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 第二章 異世界で娼婦を教育しよう

 翌日の朝だ。天幕で目をさますとアイーダがタツから顔をそむけた。昨夜みだれたのが恥ずかしいらしい。

「気にするなアイーダ。ああいうことは誰だってする」

「そ? そう?」

「そうさ。みんなやってる」

 タツは苦笑した。アイーダが寝たあと三人の女が自分をなぐさめるのを手伝った。まさに『みんなやってる』だった。

「そんなものか?」

「ああ。そんなものだ。だから気にしなくていい。男を買いに行くのと同じさ。たまったものは吐き出すべきだ。俺はちょっと手伝ってやっただけだからな。アイーダがゴブリンにやられそうになったら助けに入る。それといっしょだ。隊長は万全の状態でいてほしいからな」

「なるほど。いや。ありがとうな」

「どういたしまして」

 頬をまっ赤に染めたままアイーダがタツを正面から見た。男を買うのは恥ずかしくないが身体にさわられるのは恥ずかしいんだろうか? タツは女心がつかめなかった。女って生き物は不思議だ。そう思った。 

 午前の戦闘が終わるとアイーダは百人長から模擬戦をいどまれた。タツが教えた上段のかまえは百人長の木刀をへし折った。そこでめでたくアイーダは二十人長への昇格を認められた。すぐに成績不振者と補充兵の合わせて十人がアイーダ隊に組みこまれた。男五人と女五人だった。

 ゴブリンを一匹も殺せない者と初心者がくわわったわけだ。アイーダはタツに命令した。剣術を教えろと。

 タツは剣の指導をしながらカネを貸すこともほのめかした。十人はいずれも十代の若者だった。軍隊内恋愛が認められていればカップルが何組もできてもおかしくなかった。ありあまる性欲を持てあましているはずだ。きっとカネを借りたがるにちがいない。

 タツの読みどおり十人すべてがタツからカネを借りた。問題は五人の女だった。

 最初からアイーダ隊にいる女四人はタツから満足を教えられた。男娼では満足できなくなってタツを求めるようになった。あとから来た五人もすぐそうなるのではないか? 女九人を相手にするのは面倒だ。寝る時間もへる。

 どうすればいいかとタツは考えた。だが名案が浮かばなかった。けっきょく女九人が満足するまでタツが相手をすることで落ち着いた。結合ではない。みずからなぐさめるのを手伝っただけだ。軍隊内恋愛でもないと思える。タツが疲れるだけだった。

 ふえた兵士は若者だからか剣術の飲みこみが早かった。すぐにゴブリンの頭部をたたきわるコツをおぼえた。アイーダが二十人長から五十人長になるまではあっという間だった。

 大きい天幕でも二十人が寝るので手一杯だ。アイーダが五十人長になって女の数がふえてもタツの相手は九人のままだった。しかしタツが相手をしない女たちも不満をかかえているのはまちがいない。タツは彼女たちの不満を解消する手はないかと考えつづけた。寝不足で欲求不満の女たちはゴブリンに殺されやすいからだ。

 ゴブリンを殺す技術が向上すると殺される者もふえた。踏みこまないとゴブリンは殺せない。踏みこむとゴブリンに殺される率もあがるせいだ。最初にカネを貸したルービルも生きて天幕にもどれなかった。毎日ゴブリンを一匹二匹と殺せたために慢心したのだろう。

 五十人隊になってすぐ三人の女が殺された。タツは口をすっぱくして油断するなと言った。だが戦場の大混乱の中だ。よほど集中してないと後ろや横からの剣はよけられない。

 朝の戦闘がはじまる前だ。リンダが声をかけて来た。

「ねえタツ。あのさ。昨夜あたしすごくよかったのよ。それでね。寝ちゃう直前なんだけどさ。その。あの」

 リンダが顔を赤くほてらせて口ごもった。

「どうしたんだ? 言えよ?」

「そ。そのう。すっごく気持ちよかったときに夢を見たみたい」

「夢? どんな?」

「タツがうしろから斬りかかられてるの。一瞬見ただけなんだけどさ。ひどく気になってね。だからうしろに注意してよ。殺されちゃやだからね。きのう言おうと思ったんだけどそのまま眠っちゃったからさ」

 集合の号令がかかってタツもリンダも整列した。

 うしろ? タツはいつもゴブリンを正面にとらえるよう位置取りをしている。ゴブリンにうしろに回られたことはない。背後から斬られるとほぼ致命傷だからだ。それくらい用心している。なのにうしろ?

