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 第五章 激突の人狼軍

 翌日タツはイングリッド師団長に呼び出された。

「エリザベス皇女を戦場に置いておくわけにはいかんと決まった。皇女もまじえて話し合ったところウスタール王宮で保護してもらうことになった。皇女は護衛をつけて王都に送る。タツ。お前が護衛主任として王都に行ってくれんか?」

「俺がですか?」

「そうだ。ケガの養生をかねて王都で銀の武器の調達をしてほしいんだよ。戦費だがな。王が人狼軍の討伐書類に署名したとて今日明日に出るというものではない。そもそも予定の出費じゃないからな。予算をあれこれと調整して捻出するわけだ。へたをすりゃひと月くらいかかるだろう」

「それじゃ間に合わないでしょう? どうするんです?」

「いや。人狼軍がここソーンベルグの皇都に着くのがひと月後だというだけだ。われわれがウスタール王国に撤退すれば激突までの時間はかせげる。ふた月の時間はあるだろう」

「なるほど。その間に銀の武器を用意すればいい。そういうことですか?」

「そのとおりだ。わたしたちは根っからの軍人でな。戦うことはできるが武器の調達には素人だ。タツ。お前はそういうのに向いてそうだ。銀の武器を用意する調整役をやってくれるか?」

「わかりました。やれるかぎりやってみましょう」

「では王宮の兵站省に委任状を書いておく。ついでに訓練中の弓兵部隊・騎馬隊・魔法部隊の仕上がりも見て来てほしい。お前がやれそうだと思えば実戦に投入しよう」

 タツは天幕を出るとオードリーのもとに足を向けた。

「あら。タツ。きょうは昼間っから?」

「ちがう。オードリー。きみ王都にくわしいか?」

「生まれも育ちも王都だけど? それが?」

「エリザベス皇女を送って王都に行くことになった。きみに王都の案内役としてついて来てほしい。皇女の話相手もしてもらえるとありがたい」

「ええ。いいわよ。でもわたしは男爵の娘だわ。皇女さまとは格がちがうわよ? 声をかけてもらえるかしら?」

 そこのところはタツにはわからない。だがここにいる貴族の娘はオードリーひとりだった。オードリーでだめなら他は全員が平民だ。エリザベスのお気に召さないにちがいない。

 馬車を用意してエリザベスとオードリーを乗せた。タツは部下から腕の立つ者を二十名えらんで護衛とした。アイーダとリンダも行きたがった。だがふたりは隊長や副隊長として部下たちの訓練があるからやむなく留守番になった。

 王都までの旅のあいだ心配した事態は起きなかった。エリザベスは気さくな性格で誰にでも頭をさげてあいさつをした。オードリーとも仲よくなった。皇宮からほとんど出たことのないエリザベスにオードリーの話は新鮮だったらしい。

 ウスタール王国の王都はタツの想像以上に都会だった。王宮は豪華なお城がそびえていた。

 タツは責任者としてエリザベスを宰相に引き渡した。

 エリザベスがタツの手をにぎった。

「タツ。ありがとう。護衛のみなさんにもありがとうございますと伝えてくださいませ」

 次の仕事は銀の武器の調達だった。兵站省の門をイングリッドの委任状を持ってたずねた。担当者はフランクと名乗った。

「なるほど。人狼対策に銀の武器の調達ですか。現状では武器庫に百本ほどの銀の剣があるのみです」

「百本? とうてい足りませんよ?」

「ですが銀を買う予算がありません。こないだもホコ・弓矢・馬につぎこみましたからね。財務省が銀の武器用に戦費を出してくれるまでは無理ですよ。なにせ銀なんて人狼以外には必要のない金属ですからね。鉄なら在庫はあるんですが」

「では俺が銀を調達すれば武器に加工することはできますか?」

「それはできます。銀を持ちこんでくれれば工廠が剣やヤジリに仕上げてくれます」

 やはり自費で銀を調達する以外にないらしい。

 次にタツは武器屋に行った。

「銀の武器? そんなのねえよ。注文してくれりゃ作ることはできるがね。銀は持ちこみになるぜ。銀がどこで手に入るかって? 宝石屋に行ってみな。銀器や銀細工をあつかってるから銀も売ってるんじゃねえかい?」

 宝石屋に行ってみた。

「銀ですか? 銀器や銀細工ではなく? 売ってくれって言うのなら売りますけどね。高いですよ? いいんですか?」

 指輪ひとつで鉄剣が一本買える値段だった。タツの全財産をはたいても銀の剣が千本しか作れそうになかった。千本ではまるでたりないだろう。

 タツは考えて自宅にいるオードリーをたずねた。

 オルドリッジ男爵の屋敷は広かった。だが古ぼけてところどころにガタが来ていた。明らかにカネがない貴族の屋敷だった。

「オードリー。娼館を経営したいって言ってたろ? あてはあるのか?」

「ええ。軍の人事課は最初に王都の娼館から娼婦を集めたの。とうてい足りなくて一般に募集する羽目になったんだけどね。だから軍の人事課に行けば娼館の情報が手に入るわよ。わたしは左前になってる娼館を買い取るつもりなんだけど?」

「それいまやってもらえるか?」

「えっ? いまは無理よ。そこまでおカネが貯まってないもの」

「カネは俺が出す」

 タツは説明した。王都に高級娼館とホストクラブを作ってカネをふやそうと。

「なるほど。銀の武器を作るためにおカネが必要なのね。わかったわ。やってみましょう」

 軍の人事課の情報を元に娼館を二軒買い取った。一軒は高級娼館にした。もう一軒はホストクラブだ。この世界にはホストクラブがなかった。男娼も軍にしかいなかった。この世界の一般の女は男を買えないらしい。

 開店そうそうからどちらの店も繁盛した。特にホストクラブがうけた。男はタツの部下たちだ。五千人も部下がいるとホストに向いている男もよりどり見どりだった。そもそもが兵士なので用心棒にもなった。繁盛をよく思わない同業者がゴロツキを雇ったが簡単に撃退された。

 両店が軌道に乗ったのを見てタツはオードリーに声をかけた。

「オードリー。きみ。モデルをやってくれないか?」

「モデルってなに?」

 タツは説明した。タツは中学校の美術の授業で浮世絵を作らされたことがある。五枚の版木を彫刻刀でけずって色わけして刷った。本物の浮世絵には遠くおよばなかったがカラフルでそこそこの出来にはなった。

