「わしは知らん。じゃがエルフならあるいは」

「エルフ? エルフなら幻影がやぶれるのかな?」

「エルフは里を幻術で守っておるという話じゃ。幻術を使う者なら幻術のやぶり方も知っておるじゃろう」

「ふうむ。じゃエルフの里ってのはどこにある?」

「ツンツーランの森にある。エルフの里の場所はわかっておる。ツンツーランの森の最も背の高い木のふもとにあるそうじゃ。じゃが里に入る方法はわからんぞ。エルフの里には幻術がかかっておるはずじゃ。まねかれた者以外は入れんと聞いておる」

 タツは立て札を思い出した。右が聖都で左はツンツーランの森と書いてあった。今度は左に行くわけかと。

 師団長会議はウージール王子のあいさつで解散になった。

 翌日になった。ウスタール軍はツンツーランの森をめざした。

 スケルトンがあらわれた。幻影だと思ったからタツは無視をした。

 スケルトンが剣をふる。スケルトンの剣がタツの太ももを切り裂いた。血がズボンににじんだ。痛かった。

「うわっ! 敵だっ! 実物だぞっ! 幻影じゃないっ! みんな応戦しろっ!」

 タツは必死で叫んだ。目の前に来たスケルトンの剣を剣でとめた。ガキンッと鉄の打ち合う音が霧にひびいた。

「地獄の業火よっ! 冥界のともし火よっ! わが手に燃えろっ! ファイアーボールッ!」

 テオをはじめとする魔法部隊が右手を突き出した。火の玉がスケルトンに飛んだ。スケルトンにあたるとスケルトンが炎につつまれた。全身が燃えているスケルトンが剣をふりかぶったまま走って来る。

 弓兵部隊の放った矢はスケルトンの骨のあいだをすりぬけた。頭に刺さった矢もあった。だが痛痒はあたえられなかった。

 歩兵部隊が剣を上段にかまえた。

「メーンッ!」

 いっせいにスケルトンの頭部に剣をふりおろした。スケルトンの頭蓋骨がまっぷたつになった。それでもスケルトンは剣を手に進んで来る。火につつまれようが頭に矢が突き立ってようが頭をまっぷたつにされようがだ。

 女の高笑いが霧をふるわせた。

「オーホッホッホッ! 歓迎してあげるって言ったでしょう? わたしの言うことを信じなかったの?」

 スケルトンの倒し方がわからないまま歩兵たちがスケルトンの剣に斬られた。

 イングリッドがこれはまずいと感じた。

「撤退だっ! 撤退しろっ!」

 タツはスケルトンの首を切り落とした。それでもスケルトンは斬りかかって来た。モスランド男爵の言うように粉々にくだく以外にスケルトンを倒す方法はないのかもしれない。

 ほうほうのていでチケルドブールまで逃げ帰った。

 師団長会議がはじまった。みんな疲れた顔だった。ゆいいつ疲れてないのはモスランド男爵だ。

「きさまら若者のくせに暗い顔をするんじゃない! スケルトンなどたかがガイコツじゃ! 骨をすべてたたき折ればよい! 歩けなくしてやれ!」

 ハッとタツは胸を突かれた。

 メガロフィアが笑いはじめた。

「あはははは。モスランド男爵。たまにはいいことを言うね。たしかにそのとおりだ。足を斬れば動けなくなるはずだよ。上半身を攻撃するより下半身を攻撃すればいいんじゃないかね?」

 ゲーブルがヒゲを指で引っぱった。

「ふむ。それはそうだ。頭がなくても攻撃して来る。だが足がなければ移動できまい。あしたはそれで行くか」

 ウージール王子が閉会を宣言した。

 各師団長がおのおのの部隊に指示をした。スケルトンの足を狙えと。

 翌日が来た。スケルトンの出て来る地点まで軍を進めた。

 赤い火が前方にあらわれた。

 タツは馬をおりた。馬に乗ったままだとスケルトンの足まで剣がとどかないからだ。

 霧の中からスケルトンたちが走って来た。

 タツは先頭のスケルトンの太ももを斬った。ガキッと音がして右の太ももの骨がくだけた。ガクンッとスケルトンが前のめりに倒れた。タツは残った左の太ももの骨もくだいた。スケルトンが地面で剣をバタバタとふった。下半身への攻撃は有効らしい。

 歩兵たちが身体をしずめて剣をふった。

「どうーっ!」

 横なぐりにスケルトンの太ももやすねを斬る。スケルトンが次々に転んだ。ひっくり返されたカメのように剣をジタバタとふっている。兵士たちが剣をにぎる手もくだいた。

 戦闘が終了した。沼地にスケルトンの残骸がしずんで行くばかりだ。四肢をくだかれるとスケルトンは無力だった。

 女の声が霧の中から聞こえた。

「ちっ! くそったれっ! おぼえてやがれっ!」

 品のない女だとタツはあきれた。

 立て札に達した。右が聖都で左はツンツーランの森と書いてある。

 タツはイングリッドのところまで馬をもどした。

「どうします? 聖都に向かいますか? それともツンツーランの森に?」

 スケルトンが幻影ではなくなっていた。聖都への道も幻影ではなくなっているのでは?

「そうだな。聖都に行ってみるか」

 一行は右へと馬首を向けた。

 霧の中を進んだ。

「オーホッホッホッ! また来たのね。ウスタール王国の兵士たちよ」

 女の声が霧にこだました。

 スケルトンがあらわれた。走って来る。

「どうーっ!」

 しかしタツの剣も兵士たちの剣もスケルトンを素通りした。このスケルトンは幻影だった。

 さらに進んだ。

 立て札があらわれた。右が聖都で左はツンツーランの森。

 タツは肩を落とした。

「左に行くしかないか」

 リンダがタツに顔を向けた。

「そうそう。また夢を見たわ。木がずらっとならんでてね。左から三番目の木にうろがあったの。そのうろにタツが手を突っこんでた」

「はあ? なんだそりゃ?」

「あたしに訊かれても知らないわよ。夢に見ただけなんだからさ。あ。それからね。剣が水の底に沈んでたわ。澄んだ水だったわよ」

 タツは苦笑した。いったん結合したアイーダとリンダはとまらなかった。毎晩タツはもとめられている。雑魚寝の天幕ではまずいからカタリナの寝台でだ。とうぜんカタリナの相手もさせられた。三人から二回ずつしぼり取られる夜がつづいている。リンダがふたつの夢を見たのはそのせいだろう。昨夜も二回リンダを満足させたタツだった。

 タツは軍隊内恋愛禁止という理由がよく飲みこめた。ここにいる五万人の兵士は十代の若者がほとんどだ。恋愛状態になったらとまるまい。ひと晩中その行為をつづけるだろう。戦争なんかできっこない。

 左に進路を取った。沼と森と霧だったのが森と霧になった。さらに進むと霧がしだいに薄れて森だけになった。道ものぼり坂やくだり坂が交互にあらわれた。

 遠くが見わたせるようになって背の高い木が見えはじめた。その木に向かって進んだ。

 木々がとぎれてひらかれた場所に出た。広場の先に木が立ちならんでいた。同じ高さの木がズラリと横一線に二十本ならんでいた。

 馬上のリンダがアッと声をあげた。タツの顔を見る。

 タツも思い出した。

「左から三番目の木だったよな?」

 タツは馬からおりて左から三本目の木に近づいた。木に手が入る穴があいていた。手を突っこんでみる。手が木の中に吸いこまれた。どこまで行っても突きあたりがない。

「うわあーっ!」

 腰まで木に飲まれた。

「タツ!」

 アイーダとリンダが馬から飛びおりて駆け寄った。従者のネーデルとイングリッドも馬で走って来た。四人がかりでタツの足をつかんで木から引きもどした。

 タツは穴のあいた木を指さした。

「ふう。びっくりした。木の中に広場が見えたよ。広場の向こうにとんでもなく太い木のみきがあった」

 イングリッドが穴のあいた木とタツを交互に見た。

「つまりその木は幻術なのか?」

「たぶんそうです。その木は通路なのでしょう。木のうろに入ればそこがエルフの里だと思います」

「どうしてそんなことがわかったんだ?」

 タツは思案した。リンダの夢のことを話すか? だがそれだと毎夜リンダと関係を持っているのがバレる。それはまずいのでは?