 タツは疑問符を抱きながら戦闘に突入した。

 敵味方のかけ声や怒声でうるさい中をゴブリンと対峙する。

「くけけけ。人間。いま殺してやるからな。お祈りするならいまのうちだぞ」

 ゴブリンが剣で威嚇しながらおどしをかけた。ゴブリンはタツにすきがないか探りながら剣を出して来る。

 タツはたえずゴブリンが正面に来るよう剣をふるった。なぜかは知らないが心の中でリンダの声がこだましつづけた。うしろうしろと言っている。

 気になって正面にいるゴブリンに深く踏みこめない。ついうしろをふり返る。

 そのときもふいにうしろに顔を向けた。剣がふりおろされるところだった。

 ハッとした。タツは間一髪でその剣をよけた。

「ちっ! もうすこしだったのに!」

 うしろにいたのはロレインだった。

「ロレイン? どうしてあんたが?」

 タツは動転した。ロレインは副隊長だ。味方がなんで俺に斬りかかる?

「うるせえ! 死ね! くそ野郎!」

 ロレインが剣をふり回した。幸い剣すじはみだれている。よけるのは簡単だった。

 だが正面で対峙していたゴブリンも斬りつけて来る。前後からのはさみ討ちだ。

 タツは冷や汗が全身に噴き出すのをおぼえた。

「やめろよロレイン。あんたはなにか誤解してる」

 ロレインが剣をくり出しながらわめく。

「誤解なんかしてねえよ! 俺が副隊長だ! おまえじゃねえ! おまえじゃねえんだ! 毎晩いい思いをしやがって!」

 タツはわかった気がした。ロレインは二十六歳で最年長だ。若者のすくない村でロレインが一番若かったと聞いている。タツが来るまでロレインがアイーダの右腕として隊をまとめていた。タツが来てからアイーダはタツにべったりになった。

 おそらくロレインはアイーダに惚れている。アイーダは毎晩タツに満足させてもらっている。性交渉はないがロレインから見れば性行為をしているように見えるだろう。好きな女と毎晩やっている新参者に嫉妬とうらみの炎が燃えあがっていたわけだ。

 そういうつみ重ねでロレインはタツを殺そうとしているのではないか? 五十人にふえた部下に剣を教えるのもタツだし。

 ゴブリンが剣を横なぐりに斬って来る。タツは剣でむかえ撃つ。ガキンッと剣と剣が鳴る。そこに背後からロレインがななめ上段から剣をふりおろす。

 タツはゴブリンの剣をそらせてロレインの剣に剣を合わせる。ギーンッと斬撃音とともにロレインの剣をはじく。

 ゴブリンに背中を向けたせいでゴブリンがうしろから突いて来る。タツは横に飛びのいてその突きをかわす。

「くそったれ野郎! くたばりやがれ!」

 ロレインが剣を右からはらう。興奮して頭に血がのぼっているせいか剣は大ぶりだ。肩に力が入りすぎているために剣速は遅い。タツはゴブリンの動向を気にしながらロレインの剣を剣ではねあげる。

「くけけけ! 人間っ! 死ねっ!」

 ゴブリンが無防備なタツの背中を狙って剣をふりおろす。タツは身をよじってかわす。だが革のヨロイごと背中の肉を切られた。

「いてっ! ちくしょうっ!」

 二対一では分が悪すぎる。しかし周囲は五万対五万の大乱戦だ。逃げると別のゴブリンに背中を狙われる。背中を見せた敵ほど斬りやすい敵はない。

 ロレインが腹めがけて突いて来る。タツは剣で突きの軌道を変える。ロレインの剣がわき腹を裂く。わき腹に痛みが走る。血がポタポタと土に吸われる。背中からも出血しているみたいだ。

「へへへ! やったぞ! 斬ってやった! ざまあみろだ!」

 ロレインが笑いながら剣を引く。

「くけけけ! 人間っ! もう一発だっ!」

 ゴブリンがタツの背中にななめ上から袈裟斬りに剣を一閃させる。タツは前に一歩出てかわす。だが腰を切られた。傷の深さはわからない。痛みだけがジンジンと来る。身体はまだ動く。