 つまりオードリーをモデルにしてエロ浮世絵を販売しようとたくらんだわけだ。高級娼館に通えない一般の男に安価な版画を提供しようとだった。おそらく薄利多売でそちらのほうがもうかるはずだと。

 オードリーがうなずいた。

「いいわよ。裸になるのは慣れてるわ」

 兵站省のフランクに相談するとこころよく引き受けてくれた。タツはフランクとふたりで絵師の調達から彫り師の手配に刷り師の育成までを手がけた。販売もフランクが兵站省の人員を使って売りさばいた。

 たいていの国でそうだがエロ画像は国家的取りしまりの対象にされる。おおっぴらにエロ浮世絵を売るにはいかなかったから夜に街角でこっそりと売られた。売り手が取りしまられても元じめが国家の兵站省だ。すぐに無罪放免された。

 こうして銀の武器を作る資金のめどが立った。

 タツはまた宝石屋をおとずれた。

「ええっ? 五万本の剣にする銀ですって? そりゃだめです。そんなに売れません」

「なぜだ? 売ってくれるって言ったじゃないか?」

「そうです。私だって売りたい。でも銀はそんなにないんです。私どもがかき集めても銀の剣が一万本ぶんあるかないかでしょうね」

 タツはガックリと肩を落とした。やっとカネができたと思ったら銀がそんなにないと来た。そこに店長が声をかけた。

「お客さん。造幣省へ行ってみればどうです?」

「造幣省?」

「そうです。銀貨を鋳造してるのは造幣省ですよ。銀を最もかかえてるのは造幣省だと思いますね。大量の銀がほしいのなら造幣省以外では無理でしょう」

 なるほどと納得してまた兵站省のフランクをたずねた。

「うちとはまるで関係ない役所ですが紹介状を書きましょう。会ってくれるかもしれません」

 タツは造幣省でフランクの紹介状をわたした。しばらく待たされたのち長官室に通された。造幣省の長官は女だった。スラリとした長身で仕事ができそうな印象だ。しかしオールドミスタイプで男に縁はなさそうに見えた。

 この国は男女差別がとぼしいらしい。軍にも男と女がほぼ同数だし兵站省にも女が多く働いていた。男尊女卑の国ではないようだ。

「はじめまして。わたしはスーザン・オルドリッジです。兵站省の方がどんなご用でしょう?」

「銀がほしいんです。五万本の剣を作る銀が」

「五万本?」

 スーザンが思案をはじめた。棚から書類の束を引き出してパラパラと目を通した。

「現在引き渡せる銀は一万本ぶんがやっとです。五万本ぶんだと採掘するのに半年は待ってもらわないと」

「それでは間に合いません。ではこうすればどうでしょう? 王国内に流通してる銀貨を回収して剣にすれば? 人狼軍戦が終わればまた銀貨に変えればいいでしょう?」

「バカな! そんなことをすれば銀貨が町から消えるじゃないですか! 国民生活が大混乱を起こします! とうていそんなことはできません!」

「でも長官。人狼軍に負ければこの国も占領されますよ? 一時の不便をきらって負けてもいいんですか?」

「戦争はわたしの管掌分野ではありません! わたしの仕事は国民経済を円滑にまわすことです! 銀貨をすべて引きあげるなんてできません! お帰りください!」

「けど長官」

「もう話すことはありません! 誰か! 誰かいませんか! お客さまがお帰りです!」

 声を聞きつけて男がふたり入室して来た。うむを言わさずタツの両腕をつかんで部屋から引き出した。

 造幣省の外に押し出されてタツは肩をすくめた。まいったなと。

 一万本ぶんの銀でいいからゆずってもらおうと再度面会をもとめたが拒否された。

 どうすればいいのかと頭をかかえた。ふと思い出してオードリーに会いに行った。

「ねえオードリー。きみの家はオルドリッジって言わなかったか?」

「そうだけど? それが?」

「きょうスーザン・オルドリッジって人と会ったんだ。きみの親戚かい?」

「伯母さんよ」

「つき合いはあるのか?」

「わたしの誕生日に贈り物を持ってあらわれるくらいよ。ほとんどつき合いはないわね」

「でも皆無よりはましか。そのスーザンと私的に会えないかな?」

「二日後がわたしの誕生日だから例年どおりならここに来るわよ」

「そのときに紹介してもらえないか?」

「いいけどね。どういうことなの?」

「きみの伯母さんは造幣省の長官なんだ。大量の銀を手に入れるにはきみの伯母さんを口説き落とさなきゃならないんだよ」

「なるほど。伯母さんが何の仕事をしてるかなんて知らなかったわ。そういうことなら協力するわよ」

 その二日後が来た。タツは二階のオードリーの部屋で待たされた。女の部屋に入るのははじめてだった。人形などの小物がかざってあった。大きな鏡もあった。寝台もある。だがすべてのものが古ぼけていた。新しいものはごくわずかだった。その中に宝石を入れる小箱もあった。推測するにそれがスーザンの贈り物ではないか?

 かなりの時間をタツは待った。階下で食事をしているらしい。タツはその席で紹介してもらえると思っていた。だがちがうようだ。

 日がとっぷりと暮れたころ戸をたたく音がした。

「どうぞ」

 オードリーの母が戸をあけた。つづいてオードリーの父とオードリーがぐったりとしたスーザンをはこんで来た。ふたりはスーザンを寝台に寝かせた。スーザンは寝息を立てていた。

