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終章 闇に咲く、花と風の娘

「お待ちください!女王陛下!」

ルッカサンの声が後ろから追いかけてくるが、少女はそれを無視して流行る心を剥き出しに、廊下を全速力で走っていた。頭に乗っけた王冠がずり落ちそうになり、何度も直しながら、走る。

「父様ーーーー!」

バァン!と扉が壊れるんじゃないかと思うほど大きく開け放ち、少女は波立つ黒髪のツインテールを揺らしながら、ロロンと話している小柄なその人の胸に飛び込んでいた。

「はは、今日も元気だな?イリヨナ」

「はい!父様が見えたから、イリヨナ元気出たのー!」

3代目翳りの女帝・イリヨナは、15代目風の王・リティルと16代目花の姫・シェラ夫婦の娘だ。

飛び込んで来た娘を、リティルは危なげなく受け止めた。彼の黒いリボンで結わえきれなかった半端な長さの横髪が、サラリと動いた。

 風の王である父とその王妃である母とは、闇の王であるイリヨナは一緒に暮らしていない。

教育係であり、腹心のルッカサンから、一人前となる12年が過ぎるまでに立派な翳りの女帝となれば、自由に行き来してよろしいと言われていて、イリヨナは現在猛勉強中だ。

一人前となっても、風の城に住むことはできないが、12才の誕生日に、父であるリティルから特別なプレゼントをもらえることになっている。それが何であるのかは、まだわからない。

風の王は、世界の刃で、日々イシュラース中やら異世界やらを飛び回っている忙しい人だ。それを、ルッカサンから耳にたこができるほど聞かされていた。だから、会いに来てくれなくても、愛されていないと思ってはいけないと言い聞かされていた。

「なんで、そんなこといちいち言うの?イリヨナ、父様に嫌われてるなんて、思ってないのよ?」

と首を傾げると、ルッカサンは「さようですか」といつも満足げに笑う。そんな腹心にイリヨナはますます首を傾げるのだった。

 イリヨナは、1週間ぶりに会う父の頬に、これでもかと頬ずりしていた。

「寂しくねーか?」

「はい!毎日楽しいの!今度ね、リャリスが月下美人の開花を見せてくれるんだって。楽しみ~!」

イリヨナが笑うと、心配そうに翳る父の瞳が優しくなる。風の城には、イリヨナの兄妹達がいる。その兄妹達と違う環境に置かれるイリヨナに、父が引け目を感じていることをまだ幼いながらも理解していた。

だが、当のイリヨナはリティルがなぜそんなことを思うのか、わからなかった。

闇の領域と風の領域は隣接しておらず、遠い。こんな地の果てのような場所に、足繁く通ってくれる父に何の不満を抱けというのか、イリヨナには理解不能なのだった。

成人して、きちんと王になれれば、イリヨナが行ってあげる!そう思っている。

「月下美人?ああ、あのサボテンか。おまえが育ててるんだよな?」

「蕾になったんだよ?あのお花は、月に光の中でしか咲かないんだって」

「ああ、月の光を灯す練習か。おまえ、大雑把だもんな」

「ヒドいぃ!そりゃあ、この前、いきなり太陽光を灯しちゃってお城を半分溶かしちゃったけど、何とかなったんだもん!」

「ハハハ!レイシがすっ飛んでったな」

「父様なんで知ってるの?レイシ兄様黙っててくれるって言ってたのにぃ!」

「すれ違ったんだよ。嫌み言われただろ?」

「はい……レイシ兄様は意地悪なのです」

「でも好きだろ?」

「はい!レイシ兄様は異常があるとすぐ来てくれるから、好き~!来てくれるといえば、父様、インファ兄様、入り浸ってる感が半端ないの。お仕事大丈夫?」

「はは、あいつは要領がいいからな。こっちには優秀な補佐官と執事が残ってるから、大丈夫だぜ?」

「じゃあ、兄様を拘束してもいい?」

「やれるもんならな。けどおまえ、インファ大好きだな」

「インファ兄様は格好いいのです!」

オホン!と咳払いが聞こえ、2人が同時にそちらを向くと、ルッカサンが鷹揚に頭を下げた。

「お茶の用意が調ってございます」

「はーい!」と返事をしたイリヨナをリティルは腕から下ろした。そして、ずり落ちそうになった王冠をかぶせ直してくれた。

「まだ大きいな」

「はい!でもいいの!この王冠が似合うレディに、イリヨナ、なってみせます!」

鳥の羽根の細工が施されたこの王冠は、一時翳りの女帝を務めたシェラから娘のイリヨナに贈られた、リティルの霊力で作られた特別な品だ。

今は似合わなくとも、手放すつもりはない。だってこれは、父が母に贈った婚姻の証なのだ。その大切な物を、母は父に掛け合って、イリヨナにくれたのだ。

もちろん、母には父から新しく婚姻の証が贈られている。母の額に輝く、花と鳥の細工が見事なサークレット。花の姫の母にピッタリだと思う。

寂しさなんて、この世に生を受けてから感じたことはない。

イリヨナは、愛する両親から生まれた、愛娘!その誇りが、イリヨナの中の闇を照らす光だ。

「シェラも後から来るぜ?」

ルッカサンについて、手を繋いで歩き始めたリティルは、イリヨナに告げた。

「母様、無理してない?イリヨナのせいで、体調が思わしくないって……」

「お産で死にかけたのはおまえのせいじゃねーよ。それに、5年前だぜ?あいつは無限の癒やしだ。とっくに元気だぜ?」

「違うのです!魔物のこと……」

「イリヨナ……オレを誰だと思ってるんだよ?」

「風の王?」

「そうだぜ?世界一強い父様だぜ?大丈夫だ。心配するなよ」

「はい!」と笑顔で答えながらイリヨナは知っていた。未熟な翳りの女帝のせいで、悪意の消化が上手くいかず、このところイシュラースに現れる魔物が凶暴になっていることを。

連日の戦闘で、一家の怪我が増え、鉄壁の障壁魔法を操れるシェラは、ここのところ多くの魔物狩りに参加して、疲労を溜めていると聞いている。

それでも、闇の城に通ってきてくれる。

早く大人になりたい。この世界を守る、両親を助けられる王になりたい。

イリヨナ――イン・リヨナ。風花の名を持つ、翳りの女帝はまだ幼い視線を前へ向けた。

これにてワイウイ17閉幕です

楽しんでいただけたなら幸いです

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