 しかし人生で斬られるのははじめてだ。身体全体が重くて痛い。足を踏みしめるたびにズキンズキンとうずく。

 ちくしょうと思った。反撃に出たい。でもその余裕がない。前とうしろから交互に剣が飛んで来る。防御するのが精一杯だ。

 ロレインが今度は胸を狙って突いて来た。さっき突きで一撃をあたえられたからもう一度と踏んだらしい。

 タツは身体を半回転させて伸びて来る剣をかわした。

「こてーっ!」

 ロレインの手めがけて斬りつけた。手にはあたらなかったが腕をかすった。血がブシュッと飛んだ。やっとひと太刀返せた。

「いてててっ! くそっ! やりやがったなっ!」

 ロレインが怒りにまかせて剣を横にはらった。タツは腹をひっこめた。だがその腹に剣が横一文字の斬り傷をきざんだ。また血がタラタラとつたった。

 ゴブリンが背後から突いて来た。タツはふり返りざまに剣をくり出した。

「メーンっ!」

 ゴブリンの剣はタツの胸をかすめた。タツの剣はゴブリンの肩に食いこんだ。肩から血を噴いたゴブリンがひるんだ。

 三者ともに肩で息をした。力をためるにらみ合いがつづく。

 最初に動いたのはロレインだった。

「くそ野郎っ! いいかげんにくたばりやがれっ!」

 剣をふりかぶって上段からふりおろす。タツは顔の前でロレインの剣を剣で受けとめる。ガキンと音がして剣と剣がかみ合う。ギリギリギリとタツとロレインが剣と剣で押し合う。

 そこにゴブリンが背後から突く。剣がそれてタツのわき腹をえぐる。また血が流れる。

「くけけけ! よくも俺さまの肩を斬りやがったなっ! お返しだっ!」

 タツがロレインの剣を力で押し返してロレインに斬りつける。

「メーンっ!」

 ロレインが身体を右にそらせる。タツの剣がロレインの腕の肉をそぐ。血がドプッと飛んだ。

「ちくしょうっ! 死にぞこないめっ! 俺がアイーダとやるんだっ! きさまじゃねえっ!」

 ロレインが腕から血を流しながら剣を横にはらう。タツは剣でロレインの剣をはねあげる。そのままふり向いてうしろにいるゴブリンにひと太刀をあびせる。

「どうーっ!」

 タツに斬りかかる途中のゴブリンの腹に一文字の傷が走る。血がタラリとしたたる。浅かったらしい。

「いまだっ! すきありーっ!」

 背を見せたタツにロレインが斬りかかる。タツはよける。だがタツの肩に剣が食いこむ。血が胸までつたい落ちる。

 タツの息は荒い。上半身は斬りきざまれて血まみれだ。ハアハアと呼吸をととのえる。しかし立つのが精一杯になって来た。最期が近いかもしれない。タツは弱気になった。

 ロレインとゴブリンがタツの弱気に敏感に反応した。

「へへへっ! 二度とアイーダとできねえようにしてやるっ! 死ねっ!」   

「くけけけ! これが最後だっ! くたばれ人間っ!」

 ゴブリンとロレインのタイミングがそろった。前とうしろから同時にタツの頭に剣がふりおろされる。両方の剣を剣で受けるのは不可能だった。

 タツは大きく身体を沈めた。ひざの屈伸を利用して横へ飛びのく。

「メーンっ!」

 渾身の力をこめて上段から斬り落とした。ふりおろした剣が空ぶって無防備になったゴブリンの頭に剣が炸裂した。血と脳みそがゴボッとこぼれた。

「どうーっ!」

 最後の力をふりしぼってタツは剣を横にないだ。剣は胴ではなくロレインの首を横に一閃した。タツの頭に剣をふりおろしたのがかわされたせいでロレインの上体が前のめりになっていたからだ。