 タツは首をかしげた。

「オードリー。これはどういうことなんだい?」

 オードリーが会心の笑顔を見せた。

「睡眠薬を盛ったのよ。こましちゃうんでしょう? これなら抵抗されないわよ?」

 タツは顔をしかめた。一万本ぶんの銀をゆずってもらう交渉をしたかっただけだった。

 オードリーの両親がごゆっくりとあいさつをして階下に消えた。

「きみの両親はちょっとずれてないか? 実の姉に睡眠薬を盛って男にさし出すなんて」

「いいのよ。伯母さんは男に縁がないの。タツにこましてもらえれば女としての自覚が生まれるわ。すくなくともわたしは幸せだった」

 タツはふたたび首をかしげた。男ぎらいの女だとそれは逆効果だぞと。

「縄はないか?」

「あるわよ。抵抗されないように縛るわけね」

 オードリーがタンスの引き出しから長いスカーフを取り出した。

 タツはスーザンの両手をうしろ手に縛って起きるのを待った。

「寝てるあいだにしちゃえば簡単なのに」

 タツは苦笑した。

「交渉するだけだよ。きみは俺をなんだと思ってるんだ?」

「何でも下半身で解決しちゃう男。そう思ってるわよ?」 

 タツはますます苦い顔になった。たしかにそうかもしれないと反省した。人生はエロとカネだ。その言葉がタツの指針となっているのはいなめない。

「伯母さんが起きるまでひまね。しちゃう?」

 タツが返事をする前にオードリーがくちづけて来た。

 オードリーとの一戦が終わるとスーザンが身じろぎをはじめた。

 タツが見守っているとスーザンの目があいた。すぐにジタバタと暴れはじめた。

「な? なにこれ? わたしどうして縛られてるの? あなたがわたしを陵辱したのね? ゆるさないわよ! 早くほどきなさい!」

「陵辱なんかしてない。縛ったのはあんたと交渉がしたいからだ。聞く耳を持たないみたいだからな」

「ゆるさない! ほどきなさいったらほどきなさい!」

 わめきながら足をバタバタと上下させた。寝台がギシギシときしんだ。

「足も縛ったほうがいいんじゃないかしら?」

 オードリーがさらにスカーフを取り出した。タツは蹴られないように用心しながら両足をくくりつけた。

「さるぐつわもする?」

 タツは苦笑いを浮かべた。

「それじゃ交渉にならないよ」

 すでに交渉にならなさそうだがそこは仕方がなかった。

 スーザンはわめきつづけた。タツはじっとスーザンが疲れるのを待った。スーザンは地味な服で女らしさはこれっぽっちも感じなかった。

 スーザンがやっと静かになった。

「一万本ぶんの銀だけでいいからゆずってくれないか?」

 スーザンが無言でタツをにらんだ。タツはなるほどと納得した。睡眠薬を飲まされて寝台に縛られて転がされている。これでおこらない女がいればそのほうが不思議だ。

 タツはどうすればいいのかと考えた。

 そのあいだにオードリーがスーザンの耳に口を近づけた。耳に息を吹きかける。

「ひゃんっ!」

 スーザンの全身が跳ねた。

 あららという顔でオードリーがスーザンのうなじに舌をつけた。

「あんっ。こら。オードリー。なにをするのよ?」

 オードリーが指でタツをまねいた。左半分を受け持てと。

 タツは迷った。その間にもオードリーの舌がスーザンの顔の右半分を這いまわる。

「やんっ。こら。ああんっ。だめぇ。あうっ。オードリー。はううっ。やっ。やめなさいぃ」

 やめろと言うがすでに吐息はあまくとろけていた。

 タツは仕方がないと覚悟を決めた。オードリーに合わせてスーザンの顔の左半分を舐めた。

「やーんっ。ふたりがかりは卑怯よぉ。だめだってばぁ。あーんっ。いやんっ」

 オードリーが足にかかった。靴をぬがせて靴下もはがした。スーザンの上半身で肌が露出しているのは首から上だけだった。手はうしろ手に縛られているから服をぬがせられない。

 オードリーが足を縛るスカーフをほどいてつま先に舌をつけた。

「きゃっ。くすぐったいっ」

 スーザンの足がジタバタとあばれた。タツは思った。スーザンはごく普通の女だなと。オードリーは足首から先しか感じなかった。

 タツは左足を受け持った。足の甲から太ももへと舐めあげる。オードリーも右足でタツと同じ部位を舐めて行く。

「はあんっ。やだっ。くふっ。いやーんっ。んくっ。だめぇ。あっはっ。いやよぉ。んふっ」

 足の前面を舐めあげたのでタツはスーザンを裏返した。そろそろいいかと思って両手を縛るスカーフをほどいた。スーザンの手は抵抗しなかった。

 タツとオードリーでスーザンの両足に口につけた。だがスーザンの反応がなくなった。

 オードリーが眉を寄せてタツを見た。どういうことよとその眉が訊いていた。

 タツにもわからない。しかしふいに思いついてふたたびスーザンの両手を縛りあげた。

「あっ。やだっ。縛らないでっ」

 タツとオードリーで再度スーザンの両足の裏を舐めあげる。

「ひいぃ。やっ。あんっ。ひゃっ。やーんっ。やだったらぁ。だめなのぉ。そこはだめぇ」

 オードリーがスーザンのスカートと下着をはぎ取った。結合しろとタツをけしかける。

 タツはスーザンの耳に口を寄せた。

「両手をはずそうか?」

 スーザンがタツのくちびるを求めた。

「はあんっ。ううん。縛ったままがいい。やだっ。はずかしいぃ。ああっ」

 タツはスーザンと舌をからめながら結合した。スーザンの舌がタツの口の中を這いまわった。

「はうっ。ひっ。あんっ。ああんっ。ああーんっ。ああーっ。ひっひっひぃ。ひいいいぃ」

 タツはスーザンに合わせておのれを解放した。

 終わってからスーザンの両手を縛ったスカーフをほどいた。スーザンの服をすべてぬがせた。寝台にすわらせたスーザンと正面からくちづけた。スーザンの舌がこたえた。

 オードリーとふたりであおむけにしたスーザンの全身を舐め回した。スーザンの息が荒く小きざみになった。スーザンの裸身に汗が浮く。スーザンの手がタツの手を引いた。してと。

「手を縛ろうか?」

 こくんとスーザンがうなずいた。うしろ手に拘束したスーザンをあおむけに寝かせた。タツは結合した。スーザンが全力でこたえた。タツはスーザンにくちづけながら終わりにした。

 手の拘束を解くと荒い息のままスーザンがタツに抱きついた。

「悪い人。あんな目に合わされたら何をたのまれてもことわれないじゃない。国中の銀貨を回収してあなたにあ・げ・る。だからまた今度おねがいね」

 スーザンが服を身につけた。

「オードリー。あなたすごい男をつかまえたわねえ。うらやましいわ」

 オードリーが悲しげな顔に変わった。

「いいえ。こいつ別の女の男なのよ。わたしのじゃないわ」

「まあ。あんなに息が合ってて? 恋人同士にしか見えなかったわよ?」

「あのう。ひょっとしてわたしたちがしてるときすでに起きてた?」

「となりでああいうことをされると目はあけられないわねえ」

「あちゃあ。はずかしい」

 服を着たスーザンは事務的だった。

「あした一万本ぶんの銀をゆずりわたす手つづきをするから造幣省の長官室まで来てちょうだい。兵站省の担当官といっしょにね。銀貨を回収するのは一週間ほどかかるわ。銀貨と交換する金貨と銅貨を大量に作らなきゃならないからね」