「夢のお告げですよ」

 ウソはついてない。リンダの夢だと言ってないだけだ。

 イングリッドが信じていいのかという半信半疑な顔をした。

「わかった。そうしておこう。いまはエルフの里に行くのが先決だ」

 タツを先頭に四人で木のうろに飛びこんだ。

 広場におり立つと周囲の木の上に家が建っているのがわかった。エルフの住まいなのだろう。木々の上にいくつも家が乗っていた。

 家々からエルフたちが顔を出した。おどろいている者。怖がっている者。怒っている者。さまざまな顔があった。

 一番大きな家から剣を持ったエルフが飛びおりて来た。

「お前たちは人間だな? どうやってここに来た?」

 エルフは女だった。胸が大きい。耳が長かった。

 イングリッドが口を切った。

「ああ。わたしたちは人間だ。木のうろを通って来た。ほかに質問はないか?」

「どうしてわたしの幻術が見やぶられたんだ?」

「夢に教えてもらった」

「夢だと? わたしをバカにしてるのか?」

「本当のことだ。信じないならそれでもいい」

「さっさと出て行け。出て行かないなら力づくで追い出す」

 ふふふとイングリッドが笑った。

「わたしたちは魔王軍を倒すために戦ってる。ここに来たのも手を貸してもらいたいからだ。ちなみにわたしはイングリッドという。あなたの名は?」

 エルフがしぶしぶという顔で口をひらいた。

「シェルズマイラだ」

「ふむ。シェルズマイラ殿。いま魔王軍を討たなければあなた方エルフにも未来はない。そうではないか?」

 シェルズマイラが黙った。

「ふっ。図星だったらしいな。わたしたち人間でもここに来れた。魔王軍もときをおかずしてやって来るだろう。特にルーシールーは幻影使いだ。同じ系統の魔法ならやぶられるのも時間の問題だな。ちがうかね?」

 シェルズマイラの顔が苦しそうだ。

「何がほしいの? あなたたちは?」

 シェルズマイラの口調が変わった。強がるのを放棄したらしい。

「幻術のやぶり方を教えてほしい。聖都に行きたいのだが幻術にはばまれてたどり着けないんでね」

「残念だけどわたしではルーシールーの幻術はやぶれないわ。魔法はそれぞれが独自なの。ルーシールーの魔法陣を解析しないとルーシールーの魔法は解けないのよ。ルーシールーは町ひとつをつつむ幻術をかける。魔法陣はその中心にあるはずよ。だからその魔法陣をしらべることはできないの」

「そうか。わかった。それなら仕方がない。別の方法を考えよう」

「いいえ。もうひとつ方法はあるの。でもそれもむずかしいわ」

「どんな方法だ?」

「わたしたちの里に伝わる神剣があるの。それを使えば幻術はやぶれる。でもその剣は三本ないと幻術をくだくことはできないわ。いまあるのは一本だけなの。残りの二本はどこにあるのかわからない。ついて来て」

 シェルズマイラが木の上につづくハシゴを指さした。のぼれということらしい。ハシゴの先には家がある。

 イングリッドを先頭にハシゴをのぼった。家の中は素朴な造りだった。机とタンスと寝台があった。家の一番奥に剣が木の台にかざられていた。

 それを見てリンダがアッと声をあげた。リンダがタツの耳にささやいた。

「あの剣よ。あれが水の底に沈んでたの」

 シェルズマイラが眉を寄せてリンダを見た。

「この剣がどうかしたの? これは月のつるぎって言うんだけど?」

 リンダが口をとがらせた。

「その剣が水に沈んでたのよ。澄んだ水の底にね」

「はあ? どういうことよ? この剣はずっとここにあるんだけど?」

 タツが口をはさんだ。

「三本あるって言ってただろ? 残りの二本のうちの一本が水に沈んでるんじゃないかな? 澄んだ水に心あたりがないか?」

「澄んだ水? 清めの泉ならあるけど?」

「そこに案内してもらえないか?」

 シェルズマイラが先に立って里の奥に足を踏み入れた。こんこんと水の湧く泉があった。澄んだ水だが底が見えないほど深い。底まで十メートル以上ありそうだとタツは見た。タツでは底まではもぐれないだろう。

 イングリッドがアイーダとタツとリンダとネーデルの顔を見た。

 アイーダが手をあげた。

「あたしがやってみよう。これでもおよぎは得意だからな」

 アイーダが服をぬいで泉に飛びこんだ。裸身が青い水にゆらいだ。とんでもなく深い。アイーダの裸体が小さくなった。ほとんど見えない。

 底でアイーダが反転した。頭がすこしずつ大きくなって来た。プハーッとアイーダが水面で大きく息を吸った。右手を水上に突きあげた。手に剣がにぎられていた。

 シェルズマイラが目を見はった。

「まあっ! 太陽のつるぎだわ! そんなところにあったのね!」

 タツとリンダがアイーダを泉から引きあげた。アイーダが剣をシェルズマイラにわたして服を着た。

 シェルズマイラがリンダの顔をまじまじと見た。

「あなたは予言の巫女なの?」

 リンダがうろたえた。

「いえ。あたしは花屋の四女なんだけど」

「そう。でもあなたが見たんでしょう? この太陽のつるぎは五百年前から行方不明になってたのよ。すごい才能だわね」

 リンダが照れた。

「いやー。それほどでもぉ」

「あ。ひょっとしてわたしの幻術を見やぶったのもあなた?」 

 リンダが目を見はった。

 ふふふとシェルズマイラが笑った。やっぱりという笑顔だった。

 家にもどった。シェルズマイラが二本の剣を床にならべた。

「幻術の中で三本の神剣の剣先を合わせると幻術がやぶれるの。残り一本は星のつるぎって言うんだけどね。どこにあるかはわからない。この二本の剣をあげてもいいわ。あなたたちなら星のつるぎも探し出せるでしょう。でもひとつたのみがあるの」

 イングリッドが身を乗り出した。

「なんだね?」

「わたしたちは長寿なの。長老のわたしはこれで千二百歳よ。でも長寿のせいで繁殖力が弱いの。いまエルフの里に男がいないわ。最後の男が死んで二百年になるの。あなたたちの男でいいわ。子ダネがほしいのよ。長老のわたしでまずこころみてちょうだい」

 イングリッドとアイーダとリンダがタツに顔を向けた。

「おっ? 俺? 俺かよ?」

 リンダがにらむ。

「あんた以外に誰がいるのよ? ひと晩に三人の女を二回ずつ満足させられる男じゃない。子ダネ製造器でしょあんた?」

「そう言われるとそうだが。ネーデルも男だぞ?」

 イングリッドとアイーダとリンダがネーデルを見た。

 ネーデルが両手をふりまわした。

「私は聖職者ですから子ダネだけのためにそういう行為はできません」

 リンダがやれやれと肩をすくめた。

「普通はそうだよねえ。見さかいのないのはタツだけだわ」

「見さかいがなくて悪かったな」

 毎晩しぼり取りやがるくせにとタツは苦い顔をした。

 まあ仕方がないとあきらめた。

 そのときふと思い出してシェルズマイラの髪の毛を見た。リンダは腰まである黒髪の女と結合している夢を見たと言っていた。シェルズマイラは赤い毛で肩までしかなかった。そりゃそうかと思った。腰まである黒髪なんてめずらしい女はそうそういない。シャンプーやリンスのある現代日本ですらそんな女は見たことがない。まして髪の手入れがむずかしいこの世界ではなおさらめずらしいはずだ。

 タツはシェルズマイラに近寄った。するとシェルズマイラがひるんだ。タツが手をのばす。シェルズマイラが身を引く。千二百歳だと言っていたが十代の処女みたいなおびえ方だった。そういう行為をしたことがないのでは?