「うぐぐっ!」

 ロレインが首から血を噴出させてドタッと倒れた。

 そこで退却のドラが鳴った。

 タツは剣を杖にしてヨタヨタと陣地をめざした。

 しばらく歩いたとき声が聞こえた。

「タツーッ!」

 リンダが走って来てタツに肩を貸した。

 タツはホッとして口をひらいた。

「リンダ。きみって占い師の家系なのか?」

 リンダのひとことがなければ死ぬのは俺だった。タツはそう思った。

「ううん。ちがうわよ。あたしは王都の花屋の四女だわ。なんでそんなことを訊くの?」

「あ。いや。いいんだ。気のせいだったらしい。すまん」

 リンダが首をかしげたままタツの身体をささえる。

「ひどいケガ。早く手当をしなきゃ」

「タツ。大丈夫か?」

 そこにアイーダも来て左右からタツをはこんだ。

 タツは負傷者用天幕にはこびこまれた。そこでタツの意識は遠のいた。

 目をさますと翌朝になっていた。上半身は包帯でぐるぐるまきにされていた。看護婦が包帯をかえる痛みで目がさめたらしい。

「いてて」

 肩とわき腹が引きつった。痛いのは痛い。だが重傷ではなさそうだった。 

「こらこら。動かないの。包帯がまきにくいじゃない」

 看護婦が肩の包帯を交換し終えた。

 そこに巡回中の医師がやって来た。

「二日ほど様子を見て熱が出なければ退院だな。それまではおとなしく寝ときなさい。人事係に負傷届けをわたしとくから」

 天幕の中は負傷者だらけで医師は次の患者のところに行った。

 次に朝の戦闘に出る前のアイーダが顔を見せた。

「苦しくないかタツ?」

「ああ。苦しくはない。ロレインはどうなった?」

「ロレインは昨日もどらなかった。死んだみたいだな」

「そ。そうか」

 夢ではなかったんだなとタツは思った。はじめて人を殺したらしい。殺さなければ殺された。だが後味のいいものではなかった。

 アイーダはタツの気持ちを知ってか知らずか深く追求しなかった。集合の号令がひびいてアイーダが戦闘に行った。

 タツは横になって目をとじた。血を流しすぎたせいかすぐ眠りに引きずりこまれた。

 二日がすぎても熱は出なかった。タツは負傷者用天幕を追い出された。病床が足りないらしい。自力で歩ける者は出て行けということみたいだ。退院してから三日は静養期間として戦闘が免除されるという話だった。

 タツはその三日間ぼんやりとすわって丘を観察しつづけた。兵士たちが戦闘しているあいだも各係がいそがしく走り回っていた。特にいそがしいのが炊事係だった。五万人ぶんの食事を三食作るわけだ。いそがしくないわけがない。

 それにくらべてひまそうなのが売春婦たちだった。夕方になるまでは食事用の長椅子にすわって女同士で話をしている。あきずにダラダラととりとめのない話題をしゃべっていた。カタリナといる三人のうちととのった顔の女が二番人気のビビアンだなとタツはあたりをつけた。

 三日目の昼がすぎた。兵士たちに午後の集合の号令がかかった。

 タツは思いついたことがあってカタリナたち四人のそばに寄った。

「カタリナ」

 声をかけると盲目のカタリナがふり向いた。 

「タツ! なんでこんな時間に?」

「ちょっとな。しくじってケガをしたんだ」

「そう。それでここんとこ来なかったのね。死んだのかと思ってやきもきしてたのよ。あんたのところの隊長に死んだらあたしに伝えてくれるように言っといてね。泣いてあげるから」

「わかった。それでな。ビビアンに話があるんだが取りなしてくれるか?」

「ええ。いいわよ」

 答えたカタリナの顔は悲しげにゆがんでいた。タツにはどうしてカタリナが悲しげなのかわからなかった。

 やり取りに耳を立てていたビビアンが立ちあがった。無言でタツの手を引いて自分の赤い天幕に連れこんだ。

 ビビアンが寝台にすわると服をぬぎはじめた。タツが声をかける間もなく全裸になって寝台に横になった。

「いいわよ。どうぞ」

 タツは首をかしげた。

「おい。どういうつもりだ?」

「えっ? あたしとしたいんじゃないの?」

 すべての男が自分としたがると思っているらしい。カタリナが悲しげな顔をしたのもタツがビビアンと寝たがっていると踏んだからのようだ。

 タツはどうするべきか考えた。本当に話すだけのつもりだったが予定を変えた。

 ビビアンのその部分をさわってみる。ぬれてなかった。ビビアンもマグロのようだ。この世界の女はすべてマグロなのかと疑問が湧いた。

 ビビアンも胸は大きい。人気一位のオードリーといい勝負だった。だが二十歳をすぎていると思えた。オードリーは十七歳くらいだった。一番人気と二番人気の差は年齢らしい。

 タツはビビアンの頭の先からつま先までをジロジロと観察した。さて。どこにこの女の性感帯はあるだろうか?

