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(10) ロイクス、説明する

「今日はあいにくの雨だし、カイルにこの街のことを説明をしておこうか」

「はい」


「ここのレーゼの街というのは、『学園都市』と呼ばれている街で、東にガルビンという国内最大級の工業都市がある。そこの研究者や技術者を育成する目的で、国が作った都市なんだ」

「このレーゼには領主はいない。あえて言うなら国の直轄機関がそれに当たる」


「昔からある都市と比べ、国が何もない土地にゼロから創り上げた新設の都市になる。古い都市では昔からの慣習でなぁなぁになっていた線引きが、ここでは明確に条例化されている」


「その中の一つに住民管理がある」

「この街の住民となるには、住む場所の登録が義務化されるんだ」「ここにいるサラやゴウヤも、それぞれ各自に住民登録している借家を借りている」「この家で住民登録する場合、この家の所有者と家族であるか、もしくは主従雇用契約を結ばないといけない。つまり下僕として雇われてるという登録をしないとならない」

「住民登録なしで街を歩いていると、即座に捕まると言う事はないけどね。一応、旅人や商人、冒険者のようにレーゼに立ち寄っただけの人もいるからね」

「ただ、住民カードを持っていないと受けられないサービスがいっぱいある」


「だから、今すぐにとはいわないが、カイルも冒険者として収入を確保できるようになったら考えてほしい。住所登録だけの最安物件でかまわないから」「最安物件情報はゴウヤが詳しいから相談するといい」


黙って聞いていたカイルは口を開くと、

「なんとなく分かりました」



「何か他に質問はあるかい?」

「分からないことは数え切れないくらいあると思います」

「知りたくなったら、その時に聞いてくれればいいよ」


「僕から質問してもいいかな」

「はい」

「カイルは空間移動や空間倉庫が使えるけど、あれはお爺さんに教わったの?」

「そうです」

「すごいね。あれが使えるのうちのパーティじゃ、サラだけなんだ」

「そうなんですか」

意外、という感じでカイルの表情に表れた。

「あれはかなり上位の魔法使いでも使えない人のが多いんだ」「ぼくも空間倉庫くらいは使えるけど、とても小さい」


「ボクも爺ちゃんに拾われた時は、魔法は全く使えませんでしたよ」

「そうなのかい?」

「うん。なら、最初に覚えるなら無属性魔法だなって、最初に教わりました」「無属性は6つの属性に囲まれている、…だったかな、最初に周りの属性を確立させてしまうと、真ん中が成長できないって、、、言ってたような…」


「なるほど、なぁ…」

そういう発想はなかったなぁ。

思わず自分の思考の世界に嵌り込んでしまった。


………。



ハッと我に帰ると、カイルが不思議そうな顔でこちらを見ていた。

「ゴメン、考え事に集中するとこうなるんだ。悪い癖」


「一つ、忘れていたことがあります」

そう言うと空間倉庫から紙を取り出す。

出会った日に、オークを買い取りに出したときの伝票だ。

「ああ、後で受け取りに行こうか。雨だけど」



サラがアカデミーに行くというタイミングで、僕たちも出かけた。


まずは冒険者ギルドだ。

ギルド受付でカイルの伝票を出す。

46,000ルークの査定が付いていた。

「こんなに高いんですか!」カイルは驚いた。

「あれでも、、グロテスクだけど、、食用肉として売れるんだ」「あのデカい図体のわりには高くはない」「だから、持ち込む冒険者はほとんどいない。運べないからね」


ゴウヤが付け足す。「ボーアの肉の方が旨い」



用は済んだので、冒険者ギルドを出る。


この街は中心にアカデミーがあり、その周辺に街が作られている。レーゼそのものが何度も拡張されているので、全体像は歪な形だが、最初に作られた街を囲う壁はほとんど残っているから、その壁の上を歩いて回れば、レーゼの全体像は把握しやすい。

観光ルートの一つにもなっている。

僕たちはそこからレーゼを紹介することにした。


内壁の上からレーゼの街を紹介する。

「そう言えば」カイルが話し出した。「レーゼに教会ってあるんですか?」


僕とゴウヤに緊張感が走る。

幸い近くに人はいない。

僕たちは立ち止まって話しをする。


「教会に用事があるの?」

「いえ、爺ちゃんに『教会には絶対に関わるな』って言われてて」

「ああ、なるほどね」「このレーゼには形としての教会はないよ」「教会については家に帰ってから話そうか」

「分かりました」



家に帰って、改まってカイルに教会について話す。


「長い歴史があるから、かい摘んだ話になるけど、この国に根付いている宗教は何か知ってる?」

「分かりません」

「この国に昔から根付いているのは、多神教と分類されるものなんだ。万物に神が宿るって考え方だ。木や花にも神様がいて、道に落ちてる石にも。万物に」

「ああ、それが宗教、なんですね」


「うん。村で一番大きな木に、村で一番偉い神様が宿ってる。だから村ではその木が御神木となり大切にされる」「でも他の村にはその木がない。だから他の村では一番大きな石が御神体になる」

「村単位で崇める神が違うから、共通した名前も意味がない」「だからこの国の宗教は何かと聞かれても答えられないんだ」

カイルは黙ってうなずく。


「そこで海外から一神教であるゲジャル教というのが、この国にゲジャル様を広めようと、この国に来たわけだ」

「最初は熱心に布教活動をしていたが、一向にこの国の民はなびかない」「そりゃそうだ、『アンタはアンタの神様を信じればいい。オレたちはオレたちの神様を信じている』という多神教ならではの理屈があるわけだから」

「使命をおびてこの国に布教活動にやってきたゲジャル信者は、やがて苛立ち強行的な手段に出る」

「最後には戦争だ」


「それから色々とあって、多神教の国で、その中の一つの宗派という立場で、この国にもゲジャル教は今も存在はしている」

「で、その施設は、この国では『教会』と名乗ってる」


「朝、この街では全ての土地が国の所有物だと言ったよね。それは教会のような施設を勝手に作らせないための政策でもある、と言う者もいる」「ただ、教会がなくても信者がいないとは言えない。どこかに集まって活動している可能性は大いにある」

「僕たちがこうしてここに自由に集まってるみたいにね」


「ちなみに王都にも教会と呼ばれる施設はない。この地域で教会があるのは、ラノブレスという街だけだ」

「たけどこの国の別の地域では結構、教会があるらしい」


「このレーゼにいる限りは、大胆な行動は起こさないと思うが、もし、正体の分からない集会に誘われたらとりあえず逃げることだ」


「カイルみたいに高い魔力を持っていたら狙われるかもしれない」

と、ゴウヤが付け足した。



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