 タツは深く踏みこんでシェルズマイラの肩を抱いた。今度は逃げなかった。だが全身がカチンコチンだ。たたけば音がしそうなほど硬直している。

 タツはシェルズマイラの手にさわった。

「ひええっ!」

 シェルズマイラがちぢみあがった。服から露出している肌に鳥肌が立っていた。

 タツはこりゃだめだと思った。イングリッドに顔を向けた。 

「師団長。この人あなたの領分ですよ。おそらく男がだめな人です」

 うなずいてイングリッドがシェルズマイラに歩を進めた。イングリッドは右目に眼帯をした長身の女だ。某少女歌劇団の男役みたいな雰囲気を発散している。身のこなしはキビキビとしてきまじめで禁欲的な印象をあたえる。軍人ということもあるのだろうが生来のものという気もする。軍服もあいまってある種の女にとってはたまらなく魅力的なはずだ。

 イングリッドが肩を抱くとシェルズマイラが頬をポッと赤く染めた。イングリッドがシェルズマイラの耳に口を寄せる。何やらささやいた。シェルズマイラの顔がトロトロにとろけた。

 イングリッドがシェルズマイラをお姫さまだっこして寝台に横たえた。何やらささやいてはキスをする。キスをしては何やらささやく。そのたびにシェルズマイラの口からあまい吐息がもれた。

「あんっ」

 イングリッドがくちづけながらシェルズマイラの服を一枚ずつはいで行く。同時に自分の服もぬいだ。ふたつの白い女体が正面からからみ合う。キスをしながら身体の前面と前面をふれ合わせるだけだ。なのにシェルズマイラの声が大きくなった。

「やっ。ああんっ。んっ。おうっ。はおっ」

 イングリッドの白くて細い指がシェルズマイラの裸体を這う。白磁の光沢を持つ肌に汗がにじんだ。シェルズマイラの吐息が目に見えるように荒くとぎれる。足のつま先がのけぞってイングリッドの指を渇望した。イングリッドがシェルズマイラの望みどおりに指を送りこむ。シェルズマイラの裸身がその指に踊らされるように跳ねる。

「くふうんっ。はんっ。あはあっ。あんっ。んふっ。くはっ」

 イングリッドがシェルズマイラを裏返した。うつぶせにしたシェルズマイラの背に胸をあてて全身を重ねる。イングリッドの前面とシェルズマイラの背面がピタリと密着した。イングリッドの指がシェルズマイラの太ももの側面を這う。腰・わき腹・あばら・わきの下と側面を指が往復した。

「あっはんっ。はうっ。あううっ。んふんっ。ああーんっ。んんっ」

 イングリッドの手がアイーダとリンダをまねいた。シェルズマイラの右腕と左腕をそれぞれ受け持てと。アイーダとリンダが全裸になって寝台に寄る。アイーダがシェルズマイラの右の腕を浮かせた。指先からわきの下まで舌を這わせる。リンダは左腕だ。イングリッドはうなじから耳へ舐めあげた。

「ああんっ。なにこれっ。こんなの知らないっ。こんなのはじめてよぉ。やあんっ。わたし溶けちゃうぅ」

 四つのまっ白な女体が寝台でからまった。下敷きにされているシェルズマイラの腰がヒクヒクとのたうつ。イングリッドの手がシェルズマイラの浮かせた前面にもぐりこむ。アイーダとリンダがしつように手の指までを舐めつくす。シェルズマイラの手の指がアイーダとリンダの舌にこたえるかのようにふるえた。

「ひゃあんっ。そんなとこぉ。はうんっ。やだあっ。きゃっ。だめよぉ。あうっ。はおおっ」

 イングリッドがシェルズマイラをあおむけに返した。シェルズマイラにのしかかってキスをする。アイーダとリンダがシェルズマイラの足をそれぞれ持ちあげる。足の指の一本一本を口にふくむ。シェルズマイラの息が絶え絶えになる。

「やーんっ。ひんっ。だめぇ。んっ。そんなのだめよぉ。あふんっ。やんっ。ああーんっ」

 イングリッドがアイーダとリンダに顔まで来いと手で呼び寄せる。イングリッドがシェルズマイラのくちびるを舌先でくすぐる。アイーダとリンダがエルフの長い耳を左右からしゃぶりあげる。

「やだっ。そこはだめぇ。そこをふたりで攻めないでぇ。あんっ。もうだめっ。わたしっ。わたしっ。わたしっ」

 イングリッドの手がタツをまねいた。いまだと。

 タツはあわてて服をぬいだ。イングリッドに組み敷かれているシェルズマイラと結合する。

「はあーんっ。これもだめぇ。そんなのってないぃ。ああーんっ。だめよぉ。だめなのよぉ。あああああーっ!」

 イングリッドがシェルズマイラとキスをする。アイーダとリンダがシェルズマイラの耳を舐めつくす。シェルズマイラの終了に合わせてタツも終わる。

 シェルズマイラがぐったりと脱力した。アイーダとリンダが左右からタツをつついた。

「あたしにもおねがい」

 タツはアイーダからかかろうとした。そのタツの手をイングリッドがつかんだ。

「たまにはわたしも男を所望する」

 あんたもかと思いつつタツはイングリッドと結合した。すぐにイングリッドが盛りあがってタツも自身を解放した。リンダがタツにとろけるまなざしを向けた。

「早くぅ」

 アイーダが先にリンダに行けと手をふった。タツは苦笑しながらリンダと結合した。同時に終わるとアイーダに手をつかまれた。アイーダもあっと言う間に終わりをつげた。タツはこれで最後だろうなと首をかしげながら終わりをアイーダに打ちこんだ。

 さすがに疲れたなと思いつつネーデルに目を向けた。聖職者には刺激が強すぎたのかネーデルはズボンの中に終わらせていた。だがまだ臨戦態勢のままだった。

 タツはネーデルに歩み寄った。ネーデルのズボンと下着をずらせる。

「なっ? 何をするんですか?」

「子ダネをほしがってる女に子ダネをあたえる。それもまた神の御心では?」

 タツはネーデルをシェルズマイラに押し出した。ネーデルがシェルズマイラに結合した。シェルズマイラが下からネーデルを抱きしめた。ネーデルが終了した。シェルズマイラも腰をふるわせて完了した。

 すべてが終わった。寝台でシェルズマイラが半身を起こして下腹にいつくしむように手をあてた。

「できてるとうれしいわ。でも人間ってすごいわねえ。エルフ同士じゃあんなのにならないわよ? 人間っていつもあんなの?」

 イングリッドとアイーダとリンダがタツに顔を向けた。イングリッドが首を横にふった。

「こいつだけだ。この男はとんでもないスケベだと聞いてる。二千五百人以上いる娼婦の全員と結合したという話だ。この男の影響でわが軍の女たちは濃厚なエロ女になってる。わたしの愛人ふたりも感化されてわたしは毎晩苦労してる」

 タツは頭をかいた。さすがに全員の娼婦と結合はしてない。千人ほどだ。

 リンダがタツに寄って来た。

「あのねタツ。もう一本の剣は王子さまが持ってたわよ。さっきので夢を見たの」

 イングリッドがリンダの顔を見た。

「王子さま? ウージール王子か?」

 リンダがうなずいた。

「ええ。その王子さまよ」

 イングリッドが服を着た。女の顔をすてて師団長の顔になる。

「王子に会いに行くぞ」

 タツたちも服をつけてシェルズマイラの家を出た。

 タツは先頭を行くイングリッドに疑問をぶつけた。

「最初シェルズマイラに何かささやいてたでしょう? あれは何をささやいてたんです?」

 イングリッドが足をとめずに答えを返した。

「好きだとか可愛いだとかだ。女はそういうのが大切だぞ。恋人には会うたびに愛してると言ってやれよ。とかく男は言葉たらずでいかんからな」 

 タツはハッと目からウロコが落ちた。タツは恋人がいない。そのために好きだとも愛してるとも言ったことがない。監督からもそう言えという指示は受けなかった。そうか。普通の男女はまず好きだとか愛してるとか言ってからそういう行為をするのか。

 タツは反省した。俺は好きでもないし愛してもない女たちと結合していたと。思春期の男がこれでいいのかと愕然とした。

 木のうろから出ると王子をさがした。イングリッドが王子にふたふりの剣を見せた。

「王子。この剣と似た剣に見おぼえがありますか?」

「うん? その剣? たしか王宮の宝物庫で見たような気がする。ほしいの?」

「はい。ぜひ必要です」

「わかった。じゃ早馬で取り寄せよう」

 星のつるぎがとどくまですることがなかった。ツンツーランの森の広場に天幕を張ってスケルトン対策の訓練がはじまった。

 それと同時に伝染病が発生した。七日熱という病気で発熱と発疹が七日つづくそうだ。症状はそれだけで七日がすぎるとたいていは快方に向かう。現代日本でいうハシカみたいなものかとタツは思った。

 魔法部隊の三人がまず発病した。次にタツの部下の十一人が発症した。それからネーデルも罹患した。魔法部隊が王都から持ちこんだらしい。伝染病だというので発症者全員が隔離された。チケルドブールの町の外に建てた傷病者天幕にだ。隔離期間は全快のあと二週間ということだった。