 タツは足の指からさわってみた。

「きゃははは。なにするのよ?」

 ビビアンの足がタツの手から逃げた。敏感な女のようだ。

 タツは耳にふれた。

「あんっ」

 首から胸の中央を通ってへそへ手を伸ばす。

「あっ。やんっ。はーんっ」

 次にふたたび足の指をさわった。

「ひゃんっ。ふあーんっ。ひんっ」

 ひざをくすぐって太ももまでなであげた。

「やだっ。それっ。ひゃひゃっ。あーんっ」

 腕はどうかと思って指先からさぐって行く。指先。手の甲。ひじ。肩。

「あんっ。そこっ。それいいっ」

 なるほどとうなずいてわきの下に手をあてた。

「やっ。それだめっ。やだっ。あんっ。だめーっ」

 わきの下からわき腹。腰の横へと手を移動させる。

「ああーんっ。もっとだめーっ。そこはだめぇっ。やんっ。ひぃんっ。ああンっ。ひンっ」

 どうやらこの女は身体の横のラインが弱いらしい。

 タツは女の腕を持ちあげてわきの下に舌を這わせた。わき腹から腰へと舐めおりる。

「ひっ。ひゃーっ。いやだぁっ。なんてことすんのよぉっ。ばかぁっ。いやーんっ。だめぇっ」

 舌を動かすにつれてビビアンの腰がビクンビクンと上下した。吐息はあまくせつない。

 タツは足のつま先から太ももへと足の横を舐めあげる。女をじらすときは女の部分に近づいては遠ざかるようにと監督に指示された。とにかく遠回しに女をあつかえとだ。

「やーんっ。なんなのこれぇっ。こんなのはじめてぇっ。やだぁっ。もうだめぇっ。早くぅっ。早く来てぇっ。来てくれなきゃいやーっ」

 ビビアンの手がタツの髪の毛をつかんだ。無理やりにタツを自分の上に乗せる。ビビアンの指がタツのズボンをずらす。結合させた。

 ビビアンの部分は準備ができていた。器としてはごく普通だろう。よくもないし悪くもない。

 予定とちがうがまあいいかとタツは思った。次の問題はこの女の満足するころあいだった。女体は気むずかしい。早ければ早漏だし遅ければ遅漏だ。どちらも女は気に入らない。適切なタイミングでないと不完全燃焼がくすぶる。

 みずからなぐさめる場合は女自身が自分ごのみのタイミングで終わる。だが結合だと男がタイミングを見きわめなければならない。監督の指示がない以上タツに決定権がゆだねられる。女によってこのみがさまざまだからむずかしいことこの上ない。

「ああーんっ。これがいいっ。これがほしいっ。はんっ。いいのぉっ。そこいいっ。あんっ。あたしそこがすきっ。ひぃんっ。そこにほしいっ。やんっ。そこぉっ。ああんっ。そこにおねがいぃっ。そこよぉっ。ひっひっひぃっ。はっはっはっあはーんっ」

 ビビアンがくちづけながら腰を突きあげて左右にふった。タツは舌を吸いつつビビアンの部分を突きくずしておのれを解放した。ビビアンがタツの腰に手をまわして力のかぎり引き寄せた。一滴のこらず受けとめようと。ビクンビクンと二匹の獣がひとつに結合し合った。

 汗ばんだ女体がほてりをわずかにさました。ビビアンの指がタツの髪をすく。こういうところが年上の女だなとタツは感じた。タツの経験は女子高生ばかりなので二十歳を超えた年上の女ははじめてだ。