 スーザンが帰るとオードリーがタツに抱きついた。

「王都にいるあいだはわたしのものよ。きょうはわたしの誕生日なの。贈り物がわりに泊まってってね」

「贈り物なら用意してあるぞ」

 タツは宝石屋で買った銀の首かざりをオードリーの首にかけた。

「きゃあ! ありがとう! うれしいわ!」

 オードリーがタツに舌をからませた。

 翌日に手つづきはとどこおりなく終了した。

 タツはホッとした。これで五万人ぶんの銀の剣ができるだろう。

 タツは感謝の気持ちをこめてスーザンと一夜をともにした。スーザンは縛られると歓喜した。伯母と姪で嗜好は正反対だとタツは苦笑した。

 次にタツは弓兵部隊・騎馬隊・魔法部隊の視察に向かった。弓兵部隊は実戦で使えそうだった。だが騎馬隊・魔法部隊はまだまだの出来だった。特に騎馬隊はホコのあつかいがむずかしいらしかった。

 そのあとタツは宝石屋でありったけの銀を購入した。銀のヤジリを作って弓兵部隊に配備しようとだ。

 そのとき思い出して合いカギを作ってもらった。ムーンドロウの檻の合いカギだった。オーク戦が終わったのでムーンドロウからもう引き出す情報がない。そう判断してムーンドロウを殺そうとするかもしれない。四師団長は説得できてもモスランド男爵が独断でムーンドロウに刺客を派遣するのではないか? 

 タツはそういう懸念を抱いた。ムーンドロウが危険だと感じたらムーンドロウ自身がいつでも逃げられるようにしよう。そのためにムーンドロウに合いカギを持たせておこう。

 そんな意図だった。そのときにそなえて顔を隠すフードと特大のローブも購入した。剣もわたしておくべきだと思った。功労者が檻の中で暗殺されてはあわれすぎると。

 こうして五万人ぶんの銀の剣と二千人の弓兵部隊をひきいてタツは戦場へと旅立った。オードリーもついて来てタツから離れなかった。戦場に着くまではわたしのよと。

 兵站省のフランクの入れ知恵でタツはエロ浮世絵を五万人ぶん運んでいた。その昔の太平洋戦争のとき日本兵は恋人の下の毛をお守りに入れて戦ったという。エロは男にとっても女にとっても力になる。恋人の下の毛を持てない者たちにせめてエロ浮世絵を肌身離さず持たせてやりたいとだった。

 実物とエロ絵は別腹だ。兵士たちは男も女もエロ浮世絵をよろこんだ。娼婦や男娼を買ったあとでもエロ浮世絵を見て反芻していた。眠るときも絵をふところに入れて眠っていた。

 人狼軍との衝突はウスタール王国とソーンベルグ皇国の国境でだった。だだっ広い平原に二万匹の人狼軍と五万二千人のウスタール王国軍が展開した。

 人狼軍への突撃の直前に馬上のリンダから声をかけられた。

「オオカミに気をつけて」

「オオカミ?」

「そう。四つ足のオオカミよ。タツにオオカミの巨大な口がせまってたの。昨夜そんな夢を見たわ。タツに満足させてもらったときに」

 人狼軍は胴体が人間で顔が毛でおおわれた獣人ばかりだった。四つ足のオオカミはいなかった。馬に乗っている者もいない。人狼軍は全員が徒歩だ。

 タツは首をかしげながらもリンダの言葉を記憶にとどめた。これまでに二回リンダの夢は的中している。今度もあたるかもしれない。そう思った。

 そこでいっせい射撃の号令がかかった。

 人狼軍の二万匹が剣をふりかざして怒濤のごとく押し寄せる。その人狼軍めがけて二千人の弓兵部隊が銀の矢を放つ。

 人狼軍は回復力に自信があるせいか半袖のシャツを着ているだけだった。盾も持ってない。身体は筋肉がモリモリでいかにも強そうだった。

 その筋肉に銀の矢が突き立つ。しかし致命傷にはならなかった。筋肉がぶ厚すぎて矢が深くまで刺さらなかったせいだ。矢をぬいて二万匹が徒歩で突進して来る。

 そのとき突撃の命令が発せられた。弓兵部隊がうしろにさがる。

 アイーダとタツとリンダが五千の部下をひきいて戦場に出る。人狼一匹につきふたりないし三人で戦闘する指導が全師団に徹底されていた。

 すぐに大混戦に突入した。

「メーンッ!」

「どうーっ!」

 平原中にウスタール兵のかけ声が充満した。

「うおおおおーっ!」

 人狼たちも叫びをあげて応戦する。

 最初は力で人狼軍が押した。

 タツは部下たちに声を飛ばした。

「踏んばれっ! ここで踏みとどまらないと全滅だぞっ! 死ねば今夜女が抱けないぞっ!」

 兵士たちはふところにしのばせているエロ浮世絵を思い出した。実物より絵がエロい。写真集よりマンガがエロい。タツはそう感じていた。兵士たちも同じらしい。にわかに士気があがった。