 一方でエルフの里に男を派遣することになった。タツは部下から二百五十名をえらんだ。エルフたちは五十人いた。うち六人は男がだめな女だった。シェルズマイラにやったように女たちが盛りあげて最後だけ男にまかせればいい。そう決まった。とにかく妊娠させなければエルフに未来はない。せっせと子作りにはげんでもらおうとだ。

 エルフの里には人間の女もひとりいた。セシリアという女だった。シェルズマイラがセシリアをタツたちの前に押し出した。

「魔王軍が攻めて来る前に沼で倒れてたのよ。沼地の瘴気にあたったんだと思うわ。ずっと寝た切りだったんだけど最近やっと回復したの。連れてってあげてよ。治癒術が使えるから役に立つと思うわ」

 セシリアは二十歳代で暗い顔をした女だった。髪の毛は黒いが短髪だった。治癒術が使えるということで魔法部隊に属することになった。トゥードールとテオが積極的に世話をやいた。そのかいあって笑いも出はじめた。

 そうこうしているうちに星のつるぎがとどいた。たしかに太陽のつるぎや月のつるぎとそっくりだった。三ふりの剣は神剣というだけあって切れ味もするどそうだった。

 イングリッドが太陽のつるぎをタツに持たせた。月のつるぎと星のつるぎはアイーダとリンダにだ。

 いざ聖都へ進撃だという段になって道案内がいないと気づいた。従者のネーデルが七日熱で隔離されたからだ。道案内は必要だというのでノルディクト大法王が先頭集団に呼ばれた。

 馬に乗って先頭まで来た大法王にセシリアが目を見はった。

「お義兄さん!」

 大法王もおどろいた顔になった。

「セシリア!」

 セシリアと大法王がにらみ合う。仲がいいとは思えないふたりだった。

 イングリッドが大法王を先頭に立ててアイーダ・タツ・リンダとつづかせた。行軍がはじまった。森の中を五万強の兵が進む。

 霧が深くなりはじめたときリンダがセシリアの馬に馬をならばせた。

「セシリアってさ。大法王の妹なの?」

「お姉ちゃんの旦那さんだったのよ。あたしの兄じゃないわ」

「義理のお兄さんってことね。あ。それじゃセシリアのお姉さんってキャサリンさん?」

「あら。よく知ってるわね? どうして?」

「大法王の従者のネーデルに聞いたのよ」

「ネーデル? ああ。会ったことがあるわ。見習い僧だった人ね?」

「いまは司教になってるわよ。病気で隔離中だけどね。セシリアは沼地で倒れてたって聞いたけどさ。自殺したお姉さんを捜してたの?」

「お姉ちゃんは自殺なんかしない!」

 突然の大声に大法王がふり向いた。馬をセシリアたちの横にならばせた。

「セシリア。キャサリンは自殺したんじゃ。まちがいない」

「ウソよ! お姉ちゃんが自殺なんかするはずない!」

「じゃどうして行方不明なんじゃ?」

「お姉ちゃんが死んだとしたら自殺じゃない! 誰かに殺されたのよ!」

 大法王の目がハッと大きくひらかれた。

「誰に殺されたんじゃ?」

 セシリアがひるんだ。

「そ。それはわからないわ。でも殺されて沼に沈められたんじゃないかって」

 リンダが口をはさんだ。

「なるほど。それで沼の中を捜してたのね。お姉さんの遺体がないかと。そのせいで瘴気を吸いこんで倒れた?」

「ええ。そうなの。気がついたらエルフの里でお世話になってたわ」

 話をしているあいだに立て札が見えて来た。右が聖都で左はツンツーランの森と書かれている立て札が。

 深い霧の中をイングリッドが先頭まで馬を進めて来た。

「話はそれくらいにしろ。そろそろ用心が必要だ。気を引きしめて進むぞ」

 ふたたび大法王を先頭にして立て札を通りすぎた。

 霧がますます深くなった。

 霧にかすんで赤いふたつの光が見えた。近づくとスケルトンがあらわれた。

 アイーダとタツとリンダが腰の剣をぬく。三本の剣の先を合わせた。

 とたんにまばゆい光が剣の先から放たれた。まぶしくて何も見えない。

 目が見えるようになったときスケルトンは消えていた。幻影だったらしい。

 タツはホッと胸をなでおろした。スケルトンが実物だったら目の見えないあいだに斬り殺されていたかもしれない。この剣で幻影をはらうときは片目をつぶるべきだと思った。

 大法王の道案内で深い霧を裂いて進んだ。

 沼と森をぬけた。霧が風に流されると聖都が見えた。聖都の門はしまっていた。また内部からあけなきゃならないのかとタツはあやぶんだ。

 そのとき門があきはじめた。二枚の扉が中心からひらく観音びらきの門だった。

「オーホッホッホッ! あたしの幻術をやぶるとはなかなかやるわね。ウスタール王国の兵士たちよ。歓迎してあげるわ。入ってらっしゃい」

 タツは馬の足をとめた。

「罠か?」

 アイーダがタツの背を押した。

「罠でも行くしかないさ。なあにスケルトンが二万体だ。たいしたことはない」

「それもそうか」

 タツは馬を進ませた。

 聖都の門に入ると道の左右に建物がならんでいた。だが人の姿がない。

 町の中心は高い丘になっていて壮麗な教会が頂点に見えた。

 大法王が教会を指さした。

「あれがわが神聖教会じゃ。帰って来たぞ。わが家に」

 そこに人影が建物の中から出て来た。ボロボロの服に緑の顔色の人間だ。いや死人と言うべきか。ゾンビだった。素手だがゾロゾロと出て来た。数え切れないほど出て来て通りがゾンビで埋まった。

「オーホッホッホッ! 聖都民あげての歓迎よ。楽しんでってね。ウスタール王国の兵士たちよ」

 大法王の眉間にしわがきざまれた。

「くそぉ! 二十万人の聖都民をみな殺しにしてゾンビにしおったな! ルーシールーのやつめ! ゆるさんぞ!」

 ゾンビの向こうには剣をふりあげたスケルトン軍団も見えた。

 タツはアイーダをふり返った。

「二十万のゾンビに二万のスケルトンだ。逃げたほうがよくないか?」

 アイーダが思案した。

「たしかに不利だな。何かいい手があればいいが」

 大法王がタツとアイーダの顔を見た。

「ルーシールーを倒せばよい。ルーシールーを倒せばゾンビもスケルトンも動かなくなるじゃろう」

 アイーダがうなずいた。

「ふむ。だがルーシールーがどこにいるのかわかるのか?」

「わかる。おそらく神聖教会のバルコニーにおるじゃろう。バルコニーからはここがよく見える。高みの見物をするにはもってこいの場所じゃ」

「しかしそのバルコニーまでどうやって行くんだ? 二十万のゾンビに二万のスケルトンだぞ? 道を斬りひらけないだろう?」

「わしの頭の金の輪っかは結界の魔道具じゃ。この輪っかをつけておると低位の魔物は近寄れん。また魔物の目にも見えんのじゃ。わしと手をつないだ者にもその結界が波及する。結界のおよぶ範囲はわしを入れて六人じゃがな」

「つまりその六人でルーシールーを倒しに行くと?」

「それしか手はないじゃろうさ」

「たしかにそうかもしれない」

 言っているあいだにゾンビ軍団が押し寄せた。ゾンビたちは武器を持ってないが力が強かった。素手でなぐる。かみつく。引き倒す。

 ウスタール軍が反撃して大混戦になった。

「メーンッ!」

「どうーっ!」

「つきーっ!」

 タツも馬上からゾンビを斬った。だがあとからあとから押し寄せる。

 大法王が馬をおりた。ゾンビが大法王をさけた。金の輪っかの効力はたしからしい。

「お前らも早く馬をすてよ! ここから先は馬が役に立たん!」

 アイーダが馬から飛びおりて大法王と手をつないだ。大法王とアイーダをよけてゾンビが通りすぎて行く。タツもアイーダと手をつなぐ。リンダ・テオ・セシリアと手をつなぎ合った。その他の部下たちは大混戦に飲まれてどこに誰がいるのやらわからない。道はゾンビの大奔流だ。