 行為に没頭していたときは気づかなかった肩と腹の痛みがもどって来た。ズキズキとうずくががまんできないほどではない。

「あなた何者なの? こんなのはじめてよ。カタリナから聞いてたけど本気にしてなかったわ。女を気持ちよくする魔法なの?」

「いや。魔法じゃない。ただの技術だ。ところでね。きみに話があるんだが」

「話? どんな?」

「きみを一番人気にしてやろう。どうだ? 一番になりたくないか?」

 ビビアンが思案した。たいていの女には競争心がある。二番で満足する女はまずいない。一番になれるものならなりたいはずだ。タツはそう踏んでビビアンにさそいをかけた。

「なりたいわ。でもどうやって?」

「男のよろこぶことをすべて教えてやる。男心をわしづかみにする女になればオードリーなんか目じゃないはずだ」

「ふうん。けどなんであたしにそんなことを教えるの? あなたに何の得があるの?」

「俺は男たちにカネを貸して利息を取ってる。カネを借りる男がふえれば俺がもうかるからさ。そのためにもきみに男あしらいがうまくなってもらいたい。二度三度ときみの元にかよいつめるようにね」

「なるほど。あたしに男たちがおカネを落とす。そのぶんをあなたから借金する。そういうわけね」

「ああ。だがそうするときみへの負担が大きくならないかな? 一日に何人くらい相手をするんだ?」

「そうね。いまはオードリーに三十人ほど行ってるからあたしは二十人くらいだわ。あたしたちは第一師団の歩兵第一隊が担当なのよ。五人の娼婦で百人の兵士を相手にするわけね。でも女が四十人ほどいるから実質は六十人だわ。ここには兵隊さんが五万人もいるのよ。それ全部をあたしたち五人で処理できるわけないからね」

「それもそうか。じゃ娼婦だけでこの丘には二千五百人もいるのか?」

「もっといるわよ。上級隊長や師団長は専用の娼婦をあてがわれてるから」

「すごい数だな」

「国をあげての一大事ですもの。これでもへったのよ。最初は十人ではじまったんだから」

 なるほどと納得した。ひとりの女が二十人もこなせばその部分がすり切れて使いものにならなくなる。

「すり切れ防止になにか対策をしてるのか?」

「軟膏をぬってるわ。それと乱暴な男は出入り禁止にしてる。それよりもう一度おねがい」

 ビビアンがタツの服のボタンをはずした。包帯だらけの裸身があらわれた。ビビアンが目を丸くした。

「まあ! 傷だらけじゃない。よくこんな傷でできたわねえ?」

「男はつながってるときは痛みを忘れるんだよ。恐怖も忘れるしね」

「そうなの。それで娼婦が必要なのね?」

「そうだ。好色ってだけじゃないんだよ。女体はやすらぎなのさ。だから男にとってやすらげる女は人気第一位になれる」

 タツはビビアンにくちづけた。うっとりとビビアンが目をとじる。二回目はそっと終わった。

 タツはビビアンに男のしてもらいたいことを伝授した。ビビアンはすぐに飲みこんだ。これで男を簡単に手玉に取れるだろう。

 タツは目的を達して天幕を出た。借金をする男がふえればカネがもうかるというのは本当だ。だがそれ以上に借金を返すためにゴブリンを殺さなければならなくなるのが大きい。

 タツはこの戦争を早く終わらせたい。町で金貸し業をいとなむためにだ。そのためにはゴブリンを殺せる兵士をふやす必要があった。一日に百匹のゴブリンを殺すだけでは一年以上ここでゴブリン退治をしなければならない。そのあいだに殺されてはバカみたいだ。

 できるだけ多くの兵士にカネを貸してゴブリンを殺す動機を持たせたい。五万人の兵士がそれぞれ一匹ずつゴブリンを殺せば一日でかたがつく。そこまでうまく行かなくてもせめてひと月でかたをつけたかった。

 タツの思惑は成功した。その夜からじょじょにビビアンの天幕の行列が伸びはじめた。三日でビビアンが一番人気の娼婦にのしあがった。それとともにタツからカネを借りる男がふえた。ビビアンはタツの教えたとおりに男たちを手玉に取っているらしい。男たちはひと晩に二度三度とビビアンの天幕にならぶようになった。