「副隊長っ! あたしに女を抱く趣味はありませーんっ! 男に抱かれるに訂正してくださーいっ!」

 女の千人長が叫んだ。女兵士たちからドッと笑いが湧き起こった。

 その瞬間が転機だった。

「メーンッ!」

「どうーっ!」

 兵士たちの声がそろった。人狼の前後からふたりの兵が同時に斬りかかる。人狼たちが押されはじめた。一匹また一匹と人狼たちが倒れて行く。

「ちくしょうっ! 聞いてねえぞっ! こいつらみんな銀の剣を持ってやがるっ! こないだまで鉄の剣だったじゃねえかよっ!」

 傷がふさがらずに血まみれになって人狼たちが力つきた。鉄剣だからと安心していた油断が人狼たちを死に追いやっていた。斥候を出してオーク戦を偵察していたのだろう。

 人狼軍の最奥にひときわ背の高い人狼が見えた。

 戦闘が最奥に波及した。

 背の高い人狼の周辺でざわめきが起きた。

「王さまっ! わがほうの分が悪すぎますっ! ここは撤退したほうがっ!」

 背の高い人狼が剣を大きくふりあげた。

「うるさいっ! だまれっ! この腰ぬけがっ!」

 人狼王が側近を斬りすてた。ドシャッと血しぶきが噴きあがった。

「俺は逃げん! 逃げてたまるか! 俺ひとりでもこいつらを全滅させてやるわ!」

 うおおおおーんっと人狼王が吠えた。まさにおおかみの遠吠えだった。

 兵士たちが人狼たちを斬り倒して人狼王にせまった。

 人狼王が兵士たちを斬ってすてた。荒れくるう台風のように剣がうなる。たちまち人間の死体が平原に転がった。

 人狼王一匹でウスタール軍を圧倒しはじめた。

 タツは部下たちをさがらせた。タツとアイーダとリンダで人狼王の進路に馬を進めた。

 アイーダが剣をかざして人狼王と対峙した。

「あたしたちが相手だ。かかって来い」

 人狼王がせせら笑った。

「ほう。女が俺に勝てると思ってるのか? 身のほど知らずな!」

 人狼王が剣をふった。ブンッと風を切る音がした。アイーダが馬上で剣を受けとめた。

「女だとバカにするな! お前の剣などこれこのとおりだ!」

 アイーダが人狼王の剣を横に流す。強がったが受けた手がしびれた。力は確実に人狼王が強い。

「そうよ! 女の力を見せてやるわ! メーンッ!」

 馬上のリンダが斬りかかった。人狼王がよゆうでリンダの剣をとめた。

「ふふふ。たしかに女の力だ。こんな剣なら小指一本でとまるわ」

 人狼王がリンダの剣を跳ねあげた。無防備になったリンダの胴を剣ではらった。リンダが間一髪でのけぞった。リンダの革のヨロイを人狼王の剣先が切り裂いた。浅い。だが腹の肉が切れて血がタラッと流れた。

 タツは剣をふりかぶって馬を進めた。

「メーンッ!」

 人狼王がガキッとタツの剣を頭上で受けた。タツの剣が一番力強い。馬上からふりおろすぶん力が増している。人狼王の顔から笑みが消えた。今夜は新月だ。言い伝えでは人狼の力の落ちる時期にあたる。人間と同じ力しか出せないという話だ。

「なかなかやるじゃねえか。若造」

 人狼王の腕に力こぶが盛りあがった。ふんっと気合いをこめてタツの剣を押しのけた。その流れでタツに斬りつける。今度はタツがキンッと剣を合わせた。タツの顔の前で剣と剣が押し合った。ギギギギギときしんだ剣が悲鳴をあげた。人狼王がタツの剣を押し切った。タツはせまり来る剣を上体を横にずらせてかわした。

 アイーダが人狼王の背後から剣をふりおろした。

「メーンッ!」

 人狼王がふり向きざまにアイーダの剣をはじいてアイーダに斬りかかった。

「可愛い姉ちゃんよ。こんなとこで斬り合ってねえで男に抱かれてるほうが似合ってるぜ」

 アイーダが身をうしろに引いて剣をかわす。かわし切れなかった革のヨロイの胸がななめに裂けた。薄く肉を切られて血がたれた。

「よけいなお世話だ! どうーっ!」

 アイーダが人狼王に剣をはらった。人狼王がよゆうでアイーダの剣をとめた。

「おてんばな姉ちゃんだ。抱いてくれる男がいねえのかい?」

 リンダが人狼王に剣を放つ。

「抱いてくれる男なら星の数ほどいるわよ! メーンッ!」

 人狼王がアイーダの剣を跳ね返してリンダの剣を受けた。

「ほう。そいつはよかったな。抱かれすぎで腰がへろへろなのか」

 リンダの剣を力づくで跳ねのけてリンダに剣を突きこむ。リンダがとっさに顔を右にのがした。リンダの頬に剣先がかすった。血がツツーッとあごにたれた。

 タツは人狼王がアイーダとリンダをからかっているうちに深手をあたえようと剣をふりかざした。

「メーンッ!」

 人狼王がふり向いてタツの剣をはじいた。

「若造がこざかしいわっ!」

 タツの剣が横に流れるあいだに人狼王が剣をくり出す。タツはよろけながら人狼王の剣をかろうじてよけた。

「メーンッ!」

「メーンッ!」

 アイーダとリンダが息を合わせて人狼王の背後から斬りかかる。人狼王がヒョイとかわす。

「ほらほら。姉ちゃんたちよ。もっと腰を入れなきゃ俺は斬れんぞ」

 人狼王が剣を横にはらった。アイーダとリンダが力を合わせて剣をとめた。だがふたりがかりでも人狼王の剣がとまらない。

「きゃっ!」

 アイーダとリンダがなぎ倒された。斬られはしなかったがアイーダとリンダは馬から横向きに落ちた。たづなをにぎったままだ。

 タツは人狼王のうしろからわき腹を狙った。 

「どうーっ!」

 人狼王が剣でタツの剣をとめた。はじきあげてタツの胸に剣をすくいあげる。下から来る剣にタツがのけぞった。あごの先を剣がかすめた。血がピシュッと飛んだ。

 アイーダとリンダが馬によじのぼった。人狼王の左右から剣をはらう。

「どうーっ!」

「どうーっ!」

「おっと」

 はさみ討ちに人狼王がアイーダの剣を右手の剣でとめた。リンダの剣は左のてのひらで跳ねあげた。剣の腹をたたいたせいで血が出てない。

 タツは弱気が起きた。どうにも剣がとどかない。人狼王はよゆうに見える。どうすればあいつを斬れる? わからないまま剣をふりかぶった。

「メーンッ!」

 そのときタツの横からも声がした。

「メーンッ!」

「メーンッ!」

 イングリッド師団長とゲーブル師団長だった。三本の剣が正面と左右から同時にふりおろされた。さすがの人狼王もタツの剣をとめるのが精一杯だった。馬上のイングリッドとゲーブルの剣が左右の肩から背中を切り裂いた。血しぶきが左右にドパッと飛び散った。