 大法王を先頭に二十万のゾンビの群れを突っ切りはじめた。大法王が進むにつれてゾンビたちが道をあける。二万のスケルトンも左右にわかれて通してくれた。

 タツは感心した。

「便利な輪っかだな」

 リンダが賛同した。

「あたしもほしい」

 大法王が顔をふり向けた。

「神聖教会の至宝じゃからこれひとつしかないぞ。はるか昔に作られたそうじゃ。いまでは誰も作り方がわからん」

 リンダが肩を落とした。

「そうなんだ。残念」

 スケルトンの団体をぬけると道が階段になった。大法王がアイーダの手を離した。タツたちもそれぞれつないでいた手をひらいた。

 六人が石段をのぼる。無人の聖都をひたすら進むと神聖教会の前に出た。

 見あげるとはるか上にバルコニーの床の裏が見えた。

「神聖教会とは言うがヤマルフィス神聖国の王宮と言ってもよい。そこいらの教会とは大きさが段ちがいじゃ。まよわずついて来るがよいぞ」

 大法王が神聖教会に踏みこんだ。やはり無人だった。

 石段をあがってなおもあがって行くとバルコニーに出た。バルコニーのはしにガイコツの馬に乗った女と黒いローブとフードのうしろ姿が見えた。ガイコツの馬に乗った女は黒革の半ズボンに上着だった。上着はみじかくて前にまわればへそが見えるはずだ。髪の毛は金色の短髪だった。あれがルーシールーだろう。

 タツは大法王を見た。

「ルーシールーのとなりにいるローブは誰だ?」

「わしは知らん。ヤマルフィス神聖国で新たに作った死霊じゃないかね? 聖都に来たときルーシールーは側近も連れずにひとりきりじゃったぞ?」

 話し声に気づいたのか馬上のルーシールーがふり向いた。

「えっ? どうしてお前らがここにいる? 二十万のゾンビと二万のスケルトンがいたはずだぞ? どうやってあのゾンビとスケルトンの群れをかわしたんだよ?」

 ルーシールーは普通の女の顔をしていた。ガイコツの馬に乗ってなければすこし変わった服装の女として見のがしただろう。となりのローブ姿もこちらを向いた。ローブははおっているだけでローブの下が見えた。全裸の女だった。顔はフードで隠されて見えない。体型は抜群だと言ってよかった。ふくよかな胸にキュッとくびれた腰。妖艶な下半身が男心をさそっていた。

 アイーダが月のつるぎをぬいた。

「そんなことはどうでもいいだろう。お前を殺してヤマルフィス神聖国を解放させてもらう」

「オーホッホッホッ! やれるものならやってみな! ほらナルホース! 敵はあっちだよ!」

 ガイコツの馬が馬首をクルリとタツたちに向けた。ガイコツの馬にもナルホースという名をあたえているらしい。馬上のルーシールーも剣をぬいた。

「キャサリン! あんたは魔法攻撃だよ!」

 キャサリン? タツはその名に聞きおぼえがあった。だが誰かは思い出せない。

 大法王とセシリアもキャサリンの名に身体がビクッと反応した。それでタツは思い出した。大法王の行方不明になった奥さんがキャサリンだったと。

 ルーシールーのとなりの黒ローブの女が右手を持ちあげた。聞き取れるか聞き取れないかという音量でブツブツとつぶやいた。

「ゆるさない。うらんでやる。ファイアーボール」

 キャサリンの右手から火の玉がタツめがけて飛んで来た。魔法部隊の放つ火の玉より大きい。バスケットボールくらいの火の玉だった。タツはしゃがんでよけた。火の玉はタツの頭上を通りすぎて壁に激突して消えた。

 リンダがキャサリンに突進した。

「つきーっ!」

 リンダの星のつるぎがキャサリンの胸に突き立った。だが血が出ない。キャサリンが両手でリンダを突き飛ばした。リンダがぼうぜんと尻もちをついた。

 ルーシールーが高笑いをあげた。

「オーホッホッホッ! キャサリンはあたしの最高傑作よ! そんな剣で倒せるわけないじゃない!」

 アイーダが月のつるぎでルーシールーに斬りかかった。

「キャサリンはゾンビなのか!」

 ルーシールーが馬上からアイーダの剣をキンッととめた。

「ふふふ。ゾンビ? そんな低俗なものじゃないわ。あたしが作った最高の死霊よ。ゾンビの元じめみたいなものね。キャサリンは肉を持つ死霊なの。ゾンビみたいに腐ってないのよ。男とだってできちゃうんだから」

 ルーシールーが左手をアイーダに持ちあげた。ルーシールーの左手から火の玉が飛ぶ。至近距離からのファイアーボールにアイーダがのけぞった。ルーシールーのファイアーボールは野球のボール大だった。

 ルーシールーがアイーダに剣で追い打ちをかけた。アイーダがバク転で剣をよけた。

 タツはルーシールーに走った。キャサリンが右手をタツにのばした。

「のろってやる。死ね。ファイアーボール」

 バスケットボール大の火の玉がタツを襲う。タツは右に身をかわした。

 タツのうしろから来たテオが火の玉をよけながら右手をキャサリンに向けた。

「地獄の業火よっ! 冥界のともし火よっ! わが手に燃えろっ! ファイアーボールッ!」

 テオの手から野球のボール大のファイアーボールがキャサリンに飛んだ。火の玉がキャサリンの裸の腹にあたってフッと消えた。

「オーホッホッホッ! キャサリンはあたしの最高の死霊だって言ったでしょ? そんなしょぼい魔法が効くものですか」

 ルーシールーが左手をリンダに向けた。起きあがってルーシールーに向かっていたリンダにスノーボールが飛んだ。スノーボールも野球のボール大の氷のかたまりだった。

「メーンッ!」

 リンダがスノーボールをまっぷたつにたたき斬った。スノーボールはふたつにわかれてしばらく飛んでから消えた。

「何よこれぇ。あたしの剣がぁ」

 タツが見るとリンダの星のつるぎが氷でおおわれていた。スノーボールはあたったものを凍らせるらしい。ファイアーボールは燃えあがる。スノーボールは氷づけだ。どちらもあたるとうれしくないようだ。

 タツはルーシールーに斬りつけた。ルーシールーが右手の剣で受けた。ガキンッと剣と剣がはじき合った。ルーシールーの愛馬ナルホースが跳ねあがった。ルーシールーがナルホースの落下する力も足した剣をタツにふりおろした。タツは頭上でルーシールーの剣をとめた。ギンッと剣と剣が火花を飛ばした。タツは全力でとめた。だがルーシールーの剣がとまり切らなかった。ルーシールーの剣がタツの肩を裂いた。血がドプッと流れた。

「オーホッホッホッ! いい色ねえ。あたしのものになるんならあんたの命は助けたげるわ。坊や名前は?」

「タツだ! 誰がお前のものになんかなるか! メーンッ!」

 肩の痛みをこらえてルーシールーに斬りかかった。ルーシールーがヒョイとよけた。タツの剣はナルホースの骨と骨のあいだをすりぬけた。

 アイーダがルーシールーの背後からルーシールーの背中を狙った。

「どうーっ!」

 ルーシールーが左のてのひらをうしろに向けた。火の玉がアイーダに飛ぶ。アイーダが顔を右にずらせて火の玉をよけた。アイーダの剣が力をうしなってヘロヘロとおよいだ。

 リンダがルーシールーの横から斬りかかった。

「メーンッ!」

 ルーシールーが剣を合わせた。キンッとリンダの星のつるぎをはじきあげた。跳ね返った反動のままルーシールーがリンダに剣をふった。リンダもはじかれた剣をそのまま上段からふりおろした。ルーシールーの剣とリンダの剣が激突し合った。おたがいにはじかれてはまたふった。キンキンキンと剣と剣がしのぎを競う。

 そのすきにタツはルーシールーの頭を狙った。

「メーンッ!」

 ルーシールーが頭を前に移動させてタツの太陽のつるぎをよけた。

 キャサリンがタツめがけて魔法を使う。

「このうらみ忘れない。死ねばいい。ファイアーボール」

 バスケットボール大の火の玉がタツの眼前に飛んで来る。タツはしゃがんでよけた。

 テオが右手をルーシールーにかざした。

「地獄の業火よっ! 冥界のともし火よっ! わが手に燃えろっ! ファイアーボールッ!」

 テオの火の玉をルーシールーが左手ではらい落とした。火の玉は石の床に落ちてフッとかき消えた。

 アイーダがルーシールーの愛馬のナルホースを狙った。

「メーンッ!」

 アイーダの月のつるぎがナルホースの頭部をまっぷたつに斬った。ナルホースの頭が左右にわかれて床にカランカランと乾いた音を立てて落ちた。だがナルホースは頭部がなくなってもルーシールーを乗せて動いていた。