 ここでの問題はビビアンがもうかっていることだった。カネがたまるとビビアンが娼婦をやめるかもしれないからだ。

 タツとしてはビビアンがやめてもかまわなかった。次は三番人気の女に教えこめばいいだけだった。

 ビビアンはやめなかった。若いうちにかせげるだけかせごうということだろう。歳を取った娼婦は集客率が落ちる。いつまでもつづけられる仕事ではなかった。

 ビビアンが男たちを籠絡するにつれてアイーダ隊の殺すゴブリンの数が飛躍的に増加した。借金に追われてゴブリンを殺す以外にビビアンを抱く手段がなくなったせいだ。

 アイーダは百人長から千人長へと出世の階段を駆け足でのぼった。それとともにタツとリンダも副隊長に任命された。

 そのあいだにタツの傷は完全にふさがった。タツはビビアン以外の娼婦にも男のころがし方を教えて回った。隊員がふえたので担当の娼婦たちもふえたからだ。どの娼婦もマグロだったので変化は歴然だった。

 ゴブリンを殺せない男たちにもタツはおしげもなくカネを貸して女を買いに行かせた。ロレインのように背後から味方に斬られるのをさけるためだ。うらまれないようにするにこしたことはなかった。

 そんなある日のことだ。午後の戦闘を終えると第一師団長から夕食の招待を受けた。

 アイーダとタツとリンダの三人で師団長の天幕に入った。

「やあ。よく来てくれた。わたしがイングリッドだ」

 右目に眼帯をした長身の女がむかえてくれた。独眼竜だとタツは思った。美人というよりかっこいい女だった。三十歳くらいだとタツは見た。

 炊事係が机に料理をならべて会食がはじまった。師団長の食事はさすがの豪華さだった。

 食後のお茶が出されてアイーダが疑問を口にした。

「どうしてあたしなんです? ほかの千人長や五千人長の方は誰もまねかれてませんでしたよ?」

 ふふふとイングリッドが笑った。

「それはきみの隊が急成長したからだよ。他の千人長や五千人長は元からの軍人だ。戦争前すでにそれぞれの地位についてた。一歩兵から千人長になりあがったのはきみだけだよ。それで呼んだのさ。きみの隊はゴブリンを殺すコツを知ってる。それを教えてもらいたくてね。可能であれば全師団にそれを徹底させたいからな」

「なるほど。じゃこいつです。うちの副隊長のタツ。この男のおかげでわが隊が旧成長したんです」

 アイーダの言葉でイングリッドがタツに顔を向けた。

「どういうことかね? 説明してもらえるかいタツ?」

 タツは隊員たちに剣道の指導をしたことを話した。カネを貸してゴブリン殺しに追いつめたことは伏せた。軍がカネを貸したらタツからカネを借りる男がいなくなるからだ。

 イングリッドがうなずいた。

「ふむふむ。そういうわざなら全師団に教えても問題ないな。タツ。きみは独創的なことを考える男だね。ほかにも提言があるかい?」

 タツは思案した。戦争を早く終わらせたい。そのためにいろいろ考えた。タツの立場ではできないことが多かった。だが師団長なら?

「では言わせていただきます。よろしいでしょうか?」

「ああ。どんどん言ってくれたまえ。えんりょはいらないよ。わたしはざっくばらんな女だと自負してる」

「はい。なしくずしに兵士を補充するのではなく訓練してから投入してはどうでしょう? 十日の訓練ではすくなすぎます。素人がいきなり戦場に出たらすぐ死にますよ。俺も指導しましたけどものになるより先に殺されてます。戦場で成長するより死ぬほうが多いです。せめて剣がまともにふれるようになるまで実戦に投入するのは待つべきかと」

「ふむ。いそがばまわれということか。たしかに泥縄的に投入してるな。師団長会議にかけて検討してみよう」

「その場合なんですがね。弓にすぐれた者ばかりを集めて弓兵部隊を編成してはどうでしょう? 弓矢は支給されてますけど実戦では役に立たない者ばかりで弓での攻撃はできてません。うちの隊でも狙いどおりに飛ばせる者はいませんでした。徴兵にたよらず弓の才能を持つ者を募集して年齢に関係なく採用してはどうですか?」