「ぐぐっ!」

 傷を受けてタツと合わせた剣の力がゆるんだ。タツの剣が人狼王の頬を斬る。血が首へしたたった。

「遅れてすまんなタツ」

「加勢するぞタツ」

 イングリッドとゲーブルが剣についた血をふりはらった。

 アイーダとリンダが人狼王のうしろからふたたび左右のわき腹を狙った。

「どうーっ!」

「どうーっ!」

 人狼王がアイーダの剣に剣を合わせた。リンダの剣が人狼王のわき腹を斬った。血がブシュッと飛び跳ねた。

「うぬっ!」

 タツとイングリッドとゲーブルが剣をふりあげた。

「メーンッ!」

「メーンッ!」

「メーンッ!」

 人狼王がタツの剣を跳ねのけた。イングリッドの剣が左腕を裂いた。ゲーブルの剣が肩に食いこんだ。それぞれ血がダラリと湧いた。

「くそっ! 人間どもがっ!」

 さすがの人狼王も五対一ではよゆうがない。

「つきーっ!」

「つきーっ!」

 アイーダとリンダが人狼王の背中に剣を突きこんだ。二本の剣が背中に刺さった。血がドロッと剣につたった。

「ぐおっ! ちくしょうめがっ!」

 タツとイングリッドとゲーブルが剣をふりかぶった。

「メーンッ!」

「メーンッ!」

「メーンッ!」

 人狼王がタツの剣を顔の前でとめた。イングリッドの剣が肩を裂いた。血が地面に落ちた。ゲーブルの剣が腕の筋肉に切り目を入れた。血がひじにたれた。

 タツと人狼王の剣がかみ合う。ギリギリと剣と剣が押し引きをした。身体を切りきざまれた人狼王の力が弱まっていた。タツの剣がまさりそうになった。

 そのときだ。人狼王の鼻先がニューッとのびた。口のはしが見る見る裂けた。口が巨大にガバッとひらいた。口の上下に犬歯が長くのびた。オオカミの口がタツにせまった。

 これか。リンダの言っていたオオカミは。

 タツはあわてて剣をはずした。上下に大きくあいたオオカミの口がガキンッと合わさった。タツの革ヨロイの腹がかみちぎられた。腹の肉も食われて血がにじんだ。

「うおおおーんっ!」

 人狼王の顔が完全にオオカミの顔に変わった。次は手だった。人間の手だったものがオオカミの前足に変化した。人狼王の剣が地面に落ちた。胸がオオカミの胴になった。下半身も毛でおおわれた。

 シャツとズボンがスルリとぬげて大きなオオカミの四つ足を大地につけた。

「わおおおーんっ!」

 影響が出たのは馬だ。タツたちの乗っていた馬がいっせいに棒立ちになった。タツたち五人はふり落とされた。馬たちがオオカミから逃げ去った。

 オオカミが大口をあけてタツに飛びかかった。タツは剣でオオカミの鼻先を斬った。血が飛び散った。だがオオカミがひるまずタツの首にキバを立てようとせまった。

「タツーッ!」

 アイーダとリンダとイングリッドとゲーブルがオオカミの胴に剣をふりおろした。しかしオオカミの剛毛が剣をよせつけなかった。

 タツはオオカミの前足を両手でつかんでうしろに転がった。足でオオカミの腹を蹴りあげた。はからずもトモエ投げになった。オオカミがタツの上で前転した。そのままクルッと回転して四つ足が大地をつかんだ。

「メーンッ!」

 イングリッドがオオカミの顔に斬りつけた。   

「ガウウッ!」

 オオカミがイングリッドの剣をかいくぐってイングリッドに飛んだ。オオカミの口がイングリッドのわき腹に食いこんだ。

「ぐわっ!」

 革のヨロイごとわき腹の肉が食いちぎられた。血がドッと噴き出た。イングリッドがくずおれた。

 ゲーブルがオオカミの頭に剣を上段からふりおろした。

「メーンッ!」

 オオカミが顔を左にふってゲーブルの剣をかわした。そのままゲーブルに飛びつく。

「ガオオッ!」

 オオカミがゲーブルの太ももにキバを立てた。ゲーブルが太ももを深くかみ裂かれた。血がドドッとあふれた。ゲーブルがガクッとひざを折って地面に両手をついた。

 アイーダが剣を横になぎはらった。

「どうーっ!」

 オオカミの口がアイーダの剣をガキッとかみとめた。刃をくわえたままオオカミが顔をふった。アイーダの剣がアイーダの手を離れた。オオカミが剣をペッと吐きすててアイーダに飛びかかった。

「ガウウウッ!」

 アイーダが反射的に手を前に突き出した。オオカミのキバがアイーダのその腕をたてに裂いた。手首の上からひじまでを切り裂かれた。血しぶきがズシュッと舞った。

「アイーダッ!」

 リンダがオオカミの頭めがけて剣をふりおろした。オオカミが左にステップを踏んで剣をかわした。オオカミがリンダの首に大口をあけて飛びついた。リンダが右に首をそらした。オオカミの大口がリンダの肩にガキンッとかみ合わさった。

「うわっ!」

 革のヨロイと肩の肉がかみちぎられた。血がジワッとにじんだ。

「ガウッ! ガオオオッ!」

 オオカミが起きあがって剣をひろったタツの首に飛びかかった。

「くっ!」

 タツは剣でふせごうとした。だが間に合わない。タツはうしろに転げてオオカミをやりすごそうとした。だがオオカミがうしろに転倒するタツの首を狙ってタツの上に乗った。

 あおむけに寝たタツの首にオオカミの大口がせまった。タツは剣を手放した。両手でオオカミの首をつかんだ。その間にもオオカミの口が首に近づく。タツは渾身の力でオオカミの首を押した。しかしオオカミの口がタツの首に接近した。ジリジリジリとオオカミとタツの力くらべがつづいた。じょじょにタツが押された。上に乗るオオカミのよだれがタツののどにたれた。首にキバがふれた。力負けしそうになった。

 そのときだ。

 ヒュンッ! 風切り音とともにオオカミの右目に銀の矢が突き立った。

「ギャウンッ!」

 オオカミがひるんだ。タツはオオカミを押しのけた。剣をつかんだ。オオカミの顔めがけてふりおろした。

「グギャッ!」

 オオカミの鼻面が大きく裂けた。血がドプッとこぼれた。

 イングリッドがわき腹の痛みに歯を食いしばって立った。オオカミの顔に剣をふりおろした。

「この野郎っ! メーンッ!」

 オオカミの左目を剣が切り裂いた。

「グオッ!」

 オオカミがヨタヨタとよろけた。

 ゲーブルが血のしたたる太ももをこらえて大地を踏みしめた。ゲーブルが剣を上段から斬り落とした。

「メーンッ!」

 オオカミの顔をななめに剣が一閃した。

「ギャンッ!」

 アイーダとリンダが左右からオオカミの顔を斬りつけた。

「メーンッ!」

「メーンッ!」 

「ガギャッ!」

 オオカミの鼻がちぎれた。ひたいが割れた。

 よたつくオオカミの首の下にタツが剣を入れた。下段から剣をすくいあげた。

「グギャーッ!」

 タツの剣がオオカミののどをかき切った。血がドドッと噴き出した。

 ドタンッ! オオカミが地響きを立てて横倒しになった。のばされた四肢がヒクヒクとけいれんした。

 アイーダとリンダがオオカミの首を剣でつらぬいて確実にとどめを刺した。

 イングリッドとゲーブルが左右からオオカミの首を切り離した。オオカミの首を持ちあげた。

「人狼王を討ち取ったぞぉ! ウスタール軍の勝ちだぁ!」

「おおーっ!」

 戦場中がワーッという歓声に埋めつくされた。生き残っていた人狼たちが次々とほうむられた。

 オークのムーンドロウは徒歩で戦場に来ていた。フードとローブで顔と身体を隠してだ。途中で女兵士が人狼に斬り殺されそうになっていた。ムーンドロウは腰の剣で人狼を斬り伏せた。女兵士が立ち去るムーンドロウの背に声を投げた。