「オーホッホッホッ! スケルトンは頭がなくても問題はないわよ! むだな努力はやめることね!」

 アイーダが反省した。そうだった。スケルトンは下半身を斬らなきゃだめだったんだと。

 リンダが斬り合いでみだれた息をととのえてふたたびルーシールーに斬りつけた。

「どうーっ!」

 ルーシールーがリンダの剣を跳ねあげた。すきのできたリンダの胴をルーシールーが横にはらう。リンダはうしろに飛びのいた。だがルーシールーの剣先がリンダの革ヨロイを切り裂いた。血がリンダの腹から流れた。

 キャサリンが右手をタツに向けた。

「殺す。死になさい。ファイアーボール」

 タツの胴体めがけて火の玉が来た。ルーシールーに斬りかかろうとしていたタツは虚を突かれた。あわててよける。火の玉がわき腹をかすめた。革のヨロイが燃えあがった。タツは必死で手ではたいて火を消す。

「オーホッホッホッ! あたしは男好きでね! 女の相手はしたくないのよ! あんたがあたしの相手をしなさいタツ!」

 ルーシールーがタツに上段から斬りかかった。

「いやだね! 俺は女に飢えてない!」

 タツはルーシールーの剣を右に受け流して剣をルーシールーにたたきこむ。

「メーンッ!」

 ルーシールーが上体をふって剣をよけた。ルーシールーの左手がタツに向く。スノーボールがタツの目の前にせまった。タツは首をすくめた。スノーボールが頭をかすめた。タツの髪の毛がカチンコチンに凍った。

 テオがルーシールーに魔法を放つ。

「地獄の業火よっ! 冥界のともし火よっ! わが手に燃えろっ! ファイアーボールッ!」

 ルーシールーが左手を火の玉に向けた。ルーシールーの火の玉とテオの火の玉が空中で衝突した。炎が大きく燃えあがってフッと消えた。

 アイーダが今度こそとナルホースの前足に斬りつけた。

「どうーっ!」

 ナルホースの前足の太ももの骨を一刀両断した。ガクッとナルホースが前のめりに倒れた。ルーシールーが前に投げ出された。

「きいいいっ! やったわねっ! もうゆるさないっ! 覚悟なさいっ!」

 ルーシールーがアイーダに上段から斬りかかった。アイーダが頭の上に来た剣をガキッと受けとめた。ギリギリギリと女ふたりの剣が押し合った。どちらもひるまない。

 その間にリンダがルーシールーの背後から剣をふりおろした。

「メーンッ!」

 ルーシールーが左手をリンダの星のつるぎに向けた。スノーボールがリンダの剣を氷のかたまりに変えた。リンダの剣がルーシールーの肩に落ちた。だが斬れなかった。氷のかたまりが打撃をあたえただけだった。ルーシールーがグラッとゆらいだ。ルーシールーの剣から力がぬけた。アイーダは剣をふり切った。アイーダの剣がルーシールーの胸を斬った。黒革の服が裂けて血がドシュッと出た。豊かな胸が服の裂け目からのぞいた。

 見ていた大法王が声をあげた。

「おおっ!」

 セシリアが大法王を横目でにらんだ。このスケベ親父と。

 ルーシールーがアイーダに剣をふりおろした。

「痛いじゃないよっ! この売女っ!」

 ルーシールーの剣がアイーダの胸の谷間を斬った。革ヨロイが裂けて血がにじんだ。

「売女はお前だっ! この淫魔がっ!」

 アイーダが仕返しとばかりにルーシールーの胴を斬る。ルーシールーのへそに横一線の傷が走った。血がパッと腹から噴き出した。

 タツはルーシールーに剣をふりあげた。キャサリンがタツに狙いをつけた。

「ゆるすものか。のろい殺す。ファイアーボール」

 タツに火の玉がせまる。タツは火の玉を斬った。

「メーンッ!」

 火の玉はふたつにわかれて飛び去った。そのときにタツの左右の腕を燃やした。

「お兄さまっ!」

 テオがタツの両腕の炎を手ではたき消した。

「大丈夫かテオ?」

「大丈夫です」

 言いながらもテオが顔をしかめた。両手をやけどしたらしい。

「無茶するなよテオ」

「お兄さまのためなら無茶じゃありません。愛してますわお兄さま」

 どさくさにまぎれてテオが告白した。テオの頬がポッと赤くなった。

 アイーダがルーシールーの頭を斬ろうと剣をふりかざした。

「メーンッ!」

 ルーシールーの防御が一瞬おくれた。ルーシールーの頭に必殺の一撃が入る。そうアイーダが思った。その瞬間ルーシールーの頭が左にずれた。愛馬ナルホースがうしろ足でルーシールーの足を蹴っていた。ルーシールーがガクッとくずおれてアイーダの剣があたらなかった。

「くそっ! このガイコツ馬がっ! どうーっ!」

 アイーダがナルホースのうしろ足の骨も斬りくだいた。

 リンダが苦労して剣から氷を落として横からルーシールーに斬りかかった。持ち直したルーシールーがリンダの剣をガシッととめた。リンダが剣を上段にふりあげてルーシールーに斬りつける。

「メーンッ!」

 ルーシールーがリンダの剣を受け流して左手をリンダに向けた。火の玉がリンダの顔に近接する。リンダが目を見ひらいた。首を左に逃がした。火の玉がリンダの頬をかすめた。

「熱いっ!」

 ルーシールーがひるんだリンダに剣をふりおろした。リンダが剣を持ちあげるのが遅れた。ルーシールーの剣が顔にせまった。リンダが首を右にかたむけた。ルーシールーの剣が肩から胸を斬り裂いた。血がパシュッと噴き出した。リンダが石の床にひざをついた。ルーシールーがリンダにとどめを刺すべく剣をふりかざした。

「リンダッ!」

 アイーダがルーシールーの背後から斬った。

「ちっ!」

 ルーシールーがふり向いてアイーダの剣をむかえ撃つ。アイーダの剣をとめながらルーシールーの左手がアイーダに向けられた。至近距離からアイーダに火の玉を放った。アイーダがのけぞった。そこを狙ってルーシールーが剣を横なぐりにふった。首をうしろにそらせたアイーダはルーシールーの剣がよけ切れなかった。アイーダの腹が横一線に裂かれた。

 斬られた革のヨロイからアイーダの白い肌がのぞいた。腹の肉がパックリと裂けて血しぶきがパッと散った。痛みにアイーダが身体をふたつに折った。ルーシールーが無防備になったアイーダの後頭部めがけて剣をふりおろした。

「アイーダッ!」

 タツは剣をさしのばしてルーシールーの剣に合わせた。アイーダの頭のぎりぎりでルーシールーの剣がとまった。

「オーホッホッホッ! なんだい? 邪魔をするのかいタツ? この女はお前の情婦かい?」

「そうだ! アイーダは俺の女だ!」

 いきおいでそう叫んでいた。リンダとテオがかなしげな顔になった。そこにキャサリンがタツの背中に向けて呪文をとなえた。

「うらむわ。死んでちょうだい。ファイアーボール」

 バスケットボール大の火の玉がタツの背中に飛ぶ。タツはルーシールーの剣を跳ねあげて身体を半回転させた。火の玉がタツの胸をかすめて飛び去った。タツの革ヨロイに火がついた。タツは左手で火をもみ消した。ルーシールーがそのすきをついてファイアーボールを放つ。

 火の玉がタツの顔に飛んで来た。タツは顔を右にかしげて火の玉をよけた。すかさずルーシールーが上段からタツに斬りこんだ。タツはさらに右に上体をかたむけた。ルーシールーの剣がタツの左肩に食いこんだ。血がドパッとあふれた。タツはかたむく身体を立て直せず右に転がった。左肩から血を流しながらゴロゴロと石の床を転がる。

 ルーシールーがとどめを刺そうとタツのあとを追う。そのルーシールーの足をとめようとテオが右手をあげた。

「地獄の業火よっ! 冥界のともし火よっ! わが手に燃えろっ! ファイアーボールッ!」

 ルーシールーが足をとめて火の玉を斬り裂いた。火の玉はふたつにわかれて宙に消えた。

「オーホッホッホッ! うるさい小娘だね! 先にお前を始末しようか!」

 ルーシールーが剣をふりあげてテオに走った。テオは剣を持ってない。テオが逃げる。タツは肩の痛みをこらえてルーシールーを背後から追った。ルーシールーの背中に斬りつけた。ドシュッと返り血がタツの顔にかかった。