「ううむ。たしかに弓矢の攻撃はなされてないな。素人に弓を持たせても使いものにならんということか」

「馬もそうだと思いますよ。俺たちは五百人長に昇格したときに馬をもらいました。でもそれは隊長と副隊長だけです。騎馬兵ばかりを集めて騎馬隊を作ればどうですか? 突進力を生かしてゴブリンを蹴散らせると思いますがね?」

「ああ。だがそれだとホコのような長い刃物を持たせる必要があるだろうな。馬上から剣だとみじかいはずだ」

「そうですね。そのとおりでしょう。それから魔法を使える者も集めて魔法部隊も作るべきだと思うんですが? うちの隊にも魔法を使う者がいますが少数すぎて役に立ってるとは言えません」

「ふむ。つまり兵士を専門ごとに再編せよということだな? いまのままだと効率が悪いと?」

「はい。それによって戦略的に投入できると思えます。たとえばゴブリンは徒歩で攻めて来ますよね? それを最初に弓で狙えば多くのゴブリンを撃退できるはずです。ゴブリンは剣しか持ってませんからね。矢を撃ちつくしたあと騎馬隊と歩兵で突撃すれば残ったゴブリンを掃討できるはずです」

「いい案だ。問題はわが軍の頭の硬い指導部だな。ゆうちょうに兵を教育する時間などあるかという意見が多いからね。まあそこのところはわたしが努力してみよう。もうないかね?」

「あっ。最後にひとつ」

「何かね?」

「男娼の数をふやしてほしいんです」

「はあ? 男娼の数をふやす? なんでまた? きみは男色家かね?」

「俺は女が好きですよ。うちの隊の女たちはいまの男娼では満足できないんです。そのために寝不足と欲求不満になってる。男は単純に吐き出せば終わりですが女はそうは行かない。せめて男娼の数を五人にふやしてください」

「五人に? どういう理由で五人だね?」

「ひとりが結合してるあいだに残りの四人が女の全身を愛撫するためにです。五人がかりでひとりの女に対せば誰かがあたりを引くでしょう。とにかく女が満足する仕組みにしてほしいんです。いまの男娼のあり方は男が考えた仕組みです。女を満足させるためには女に仕組みを考えてもらうのがのぞましいと思います」

「ううむ。そういうことになってるのか。男を買いに行ったことがないからわからなかった。わかった。女に調査させて改善させよう」

「あのう。ちなみに師団長はどういう男娼をお持ちで?」

「ここだけの話だがね。わたしは男より女が好きだ。だから参考にならんだろう。わたしは愛人をふたり連れて来てる。軍の用意した男娼はことわった」

 タツはうなずいた。なるほどと。男より男らしい人のようだ。直球勝負という感じだな。

 天幕を出るとアイーダがタツをにらみつけた。

「タツ。なんてことを訊くんだよ? 師団長の嗜好を訊いてどうすんだ?」

「いや。女だから女の気持ちがわかるかなと思ってさ。この世界の女はおそらくすべての男に不満を抱いてる。それで師団長も男に不満があるかなと思って」

「まさか女が好きだとは思わなかった?」

「ああ。俺はその手の人に会ったことがなかったからね」

「あたしはたまにあるぞ。男に幻滅して女に走る女も多いんだ」

 やっぱりとタツは納得した。男に性知識がないと欲求不満になる女も多いだろう。最初から女が好きなのではなくて男がだらしなくて仕方なしに女にやすらぎを求めるのではないか。

 男娼の件が最初に実現した。五人に増員されたわけだ。ウスタール王国軍は女が多い。そのせいで女の福利厚生が早々に改善されたのだろう。

 タツは気が進まなかったが男娼たちに女の満足のさせ方を指導して回った。千人の隊員のうち四百人が女だった。さすがにタツひとりで四百人の相手はできないからだ。

 タツの努力もあってアイーダが五千人長に昇格した。タツは剣術指導と娼婦と男娼の教育に追いまくられた。カネを貸すのもつづけている。

 ひとつだけ楽になったことがある。昇格したことで最前線でゴブリンと斬り合いをすることがすくなくなったことだ。馬上から千人長や五百人長に指示するのがほとんどになった。

 戦死の危険は消えてないが大幅にへったのは事実だ。斬り合いの疲れはなくなった。そのぶん五千人を指揮する責任がのしかかって神経はすりへったが。


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