「ありがとうっ!」

 ムーンドロウはふり返らずに手を持ちあげてヒラヒラとふった。どういたしましてとだ。

 戦場の奥まで進んだときだった。巨大なオオカミの姿が見えた。オオカミは人間の上に乗っていた。下に組み敷かれていたのはタツだった。いまにもオオカミにのど笛を食いやぶられそうだった。

「兄貴が危ねえっ! 貸せっ!」

 ムーンドロウは弓兵の弓と矢をぶん取った。狙いをつけた。銀の矢を射た。矢は狙いどおりオオカミの右目に突き刺さった。

 オオカミの首が切り落とされたときムーンドロウはため息を吐いた。

「ふう。よかったでやす。兄貴が助かって。兄貴が死んだらアネさん方が相手をしてくれやせんからなあ。おおっと。こうしちゃおれねえ。檻にもどらねえと」

 ムーンドロウは弓兵に弓と矢を押しつけて戦場から足を返した。

 その夜もタダ酒の大盤ぶるまいだった。兵士たちの顔にはよろこびしかなかった。軍隊内恋愛が禁止でなければ各天幕は男女の兵士たちの愛の交換場になっただろう。そのぶん娼婦と男娼が商売繁盛だった。

 夜がふけてタツは女五人を連れてムーンドロウの天幕をおとずれた。オーク戦が終わったために見張りの兵士はいない。かわりに天幕の前に女兵士がひとりいた。入ろうか入るまいかと迷っているらしい。ウロウロしている。女はタツの部下ではなかった。だが見たことはある。第二師団の千人長だったはずだ。

「何をやってるんだい? きみ?」

 女がビクンと飛びあがった。

「あ。あたし。そ。その。ちょっとオークさんに用があって」

「それなら中に入ればいい」

 タツはその女も連れて天幕に入った。

 ムーンドロウがタツたちに顔を向けた。タツ・アイーダ・リンダ・オードリー・ビビアン・カタリナはいつもの顔だ。だがひとり知らない女がいた。兵士の服を着ている。ムーンドロウは首をかしげた。話しかけていいものか見当がつかない。

 タツは女兵士に水を向けた。

「きみ何の用があるんだい?」

 女兵士が頭をさげた。

「さっき馬から落とされて間一髪ってときに命を助けてもらったんです。だからありがとうって言おうと思って」

 ムーンドロウはそういやと思い出した。でもこれってまずいんじゃねえと感じた。檻からぬけ出したのがバレたわけだ。

 タツも気づいた。

「どこで命を助けてもらったんだい?」

「えっ? 戦場でです」

「檻に入ってるんだぞ? 戦場に行けるわけないだろ?」

「そりゃそうですね。でもこの人しかいません。あたしを助けてくれた人はすっごく太ってました。あんな体型した兵士はいませんよ。このオークさんの体型でした。どうにかして檻をぬけ出したに決まってます」

 うーんとタツは悩んだ。ムーンドロウの顔と身体を隠すためにフードとローブを用意した。銀の剣もわたした。それらを隠すために毛布もさし入れた。だが顔と身体を隠せても体型はオークだ。それは隠しようがない。誰が見てもムーンドロウしかいない。

 仕方がないとタツは覚悟を決めた。

「きみ。それないしょにしてくれるか?」

 女がうなずいた。

「わかりました。檻をぬけ出したとバレるとまずいんですね? あたし黙ってます」

 タツはホッとした。さとい女らしい。

 女兵士の用がすんだ。そのまま天幕を出て行くとタツは思った。だが女はモジモジとしながらタツたちを見ている。

「どうしたんだい? もう用はすんだんだろ? まだ何かあるのか?」

 女が下を向いて口ごもった。

「いえ。あの。その。えーと」

 タツはピンと来た。ムーンドロウに話しかける。

「お前だろ? オオカミに銀の矢を射たのは?」

 ムーンドロウが思案した。本当のことを言うべきか? それとも名前も知らない女のいる前で本当のところを言うとまずいか?

「いや。俺じゃねえでやすよ」

「そうかい? イングリッド師団長とゲーブル師団長がその弓兵を捜してるんだ。褒賞を出そうってな。俺は弓兵部隊とひと月以上のつき合いがある。だからすぐにそいつを突きとめたよ。こう言ってた。とんでもなく太ったローブ姿の不審人物が弓と矢をぶん取ったとね。とんでもなく太ったローブ姿の不審人物に心あたりがないか?」

 ムーンドロウが頭をかいた。

「てへへ。バレちゃしょうがねえでやすな」

「またお前に命を助けられたな」

「いやあ。それほどでもねえでやす。アネさんたちにひとりでも死んでほしかねえんで行っただけでやすからね。あの可愛いお尻がいなくなるとさびしいでやすから」

 アイーダが鉄格子をつかんでゆすった。

「おい。あたしらは尻か?」

「えっ。いや。顔も胸も可愛いでやすよ。尻だけじゃねえでやす」

 言いながら視線は下半身に釘づけだった。

 リンダがあきれた。

「やっぱりお尻なんだ」

 オードリーが女兵士に顔を向けた。

「あんた名前は?」

「サミーよ」

「これからわたしたち仕事なんだけどね。それもないしょにしてくれる?」

 サミーがけげんな顔ながらうなずいた。

「はい。いいですよ。あたし誰にもしゃべりません」

 五人の女が服をぬぎはじめた。サミーが目を丸くして見守った。

 全裸の五人の胸には同じ銀の首かざりがゆれていた。タツが王都の宝石屋で買った品だ。オードリーの誕生日の贈り物としてわたしたがあとでまずいと気づいた。オードリーだけをひいきしていると思われると女たちの仲がこじれる。それであわてて他の女たちのぶんも買いに行った。オードリーが気分をそこねるだろうが四人の女たちから恨まれるよりましだろうと。