「ギャウンッ! やったわねっ!」

 ルーシールーがふり返ってタツに剣をあげた。ルーシールーのふりおろす剣をタツは下から斬りあげた。ガキンッと剣と剣が組み合わさった。グギギギと剣と剣が押し引きをした。本来は男のタツのほうが力が強い。だが左肩の痛みで全力が出せない。タツの顔の前にルーシールーの剣がせまった。

「タツーッ! メーンッ!」

 アイーダがルーシールーの後頭部めがけて剣をふりおろした。

「ちっ!」

 ルーシールーがタツを斬るのをあきらめてアイーダと剣を合わせた。ガギッグギッギンッゴンッと無骨に剣と剣がはじき合う。アイーダは腹を切られていて華麗に剣を合わせるとはいかなかった。必死で泥くさく応戦する。

 タツはそのあいだにテオに寄った。テオの耳にささやく。

「テオ。俺がルーシールーに斬りかかる。そこを狙って俺の背中にファイアーボールを撃ってくれ」

「ええ? そんなのできません。お兄さまが火ダルマになります」

「いいんだ。やってくれ。また相手をしてやるからさ」

「えっ? それ本当?」

「本当だ。たっぷり可愛がってやる。だから俺の背中にファイアーボールをぶつけろ」

「は。はい。わかりましたわ。お兄さま」

 その話し合いのさなかにキャサリンがタツを狙った。

「のろうわ。死ぬのよ。ファイアーボール」

 バスケットボール大の火の玉がタツとテオを襲う。タツはハッとまよった。俺がよければテオにあたる。斬るか? 

 まよっているあいだに火の玉がタツに接近した。

「うわあっ!」

 よけられないっ! そう思った。

 そのとき剣が火の玉をふたつに斬った。火の玉がわかれてタツとテオの左右に飛び去った。リンダだった。リンダが胸の痛みに耐えて剣をふっていた。リンダが左手の親指を立てた。

「行きなさいっ! タツ!」

 タツはうなずいてルーシールーに走った。アイーダと斬り合っているルーシールーの背後から剣をふりおろした。

「メーンッ!」

「くそっ!」

 ルーシールーがふり向いた。タツの剣をルーシールーが顔の前でふせいだ。剣と剣が合わさった。そこでルーシールーの目が赤い光をやどした。ルーシールーの赤い目を見てタツの脳裏をカタリナの裸身が横切った。どういうことかはわからない。だがむしょうに裸のカタリナに会いたくなった。

「地獄の業火よっ! 冥界のともし火よっ! わが手に燃えろっ! ファイアーボールッ!」

 テオの呪文が聞こえてタツはハッとした。カタリナを想っている場合じゃない。そう気を取り直した。一の二の三と数えた。大きく右に飛んで背中を火の玉から逃がした。

 ルーシールーの目がカッと見ひらいた。タツが飛びのいたことでテオのファイアーボールが見えた。火の玉はすでにルーシールーの至近距離まで来ていた。ルーシールーの胸に火の玉が接近した。ルーシールーがあわててよけようとした。だがよけ切れなかった。火の玉がルーシールーの胸を直撃した。黒革の上衣が燃えあがった。

「きゃあっ! 熱いぃ!」

 上半身を炎につつまれたルーシールーが左手を持ちあげた。ファイアーボールを飛ばす。タツは首を左にかしげて火の玉をよけた。

 アイーダがルーシールーの背後から斬りかかった。

「メーンッ!」

 ルーシールーがゆらいで剣がルーシールーの背中をばっさりと斬った。

「ウギャッ!」

 リンダがルーシールーの背に走り寄った。

「つきーっ!」

 ルーシールーの背中にリンダの星のつるぎが突き刺さった

「ひぐぅっ!」

 タツは燃えるルーシールーの正面から剣を腰だめにした。

「これで最後だルーシールー! つきーっ!」

「ぐあああああーっ!」

 ルーシールーの胸の中心にタツの剣が吸いこまれた。炎がタツの顔をあぶった。熱い。だが言ってられなかった。タツはさらに剣を奥まで突きこんだ。

 炎の中からルーシールーが叫んだ。 

「なんであたしの誘惑が効かないんだあ! お前は同性愛者かあ!」

 タツは苦笑した。目を見ると男は言いなりになるとムーンドロウは言っていた。あの赤い目がそれだったのだろう。誘惑は効いた。カタリナの裸身が浮かんだものな。だがタツは毎晩三人の女に合計六回しぼり取られている。誘惑されたとてその気にはならない。むしろもうたくさんだと思うほどだ。女に飢えている男だと効果てきめんにちがいないが。

 ルーシールーがガクッとひざを折った。石の床にうつぶせに倒れた。炎が全身にまわった。

「ああああぁぁぁぁ。消える。あたしが消える。消えてなくなるぅ」

 ルーシールーが燃えつきて行った。ガイコツになって最後は灰と化した。風がルーシールーの灰をはこび去った。

「うわーっ! 助けてくれぇ!」

 男の叫び声が聞こえてタツはふり返った。大法王の髪の毛に火がついていた。ルーシールーが最後に飛ばしたファイアーボールが頭をかすめたらしい。となりにいたセシリアが大法王の頭を手ではたいた。二度三度四度とはたく。大法王の頭をかざっていた金の輪っかが跳ね飛んだ。火が消えた。

「見つけたっ! あなたっ! 見つけたわよっ!」

 キャサリンがとつぜん大きなはっきりとした声を出した。それまではボソボソとした聞こえるか聞こえないかという声だったのにだ。

 足取りも力強くなった。キャサリンが大法王に足を進めた。

 そのキャサリンのうしろからアイーダとリンダが剣を刺した。

「つきーっ!」

「つきーっ!」

 二本の剣がキャサリンの背中に刺さった。だが血は出なかった。キャサリンの歩みもとまらない。剣が刺さろうが痛みもかゆみも感じないらしい。

「あなたはわたしを十人の男たちに陵辱させた。でもわたしは離婚に応じなかった。あなたは次に毒を盛った。わたしの自慢の長い黒髪はぬけ落ちたわ」

 大法王の目は大きく見ひらいていた。

「くっ! 来るなっ! 来るんじゃないっ!」

 大法王が逃げ出した。

 テオがキャサリンの背後から呪文をとなえた。

「地獄の業火よっ! 冥界のともし火よっ! わが手に燃えろっ! ファイアーボールッ!」

 火の玉がキャサリンの背中を直撃した。黒のローブが燃えあがった。

「やった!」

 テオがこぶしをにぎり固めた。しかしキャサリンは炎につつまれながらも大法王に歩みをつめて行く。

 キャサリンの黒のローブが燃えつきた。全裸のキャサリンがあらわれた。腰までとどく黒髪が風に吹かれてサラサラとゆれた。

 セシリアが叫んだ。

「お姉ちゃんっ!」

 キャサリンが大法王にせまる。

「それでもわたしが離婚しないのであなたはわたしをくびり殺した。死んだわたしを壁の中に塗りこめて行方不明になったと言いふらした。そんなにあの女と結婚したかったの? それほどあの女がよかったのかしら?」

 大法王が足をもつれさせて尻もちをついた。

「ご。誤解じゃ。わしは大法王の椅子がほしかっただけじゃ。キャサリン。お前を愛してる。お前だけを愛してるんじゃ」

「ホホホホホ。どうだか。あなたはウソつきだもの。わたしはあなたに殺された無念を忘れてないわ。あなたはほかの女を抱くためにわたしを殺したのよ。あなたはわたしだけのもの。ほかの女にはわたさない」

 キャサリンが白く優雅な手をのばした。大法王がその手からのがれようといざって逃げる。キャサリンが一歩また一歩と大法王につめ寄る。

 大法王がバルコニーのはしに追いつめられた。バルコニーの手すりに背中をこすりつけて立ちあがった。キャサリンのまっ白い背に腰まである長い黒髪がサラリとなびいている。

 キャサリンの細いきゃしゃな手が大法王の首にのばされた。

「寄るなっ! 寄るんじゃないっ! やめろーっ!」

 大法王がキャサリンの手から遠ざかろうとのけぞった。バルコニーの手すりを上半身が越えた。大法王がバランスをくずした。頭からバルコニーの手すりを乗り越えて落下する。

「うわああああああーっ!」

 最初の大声が小さく糸を引いて最後に消えた。ドンッという地響きが伝わって来た。

 タツはハッとわれに返った。剣をふりかざして背後からキャサリンに斬りかかった。剣がキャサリンの首を切った。だが切り痕はきざまれたが血は出なかった。キャサリンがへいぜんとした顔でタツにふり返った。

