(6) ロイクス、拒否する
昨夜、カイルが訪れることはなかった。
しかし、夜に集まったメンバーにはカイルとの出来事ついては知らせておいた。
朝、エリンとラディが合流して全員集合をした。
朝食後に冒険者ギルドに向かう。
冒険者ギルドに入るとすぐに「ロイクスさーん」とカウンターから声がかかる。
嫌な予感しかないが、受付嬢が依頼票を見せてきて、
「こういう依頼があるんですが…」と歯切れ悪く説明。
後ろにいるメンバーにも伝えるために、僕は声を出して簡単に読み上げる。
「パープルスタンピード(ラージ)大量発生、レーゼ北東の森(猿岩付近)、緊急依頼Dランク以上20名程募集」
「で、依頼票がここに戻っているということは、討伐チームはもう集まったんでしょ?」
「それが、、、レッド・ディアマンテの方々が向かったきりで…」
ちらり、後ろを流し見た。サラが露骨に嫌な顔を見せる。
注射を打つ順番が回って来た子供の顔だ。
多分、受付嬢にも見えているはず。
「あいつらはうちの女性メンバーへの暴言が酷い。以前にもクレームを出したはず。…これはお断りします」
僕たちみたいなアカデミー出身の「ボンボン冒険者」を嫌ったり見下したりする冒険者は一定数いる。無視したり、去り際にチクリ嫌味を言ったり。
それでも奴らの粘着質な嫌がらせは度を過ぎていた。
パーティ人数が募集人員に満たない場合、依頼票は掲示板から外さないのがマナーだ。
ギルドで同盟を組むパーティやソロ冒険者を集めたり、緊急性が高い場合は依頼票はそのままにして先行隊を申し出るのが通常。
なのにあいつらは、毎回派手に剥がし、カウンターに叩きつけるやり方をする。
剥がすのは「俺たちだけで充分だ」の意思表示だろう。
ラディは「ワタシは嫌だね」
エリンは「アタイもヤだ」
サラはもう他の依頼票を見ている。
ゴウヤとレスターは知らん顔。
こうなると、受付嬢が気の毒に思えてくる。
おそらくレッド・ディアマンテに一番嫌な思いをさせられてるのは彼女たち受付嬢だ。嫌でもここで応対しなくちゃならないのだから。
「ギルドマスターは何と言ってるの?」
「放っておけ、って」
「じゃあ、放っておくしかないなー。スージィちゃん、もうあいつらの顔も見たくないなら、うちのパーティに来ない?」
「おい、ロイクス、てめー」
「オレたちのスージィちゃんをどうするつもりだ」
ギャラリーが面白半分で茶化す。
「こら、ロイクス」ギルドマスターも裏から登場。
「あいつらが帰って来れたら俺が応対するから」
「帰って来れたら……ね。(笑)」
パープルセンチピードは通常は成人男子くらいの全長のムカデだ。
甲殻はやや硬めで物理は通じにくいが、魔法なら楽勝。
口から噴霧される神経毒が厄介。吸い込むとあっという間に手足が痺れ、やがて呼吸困難に陥る。
風に乗って流れてくるだけで死ねるほどに強力だ。
とにかく、あのパーティは冒険者界隈で嫌われている。
魔物を集めるだけ集めてから範囲魔法で一掃、のつもりが失敗。すると集めた魔物を放置して逃走する。のパターン。
今回の魔物からして、必ずこの方法を使うはずだ。
4人パーティで前衛2人、魔法使い1人、あとの1人は知らね。
ムカデが何匹いるか知らないが、おそらくは火力不足だろう。
集められた魔物の群れを押し付けられるのは他のパーティということになる。
誰も行きたがらないのは当然だ。
僕もパーティリーダーとして、奴らとの共闘は御免被る。
「ロイクス、これ受けよう」
サラに呼ばれた。
「領境線付近調査依頼」
我々が暮らしているのがアントンセン領のほぼ北限。
その北にはゾンネンカルブ領があるのだが、魔王の棲家がゾンネンカルブ領内にあるため、たくさんの魔物が溢れ出て人が普通に暮らせる地域ではなくなっている。
王都はその領境を王都防衛の前線として巨大な壁を建設した。
その周辺(主にアントンセン領側)の近況調査&魔物討伐のクエストだ。
ここレーゼは領境線に最も近い都市で、ここのギルドの管轄エリアでもある。
「昨日、気球の実験を見に行ってたら、北の方からリザードドラゴンの群れが来てね」
ギルドにいた冒険者たちが騒めく。
サラは依頼票を指差し、
「ここ、今どうなってるのかなぁ、って気になって…」
「気球は大丈夫だったのか?」
「それは問題ないよ。うちのチェリーちゃんが全部倒したから」
ああ、そう…。
「ギルドマスター、いまここはどうなってます?」
「んー、特に報告は来ていないな」
ここは王軍の駐屯地にもなっているので、少々の魔物なら兵士が倒してしまう。
何かあっても王宮に報告が直接行くので、冒険者ギルドに報告が届かないこともまま有るのだ。
「ギルドマスター権限で、ロイクスたちに周辺調査を依頼してもいいか?」
あくまで調査してくるのが主な依頼内容であるため、依頼報酬は安い方だ。
パーティ全員の意思を確認したが反対する者はいないので受けることにした。
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