 オードリーがムーンドロウを指でまねいた。鉄格子ごしに結合する。あっと言う間にムーンドロウが終わった。つづいてビビアンが終わらせた。カタリナ・アイーダ・リンダとそれぞれがムーンドロウを終了にみちびく。

 サミーがその様子を見て太ももをこすり合わせた。

 タツはサミーの背を押した。

「きみも参加すればいい。そのために来たんだろ?」

 サミーがタツをふり返った。

「なんでわかるんです?」

「オークはスケベだ。オークに恩返しをしようと思えば女体をさし出すのが一番にちがいない。きみはそう思ったんだろ? だから身体で礼をしようとやって来た」

「は。はい」

「じゃさっさとぬいで行って来な」

 なおもサミーがためらった。タツはサミーの服をぬがしはじめた。

「あっ。やだっ。何をするんです?」

「いいからいいから」

 上衣のボタンをはずしてぬがせた。シャツをたくしあげて顔からはずした。ズボンをおろして足からぬいた。下着に手をかけた。

「やっ。やだあっ。それはこまりますぅ」

「ムーンドロウも期待してるぞ」

 女五人が鉄格子ごしの二巡目に入っていた。ムーンドロウが結合しながら目はサミーの下着に釘づけだった。

「やーんっ。見ないでくださーいっ」

 サミーが言いながら左右に腰をふった。タツはゆっくりとサミーの下着をずりおろした。ムーンドロウがおおっと息を飲んだ。

「さ。行っておいで」

 タツは全裸にしたサミーの背中を押した。サミーがやっと覚悟を決めて鉄格子に寄った。

「いいのかい? お嬢ちゃん?」

 サミーが顔をまっ赤に染めてうなずいた。

「いいですよ。どうぞ」

「じゃありがたくちょうだいしやす」

 ムーンドロウが結合した。

「あっ! あんっ!」

 ムーンドロウが終わると六人の女が檻に入った。オードリーがサミーを指導してムーンドロウにからませる。女が六人にふえてムーンドロウはごきげんだった。アイーダとリンダはケガをかばってあっさりとした結合しかできなかった。そのぶん残りの四人が濃厚なからみをくり広げた。サミーもすぐに慣れてオードリーとビビアンの指示にしたがった。

 オードリーがムーンドロウをあおむけに寝かせた。サミーをムーンドロウの上に押しあげて結合させた。五人の女たちがサミーの背面に舌を這わせた。

「えっ? なっ? なんであたし? ムーンドロウさんを楽しませるんじゃ?」

 オードリーがサミーの耳を舐めながらささやいた。

「男はね。女がよろこぶのが楽しいわけよ。マグロ女じゃだめ。だからサミーがよろこびなさい。それがムーンドロウを一番楽しませるんだからね」

「ええっ? えーんっ。やだあっ。そんなとこまで舐めないでぇ。やーんっ。はんっ」

 五枚の舌がサミーを高みに押しあげる。

「くふうんっ。あんっ。はおっ。やだっ。そこはだめっ。そこはだめなのぉ。そこだけはやめてぇ。えーんっ。みんなでいじめるぅ。あふっ。ふえっ。くあっ。あああああーっ」

 サミーが頂点に達するのを見はからってムーンドロウも終了する。

 サミーの荒い息がおさまるのを待って五人の女たちがムーンドロウの上に交互に乗った。残りの女たちはムーンドロウとキスしたり胸をさわらせたりする。

 サミーがムーンドロウと舌をからませながらオードリーに声をかけた。

「あたしこんなのはじめてよ。すっごくよかったわ」

 オードリーが肩をすくめた。五人の女が身体中を舐めまわすなんて普通はない。オードリーもそんな体験はない。やみつきになったらこまるはずだ。

 五人の女たちにムーンドロウがそれぞれ終えるとオードリーがサミーを寝かせた。あおむけになったサミーに五人の女が上から群がる。ムーンドロウは不思議そうな顔でそれを見た。サミーが悲鳴をあげる。

「きゃあっ。なんであたしが? あんっ。はんっ。ああーんっ。あたしを攻めてどうするのよぉ」

 オードリーがサミーの耳をかむ。

「だって男は新しい女が好きなのよ。同じ女ばかりじゃ飽きちゃうわ。だからサミーが今夜の主役よ。いっぱい満足してムーンドロウも満足させてあげてね」

「ええっ? それであたしなのぉ? やーんっ。舌がっ。舌が何枚もあたしを這うぅ。ひゃんっ。そこはだめだったらぁ。誰よぉ。そんなとこばかり舐めるのはぁ。あーんっ。やだぁ」

 サミーが高ぶった。五人の女がサミーの中心線から身体をどける。ムーンドロウが女たちのあけた空白に巨体をのしかからせる。結合した。

「あんっ! ひっ。ひっひっひいいぃっ。はっはっはっはあんっ。ああああああーっ!」

 サミーとムーンドロウが同時に満足した。

 ムーンドロウがサミーから離れると五人の女が交代でムーンドロウの下におさまった。

 五人の女に終わらせてもムーンドロウはまだ足りなかった。オードリーがムーンドロウをあおむけにして再度サミーをムーンドロウの上に乗せる。五人の女がふたたびサミーにたかる。ムーンドロウの上で六つの女体が複雑にからみ合う。

「ひゃっ。やんっ。くへっ。はあっはあっはあっ。んんっ。きゃんっ。わっ。わーんっ」

 ムーンドロウがサミーの胸に両手をあててサミーの舌を吸う。サミーの頭がまっ白になってムーンドロウと自身を満足させるべく動きを速める。汗が飛び散る激しさだった。

「あーんっ。これ好きぃ。大好きぃ。ひぐうっ。いやーんっ。やんっやんっ。ああーんっ」

 女五人がこれでもかとばかりにサミーを押しあげる。ムーンドロウの舌にからむサミーの舌が灼熱にとろけた。

「やだっ。もうだめぇ。あたしっ。あたしっ。だめぇ。あああああああああああーっ!」

 サミーがのぼりつめるのに合わせてムーンドロウも自身を解放した。

 サミーがおさまると女五人がそっとムーンドロウに結合した。ゆっくりゆっくりムーンドロウをなぐさめた。ムーンドロウが満ち足りるまで。

 勝利の夜はこうしてふけて行った。


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