 そのときバルコニーから下が見えた。大法王の法衣が地面に広がっていた。大法王の頭のあたりに大量の血だまりができていた。あれでは生きてないだろうと思った。聖都の門付近では二十万のゾンビとウスタール軍が戦闘をつづけていた。スケルトンは一体もいなくなっていた。

 タツはさらにキャサリンに斬りつけようと剣をふりあげた。

「やめてっ! お姉ちゃんを斬らないでっ!」

 走って来たセシリアがキャサリンの前で両手を広げてキャサリンをかばった。キャサリンの目が焦点をセシリアに合わせた。

「セ……シ……リ……ア……」

「お姉ちゃんっ! あたしがわかるのっ!」

 セシリアがキャサリンに首をふり向けた。キャサリンの顔に表情があらわれた。

「セシ……リア……? わたしは……どうした……の? ここは……ど……こ?」

「お姉ちゃんっ!」

 セシリアが身体を半回転させてキャサリンに抱きついた。キャサリンもセシリアを抱き返した。

 アイーダが剣をふりあげてセシリアの背中にせまった。

「セシリアッ! そこをどきなさいっ!」

「あぶない! セシリア!」

 今度はキャサリンがセシリアをうしろにかばってアイーダと向き合った。アイーダがキャサリンを袈裟がけに斬った。キャサリンの胸から腹へななめに一文字の斬り傷が走る。だがやはり血が出ない。痛みも感じないみたいだ。

 そこでタツの背中をリンダがつついた。

「ありゃだめよ。ねえタツ。あたしの見た夢をおぼえてる?」

 タツは目をおよがせた。おぼえていた。

「あ? あれとかよ? あれは死霊だぞ?」

「でも夢ではあれと結合してたわよ? あれ斬っても突いても倒せないんだもの。あんたがあれを満足させて成仏させるんじゃないかしら?」

 タツはうなった。

「ううむ。お前ら本当に俺をなんだと思ってるんだ?」

「下半身のみの男? 女を見たらそういうことしかしない男? それから」

「もういい。わかったよ。やってみよう」

 タツはしぶしぶキャサリンに近寄った。さてどうするか? タツは剣をおさめて思案した。キャサリンはうらみを晴らしてスッキリしたのか攻撃して来ない。とまどった顔をしていた。自分がどうしてこんなところにいるのかわからないらしい。

 タツはとりあえずくちづけてみた。

「あんっ」

 キャサリンが鼻声を出した。いけるかもと手ごたえを感じた。キスをつづけながらキャサリンの腕をさわった。

「ああんっ。やだっ。わたし人妻なのっ。こまるわっ。やんっ」

 普通の女の反応だった。キャサリンの背後にいるセシリアが目を見はって言葉をなくした。タツは全裸になった。キャサリンの目がタツの一部分に釘づけで離れない。死霊になっても女は女なのかとタツは思った。タツはキャサリンの前面に舌を這わせた。

「やだあっ。わたしは人妻よぉ。そんなことしちゃだめぇ。ああーんっ。はんっ。やーんっ」

 バルコニーから見おろすとゾンビとウスタール軍の戦闘がつづいていた。タツは首をかしげた。ルーシールーは灰になった。どうしてゾンビはまだ動きつづけているのか? ルーシールーが死んでもあのゾンビたちは自立しているのだろうか? よくわからないがキャサリンに時間をかけている場合ではなさそうだった。タツはキャサリンと結合した。

「あっ。こらっ。わたしは人妻なのぉ。そんなことしちゃだめぇ。あんっ。はあんっ」

 タツはキャサリンを抱きしめてキスをした。キャサリンが逃げずにうっとりと目をとじた。死霊だと忘れそうになる反応だった。タツはアイーダとリンダとテオを手まねきした。ここに来て手伝えと。すぐに三人が全裸になってキャサリンの全身に舌を這わせた。

「ひゃんっ。やんっ。わたしは人妻だってばぁ。こんなのこまるぅ。やだっ。はううっ」

 タツはぼうぜんとしているセシリアも指で引き寄せた。お前も参加しろと。セシリアがためらったあげく服をぬいだ。セシリアがキャサリンの背面に抱きついた。うしろからキャサリンにキスをした。

「お姉ちゃん」

「ああんっ。セシリアまでぇ。ああっ。たまらないぃ。そこっ。そこよぉ。あああああーっ」

 タツはキャサリンの終了に合わせて自身を終わらせた。あまい吐息をまき散らしていたキャサリンの身体がぼやけはじめた。

 タツは身体を離した。四人の女たちもキャサリンから一歩身を引いた。

 キャサリンの肉が消えて行く。白骨が見えた。立っていたガイコツがカラカラと音を立ててくずれ落ちた。骨が粉になって風に持ち去られて行く。キャサリンのいた痕跡がどこにもなくなった。満足して心残りが消えたためにこの世につなぎとめる力がうせたらしい。

 裸のテオがタツの裸身に足をからめた。

「お兄さま。あたしにも」

 タツはテオを押しのけた。

「そんなことをしてるひまは」

 そのときワーッという歓声が聖都の下から湧きあがって来た。声に目を向けるとすべてのゾンビたちが動きをとめていた。タツは首をかしげた。

 リンダがうしろからタツにくちづけた。

「キャサリンがあのゾンビたちを作ったんじゃないかしら? ルーシールーのファイアーボールはテオのと同じ大きさだったわ。でもキャサリンの火の玉は大きかった。キャサリンは魔力量も多かったんじゃないかしら?」

「そういえばルーシールーがキャサリンをゾンビの元じめだと言ってたな? ルーシールーの魔力量ではスケルトンを二万体作るのがやっとだった。だがキャサリンは二十万体のゾンビを作れた?」

「きっとそうね。だからキャサリンが消えるとゾンビたちも元の死体にもどった。つまり敵はいなくなったわけよ。そんなことをしてるひまができたってことね。そういうわけだからあたしにも」

 テオとリンダとアイーダがタツを抱きしめた。ややおくれてセシリアも参加した。おいおいお前もか? そう思いながらタツはテオと結合した。

「ああんっ。お兄さまぁ。あたししあわせですぅ。あーんっ。はああああああーっ」

 次はリンダだった。

「案外こざかしい女よねテオって。戦闘中に告白してたわよ? どう答えるの?」

 ううむと悩みながらタツはリンダと結合をとげた。テオは可愛いと思うが愛しているという感じではなかった。どう答えるべきなんだろう? 悩みつつリンダを追いこんだ。

「はあんっ。やだあっ。あんたうまくなってるぅ。なにこれぇ。どうしてこんなにぃ。やーんっ。ふあああああーんっ」

 毎晩しぼり取られてりゃリンダのあつかい方も上達するよな。そうタツは苦く思った。

 リンダの次はアイーダだ。腹の傷を刺激しないようにそっと一体化した。

「俺の女だって言ってくれてうれしかったわ。あっ。はっ。そこぉ。そこが好きぃ。好きよタツぅ。もっとぉ。もっとよぉ。ああーんっ。ふああああああーんっ」

 最後はセシリアだった。セシリアとははじめてでどうすればいいのかわからない。タツが考えているとセシリアが自分から結合して来た。積極的な女らしい。くちづけながら背中をなでまわしてやる。

「ひゃんっ。だめぇ。あたしはじめてなのにぃ。こんなのってないぃ。はじめてでこんなになっちゃうなんてぇ。あたし淫乱じゃないのぉ。あーんっ。あたしはスケベな女じゃなーいっ。やだっ。もうだめぇ。ひゃあああああああああーっ」

 セシリアの終わりに合わせてタツも終わった。男ひとりと女四人が大の字にあおむけに寝た。石の床が背中に冷たい。疲れて指一本動かせそうになかった。服を着るどころではない。吹きぬける風がほてった裸体に心地よかった。肩の傷もたいして痛まない。重傷ではないらしい。

 こうして聖都での戦いが終了した。勝利の宴とともにウスタール軍は二十万のゾンビの埋葬に追われた。聖都に生きている人間はひとりもいなかった。魔王軍ゆるすまじの機運が高まった。


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