(11) ロイクス、登録する
夜中に他のメンバーが集まり、ラディとの対面も済ませ、これで全員とカイルの顔合わせが完了した。
我々のパーティ『ブラン・オブリージュ』にカイルを迎え入れることに全員一致で決定した。
翌日、全員で冒険者ギルドに向かう。
カイルのメンバー追加の登録をするためだ。
何も全員が揃っている必要はないんだけど、そのままクエストを請け負って、噂のカイルの戦闘力を見る気満々なのだ。
僕が到着したときには、オークは全て寝転がっていて、自分自身もまだカイルがどんな戦闘スタイルなのか知らない。
冒険者ギルドでカイルの登録を済ませていると、カウンターの奥からギルドマスターが現れた。
「ロイクス、先日はご苦労だった」
「どういたしまして」
僕は警戒しながら応える。
「まぁ、そう身構えるな。ただの報告だ」「あのセンチピードだがな、発生場所が発見された」
「場所?」
「山の上に洞窟を見つけてな、そこから湧き出していた」
「へえ、対処はできたんですか?」
「いや、まだだ。対策を練っているところだな」
「洞窟…?ダンジョンですか?」
洞窟は単純に物理的な洞穴のことだ。
しかし、ダンジョンと呼ばれるものは原理は解明されていないが、魔物が無限に湧き出る場所になる。いくら倒しても数時間後には元に戻ってしまう。
「まだ調査すらできない状態だが、おそらくはダンジョンだ。でなきゃ、あれだけの数は発生しないだろう」
「また何か協力を要請するかもしれない。その時は頼りにするぞ」
「ところで、、新入りを入れたのか?」
「期待の新人です」
「若過ぎないか」
「実力は折り紙付きですよ」
「ふーん」
ギルドマスターは、さも訝しげに僕を見る。
「そのうち分かりますよ」
僕とカイルは依頼票を品定めしている仲間の方に向かう。
「何かいい依頼はあったかな?」
サラが振り返って応える。
「うーん、イマイチね」「ビッグホーンブルがあるけど遠いのよね」
「どれくらい?」
「馬を借りて5時間ってところかしらね」
「カイルは馬に乗ったことあるか?」
カイルは首を振った。まぁ、普通はそうだよな。
依頼票を見ると、ナムラの町近郊の田畑にビッグホーンブルの群れが住み着いてしまったとある。
ビッグホーンブルの肉は高く売れるが、一体がとんでもなく重い。普通の冒険者なら倒しても運べない。
「ボク、ナムラなら行けるよ」
「本当か?」
「ときどきナムラで仕事もらってたから」「昔は爺ちゃんとよく仕事に行ってた」
「そうか、じゃカイルがお世話になった人たちを助けに行くか」
「はい」
「みんなもそれでいいかな?」
「オーケィ」
エリンが元気よく応える。他も異論はなさそうだ。
カウンターで依頼を請け負って、冒険者ギルドを出る。
人通りのない路地に入って、カイルに空間ゲートをお願いする。
ゲートを通り抜け、出た先はナムラの町の正門付近だった。
ナムラの町はこの地方最大の穀倉地域だ。町の外は見渡す限りの田園風景。穀物の運搬も頻繁で、王都やレーゼとの荷馬車護衛の依頼も定番になっている。
ナムラのギルドは全て一つに集約されており、そこに行って依頼の詳細を聞かなければならない。
「レーゼから冒険者が向かうと連絡があって、まだ10分経ってないですよ」
とかなり驚かれた。
ビッグホーンブルが居着いてしまっている場所は、ナムラ・トと呼ばれる地域らしい。とにかく土地(田畑)が広大なため、ナムラの最後に言葉を付けて識別しているそうだ。
何でもビッグホーンブルは40頭は確実にいるらしい。
道順を教わり、15分くらい歩くと見えてきた。
畑の野菜を食いまくっていやがる。
確かに40頭はかるくいるな。
ビッグホーンブルは非常に気性が荒い上に群れて行動する習性が強い。
1頭ずつ釣って仕留めるなんて無理な話で1頭が走り出せば、一斉に走り出す。
これは厄介だ。
「オレにまかせろ」
ゴウヤが一歩前に出る。そのままスタスタ前進を続けると、やがて1頭のビッグホーンブルが外敵の接近に気付き頭を上げる。
ゴウヤはそこでしゃがみこみ、ビッグホーンブルの周囲を囲むように土壁を作り上げる。
ビッグホーンブルのジャンプ力はないに等しいため、そんなに高い壁は必要ない。
「みんな手伝うぞ」
土壁に体当たりを始めるビッグホーンブル。
そこを補強するためにその外側に新たな土壁を作る。
「どうする?」
ゴウヤが聞いてきた。
一気に全部倒してしまうのか、ということだろう。
たとえ、それが可能であっても、倒したあとの処理が悩ましい。1頭の大きさ重さを考えると簡単には運べない。
はっきり言うと、この依頼の旨みは、いかに倒したビッグホーンブルを売り捌くかだ。
依頼料はオマケみたいものと言える。
「サラ、カイル、こいつら何頭くらい運べそうかな?」
「私は限界まで入れたことないから分からないけど、一気に売り捌くのは気が進まないわね」
「ボクもやったことないので…」
ビッグホーンブルの肉は高級品に属する。
これを一気に市場に投入すると混乱を起こしかねない。
悩ましいところだ。
「ロイクス、ギルドの人が様子を見に来たわよ、聞いてみれば?」
僕たちが来た方向を見てみると、男性かポツリ立ちすくんでいる。
男性に向かって手を振ってみせた。
呼んでいると気づいたのか、男性はこちらに向かって来る。
「なるほど、こういう方法があるんですね」
男性は感心したかのように言った。
「でも、ここまでの魔法が使える者は町にはいませんが(苦笑)」
「そこで相談があります。しばらく…、数日間これをこのまま置かせて貰えませんか」「仮に全部倒せたとしても、せっかくの高級肉を腐らせるだけなんで」
「それもそうですね」
「我々がこれから毎日、少しずつ狩りにきます」
「かまわないと思いますよ。どうせこの辺の野菜は全て全滅してますし、もう次の春まで使わないはずです」
「ありがとうございます」
「一応、この畑の契約者に話をつけてきます」
ギルドの男性は走って去って行った。
「さーて、何頭狩ろうか…」
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