(5) ロイクス、承諾する
カイルが家から出てきた。
「爺ちゃんが2人にお話があるそうです」
レスターと顔を合わせ、頷き合う。
僕たちは家に入り、
「ご気分はいかがですか?」とレスターが問いかけた。
「おかげでかなり良い。でも長く喋るのは辛くてな、率直に言わせてもらう」
「カイルのことをお願いできないだろうか」「この子は世間知らずなところもある。読み書きなどは教えてきたが、ずっとここで暮らしてきたからな、教えられることにも限界がある」
「それは構いません。カイルはそれでいいのか?」
「はい。でも、爺ちゃんには最後まで付いていたい」
「引き受けます」
「ありがとう」
「それじゃ、僕たちは一度帰ろうか。カイル、済まないが送ってもらえるかな」
「はい」
レスターに呼び止められた。
「点滴がまだ残っているから、私は時間差で送ってもらえるかな。この容器をアカデミーに返さないといけないし」
ああ、それを忘れていた。
「それと、ロイクス…」
レスターにいくつかのことを頼まれた。
「カイル、一旦レーゼに戻って、またここに帰ってくることにしたよ」
「はい」
一瞬のうちにレーゼの街に到着した。
僕はカイルを連れて、まず僕たちの住処に案内した。
家の大きさに驚くカイル。
「これは母の実家が所有している家でね、借りてるんだ」
となんだか言い訳じみた説明をして、
「昼間は誰も居ないかもだけど、何かあったときはここに来てくれればいい」
次に向かったのは,アカデミーの付属病院。
ここでは調理師が作った病人介護食が買える。
それを購入して、カイルの家に戻る。
「買ってきたよ」
家に入ると、レスターは「いま眠ったところ」と小声で話す。
「とりあえず3人で食べようか」
この家の調理場は家の外にあるのはさっき見た。
「じゃあ、カイル。さっき買ってきたのを温めようか」
と言って外に出た。
僕はアイテム倉庫から介護食を6つ取り出し、3つをカイルに渡す。
「お爺さんが目を覚ましたら作ってあげて。あとの2つは夜の分。さっき買う時聞いたと思うけど今日中に食べて」
「はい。あの、ボクが温めます」
カイルは魔法で温め始めた。
あ、それもできちゃうのね。そりゃそうか、あれだけ魔法が使えるんだもの。調理場に来ることなかったな。
結局、家の中に戻って各自で温めながら食べる。
レスターはカイルに食べさせ方をレクチャーしながら食べていた。
「美味しいです。すごく」
「病院の調理師が栄養と味に徹底的にこだわって研究しているから、元気な人にもすごく体にいいんだ」
「あと、これも渡しとく。これはその食事を真空乾燥させたもの。お湯と混ぜると元に戻るんだ」「それを2日分」
「それと、これも返しておく。明日、ギルドに行けばお金が貰える。そしたら、この食事も自由に買えるぞ」
オークの買取伝票だ。
「でも……」
「僕たちはもう友達で仲間だ。仲間が困っているときにお金は取れないよ」
カイルは大粒の涙を流し、
「ありがとうございます!」
「じゃ最後に」とレスターは言い「これが最後だ」
と新しい点滴の瓶を取り出す。
「これは私たちみたいな健康な人間でも3本射ったらかなり危ない。これが最後だと思ってくれ。どうしても苦しい時に使うこと」
「それと、せこいけどこの容器は使い終わったら持ってきてくれるかな。返さないとまずいんだ」
「はい。必ず」
レスターは点滴を交換して、「点滴を始めるときはここを回して、落とす速度はなるべくゆっくりね」
そう最後の説明をして、レーゼの街に送ってもらう。
着いた場所はさっき教えたばかりの僕の家の前だった。
「自由自在だな」
「すごい子だ」
「レスター、手伝ってくれてありがとう」
「いや、こちらこそ良い経験ができたと思ってる」
そう言ってレスターはアカデミーへ戻って行った。
僕は午後から予定していた要件を復活させようかと考えたが、カイルに何かあった時には頼ってくるのはここだろうし、今日は家にいることにした。
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